「記憶固定化」の版間の差分

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 [[記憶]]は、その保持される時間によって2つの形態に分けることができる。学習成立後から数時間ほど続く[[短期記憶]]と、1日から場合によっては生涯保持される[[長期記憶]]である。
 [[記憶]]は、その保持される時間によって2つの形態に分けることができる。学習成立後から数時間ほど続く[[短期記憶]]と、1日から場合によっては生涯保持される[[長期記憶]]である。


 1900年、[[wj:ゲオルク・エリアス・ミュラー|Müller]]とPilzeckerは、安定した記憶の形成が最初の学習直後の新しい経験によって阻害されると報告した<ref name=ref1>'''Müller GE, Pilzecker A'''<br>Experimentelle Beiträge zur Lehre vom Gedächtnis [Experimental contributions to the science of memory]<br>''Z. Psychol. Physiol. Sinnesorg.'' 1900, Ergänzungsband 1:1-300.</ref>。これは、短期記憶は他の情報入力によって維持が妨害されてしまう不安定な状態にあることを意味している。長期記憶は不安定な状態から移相した安定化したものであると考えられることから、短期記憶から長期記憶への位相過程を、“記憶の固定化”と呼ぶ(図1)。
 1900年、[[wj:ゲオルク・エリアス・ミュラー|Müller]]とPilzeckerは、安定した記憶の形成が最初の学習直後の新しい経験によって阻害されると報告した<ref name=ref1>'''Müller GE, Pilzecker A'''<br>Experimentelle Beiträge zur Lehre vom Gedächtnis [Experimental contributions to the science of memory]<br>''Z. Psychol. Physiol. Sinnesorg.'' 1900, Ergänzungsband 1:1-300.</ref>。これは、短期記憶は他の情報入力によって維持が妨害されてしまう不安定な状態にあることを意味している。長期記憶は不安定な状態から移相した安定化したものであると考えられることから、短期記憶から長期記憶への位相過程を、“記憶の固定化”と呼ぶ('''図1''')。


 短期記憶の形成には、脳の神経細胞内の既存のタンパク質、特に神経伝達に関与する神経伝達物質の[[イオンチャネル型受容体型]]や[[情報伝達]]に関わる酵素群の修飾とそれにともなう“一過的な”活性の変化が重要であることが示されている<ref name=ref2><pubmed>22036561</pubmed></ref> 。一方、短期から長期記憶への固定化には、学習後に脳内で誘導される新規の遺伝子発現とそれに引き続き起こるタンパク質合成が必要となる<ref name=ref3><pubmed>10634773</pubmed></ref> 。
 短期記憶の形成には、脳の神経細胞内の既存のタンパク質、特に神経伝達に関与する神経伝達物質の[[イオンチャネル型受容体型]]や[[情報伝達]]に関わる酵素群の修飾とそれにともなう“一過的な”活性の変化が重要であることが示されている<ref name=ref2><pubmed>22036561</pubmed></ref> 。一方、短期から長期記憶への固定化には、学習後に脳内で誘導される新規の遺伝子発現とそれに引き続き起こるタンパク質合成が必要となる<ref name=ref3><pubmed>10634773</pubmed></ref> 。