「陽電子断層撮像法」の版間の差分

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<font size="+1">[水間 広]、[http://researchmap.jp/CMIS 尾上 浩隆]</font><br>
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''国立研究開発法人理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター''<br>
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DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月1日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月1日 原稿完成日:2016年月日<br>
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==計測原理と装置==
==計測原理と装置==
[[image:陽電子断層撮像法1.png|thumb|350px|'''図1.''']]
[[image:陽電子断層撮像法2.png|thumb|350px|'''図2.''']]
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 陽電子断層撮像法では、多く存在する放射性核種の中でもβ+ 壊変により陽電子(電子の反粒子、プラスに荷電)を放出する核種(陽電子放出核種)を用いる。一般的に使用される陽電子放出核種は、11C、13N、15Oおよび18Fなどで、生体を構成する元素が多いことから分子の化学的性質を変えることなく標識することが特長である。それぞれ物理学的半減期は11C(20分)、13N(10分)、15O(2分)、18F(110分)と、3H(12.3年)や14C(5730年)に比べ非常に短く生体への長期間被ばくい。これら短寿命の陽電子放出核種は、加速器のサイクロトロンでターゲットとなる原子核にプロトンなどの荷電粒子を入射することで生成される。生体イメージングでは、陽電子放出核種で標識された化合物を投与(主に溶液は静脈内、ガスは吸引)し、生体内でβ+ 壊変して放出された陽電子と自由電子の衝突によって対消滅した際に一対の511keVの消滅γ線(annihilation γray)を生じる。この消滅γ線はリング状に配置されたシンチレータと光電子増倍管(PMT, photomultiplier) を組み込んだガンマ線検出器に入射し、同時計数検出器により検出された場合のみに検出器間の直線上でのイベントとして記録され、累積した空間情報から定量的な断層画像として再構成される(図1)。
 陽電子断層撮像法では、多く存在する放射性核種の中でもβ+ 壊変により陽電子(電子の反粒子、プラスに荷電)を放出する核種(陽電子放出核種)を用いる。一般的に使用される陽電子放出核種は、11C、13N、15Oおよび18Fなどで、生体を構成する元素が多いことから分子の化学的性質を変えることなく標識することが特長である。それぞれ物理学的半減期は11C(20分)、13N(10分)、15O(2分)、18F(110分)と、3H(12.3年)や14C(5730年)に比べ非常に短く生体への長期間被ばくい。これら短寿命の陽電子放出核種は、加速器のサイクロトロンでターゲットとなる原子核にプロトンなどの荷電粒子を入射することで生成される。生体イメージングでは、陽電子放出核種で標識された化合物を投与(主に溶液は静脈内、ガスは吸引)し、生体内でβ+ 壊変して放出された陽電子と自由電子の衝突によって対消滅した際に一対の511keVの消滅γ線(annihilation γray)を生じる。この消滅γ線はリング状に配置されたシンチレータと光電子増倍管(PMT, photomultiplier) を組み込んだガンマ線検出器に入射し、同時計数検出器により検出された場合のみに検出器間の直線上でのイベントとして記録され、累積した空間情報から定量的な断層画像として再構成される(表1)。


 陽電子断層撮像法では放射性トレーサーを用いることで生体における分子発現や機能を観察することができるが、CTやMRI装置のような体の構造や組織の形態などの解剖学的な情報を得ることはできない。現在では、両者を補完するために、陽電子断層撮像法とCTを一体化した装置、PET/CT(図2左)が主流であり、さらに最近では、MRIの中に陽電子断層撮像法を組み込んだPET/MR(図2右)も開発されている。それぞれのモダリティーの画像を重ね合わせた融合画像を作成することで、からだの正確な位置情報が得られるだけでなく、PET/MRでは、陽電子断層撮像法による局所糖代謝率と機能的MRIによるBOLD効果といった脳機能に関する二つの異なる情報を同時に収集することもできる1)。また、基礎研究用に様々な小[[動物]]用の陽電子断層撮像法が開発されている。[[マウス]]から[[サル]]など様々な実験動物を用いた陽電子断層撮像法実験は、新規のPETプローブの開発や創薬研究に用いられていて、ファースト・イン・ヒューマン試験を実施するためのトランスレーショナルリサーチとしての役割を担う実験に利用されている。
 陽電子断層撮像法では放射性トレーサーを用いることで生体における分子発現や機能を観察することができるが、CTやMRI装置のような体の構造や組織の形態などの解剖学的な情報を得ることはできない。現在では、両者を補完するために、陽電子断層撮像法とCTを一体化した装置、PET/CT(図2左)が主流であり、さらに最近では、MRIの中に陽電子断層撮像法を組み込んだPET/MR(図2右)も開発されている。それぞれのモダリティーの画像を重ね合わせた融合画像を作成することで、からだの正確な位置情報が得られるだけでなく、PET/MRでは、陽電子断層撮像法による局所糖代謝率と機能的MRIによるBOLD効果といった脳機能に関する二つの異なる情報を同時に収集することもできる1)。また、基礎研究用に様々な小[[動物]]用の陽電子断層撮像法が開発されている。[[マウス]]から[[サル]]など様々な実験動物を用いた陽電子断層撮像法実験は、新規のPETプローブの開発や創薬研究に用いられていて、ファースト・イン・ヒューマン試験を実施するためのトランスレーショナルリサーチとしての役割を担う実験に利用されている。
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==様々なPETプローブとその応用==
==様々なPETプローブとその応用==
[[image:陽電子断層撮像法3.png|thumb|350px|'''図3.''']]
[[image:陽電子断層撮像法3.png|thumb|350px|'''図3.''']]
[[image:陽電子断層撮像法4.png|thumb|350px|'''図4.''']]
[[image:陽電子断層撮像法4.png|thumb|350px|'''図4.Tau and amyloid imaging in Alzheimer's disease''']]


 様々な標的分子を特異的に認識するためには生体内物質の他に、標的分子に親和性、選択性の高い薬剤やペプチド、抗体などの高分子化合物などに陽電子放出核種を標識し、標的分子の体内分布や機能変化を定量的に測定することができる(図3)。例えば、パーキンソン病では、[[中脳]]の黒質ドパミン細胞の変性、脱落により、投射先である線条体などで神経伝達物質であるドパミン産生が減少し運動障害が徐々に進行するが、陽電子断層撮像法では、線条体における前シナプスに存在するドパミントランスポーターやドパミン合成酵素を、11C-2-carbomethoxy-3-(4-fluorophenyl)tropane(11C-CFT)や 18F-fluoro-[[L-DOPA|l-dopa]](18F-DOPA)といったそれぞれに特異的なPETプローブを用いて、ドパミン神経の変性を特異的かつ定量的に描出することが可能である。
 様々な標的分子を特異的に認識するためには生体内物質の他に、標的分子に親和性、選択性の高い薬剤やペプチド、抗体などの高分子化合物などに陽電子放出核種を標識し、標的分子の体内分布や機能変化を定量的に測定することができる(図3)。例えば、パーキンソン病では、[[中脳]]の黒質ドパミン細胞の変性、脱落により、投射先である線条体などで神経伝達物質であるドパミン産生が減少し運動障害が徐々に進行するが、陽電子断層撮像法では、線条体における前シナプスに存在するドパミントランスポーターやドパミン合成酵素を、11C-2-carbomethoxy-3-(4-fluorophenyl)tropane(11C-CFT)や 18F-fluoro-[[L-DOPA|l-dopa]](18F-DOPA)といったそれぞれに特異的なPETプローブを用いて、ドパミン神経の変性を特異的かつ定量的に描出することが可能である。