「到達運動」の版間の差分

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===制御モデル===
===制御モデル===
軌道が求められたら、それを実行に移すための[[運動指令]]の生成や制御を行わなければならない。正確な運動の実行にあたっては、[[感覚フィードバック]]は実際の運動よりも遅れてしまうため、[[フィードバック制御]]は難しい。そこで、[[フィードフォワード制御]]のモデルが考えられた。運動前に運動を計画して、フィードバックを使わずに運動を行うモデルであるが、これには[[内部モデル|順モデル]]や[[内部モデル|逆モデル]]と呼ばれる[[内部モデル]]が必要となる。[[内部モデル|逆モデル]]は、計画された軌道から運動指令を生成する。また、[[内部モデル|順モデル]]は、[[遠心性コピー]](運動指令のコピー)/[[遠心性コピー|随伴発射]]によってフィードバックの予測を行う。この予測を用いて、より早い運動指令の修正が行われる。しかし、システム内部にはノイズが存在するため、運動時間を経るに従って、誤差が増大する。また、外力がかかった場合には容易に修正できない。そのため、実際の感覚フィードバックが必要である。フィードバック誤差学習モデルは、フィードバックコントローラーの信号を教師信号として、逆モデルを学習するモデルである。これは、眼球運動の生理学的実験とはうまく適合するが、しかし、このモデルも、そこで、[[カルマンフィルター]]による状態の推定(Wolpert et al., 1995)とそれをもとに運動指令を生成する[[最適フィードバック制御]](Todorov & Jordan, 2002)が考えられている。具体的には、順モデルによる予測と実際の感覚フィードバックが重み付け([[カルマンゲイン]])されて状態が推定され、更にその推定を用いて運動指令を生成する([[フィードバックゲイン]])。カルマンゲインとフィードバックゲインの2つのパラメーターを調整して運動指令を最適化する。
軌道が求められたら、それを実行に移すための[[運動指令]]の生成や制御を行わなければならない。正確な運動の実行にあたっては、[[感覚フィードバック]]は実際の運動よりも遅れてしまうため、[[フィードバック制御]]は難しい。そこで、[[フィードフォワード制御]]のモデルが考えられた。運動前に運動を計画して、フィードバックを使わずに運動を行うモデルであるが、これには[[内部モデル|順モデル]]や[[内部モデル|逆モデル]]と呼ばれる[[内部モデル]]が必要となる。[[内部モデル|逆モデル]]は、計画された軌道から運動指令を生成する。また、[[内部モデル|順モデル]]は、[[遠心性コピー]](運動指令のコピー)/[[遠心性コピー|随伴発射]]によってフィードバックの予測を行う。この予測を用いて、より早い運動指令の修正が行われる。しかし、システム内部にはノイズが存在するため、運動時間を経るに従って、誤差が増大する。また、外力がかかった場合には容易に修正できない。そのため、実際の感覚フィードバックが必要である。
 
====[[フィードバック誤差学習モデル]]====
随意運動制御の学習モデルとして提案されたこのモデルは、計画された軌道と感覚フィードバックを入力としたフィードバックコントローラーの出力信号を教師信号として、逆モデルを学習するモデルである。これは、眼球運動の生理学的実験の結果とうまく適合するが、軌道を予め決定しておく必要がある。軌道計画を行う脳領域がどこにあるかは、未だ明らかではない。
 
====[[最適フィードバック制御モデル]]====
あらかじめ軌道の生成を必要としないモデルとして、[[カルマンフィルター]]による状態の推定(Wolpert et al., 1995)と推定された状態をもとに運動指令を生成すること(Todorov & Jordan, 2002)が考えられている。具体的には、順モデルによる予測と実際の感覚フィードバックが重み付け([[カルマンゲイン]])されて状態が推定され、更にその推定を用いて運動指令を生成する([[フィードバックゲイン]])。カルマンゲインとフィードバックゲインの2つのパラメーターを調整して運動指令を最適化する。


==脳内の到達運動制御==
==脳内の到達運動制御==
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=====''[[頭頂連合野|5野]](PE)''=====
=====''[[頭頂連合野|5野]](PE)''=====
この領域は頭頂間溝の背側の表面に出ている領域で、中心後回の最も後ろの5野の一部分に相当する。腕の初期位置からのベクトルで運動の方向を表現することから、手先中心座標の表現がある(Bremner & Andersen, 2012)。ニューロン活動に関して、時系列で情報量解析すると、感覚フィードバックを表現するものと[[遠心性コピー]](運動指令のコピー)/[[遠心性コピー|随伴発射]](予測された感覚フィードバック)を表現しているものに分類されるという研究もある(Mulliken et al., 2008)。解剖学的な結合を考えると、一次運動野や運動前野からの遠心性コピーによって、順モデルによって感覚フィードバックが予測されるというメカニズムが大脳皮質にもあることを示している。また、ターゲットの突然の変更による到達運動の軌道修正の際に、その軌道のモニターに関わっている活動も認められる(Archambault et al., 2015)。PEは、[[一次運動野]]との直接の結合も見られることから、運動をモニターしながら運動指令の修正に関わると考えられる。また、5野のニューロンは、計画された運動と行われた運動の間の内在的なエラーとターゲットと指先の間のエラーの両方が表現することが明らかになっている(Inoue & Kitazawa, 2018)。
この領域は頭頂間溝の背側の表面に出ている領域で、中心後回の最も後ろの5野の一部分に相当する。腕の初期位置からのベクトルで運動の方向を表現することから、手先中心座標の表現がある(Bremner & Andersen, 2012)。ニューロン活動に関して、時系列で情報量解析すると、感覚フィードバックを表現するものと[[遠心性コピー]](運動指令のコピー)/[[遠心性コピー|随伴発射]](予測された感覚フィードバック)を表現しているものに分類されるという研究もある(Mulliken et al., 2008)。解剖学的な結合を考えると、一次運動野や運動前野からの遠心性コピーによって、順モデルによって感覚フィードバックが予測されるというメカニズムが大脳皮質にもあることを示している。また、ターゲットの突然の変更による到達運動の軌道修正の際に、その軌道のオンラインの修正に関わっている活動も認められる(Archambault et al., 2015)。PEは、[[一次運動野]]との直接の結合も見られることから、運動をモニターしながら運動指令の修正に関わると考えられる。実際、視覚性運動失調では運動の修正ができない。また、5野のニューロンは、計画された運動と行われた運動の間の内在的なエラーとターゲットと指先の間のエラーの両方が表現することが明らかになっている(Inoue & Kitazawa, 2018)。


=====''[[空間知覚|V6A]]''=====
=====''[[空間知覚|V6A]]''=====
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=====''[[背側運動前野]](PMd)''=====
=====''[[背側運動前野]](PMd)''=====
PMdでは、到達運動や手首傾きに関わるニューロン活動が記録される(Rizzolatti et al., 2014)。視覚刺激を出してから遅延を与えて到達運動をする課題では、運動に先行した活動([[運動前野|set-related activity]])が見られ、運動の準備に関わると考えられる(Wise et al., 1997)。また、視覚刺激に関わる活動や運動そのものに関わる活動も見られる。運動のためのターゲットの位置が空間的に表現されるのではなく、色や形などで抽象的に表現される場合でも、同様の反応が認められる。空間情報から運動への変換過程に関わると考えられる。運動効果器(右腕 左腕)の選択にも関わることが明らかになっている(Hoshi & Tanji, 2000)。
PMdでは、到達運動や手首傾きに関わるニューロン活動が記録される(Rizzolatti et al., 2014)。視覚刺激を出してから遅延を与えて到達運動をする課題では、運動に先行した活動([[運動前野|set-related activity]])が見られ、運動の準備に関わると考えられる(Wise et al., 1997)。また、視覚刺激に関わる活動や運動そのものに関わる活動も見られる。運動のためのターゲットの位置が空間的に表現されるのではなく、色や形などで抽象的に表現される場合でも、同様の反応が認められる。空間情報から運動への変換過程に関わると考えられる。到達運動のターゲットを運動の途中で、運動効果器(右腕 左腕)の選択にも関わることが明らかになっている(Hoshi & Tanji, 2000)。


====SLF-IIIによって結ばれる領域====
====SLF-IIIによって結ばれる領域====
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