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Yasunori Murakami (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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発生期の間脳に存在するZliはこれまで調べられてきた脊椎動物の多くの種において、脳形成に関わるオーガナイザーとして重要な役割を担っている。Zliに相同な構造は、脊椎動物の姉妹群であるナメクジウオやホヤでは認められないものの、脊索動物の外群に当たる半索動物のギボシムシ(最近では半索動物と棘皮動物の類縁性が指摘され、これらは歩帯動物Ambulacrariaというクレードを構成する)でZliでのShhの発現に関わるエンハンサーの存在を示唆するデータが得られている[33][34]。そうであれば、このオーガナイザーの起源は歩帯動物と脊索動物の分岐以前に遡ることになる。 | 発生期の間脳に存在するZliはこれまで調べられてきた脊椎動物の多くの種において、脳形成に関わるオーガナイザーとして重要な役割を担っている。Zliに相同な構造は、脊椎動物の姉妹群であるナメクジウオやホヤでは認められないものの、脊索動物の外群に当たる半索動物のギボシムシ(最近では半索動物と棘皮動物の類縁性が指摘され、これらは歩帯動物Ambulacrariaというクレードを構成する)でZliでのShhの発現に関わるエンハンサーの存在を示唆するデータが得られている[33][34]。そうであれば、このオーガナイザーの起源は歩帯動物と脊索動物の分岐以前に遡ることになる。 | ||
間脳のプロソメア領域の起源については、現生脊椎動物の系統のうち、最も初期に分岐したとされる円口類(Cyclostomes;ヤツメウナギ類、ヌタウナギ類)において研究が進んでいる。発生期のヤツメウナギ前脳では、プロソメアを規定する遺伝子発現(Pax6、Pax3/7、Lhxなど)が見られ、ZliにはSHHに相同な遺伝子(HhB)が発現しており、視床下部の原基ではNkx2.1の相同遺伝子の発現が見られる。それらの領域から発生する神経要素も他の脊椎動物のものと対応している[35]。そして円口類のもう一つの系統であるヌタウナギでも遺伝子の発現様式は他の脊椎動物やヤツメウナギとよく似ていることが明らかとなっている[36]。このことから、脊椎動物の歴史において、円口類と顎口類(Gnathostomes)の分岐以前の段階で間脳のプロソメアを規定する分子基盤は成立していたと考えられる。ただし、間脳に入出力する神経路は動物ごとに多かれ少なかれ相違が見られる。例えば視覚系については、哺乳類以外の羊膜類では視神経は間脳の腹側でほぼ全てが交叉し(全交叉)、視神経の多くは中脳の視蓋に入力する(一部は視床にも入力する)。そして視蓋から出た神経が視床の神経核(円形核)に入り、そこからの軸索が終脳の背側脳室稜(dorsal ventricular ridge: DVR)に投射する。一方、哺乳類では、視神経は間脳の腹側で完全には交叉しない(部分交叉あるいは半交叉)。ただし哺乳類でもクジラ類の視神経は全交叉あるいはそれに近い形態となる[37]。視神経は間脳の外側膝状体と中脳の上丘(視蓋に相同な領域)に入力し、外側膝状体からの軸索が新皮質の一次視覚野に投射する。このとき、視神経が部分交叉する哺乳類(食肉目や霊長目)では右目由来と左目由来の外側膝状体の軸索は混じり合うこと無く視覚野に入力し、眼優位性カラム(ocular domincance column)を形成する。視覚系のみならず、聴覚系の投射様式も哺乳類と鳥類・爬虫類では異なっている。魚類でも異なる感覚の求心性投射は終脳の特定の場所に局在しているが[27]、その投射領域は羊膜類とは異なる可能性がある。つまり、間脳はその発生メカニズムが確立された後、その基本形を維持しつつも、進化の過程で系統ごとに様々な改変がなされてきたと考えられる。 | 間脳のプロソメア領域の起源については、現生脊椎動物の系統のうち、最も初期に分岐したとされる円口類(Cyclostomes;ヤツメウナギ類、ヌタウナギ類)において研究が進んでいる。発生期のヤツメウナギ前脳では、プロソメアを規定する遺伝子発現(Pax6、Pax3/7、Lhxなど)が見られ、ZliにはSHHに相同な遺伝子(HhB)が発現しており、視床下部の原基ではNkx2.1の相同遺伝子の発現が見られる。それらの領域から発生する神経要素も他の脊椎動物のものと対応している[35]。そして円口類のもう一つの系統であるヌタウナギでも遺伝子の発現様式は他の脊椎動物やヤツメウナギとよく似ていることが明らかとなっている[36]。このことから、脊椎動物の歴史において、円口類と顎口類(Gnathostomes)の分岐以前の段階で間脳のプロソメアを規定する分子基盤は成立していたと考えられる。ただし、間脳に入出力する神経路は動物ごとに多かれ少なかれ相違が見られる。例えば視覚系については、哺乳類以外の羊膜類では視神経は間脳の腹側でほぼ全てが交叉し(全交叉)、視神経の多くは中脳の視蓋に入力する(一部は視床にも入力する)。そして視蓋から出た神経が視床の神経核(円形核)に入り、そこからの軸索が終脳の背側脳室稜(dorsal ventricular ridge: DVR)に投射する。一方、哺乳類では、視神経は間脳の腹側で完全には交叉しない(部分交叉あるいは半交叉)。ただし哺乳類でもクジラ類の視神経は全交叉あるいはそれに近い形態となる[37]。視神経は間脳の外側膝状体と中脳の上丘(視蓋に相同な領域)に入力し、外側膝状体からの軸索が新皮質の一次視覚野に投射する。このとき、視神経が部分交叉する哺乳類(食肉目や霊長目)では右目由来と左目由来の外側膝状体の軸索は混じり合うこと無く視覚野に入力し、眼優位性カラム(ocular domincance column)を形成する。視覚系のみならず、聴覚系の投射様式も哺乳類と鳥類・爬虫類では異なっている。魚類でも異なる感覚の求心性投射は終脳の特定の場所に局在しているが[27]、その投射領域は羊膜類とは異なる可能性がある。つまり、間脳はその発生メカニズムが確立された後、その基本形を維持しつつも、進化の過程で系統ごとに様々な改変がなされてきたと考えられる。 | ||
8、神経回路形成 | |||
8.1 基本的神経路 | |||
間脳の発生の進行に伴い、その内部には様々な神経回路が生じる。発生初期には基本的神経路(The early axon scaffold)として、脊椎動物で高度に保存された神経路が形成され、発生後期に作られる多くの神経路の足場としても重要な役割を担う[38][39]。これらのうち、間脳では後交連や手綱交連、tract of postoptic commissure(TPOC)などが発生する。後交連は、間脳の後方背側、中脳と接するところに生じ、視蓋前域(プロソメア1)を特徴づける構造となる。手綱交連は間脳の背側で後交連の前方に生じ、視床(プロソメア2)の特徴の一つとなる。これらの交連は円口類の段階から見られるため、脊椎動物の共通祖先の段階ですでに獲得されていた可能性がある。後交連と手綱交連はクジラ類では融合して交連複合体を形成する[40]。後交連やTPOCの形成にはPax6が関わるとされる[41][42]。 | |||
8.2視床ー終脳軸索投射 | |||
間脳からは終脳に向けて数多くの神経が伸びていく.特に羊膜類では視床に嗅覚以外の全ての感覚が集められ、そこから終脳に多くの軸索が入力する。これらの線維は一般的に「視床-終脳路」と呼ばれている.これらの神経がどのような仕組みで終脳に入力するのかについてはこれまでに主にマウスを用いて多くの研究がなされている.視床-終脳路の道筋には軸索をガイドするタンパク質群があり,視床の神経核から伸びる軸索は、それらのシグナルを受け取り応答することによって迷うことなく正確に目的地にたどり着く。例えば,視床下部に発現するNkx2.1 は,神経ガイド分子の一種Slitの発現を調節しており,この分子の反発作用によって視床から終脳に伸びていく軸索は終脳の方向に向きを変える[43]。その他にも,視床の神経核では、神経ガイド因子のEph(EphA4, EphA4, EphA7)が勾配をもって発現している。そのため、そこから伸びる軸索にはEphを多く発現しているものから少なく発現しているものがあり、それらの軸索は終脳側にあるエフリンA5の勾配に応答し、反発性相互作用により、Ephの濃度に応じて振り分けられることで特異的な投射が形成される[44]。また、誘因性のガイド因子であるNetrin1が視床の軸索を終脳へ誘引していくことにより多くの軸索が終脳へ入力できるようになるという報告がある[45]。ただし、ネトリンは視床前部のニューロンには誘因性に作用するが、視床後部のニューロンに対しては反発性に作用する。 | |||
視床―終脳路は哺乳類では内包を形成し終脳半球の内側を通るが、これは羊膜類では例外的であり、他の羊膜類では線条体の外側を抜けるような経路をとる。この進路決定には、哺乳類の終脳で発現するSlit2が関与していることが知られている[46]。哺乳類のマウスでは軸索を誘引する働きを有する細胞群が外側基底核原基(LGE)から内側基底核原基(MGE)へ向けて移動するが、この際にSlit2が終脳の腹側から背側に拡大して発現することにより、その細胞群はSlit2の反発作用を受け、脳室から離れた領域に移動する。これにより、視床から伸長する軸索はこれら細胞群の誘引作用を受けられるようになり、神経線維は終脳の内側を通るようになる。一方、主竜類のようにSlit2が終脳腹側に限局して発現をしていた場合、LGEからMGEへ移動する細胞群はSlit2による反発作用を受けず、細胞群は脳室に接した領域に移動する。すると、視床から伸長する軸索はこれら細胞群の誘引作用を受けないため、神経線維は終脳の外側を通るようになる。 |
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