「筋萎縮性側索硬化症」の版間の差分

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 [[感覚]]障害、[[眼球運動]]障害、[[膀胱]][[直腸]]障害、[[wj:褥瘡|褥瘡]]は、ALSにおいて通常出現せず、臨床的にはALSの四大陰性徴候と呼ばれるが、人工呼吸器を装着して長期に経過した症例では、眼球運動障害が出現することがある。
 [[感覚]]障害、[[眼球運動]]障害、[[膀胱]][[直腸]]障害、[[wj:褥瘡|褥瘡]]は、ALSにおいて通常出現せず、臨床的にはALSの四大陰性徴候と呼ばれるが、人工呼吸器を装着して長期に経過した症例では、眼球運動障害が出現することがある。
 また、人工呼吸器装着後に長期生存した症例において、骨格筋麻痺、眼球運動障害の進行により補助機器によってもコミュニケーションをとることができない完全閉じ込め状態(Totally locked-in state: TLS)に至ることがある。本邦の全国調査では、人工呼吸器装着例の約13%にTLSを認めたとの報告がある<ref name=ref001>'''溝口功一、川田明弘、林秀明'''<br>TPPVを導入したALS患者のTLSの全国実態調査<br>
''臨床神経'': 2008, 48: 476-80</ref>。


 ALSの約15-30%に性格変化、[[言語障害]]、[[認知症]]を示す[[前頭側頭葉変性症]](Frontotemporal Lobar Degeneration: FTLD)を合併するものがある。ALSとFTLDの一群において共通して蓄積する[[TDP-43]]タンパク質の発見を機に、臨床的、病理学的にもALSと[[FTLD-TDP]](TDP-43の蓄積を特徴とするFTLDの一群)は一連の連続する疾患群であるという考え方が定着している。
 ALSの約15-30%に性格変化、[[言語障害]]、[[認知症]]を示す[[前頭側頭葉変性症]](Frontotemporal Lobar Degeneration: FTLD)を合併するものがある。ALSとFTLDの一群において共通して蓄積する[[TDP-43]]タンパク質の発見を機に、臨床的、病理学的にもALSと[[FTLD-TDP]](TDP-43の蓄積を特徴とするFTLDの一群)は一連の連続する疾患群であるという考え方が定着している。
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===臨床経過・生命予後===
===臨床経過・生命予後===
 多くの[[wj:コホート研究|コホート研究]]での生存期間は、発症時から人工呼吸器装着時あるいは死亡時点までの期間とされている。海外の既報告では、孤発性ALSの生存期間中央値は、20-48ヶ月である。本邦での統計では、平均生存期間は約40ヶ月、中央値は31ヶ月であった。予後因子として、高齢発症、発症部位(呼吸障害、[[球麻痺]]で発症するケース)、低栄養は生存期間が短くなる予後不良因子としてほぼ確立している。このようなコホート研究や臨床治験においてよく用いられる重症度指標に、[[改訂ALS Functional Rating Scale]] (ALSFRS-R)がある。これは、言語、歩行、食事動作や嚥下、呼吸などの12項目の機能を点数化してその合計点数を数値化したものである(48点満点)<ref name=ref1 />。
 多くの[[wj:コホート研究|コホート研究]]での生存期間は、発症時から人工呼吸器装着時あるいは死亡時点までの期間とされている。海外の既報告では、孤発性ALSの生存期間中央値は、20-48ヶ月である。本邦での統計では、平均生存期間は約40ヶ月、中央値は31ヶ月であった。予後因子として、高齢発症、発症部位(呼吸障害、[[球麻痺]]で発症するケース)、低栄養は生存期間が短くなる予後不良因子としてほぼ確立している。このようなコホート研究や臨床治験においてよく用いられる重症度指標に、[[改訂ALS Functional Rating Scale]] (ALSFRS-R)がある(表1)。これは、言語、歩行、食事動作や嚥下、呼吸などの12項目の機能を点数化してその合計点数を数値化したものである(48点満点)<ref name=ref1 />。
 
 
 


===疫学===
===疫学===
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#類似の症状を呈する他の疾患が除外されること
#類似の症状を呈する他の疾患が除外されること


 が要件とされ、[[El Escorial基準]]としてまとめられている<ref name=ref3 />(表1)。しかし、診療現場では、発症早期においてすべての要件を満たす例は多くなく、感度が低いため、[[筋電図]]所見を加えて診断することがほとんどである。
 が要件とされ、診断の確かさを示す診断グレードとともに[[El Escorial基準]]としてまとめられている<ref name=ref3 />(表2)。しかし、診療現場では、発症早期においてすべての要件を満たす例は多くなく、診断感度が低いことが指摘されていた。そこで[[筋電図]]異常をさらに重視した診断基準として2006年にAwaji基準が提唱された<ref name=ref005><pubmed>18164242</pubmed></ref>。
 
 Awaji基準の特徴は、(1)下位運動ニューロン症候に関して筋電図異常と臨床所見を等価と判断すること、(2)線維束性収縮電位を急性脱神経所見として採用したことである。 (1)の採用によって、”Clinically probable-laboratory-supported”という診断グレードは廃止された。Awaji基準と改訂El Escorial基準を比較した研究では、診断感度が向上したことが複数のグループから報告されているが、同時に”Clinically probable-laboratory-supported”という診断グレードを廃止して”Clinically probable“に統合したため、上位運動ニューロン障害を示す臨床所見を脳神経・頸髄・胸髄・腰仙髄のうち2部位に認める必要がある点において診断感度が低下した。
 2015年には、”Clinically possible” 診断グレードの取り扱いを中心に、世界神経学会によるEl Escorial基準の一部改訂が行われた。ALSと診断する最低限の所見として以下のいずれか1項目を満たすことが提唱された[6]。
1. 進行性の上位および下位運動ニューロン症候を少なくとも1領域に認めること(従来のclinically possible ALSカテゴリー)
2. 下位運動ニューロン症候を2領域に認めること(臨床診断あるいは筋電図所見による)
また、遺伝性ALSについて以下の基準が提唱された。2親等以内にALSあるいはFTLD患者を有し、家系内でALS原因遺伝子に病的変異を認め、表現型が分離(segregation)される場合に遺伝性ALSと呼ぶ。この場合は、遺伝子所見は、上位運動ニューロン症候あるいは1領域の障害に同等と見なして診断する[6]。


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|+表1.改訂El Escorial診断基準(1998)<ref name=ref3><pubmed> 11464847 </pubmed></ref>
|+表2.改訂El Escorial診断基準(抜粋、1998)<ref name=ref3><pubmed> 11464847 </pubmed></ref>
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|'''ALS診断における必須事項'''
|'''ALS診断における必須事項'''