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LHとFSHに対する受容体はいずれも[[Gタンパク質共役型受容体]]であり、典型的な7回膜貫通型受容体タンパク質からなる。さらに、上述したように、LH、FSHと共通した性質をもつ糖タンパク質ホルモンであるTSHの受容体と合わせて、これら糖タンパク質ホルモンの受容体は、共通して、大きな細胞外領域をもつことも知られているが、3種の異なるリガンドを認識する細胞外領域についての研究も進んでいる。 | LHとFSHに対する受容体はいずれも[[Gタンパク質共役型受容体]]であり、典型的な7回膜貫通型受容体タンパク質からなる。さらに、上述したように、LH、FSHと共通した性質をもつ糖タンパク質ホルモンであるTSHの受容体と合わせて、これら糖タンパク質ホルモンの受容体は、共通して、大きな細胞外領域をもつことも知られているが、3種の異なるリガンドを認識する細胞外領域についての研究も進んでいる。 | ||
一方、いずれの受容体も[[ | 一方、いずれの受容体も[[三量体GTP結合タンパク質|G<sub>s</sub>]]よりなる[[三量体GTP結合タンパク質]]に共役していて、ホルモンが受容体に結合することによりG<sub>s</sub>の活性化が[[アデニル酸シクラーゼ]]の活性化を引き起こし、[[wj:細胞質|細胞質]]中の[[サイクリックAMP]](cAMP)濃度が上昇することが知られている。さらには、この下流で[[cAMP依存性キナーゼ]]([[PKA]])の活性化を伴うことも知られている。 | ||
===生殖腺に対する作用=== | ===生殖腺に対する作用=== | ||
上述したように、LHとFSHは、それぞれ、主に[[ヒト]]における作用という観点から「黄体形成ホルモン」「濾胞刺激ホルモン」と呼ばれているが、LHは主に[[精巣]]では[[wj:間質ライディヒ細胞|間質ライディヒ細胞]]の[[アンドロゲン]][[分泌]]を刺激し、[[卵巣]]では[[wj:排卵|排卵]]を促すはたらきをもち、FSHは精巣では精子形成に、卵巣では主に[wj:ろ胞|ろ胞]]の発達に対して作用があると考えられてきた。 つまり、これらの生殖腺組織にはLH受容体やFSH受容体がそれぞれの組織の特異的な細胞に発現しているのだが、それぞれの細胞における受容体活性化以降の下流の細胞内情報伝達系のシグナル経路については、様々な研究がなされている。 | 上述したように、LHとFSHは、それぞれ、主に[[ヒト]]における作用という観点から「黄体形成ホルモン」「濾胞刺激ホルモン」と呼ばれているが、LHは主に[[精巣]]では[[wj:間質ライディヒ細胞|間質ライディヒ細胞]]の[[アンドロゲン]][[分泌]]を刺激し、[[卵巣]]では[[wj:排卵|排卵]]を促すはたらきをもち、FSHは精巣では精子形成に、卵巣では主に[[wj:ろ胞|ろ胞]]の発達に対して作用があると考えられてきた。 つまり、これらの生殖腺組織にはLH受容体やFSH受容体がそれぞれの組織の特異的な細胞に発現しているのだが、それぞれの細胞における受容体活性化以降の下流の細胞内情報伝達系のシグナル経路については、様々な研究がなされている。 | ||
一方で、cAMP-PKA系の活性化以降のシグナル経路や、これとは異なるシグナル経路の存在、さらには様々なシグナル経路のクロストーク、細胞に特異的な生理作用の発現機構等については未解明の点も多く、今後の研究が待たれる。この辺の事情については既に詳細なレビューがあるので、文献<ref>'''Funzicker-Dunn, M., and Mayo, K.,'''<br>Gonadotropin signaling in the ovary. <br>In: Konobil and Neill’s Physiology of Reproduction, Third Edtion ed. by J.D. Neil<br>2006: pp. 547-592.</ref>を参照していただきたい。 | 一方で、cAMP-PKA系の活性化以降のシグナル経路や、これとは異なるシグナル経路の存在、さらには様々なシグナル経路のクロストーク、細胞に特異的な生理作用の発現機構等については未解明の点も多く、今後の研究が待たれる。この辺の事情については既に詳細なレビューがあるので、文献<ref>'''Funzicker-Dunn, M., and Mayo, K.,'''<br>Gonadotropin signaling in the ovary. <br>In: Konobil and Neill’s Physiology of Reproduction, Third Edtion ed. by J.D. Neil<br>2006: pp. 547-592.</ref>を参照していただきたい。 | ||
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向下垂体ホルモンとしてのGnRHペプチドを産生する視床下部GnRHニューロンは、[[ラット]]・マウスをはじめとするほ乳類の実験動物では、細胞体が10ミクロン前後しかない上に、数少ないニューロンが散在的に[[視索前野]]に分布しているため、ごく最近まで、その神経生理学的な記録や解析はほとんどされていなかった<ref name=ref7 />。ところが、1999年以降立て続けにGnRHニューロンが[[GFP]]標識された[[トランスジェニックマウス]]やラットが作成され、脳[[スライス標本|スライス]]を用いて単一GnRHニューロンの神経生理学的な解析が可能になった<ref name=ref8><pubmed>10066257</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>10614664 </pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>12960038</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed> 14617578</pubmed></ref>。しかしながら、[[トランスジェニックマウス]]や[[ラット]]の脳を用いてGnRHニューロンの電気生理学的解析も、脳を薄く切った脳スライスを用いた実験しかできないため、実際に脳内で単一のGnRHニューロンの電気活動が排卵周期に一致して変動するのかどうかについては不明である。 | 向下垂体ホルモンとしてのGnRHペプチドを産生する視床下部GnRHニューロンは、[[ラット]]・マウスをはじめとするほ乳類の実験動物では、細胞体が10ミクロン前後しかない上に、数少ないニューロンが散在的に[[視索前野]]に分布しているため、ごく最近まで、その神経生理学的な記録や解析はほとんどされていなかった<ref name=ref7 />。ところが、1999年以降立て続けにGnRHニューロンが[[GFP]]標識された[[トランスジェニックマウス]]やラットが作成され、脳[[スライス標本|スライス]]を用いて単一GnRHニューロンの神経生理学的な解析が可能になった<ref name=ref8><pubmed>10066257</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>10614664 </pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>12960038</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed> 14617578</pubmed></ref>。しかしながら、[[トランスジェニックマウス]]や[[ラット]]の脳を用いてGnRHニューロンの電気生理学的解析も、脳を薄く切った脳スライスを用いた実験しかできないため、実際に脳内で単一のGnRHニューロンの電気活動が排卵周期に一致して変動するのかどうかについては不明である。 | ||
これに対して、小型で透明性の高い脳をもち、長日条件を[[模倣]]した光周期条件で飼育すると毎日規則的に産卵をするメダカを用いた研究が最近可能になった<ref name=ref12><pubmed>16293668</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>22544888</pubmed></ref> | これに対して、小型で透明性の高い脳をもち、長日条件を[[模倣]]した光周期条件で飼育すると毎日規則的に産卵をするメダカを用いた研究が最近可能になった<ref name=ref12><pubmed>16293668</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>22544888</pubmed></ref>。メダカなどの非ほ乳類ではGnRHニューロンの細胞体は視索前野(POA)とよばれる脳部位に存在し、真骨魚類では直接下垂体前葉に投射軸索投射する('''図1右''')。したがって、GnRHニューロンをGFP標識すると、メダカでは細胞体から[[樹状突起]]、[[軸索]]、そして脳下垂体内の[[軸索終末]]までの全てを、生きたまま取りだした丸ごとの脳(全脳''in vitro''標本)を[[蛍光顕微鏡]]観察することで見ることができる('''図2''')。 | ||
この脳標本では、GnRHニューロンに対して[[シナプス]]入力する神経回路も生きたままの状態で保って、電気生理学的解析を行うことが可能である。こうした特長を活かして、Karigoらは、1日1回の排卵周期に対応するようなGnRHニューロンの自発的な活動電位発火の頻度の周期的変動を見出した<ref name=ref13 />。ほ乳類などではこのような実験は物理的に行い難いのだが、おそらく、個々のGnRHニューロンの活動は、動物の排卵周期に応じたような周期的な変動を示していると想像される。 | この脳標本では、GnRHニューロンに対して[[シナプス]]入力する神経回路も生きたままの状態で保って、電気生理学的解析を行うことが可能である。こうした特長を活かして、Karigoらは、1日1回の排卵周期に対応するようなGnRHニューロンの自発的な活動電位発火の頻度の周期的変動を見出した<ref name=ref13 />。ほ乳類などではこのような実験は物理的に行い難いのだが、おそらく、個々のGnRHニューロンの活動は、動物の排卵周期に応じたような周期的な変動を示していると想像される。 |