「IPS細胞」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
11行目: 11行目:
== 体細胞を初期化する因子の存在  ==
== 体細胞を初期化する因子の存在  ==


 iPS細胞樹立の以前から、卵子やES細胞には体細胞を初期化(リプログラミング)する因子が含まれていることが知られていた。まず、体細胞核移植(somatic cell nuclear transfer, SCNT)の研究において、卵子の細胞質に体細胞またはその核を移植することでクローン動物やクローンES細胞の作成が可能であることが示された。有名な例としては、Ian Wilmut博士らによるクローン羊のドリーや若山照彦博士(当時、ハワイ大学)らによるクローンマウスのキュムリーナが挙げられる。一方、京都大学の多田高博士らは、ES細胞と体細胞を電気刺激により細胞融合させる一連の研究により、融合細胞はES細胞と同様の細胞特性を示すこと、体細胞側のゲノムDNAがES細胞様のエピジェネティック状態に転換されることが明らかとなった。とりわけ、ES細胞は培養下で容易かつ半永久的に増幅可能であることから、これらの発見はその後の初期化因子の探索において非常に大きな僥倖となった。  
 iPS細胞樹立の以前から、卵子やES細胞には体細胞を初期化(リプログラミング)する因子が含まれていることが知られていた。まず、体細胞核移植(somatic cell nuclear transfer, SCNT)の研究において、卵子の細胞質に体細胞またはその核を移植することでクローン動物やクローンES細胞の作成が可能であることが示された。有名な例としては、Ian Wilmut博士らによるクローン羊のドリーや若山照彦博士(当時、ハワイ大学)らによるクローンマウスのキュムリーナが挙げられる。一方、京都大学の多田高博士らは、ES細胞と体細胞を電気刺激により細胞融合させる一連の研究により、融合細胞はES細胞と同様の細胞特性を示すこと、体細胞側のゲノムDNAがES細胞様のエピジェネティック状態に転換されることが明らかとなった。とりわけ、ES細胞は培養下で容易かつ半永久的に増幅可能であることから、これらの発見はその後の初期化因子の探索において非常に大きな僥倖となった。  


<br>
<br>
17行目: 17行目:
== 初期化因子の探索  ==
== 初期化因子の探索  ==


 上述の背景のもと、山中伸弥博士(当時、奈良先端科学技術大学院大学)はES細胞の分化多能性維持機構の解明を第一の目的とし、ES細胞で特異的に発現する遺伝子群の同定を行った。公共のデータベースを利用したin silicoのスクリーニングによってES細胞特異的な遺伝子群が同定され、ECAT(ES cell associated transcript)と命名された。ECATの中にはEsg1/ECAT2/Dppa5やOct4等の既知のES細胞マーカー遺伝子のほか、ECAT1や/ECAT8複数の新規の遺伝子も含まれていた。「ES細胞で特異的に発現している遺伝子≒ES細胞において機能的に重要な遺伝子」との仮説から、これらECATのノックアウトや強制発現実験が試みられ、その結果、ホメオボックス転写因子であるNanog/ECAT4は多能性ネットワークの構築と維持における中心であることや、恒常活性化型のRasタンパク質であるERas/ECAT5は増殖と造腫瘍性を担うことなどが明らかとなった。 また、iPS細胞を選択するために最初に利用されたFbx15/ECAT3も、このスクリーニングによって同定された遺伝子である。&nbsp;  
 上述の背景のもと、山中伸弥博士(当時、奈良先端科学技術大学院大学)はES細胞の分化多能性維持機構の解明を第一の目的とし、ES細胞で特異的に発現する遺伝子群の同定を行った。公共のデータベースを利用したin silicoのスクリーニングによってES細胞特異的な遺伝子群が同定され、ECAT(ES cell associated transcript)と命名された。ECATの中にはEsg1/ECAT2/Dppa5やOct4等の既知のES細胞マーカー遺伝子のほか、ECAT1やTdrd12/ECAT8等の複数の新規遺伝子も含まれていた。「ES細胞で特異的に発現している遺伝子≒ES細胞において機能的に重要な遺伝子」との仮説から各ECATのノックアウトや強制発現実験が試みられ、ホメオボックス転写因子であるNanog/ECAT4は多能性ネットワークの構築と維持における中心であること、恒常活性化型Rasタンパク質であるERas/ECAT5は増殖と造腫瘍性を担うこと等が明らかとなった。 また、iPS細胞を選択するために最初に利用されたFbx15/ECAT3も、このスクリーニングによって同定された遺伝子の一つである。&nbsp;  


<br>
<br>
23行目: 23行目:
== iPS細胞樹立の成功  ==
== iPS細胞樹立の成功  ==


 続いて、「ES細胞において機能的に重要な遺伝子≒体細胞の初期化を誘導する遺伝子」との仮説に基づき、ECATおよびES細胞の維持に重要であることが報告されている他の遺伝子を繊維芽細胞に導入する実験が試みられた。 ECATを1種類ずつ導入した場合にはES様の細胞は得られなかった。一方、24種類全てを混合して導入した場合、頻度は低いながらもES細胞様のコロニーが得られた。その後、24遺伝子から1遺伝子ずつ差し引いた23遺伝子を導入する実験により、最終的に4種類の遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc)の組み合わせで十分であることが判明した。この細胞をiPS細胞と名付けられた。その後、  
 続いて、山中博士らは「ES細胞において機能的に重要な遺伝子≒体細胞の初期化を誘導する遺伝子」という仮説に基づき、ECATおよびES細胞を支持する既知遺伝子(STAT3やβ-catenin等)を繊維芽細胞に導入する実験を試みた。 各遺伝子を1種類ずつ導入した場合にはES様の細胞は得られなかった。一方、24種類全てを混合して導入した場合、頻度は低いながらもES細胞様のコロニーが得られた。その後、24遺伝子から1遺伝子ずつ差し引いた23遺伝子を導入する実験により、最終的に4種類の遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc)の組み合わせで十分であることが判明した。この細胞をiPS細胞と名付けられた。その後、  


<br>
<br>
31行目: 31行目:
== &nbsp;動物種  ==
== &nbsp;動物種  ==


 iPS細胞はマウスにおいて最初に樹立され、その翌年、ヒトにおける樹立が報告された。その後、ウサギ、。非ヒト霊長類ではマーモセット、アカゲザル、カニクイザルにおいて樹立されている。最近では絶滅危惧種であるシロサイやのiPS細胞樹立の報告もあり、遺伝子資源の保存といった観点からも注目されている。
 iPS細胞はマウスにおいて最初に樹立され、その翌年、ヒトにおける樹立が報告された。その後、ウサギ、。非ヒト霊長類ではマーモセット、アカゲザル、カニクイザル、マンドリルにおいて樹立されている。最近では絶滅危惧種であるシロサイやのiPS細胞樹立の報告もあり、遺伝子資源の保存といった観点からも注目されている。


<br>
<br>
67

回編集