「外国語学習」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0069012 横川 博一]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0069012 横川 博一]</font><br>
''神戸大学''<br>
''神戸大学 大学教育推進機構 国際コミュニケーションセンター''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月9日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月9日 原稿完成日:2018年1月18日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
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 [[外国語]](foreign language)とは、生得的に獲得する[[母語]](mother tongue、もしくは[[第一言語]](first language、L1)とも言う)に対して、母語に加えて後天的に学習される言語を指す。また、母語ではないが[[wikipedia:ja:公用語|公用語]]として用いられている環境に生まれ育ったため獲得される言語は「[[第二言語]]」(second language、L2)と呼び、狭義には、日本における英語のように、公用語として使われてはおらず公教育などで学習する「外国語」と区別して用いることもある。しかし、両者を区別せずにいずれも包含する用語として用いることもある。本稿では、第二言語を含めて「外国語」という用語を用いる。
 [[外国語]](foreign language)とは、生得的に獲得する[[母語]](mother tongue、もしくは[[第一言語]](first language、L1)とも言う)に対して、母語に加えて後天的に学習される言語を指す。また、母語ではないが[[wikipedia:ja:公用語|公用語]]として用いられている環境に生まれ育ったため獲得される言語は「[[第二言語]]」(second language、L2)と呼び、狭義には、日本における英語のように、公用語として使われてはおらず公教育などで学習する「外国語」と区別して用いることもある。しかし、両者を区別せずにいずれも包含する用語として用いることもある。本稿では、第二言語を含めて「外国語」という用語を用いる。


 また、しばしば「[[習得]](修得、獲得)」(acquisition)と「[[学習]]」(learning)を区別し、前者は、母語の場合で、後者は外国語の場合に用いることがある。第二言語習得研究では、学習された知識は習得された知識とは異なる性質のものであり、学習された知識が習得につながることはないとする[[ノン・インターフェイス仮説]]<ref name=ref1>'''Krashen, S.'''<br>Principles and Practice in Second Language Acquisition<br>''Oxford: Pergamon'': 1982</ref>と処理の自動化によって学習と習得が結びつき2種類の知識を仮定する必要はないとする[[インターフェイス仮説]]<ref name=ref02>'''McLaughlin, B.'''<br>The Monitor Model: some methodological consideration<br>''Language Learning, 28, 309-332'': 1978</ref>の立場があるが、本稿では、原則として、両者を区別せずに「学習」という用語を用いる。
 また、しばしば「[[習得]](修得、獲得)」(acquisition)と「[[学習]]」(learning)を区別し、前者は、母語の場合で、後者は外国語の場合に用いることがある。第二言語習得研究では、学習された知識は習得された知識とは異なる性質のものであり、学習された知識が習得につながることはないとする[[ノン・インターフェイス仮説]]<ref name=ref1>'''Krashen, S.'''<br>Principles and Practice in Second Language Acquisition<br>''Oxford: Pergamon'': 1982</ref>と処理の自動化によって学習と習得が結びつき2種類の知識を仮定する必要はないとする[[インターフェイス仮説]]<ref name=ref02>'''McLaughlin, B.'''<br>The Monitor Model: some methodological consideration<br>''Language Learning, 28, 309-332'': 1978</ref>の立場があるが、本稿では、原則として、両者を区別せずに用いる。


== 主な理論 ==
== 主な理論 ==
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 外国語運用能力の育成には、運用能力の基盤となる知識の形成と運用スキルの習熟を図ることが必要であり、言語処理の'''[[自動化]]'''(automatization)が外国運用能力の熟達化にとって重要な役割を果たすことは広く認識されてきている。しかし、その認知メカニズムは十分に明らかにされているとは言い難く、言語情報のインプットを効率的に処理できる形式に変換して理解したり、概念化や発話計画からアウトプットに到るプロセスにおいて、音韻、形態、統語、意味などの脳内処理がどの程度自動的・[[無意識]]的に行われているのか、そのプロセスを解明することが、外国語運用能力育成の鍵ともなる。なお、脳科学的視点からの第二言語習得研究については大石<ref>'''大石晴美'''<br>脳科学からの第二言語習得論:英語学習と教授法開発<br>''昭和堂'': 2006</ref>、外国語学習者の言語情報処理の自動化については横川ら<ref>'''横川博一・定藤規弘・吉田晴世編'''<br>外国語運用能力はいかに熟達化するか:言語情報処理の自動化プロセスを探る<br>''松柏社'': 2014</ref>を参照されたい。
 外国語運用能力の育成には、運用能力の基盤となる知識の形成と運用スキルの習熟を図ることが必要であり、言語処理の'''[[自動化]]'''(automatization)が外国運用能力の熟達化にとって重要な役割を果たすことは広く認識されてきている。しかし、その認知メカニズムは十分に明らかにされているとは言い難く、言語情報のインプットを効率的に処理できる形式に変換して理解したり、概念化や発話計画からアウトプットに到るプロセスにおいて、音韻、形態、統語、意味などの脳内処理がどの程度自動的・[[無意識]]的に行われているのか、そのプロセスを解明することが、外国語運用能力育成の鍵ともなる。なお、脳科学的視点からの第二言語習得研究については大石<ref>'''大石晴美'''<br>脳科学からの第二言語習得論:英語学習と教授法開発<br>''昭和堂'': 2006</ref>、外国語学習者の言語情報処理の自動化については横川ら<ref>'''横川博一・定藤規弘・吉田晴世編'''<br>外国語運用能力はいかに熟達化するか:言語情報処理の自動化プロセスを探る<br>''松柏社'': 2014</ref>を参照されたい。


 こうした外国語学習者の心理的プロセスに焦点をあてる第二言語習得研究は、“The significance of learners’ errors”(学習者の誤用の意義)によって始まったとされる<ref>'''Coder, S. P.'''<br>The significance of learners' errors<br>''IRAL: International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, 5, 161-170'': 1967</ref>。その後、学習者が目標言語を学習するにつれて変容していく'''[[中間言語]]'''(interlanguage)<ref>'''Selinker, L.'''<br>Interlanguage<br>''IRAL: International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, 10, 209-231'': 1972</ref>のシステムを解明することが中心的課題となっている。主な第二言語習得の理論には次のようなものがある。
 こうした外国語学習者の心理的プロセスに焦点をあてる第二言語習得研究は、Coder(1967)の“The significance of learners’errors”(「学習者の誤用の重要性」)によって始まったとされる<ref>'''Coder, S. P.'''<br>The significance of learners' errors<br>''IRAL: International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, 5, 161-170'': 1967</ref>。その後、学習者が目標言語を学習するにつれて変容していく'''[[中間言語]]'''(interlanguage)<ref>'''Selinker, L.'''<br>Interlanguage<br>''IRAL: International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, 10, 209-231'': 1972</ref>のシステムを解明することが中心的課題となっている。主な第二言語習得の理論には次のようなものがある。


==== インプット仮説 ====
==== インプット仮説 ====
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 Krashen<ref name=ref1 />によって提唱された理論で、言語習得は「理解可能なインプット」(comprehensible input)を理解することによって起こり、学習者の熟達度(i)よりも少し上のレベルのもの(i+1)が適切であるとされる。また、情意フィルター(affective filter)、つまり不安度(anxiety)は低いほうがよく、文法知識の役割は小さいと考えている。この考え方では目標言語で教授することを重視しており、後に「ナチュラル・アプローチ」(the natural approach)へと発展した<ref>'''Krashen, S. D. & Terrell, T. D.'''<br>The natural approach: Language acquisition in the classroom.<br>''Oxford: Pergamon'': 1983</ref>、<ref>'''Krashen, S. D.'''<br>The input hypothesis: Issues and implications <br>''Oxford: Pergamon'': 1985</ref>。
 Krashen<ref name=ref1 />によって提唱された理論で、言語習得は「理解可能なインプット」(comprehensible input)を理解することによって起こり、学習者の熟達度(i)よりも少し上のレベルのもの(i+1)が適切であるとされる。また、情意フィルター(affective filter)、つまり不安度(anxiety)は低いほうがよく、文法知識の役割は小さいと考えている。この考え方では目標言語で教授することを重視しており、後に「ナチュラル・アプローチ」(the natural approach)へと発展した<ref>'''Krashen, S. D. & Terrell, T. D.'''<br>The natural approach: Language acquisition in the classroom.<br>''Oxford: Pergamon'': 1983</ref>、<ref>'''Krashen, S. D.'''<br>The input hypothesis: Issues and implications <br>''Oxford: Pergamon'': 1985</ref>。
 一般に、第二言語の環境では、言語インプットの量は多く、常にそのインプットに浸された状態にあるが、日本のような外国語の環境ではインプットの量はきわめて限られており、接触量が決定的に異なる。また、インプットの重要性は日本の英語教育でも認識され、できるだけ多くの外国語に触れるような工夫が試みられているが、インプットされる言語と意識・注意の関係についてはほとんど明らかにされておらず、言語のどのような側面に意識や注意が向けられることで外国語が習得されるのかなどについて、今後の研究が待たれる。


==== 自動化理論 ====
==== 自動化理論 ====
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 外国語の語彙の記憶には、記憶容量、母語などの被験者要因、語の長さ<ref>'''Baddeley, A. D., Thomson, A., & Buchanan, M.'''<br>Word length and the structure of short-term memory<br>''Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 14, 575-589'': 1975</ref>、音韻親密度<ref>'''Kovács, G. &, Racsmány M.'''<br> Handling L2 input in phonological STM: The effect of non-L1 phonetics on nonword repetition<br>''Language Learning, 58, 597-624'': 2008</ref>など語の要因が影響を及ぼすことが知られている。
 外国語の語彙の記憶には、記憶容量、母語などの被験者要因、語の長さ<ref>'''Baddeley, A. D., Thomson, A., & Buchanan, M.'''<br>Word length and the structure of short-term memory<br>''Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 14, 575-589'': 1975</ref>、音韻親密度<ref>'''Kovács, G. &, Racsmány M.'''<br> Handling L2 input in phonological STM: The effect of non-L1 phonetics on nonword repetition<br>''Language Learning, 58, 597-624'': 2008</ref>など語の要因が影響を及ぼすことが知られている。


 新規の語(未知語)がメンタルレキシコンに登録された状態を'''語彙化'''(lexicalization)と呼ぶが、その経時的変化は、'''語彙競合効果'''(lexical completion effect)を指標として捉えられる<ref><pubmed>12915296</pubmed></ref>。語彙競合効果とは、類似する語がある単語の認知に影響を与えるというもので、たとえば、新規語 wooz が語彙化した状態になれば、woof, wool, woodなどの類似した語が単語認知に影響を与え、'''[[語彙判断課題]]'''(lexical decision task; 当該語が実在後であるか否かを即座に判断する課題)において判断時間が遅延する。
 新規の語(未知語)がメンタルレキシコンに登録された状態を'''語彙化'''(lexicalization)と呼ぶが、その経時的変化は、'''語彙競合効果'''(lexical completion effect)を指標として捉えられる<ref><pubmed>12915296</pubmed></ref>。語彙競合効果とは、類似する語がある単語の認知に影響を与えるというもので、たとえば、新規語 wooz が語彙化した状態になれば、woof, wool, woodなどの類似した語が単語認知に影響を与え、'''[[語彙判断課題]]'''(lexical decision task; 当該語が実在語であるか否かを即座に判断する課題)において判断時間が遅延する。


 この語彙競合効果は、学習後1日以内に出現するとする研究もあるが<ref><pubmed>22774854</pubmed></ref>、[[睡眠]]を経た24時間後に出現するとする研究もあり<ref>'''Bakker, I., Takashima, A., van Hell, J. G., Gabriele, J., & McQueen, J. M.'''<br>Competition from unseen or unheard novel words: Lexical consolidation across modalities<br>''Journal of Memory and Language, 73, 116-130'': 2014</ref> <ref>'''Brown, H., & Gaskell, M. G.'''<br>The time-course of talker-specificity and lexical competition effects during word learning Language<br>''Cognition and Neuroscience, 29, 1163-1179'': 2014</ref>、語彙競合効果の出現には睡眠を含むオフラインでの記憶統合が必要であるとされる。しかし、外国語学習者の語彙化プロセスはほとんど明らかにされていない。なお、脳における[[宣言的記憶]]の形成について、[[海馬]]と[[大脳皮質]]において相補的に学習が行われるとする[[Complementary Learning System]](CLS)も参照されたい<ref><pubmed>18578598</pubmed></ref>。
 この語彙競合効果は、学習後1日以内に出現するとする研究もあるが<ref><pubmed>22774854</pubmed></ref>、[[睡眠]]を経た24時間後に出現するとする研究もあり<ref>'''Bakker, I., Takashima, A., van Hell, J. G., Gabriele, J., & McQueen, J. M.'''<br>Competition from unseen or unheard novel words: Lexical consolidation across modalities<br>''Journal of Memory and Language, 73, 116-130'': 2014</ref> <ref>'''Brown, H., & Gaskell, M. G.'''<br>The time-course of talker-specificity and lexical competition effects during word learning Language<br>''Cognition and Neuroscience, 29, 1163-1179'': 2014</ref>、語彙競合効果の出現には睡眠を含むオフラインでの記憶統合が必要であるとされる。しかし、外国語学習者の語彙化プロセスはほとんど明らかにされていない。なお、脳における[[宣言的記憶]]の形成について、[[海馬]]と[[大脳皮質]]において相補的に学習が行われるとする[[Complementary Learning System]](CLS)も参照されたい<ref><pubmed>18578598</pubmed></ref>。
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==== 言語理解のプロセス ====
==== 言語理解のプロセス ====
 音声言語による文理解のプロセスは、Friederici & Kotzの認知神経科学的モデルによれば、①入力音声の音響分析([[聴覚野]])にもとづく音素の同定([[上側頭回]]中間部)、音韻の[[分節化]]・[[音節化]]の処理([[ブロードマン44野]]上後部)、②語の形態処理(上側頭回後部)、統語範疇の同定(上側頭回前部)にもとづく局所的統語構造の構築(ブロードマン44野下部)、③語の統語・形態情報の同定(上・中側頭回後部)にもとづく意味情報と統語情報の統合(上・[[中側頭回]]後部)、意味役割付与(ブロードマン44野、[[45野]][[47野]])、④さまざまな情報の統合([[基底核]])や再分析および修復(上側頭回後部)といった4つの段階に大別される<ref><pubmed>14597292</pubmed></ref>。書き言葉の処理もこれに準じる。(<u>編集部コメント:ブロードマン領野番号をご確認ください。44-47は前頭葉腹側面を示すようです。側頭葉ですと20-22野あたりになります。[[ブロードマンの脳地図]]をご参照ください。</u>)
 音声言語による文理解のプロセスは、Friederici & Kotz の認知神経科学的モデルによれば、①入力音声の音響分析([[聴覚野]](BA41, 42))にもとづく音素の同定([[上側頭回]](BA22)の中間部)、音韻の[[分節化]]・[[音節化]]の処理([[下側頭回]](BA44)の上後部)、②語形の同定([[上側頭回]](BA22)の後部)、統語範疇の同定([[上側頭回]](BA22)の前部)にもとづく局所的統語構造の構築([[下前頭回]](BA44)の下部)、③語のレマ(統語)・形態情報の同定(上・[[中側頭回]](BA20, 22)の後部)にもとづく意味情報と統語情報の統合(上・[[中側頭回]](BA20, 22)の後部)および意味役割付与(下前頭回 (BA44, 45, 47))、④さまざまな情報の統合([[基底核]])や再分析および修復(上側頭回(BA22)の後部)といった4つの段階に大別される<ref><pubmed>14597292</pubmed></ref>。書き言葉の処理もこれに準じる。
 
 外国語学習におけるリスニングの困難点は、①音声の連続体の中から単語を切り出すこと(分節化)、②統語構造を構築すること、③話者の話すスピードで理解すること、などにある。また、リーディングの困難点は、①語彙知識の不足、②文法知識の不足、③母語と語順が異なる場合は、語順通りに理解すること、などにある。いずれの場合にも、話題についての背景知識が内容理解に影響を及ぼすことも知られている。
 外国語学習におけるリスニングの困難点は、①音声の連続体の中から単語を切り出すこと(分節化)、②統語構造を構築すること、③話者の話すスピードで理解すること、などにある。また、リーディングの困難点は、①語彙知識の不足、②文法知識の不足、③母語と語順が異なる場合は、語順通りに理解すること、などにある。いずれの場合にも、話題についての背景知識が内容理解に影響を及ぼすことも知られている。


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==== 言語産出のプロセス ====
==== 言語産出のプロセス ====
 音声を中心としたコミュニケーションの心理言語学的モデルの一つに、Levelt<ref name=ref2 />の言語の理解と生成における'''[[語彙仮説モデル]]'''がある。このモデルでは、まず、スピーキングのプロセスとして、'''[[概念化装置]]'''(CONCEPTUALIZER)でプラニングされた発話すべきメッセージは、'''[[形式化装置]]'''(FORMULARTOR)で文法コード化(grammatical encoding)および音韻コード化(phonological encoding)の操作が施される。このとき、メンタルレキシコン(mental lexicon)に格納されているレマ(lemma)情報によって統語的表象を構築し、レキシーム(lexeme)情報によって音韻表象が構築される。最終的に'''[[調音]]'''(ARTICULATION)がなされて、発話(アウトプット)に至るプロセスが示されている。
 音声を中心としたコミュニケーションの心理言語学的モデルの一つに、Leveltら<ref name=ref2 />の言語の理解と生成における'''[[語彙仮説モデル]]'''がある。このモデルでは、まず、スピーキングのプロセスとして、'''[[概念化装置]]'''(CONCEPTUALIZER)でプラニングされた発話すべきメッセージは、'''[[形式化装置]]'''(FORMULARTOR)で文法符号化(grammatical encoding)および音韻符号化(phonological encoding)の操作が施される。文法符号化の処理では、メンタルレキシコン(mental lexicon)に格納されているレマ(lemma)情報を選択し(左中側頭回の中間部)、統語的表象が構築される(左下前頭回)。音韻符号化の処理では、レキシコンに格納されているレキシーム(lexeme)情報にアクセスし(左上・中側頭回の後部)、音韻表象が構築される(左下前頭回の後部)。最終的に、音声的符号化が行われ、'''[[調音]]'''(ARTICULATION)がなされて(両側運動野、体性感覚野腹側部など)、発話(アウトプット)に至るとされている。


 外国語のスピーキングにおける困難点は、①発音を知らない、発音の仕方が分からない、②言いたいことを伝える語や表現がすぐに[[想起]]できない、③文法知識の欠如、文をすぐに構築できない、④正確さを気にしすぎて、間違いを犯すことを[[恐れ]]る、⑤母語で考えて、それを外国語に置き換えようとする、などが挙げられる。
 外国語のスピーキングにおける困難点は、①発音を知らない、発音の仕方が分からない、②言いたいことを伝える語や表現がすぐに[[想起]]できない、③文法知識の欠如、文をすぐに構築できない、④正確さを気にしすぎて、間違いを犯すことを[[恐れ]]る、⑤母語で考えて、それを外国語に置き換えようとする、などが挙げられる。