「解離症」の版間の差分

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==病態メカニズム==
==病態メカニズム==
 解離症や外傷ストレスによる病態で特徴的なのは分離して不連続な自己状態である。こうした解離症の病態メカニズムについては、神経生理学研究、神経内分泌研究、脳画像研究など多くの報告がなされているが、いまだ十分にはわかっていない。
 解離症の病態メカニズムについては、精神生物学的研究、神経生理学研究、神経内分泌研究、脳画像研究など多くの報告がなされているが、いまだ十分にはわかっていない。


 解離症では、心的外傷により大脳皮質と脳幹の統合、左右大脳半球の統合が妨げられた結果、トップダウンやボトムアップの過程の統合不全により、感覚入力、情動、思考などに問題が生じるという<ref name=ref10>'''Lanius UF, Paulsen SL, Corrigan FM'''<br>Dissociation: cortical differentiation and the loss of self.<br>In (Lanius UF, Paulsen SL, Corrigan FM Eds.) Neurobiology and treatment of traumatic dissociation: toward an embodied self. <br>''Springer Publishing Company'', 5-28, 2014</ref>。
 解離症では、心的外傷により大脳皮質と脳幹の統合、左右大脳半球の統合が妨げられた結果、トップダウンやボトムアップの過程の統合不全により、感覚入力、情動、思考などに問題が生じるという説がある<ref name=ref10>'''Lanius UF, Paulsen SL, Corrigan FM'''<br>Dissociation: cortical differentiation and the loss of self.<br>In (Lanius UF, Paulsen SL, Corrigan FM Eds.) Neurobiology and treatment of traumatic dissociation: toward an embodied self. <br>''Springer Publishing Company'', 5-28, 2014</ref>。


 Allan Score<ref name=ref11>'''Schore AN'''<br>Attachment trauma and the developing right brain: Origins of pathological dissociation. <br>In: P. F. Dell & J. F. O’Neil (Eds.)<br>Dissociation and the dissociative disorders: DSM-V and beyond (pp. 107–141)<br>New York: '''Routledge''', 2009</ref>によれば、外傷を含んだ早期の[[アタッチメント体験]]はとりわけ大脳右半球と辺縁系に影響を与える。そのため右大脳半球における皮質と皮質下辺縁領域との間のつながりに障害がみられ、さらに情動調整のための[[迷走神経]]回路を上位の皮質辺縁系が調整することができなくなることが、解離の症候学に反映されているのではないかという。
 また、Allan Score<ref name=ref11>'''Schore AN'''<br>Attachment trauma and the developing right brain: Origins of pathological dissociation. <br>In: P. F. Dell & J. F. O’Neil (Eds.)<br>Dissociation and the dissociative disorders: DSM-V and beyond (pp. 107–141)<br>New York: '''Routledge''', 2009</ref>によれば、外傷を含んだ早期の[[アタッチメント体験]]はとりわけ大脳右半球と辺縁系に影響を与える。そのため右大脳半球における皮質と皮質下辺縁領域との間のつながりに障害がみられ、さらに情動調整のための[[迷走神経]]回路を上位の皮質辺縁系が調整することができなくなることが、解離の症候学に反映されているのではないかという。


 過覚醒はストレスに対する最初の反応であり、[[交感神経系]]の活動亢進と関係している。解離はこうした過覚醒の次に起こる反応である。過覚醒状態では[[HPA軸]]を通して交感神経が活性化される。こうした過覚醒に対する反応として[[副交感神経]]優位の解離状態が生じ、低覚醒や離隔をきたす。この低覚醒状態は[[背側迷走神経複合体]](dorsal vagal complex, DVC)<ref name=ref12><pubmed>11587772</pubmed></ref>の活動によるとされる。
 過覚醒はストレスに対する最初の反応であり、[[交感神経系]]の活動亢進と関係している。解離はこうした過覚醒の次に起こる反応である。過覚醒状態では[[HPA軸]]を通して交感神経が活性化される。こうした過覚醒に対する反応として[[副交感神経]]優位の解離状態が生じ、低覚醒や離隔をきたすという。この低覚醒状態は[[背側迷走神経複合体]](dorsal vagal complex, DVC)<ref name=ref12><pubmed>11587772</pubmed></ref>の活動によるとされる。


 Hopperらの研究によれば<ref name=ref13><pubmed>17955540</pubmed></ref>、離隔など低覚醒的な病的関与減弱状態(pathological under-engagement)は[[前頭前皮質]](prefrontal cortex)の活動と関連しており、再体験やフラッシュバックなど過覚醒的な病的関与過剰状態(pathological over-engagement)は辺縁系と関連しており、これら2つの状態は異なった神経学的パターンを示すという。SteinとSimeon<ref name=ref14><pubmed>19890227</pubmed></ref>は、前頭前皮質の過活動が[[扁桃体]]や[[島]]などの辺縁系を過剰に抑制することで、離人状態が引き起こされるとしている。現在において解離は、離人感など離隔、低覚醒、無動状態の視点から精神生物学的研究が行なわれている。
 Hopperらの研究によれば<ref name=ref13><pubmed>17955540</pubmed></ref>、離隔など低覚醒的な病的関与減弱状態(pathological under-engagement)は[[前頭前皮質]](prefrontal cortex)の活動と関連しており、再体験やフラッシュバックなど過覚醒的な病的関与過剰状態(pathological over-engagement)は辺縁系と関連しており、これら2つの状態は異なった神経学的パターンを示すという。SteinとSimeon<ref name=ref14><pubmed>19890227</pubmed></ref>は、前頭前皮質の過活動が[[扁桃体]]や[[島]]などの辺縁系を過剰に抑制することで、離人状態が引き起こされるとしている。


==併存症==
==併存症==