「筋萎縮性側索硬化症」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
31行目: 31行目:
 多くの[[wj:コホート研究|コホート研究]]での生存期間は、発症時から人工呼吸器装着時あるいは死亡時点までの期間とされている。海外の既報告では、孤発性ALSの生存期間中央値は、20-48ヶ月である。本邦での統計では、平均生存期間は約40ヶ月、中央値は31ヶ月であった。予後因子として、高齢発症、発症部位(呼吸障害、[[球麻痺]]で発症するケース)、低栄養は生存期間が短くなる予後不良因子としてほぼ確立している。このようなコホート研究や臨床治験においてよく用いられる重症度指標に、[[改訂ALS Functional Rating Scale]] (ALSFRS-R)がある(表1)。これは、言語、歩行、食事動作や嚥下、呼吸などの12項目の機能を点数化してその合計点数を数値化したものである(48点満点)<ref name=ref1 />。
 多くの[[wj:コホート研究|コホート研究]]での生存期間は、発症時から人工呼吸器装着時あるいは死亡時点までの期間とされている。海外の既報告では、孤発性ALSの生存期間中央値は、20-48ヶ月である。本邦での統計では、平均生存期間は約40ヶ月、中央値は31ヶ月であった。予後因子として、高齢発症、発症部位(呼吸障害、[[球麻痺]]で発症するケース)、低栄養は生存期間が短くなる予後不良因子としてほぼ確立している。このようなコホート研究や臨床治験においてよく用いられる重症度指標に、[[改訂ALS Functional Rating Scale]] (ALSFRS-R)がある(表1)。これは、言語、歩行、食事動作や嚥下、呼吸などの12項目の機能を点数化してその合計点数を数値化したものである(48点満点)<ref name=ref1 />。


 
{| class="wikitable"
 
|+ 表1.
|-
| colspan="3" | '''ALSFRS-R (ALS functional rating scale) ※48点満点'''
|-
| rowspan="5" | 1. 言語
|4
|会話は正常
|-
|3
|会話障害が認められる
|-
|2
|繰り返し聞くと意味がわかる
|-
|1
|声以外の伝達手段と会話を併用
|-
|0
|実用的会話の喪失
|-
| rowspan="5" | 2. 唾液分泌
|-
|4
|正常
|-
|3
|口内の唾液はわずかだが、明らかに過剰(夜間はよだれが垂れることがある)
|-
|2
|中程度に過剰な唾液(わずかによだれが垂れることがある)
|-
|1
|顕著に過剰な唾液(よだれが垂れる)
|-
|0
|著しいよだれ(絶えずティッシュペーパーやハンカチを必要とする)
|-
| rowspan="5" |3. 嚥下
|-
|4
|正常な食事習慣
|-
|3
|初期の摂食障害(時に食物を喉に詰まらせる)
|-
|2
|食物の内容が変化(継続して食べられない)
|-
|1
|補助的なチューブ栄養を必要とする
|-
|0
|全面的に非経口性または腸管性栄養
|-
| rowspan="5" |4. 書字
|-
|4
|正常
|-
|3
|遅い、または書きなぐる(すべての単語が判読可能)
|-
|2
|一部の単語が判読不可能
|-
|1
|ペンは握れるが、字を書けない
|-
|0
|ペンが握れない
|-
| colspan="3" | 5. 摂食動作: 胃瘻の設置の有無により、(1)(2)いずれかの一方で評価する
|-
| colspan="3" | (1)(胃瘻なし)食事用具の使い方
|-
| rowspan="5" |
|-
|4
|正常
|-
|3
|いくぶん遅く、ぎこりないが、他人の助けを必要としない
|-
|2
|フォーク・スプーンは使えるが、箸は使えない
|-
|1
|食物は誰かに切ってもらわなければならないが、なんとかフォークまたはスプーンで食べることができる
|-
|0
|誰かに食べさせてもらわなければならない
|-
| colspan="3" |(2)(胃瘻あり)指先の動作
|-
| rowspan="5" |
|-
|4
|正常
|-
|3
|ぎこちないがすべての指先の作業ができる
|-
|2
|ボタンやファスナーをとめるのにある程度手助けが必要
|-
|1
|介護者にわずかに面倒をかける(身の回りの動作に手助けが必要)
|-
|0
|まったく指先の動作ができない
|-
| rowspan="5" |6. 着衣、身の回りの動作
|-
|4
|障害なく正常に着る
|-
|3
|努力を要するが(あるいは効率が悪いが)独りで完全にできる
|-
|2
|時折、手助けまたは代わりの方法が必要
|-
|1
|身の回りの動作に手助けが必要
|-
|0
|全面的に他人に依存
|-
| rowspan="5" |7. 寝床での動作
|-
|4
|正常
|-
|3
|いくぶん遅く、ぎこちないが、他人の助けを必要としない
|-
|2
|独りで寝返ったり、寝具を整えられるが非常に苦労する
|-
|1
|寝返りを始めることはできるが、独りで寝返ったり、寝具を整えることができない
|-
|0
|自分ではどうすることもできない
|-
| rowspan="5" |8. 歩行
|-
|4
|正常
|-
|3
|やや歩行が困難
|-
|2
|補助歩行
|-
|1
|歩行は不可能
|-
|0
|脚を動かすことができない
|-
| rowspan="5" |9. 階段をのぼる
|-
|4
|正常
|-
|3
|遅い
|-
|2
|軽度に不安定、疲れやすい
|-
|1
|介助を要する
|-
|0
|のぼれない
|-
| colspan="3" |呼吸(呼吸困難、起坐呼吸、呼吸不全の3項目を評価)
|-
| rowspan="5" |10. 呼吸困難
|4
|
|-
|3
|
|-
|2
|
|-
|1
|
|-
|0
|
|-
| rowspan="5" |
|4
|
|-
|3
|
|-
|2
|
|-
|1
|
|-
|0
|
|-
| rowspan="5" |
|4
|
|-
|3
|
|-
|2
|
|-
|1
|
|-
|0
|
|-
|}


===疫学===
===疫学===
123行目: 352行目:


===家族性ALSの原因遺伝子===
===家族性ALSの原因遺伝子===
 現在までに約20種類あまりの遺伝子が家族性ALSの原因遺伝子として同定されている(表4)。本邦で頻度の高い遺伝子異常として、''SOD1''(家族性ALSの約20%)、[[''FUS'']]/[[''TLS'']] (約1−5%)、[[''TARDBP'']] (TDP-43: 約1%)が知られる。[[''C9orf72'']]変異によるFTLDを伴うALS([[FTLD-ALS]])の頻度は、人種、地域によってかなり異なる。欧米では家族性ALSの約30-50%を占め、家族性ALSの原因として最も頻度が高いが、日本を含む東アジアでは極めて少ない。代表的な遺伝子を以下に概説する。
 現在までに約20種類あまりの遺伝子が家族性ALSの原因遺伝子として同定されている(表4)。本邦で頻度の高い遺伝子異常として、''SOD1''(家族性ALSの約20%)、''[[FUS]]''/''[[TLS]]'' (約1−5%)、''[[TARDBP]]'' (TDP-43: 約1%)が知られる。''[[C9orf72]]''変異によるFTLDを伴うALS([[FTLD-ALS]])の頻度は、人種、地域によってかなり異なる。欧米では家族性ALSの約30-50%を占め、家族性ALSの原因として最も頻度が高いが、日本を含む東アジアでは極めて少ない。代表的な遺伝子を以下に概説する。


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
208行目: 437行目:


====その他====
====その他====
 上記の遺伝子のほかに、[[オプチニューリン]] (''OPTN'')や[[''ErbB4'']]遺伝子変異を有する家族性ALSが本邦で発見、報告されている。
 上記の遺伝子のほかに、[[オプチニューリン]] (''OPTN'')や''[[ErbB4]]''遺伝子変異を有する家族性ALSが本邦で発見、報告されている。


===ALSの動物モデル===
===ALSの動物モデル===