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<font size="+1">兼本 浩祐</font><br> | <font size="+1">兼本 浩祐</font><br> | ||
''愛知医大精神科学講座''<br> | ''愛知医大精神科学講座''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年12月29日 原稿完成日:2016年1月1日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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類義語:既視感、 false recognition、 false memory、paramnesia、reminiscence、intellectual aura、illusion of familiarity、dysmnestic seizure | 類義語:既視感、 false recognition、 false memory、paramnesia、reminiscence、intellectual aura、illusion of familiarity、dysmnestic seizure | ||
{{box|text= | {{box|text= 既知感の歴史的記載は、紀元前に遡るが、近代での記載は十九世紀であり、医学的術語としての同用語の使用も十九世紀頃から始まるとされる。健常者においても特に若年層では8割程度の人が既知感の経験があるとされ、特に疲労時などには広範に体験される感覚であるが、側頭葉てんかんで出現する既知感とは実際には質が異なるとの指摘もある。側頭葉てんかんで出現する既知感は、同じことを以前にも体験したことがあるという懐かしさとともに、世界が急にさっきまでとは異なったものに感じられる未知感とも関連が深く、さらにこれから起こることが予知できてしまうという予知感として訴えられることもある。}} | ||
== 既知感とは == | == 既知感とは == | ||
既知感は、フランス語のdéjà vu の日本語訳であるが、フランス語の原語では文字どおりは「既に見た」、すなわち[[既視感]]という意味であり、他の五感、特に[[味覚]]や[[嗅覚]]はむしろ[[視覚]]よりもよりこの[[感覚]]と結びつきが強いことを考えると本来 “déjà vécu”「既に体験された」と呼ばれるべきであり、既知感という日本語はより実態に近い訳となっている。 | 既知感は、フランス語のdéjà vu の日本語訳であるが、フランス語の原語では文字どおりは「既に見た」、すなわち[[既視感]]という意味であり、他の五感、特に[[味覚]]や[[嗅覚]]はむしろ[[視覚]]よりもよりこの[[感覚]]と結びつきが強いことを考えると本来 “déjà vécu”「既に体験された」と呼ばれるべきであり、既知感という日本語はより実態に近い訳となっている。 | ||
医学用語としては、この用語は [[false recognition]]、 [[false memory]]、[[paramnesia]]、[[reminiscence]]など様々の表現で呼ばれていたが、1896年にF. L. | 医学用語としては、この用語は [[false recognition]]、 [[false memory]]、[[paramnesia]]、[[reminiscence]]など様々の表現で呼ばれていたが、1896年にF. L. Arnaudが主導してdéjà vuという名称が汎用されるようになり、以降、この名称が定着している。[[てんかん]]学の分野では[[intellectual aura]]、[[illusion of familiarity]]、[[dysmnestic seizure]]など様々の名称で呼ばれているが、それぞれ用語の守備範囲が微妙にくいちがっている。 | ||
== 頻度 == | == 頻度 == | ||
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健常人の既知感は、こうした未知感との密接な繋がりは認められない。Jacksonが上腹部不快感などの “crude sensation” と対比して “intellectual aura” と呼んだ既知感などの[[前兆]]は他の前兆と重なって起こった場合には相対的に後に出現することが多く<ref name=ref10 ><pubmed> 2468740 </pubmed></ref>、また発症年齢は相対的に高いことが多い<ref name=ref11 >'''Kanemoto K., Mayahara K., Kawai I.'''<br> The age at onset of epilepsy and aura-sensations: Understanding aura-sensations from the developmental point of view.<br>''J Epilepsy'' 7:171-177, 1994</ref>。 | 健常人の既知感は、こうした未知感との密接な繋がりは認められない。Jacksonが上腹部不快感などの “crude sensation” と対比して “intellectual aura” と呼んだ既知感などの[[前兆]]は他の前兆と重なって起こった場合には相対的に後に出現することが多く<ref name=ref10 ><pubmed> 2468740 </pubmed></ref>、また発症年齢は相対的に高いことが多い<ref name=ref11 >'''Kanemoto K., Mayahara K., Kawai I.'''<br> The age at onset of epilepsy and aura-sensations: Understanding aura-sensations from the developmental point of view.<br>''J Epilepsy'' 7:171-177, 1994</ref>。 | ||
==関連項目== | |||
*[[てんかん]] | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |