「ケーブル理論」の版間の差分

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微小電極で仮想的な神経突起ケーブルのある1点(x = 0)に電流を注入しこの点を定電位V0 に保つようにすると、x = 0から長軸方向へ電流が広がる(図2)。注入された電流は、注入点から離れるに従い膜を横切って細胞外へ流れ出てしまうため、長軸方向に流れる電流は次第に減少する。突起内各点での最終的な定常状態での電位変化は、x = 0からの距離(x)を用いて表される(図2)。電流注入点からの距離xでの電位変化は、
微小電極で仮想的な神経突起ケーブルのある1点(x = 0)に電流を注入しこの点を定電位V0 に保つようにすると、x = 0から長軸方向へ電流が広がる(図2)。注入された電流は、注入点から離れるに従い膜を横切って細胞外へ流れ出てしまうため、長軸方向に流れる電流は次第に減少する。突起内各点での最終的な定常状態での電位変化は、x = 0からの距離(x)を用いて表される(図2)。電流注入点からの距離xでの電位変化は、


<math>
: <math> V=V_0  e^{{-x}/{\lambda}}</math>
V = V<0e−xe&lambda;
 
</math>
と表すことができ、指数関数的な減衰を示す。λ は長さ定数(length constant)といい、x = λのところでV はV0 の約37%(1/e)に減衰する。λ が大きいと、電流注入点からより遠くの計測点まで電流が減衰しない、ないし、膜電位がある一定以上に保たれることになる。長さ定数λは、図1の3つの抵抗要素によって決まるが、細胞外抵抗は細胞内抵抗に比べ非常に小さいので、単位長さあたりの細胞内抵抗値をri、単位長さあたりの膜抵抗値 をrmとすると、以下のように表すことができる。
と表すことができ、指数関数的な減衰を示す。λ は長さ定数(length constant)といい、x = λのところでV はV0 の約37%(1/e)に減衰する。λ が大きいと、電流注入点からより遠くの計測点まで電流が減衰しない、ないし、膜電位がある一定以上に保たれることになる。長さ定数λは、図1の3つの抵抗要素によって決まるが、細胞外抵抗は細胞内抵抗に比べ非常に小さいので、単位長さあたりの細胞内抵抗値をri、単位長さあたりの膜抵抗値 をrmとすると、以下のように表すことができる。


 
: <math> \lambda=\sqrt{\frac{r_m}{r_i}}</math>
 
 


さらに、神経突起の半径をa、神経突起断面における膜の単位面積あたりの膜抵抗をRm、突起の断面積あたりの内部抵抗を Ri  とすると、
さらに、神経突起の半径をa、神経突起断面における膜の単位面積あたりの膜抵抗をRm、突起の断面積あたりの内部抵抗を Ri  とすると、


 
: <math> r_i=\sqrt{\frac{R_i}{{\pi}a^2}}</math>    <math> r_m=\sqrt{\frac{R_m}{2{\pi}}}</math>
 
 


なので、長さ定数λ は以下のように表すことができる。
なので、長さ定数λ は以下のように表すことができる。


 
: <math> \lambda=\sqrt{\frac{R_ma}{R_i2}}</math>
 
 


長さ定数λ は神経突起半径の平方根、および、神経突起全周の膜抵抗値の平方根に比例し、神経突起断面の内部抵抗値に反比例する。したがって、神経突起上のある一点から波及する電気緊張性電位は、
長さ定数λ は神経突起半径の平方根、および、神経突起全周の膜抵抗値の平方根に比例し、神経突起断面の内部抵抗値に反比例する。したがって、神経突起上のある一点から波及する電気緊張性電位は、
①  軸索半径a が大きいほど、
#軸索半径a が大きいほど、
②  内部抵抗値 Ri  が低い、すなわち神経突起内の抵抗が低いほど、
#内部抵抗値 Ri  が低い、すなわち神経突起内の抵抗が低いほど、
③  軸索全周の膜抵抗値 Rm が高いほど、
#軸索全周の膜抵抗値 Rm が高いほど、
電流注入点からより遠くの計測点まで電流が減衰しない、あるいは、膜電位変化が一定以上に保たれることになる。
電流注入点からより遠くの計測点まで電流が減衰しない、あるいは、膜電位変化が一定以上に保たれることになる。
 上述のような定常状態であれば容量電流は無視できるが、注入電流が一定でない場合や矩形波の刺激電流が最初に流れるときなどは、膜容量の効果もあわせて考える必要がある。定電流I が注入された場合、膜抵抗値をR とすると、ある特定の地点での膜電位の経時的変化は、
 上述のような定常状態であれば容量電流は無視できるが、注入電流が一定でない場合や矩形波の刺激電流が最初に流れるときなどは、膜容量の効果もあわせて考える必要がある。定電流I が注入された場合、膜抵抗値をR とすると、ある特定の地点での膜電位の経時的変化は、
V = IR(1− e -t/τ)
: <math> V=IR(1-e^{t/{\tau}})</math>
である。ここで、τ は時定数であり、単位長さあたりの膜容量を cm,、単位長さあたりの膜抵抗を rm、とすると、τ  = cm  rm である。時定数τ は膜電位が最大値の約63% に達するまでの時間となり、τ が大きいと膜電位はゆっくりと上昇する。
である。ここで、τ は時定数であり、単位長さあたりの膜容量を cm,、単位長さあたりの膜抵抗を rm、とすると、τ  = cm  rm である。時定数τ は膜電位が最大値の約63% に達するまでの時間となり、τ が大きいと膜電位はゆっくりと上昇する。
定常電流の注入が終了したあとの、ある特定の地点での膜電位の経時的変化は、電流終了前の電位をV0 とすると、
定常電流の注入が終了したあとの、ある特定の地点での膜電位の経時的変化は、電流終了前の電位をV0 とすると、
V = V0 e -t/τ
: <math> V=V_0  e^{{-t}/{\tau}}</math>
 
であり、時定数τ が大きい場合、膜電位の変化が長く続くことになる。τ は膜電位が初期値の約37% に減衰するまでの時間となる。
であり、時定数τ が大きい場合、膜電位の変化が長く続くことになる。τ は膜電位が初期値の約37% に減衰するまでの時間となる。
ケーブル特性のパラメータとして定数τ を考える場合、神経突起における電位変化の時間的広がりに影響する指標といえる。また、神経突起ケーブルで矩形波電流が注入される場合、細胞内各点における電位の経時的変化には膜容量の効果が加わり、注入部位からの距離が離れるほど、電位変化が小さくなるだけでなく、立ち上がりの速度も遅くなることが示されている[1][4]。
 
 ケーブル特性のパラメータとして定数τ を考える場合、神経突起における電位変化の時間的広がりに影響する指標といえる。また、神経突起ケーブルで矩形波電流が注入される場合、細胞内各点における電位の経時的変化には膜容量の効果が加わり、注入部位からの距離が離れるほど、電位変化が小さくなるだけでなく、立ち上がりの速度も遅くなることが示されている[1][4]。


== 軸索における興奮伝導とケーブル特性 ==
== 軸索における興奮伝導とケーブル特性 ==
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== 神経細胞のもつケーブル特性の重要性 ==
== 神経細胞のもつケーブル特性の重要性 ==
神経細胞は、他の神経細胞からの[[シナプス]]を介した信号を複数の樹状突起および細胞体の膜で受容し、その結果、神経細胞はこれらの細胞膜に発生した局所電位の変化を積算して活動電位として表出する。ケーブル特性はシナプスにおけるこの統合過程の物理的基盤となっている。シナプス後細胞でおこるシナプス反応の空間的加重や時間的加重、すなわち反応の局所的統合は、膜の(閾値下の)ケーブル特性によって行われる[5]。空間的加重や時間的加重の程度は、それぞれ長さ定数と時定数によって規定される(図4)。ただし、樹状突起では、時定数が大きい場合に電位変化が長く持続することになり、その結果、時間的加重がより大きくなるのに対し、軸索においては、上述の通り逆に時定数が短い方が膜の隣接部位がより早く閾値に達することになるので、伝導速度は速くなる。また、長さ定数が大きい場合は、信号が閾値以下に減衰する前に遠くへ到達することになるため、伝導速度は速くなる。ケーブル特性を決定するパラメータによって、電気緊張性電位の波及による局所電流や活動電位が、生体組織においてどのように広がるかが規定されている。このことは、小さな神経細胞より発生した膜電位の変化が、遠方の細胞まで確実に伝達されるための巧妙な細胞内機構が備わっていることを示すものである。
 神経細胞は、他の神経細胞からの[[シナプス]]を介した信号を複数の樹状突起および細胞体の膜で受容し、その結果、神経細胞はこれらの細胞膜に発生した局所電位の変化を積算して活動電位として表出する。ケーブル特性はシナプスにおけるこの統合過程の物理的基盤となっている。シナプス後細胞でおこるシナプス反応の空間的加重や時間的加重、すなわち反応の局所的統合は、膜の(閾値下の)ケーブル特性によって行われる[5]。空間的加重や時間的加重の程度は、それぞれ長さ定数と時定数によって規定される(図4)。ただし、樹状突起では、時定数が大きい場合に電位変化が長く持続することになり、その結果、時間的加重がより大きくなるのに対し、軸索においては、上述の通り逆に時定数が短い方が膜の隣接部位がより早く閾値に達することになるので、伝導速度は速くなる。また、長さ定数が大きい場合は、信号が閾値以下に減衰する前に遠くへ到達することになるため、伝導速度は速くなる。ケーブル特性を決定するパラメータによって、電気緊張性電位の波及による局所電流や活動電位が、生体組織においてどのように広がるかが規定されている。このことは、小さな神経細胞より発生した膜電位の変化が、遠方の細胞まで確実に伝達されるための巧妙な細胞内機構が備わっていることを示すものである。