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== 開発と発展 == | == 開発と発展 == | ||
1990年代、高感度の[[冷却CCDカメラ]]と蛍光[[ライブイメージング]]の飛躍的な進歩を依拠として、[[w:Clare Waterman|Waterman-Storer]]とSalmonにより蛍光スペックル顕微鏡 (fluorescent speckle microscopy: FSM) は開発された<ref name=ref1><pubmed>9811609</pubmed></ref>。 | |||
Waterman- | Waterman-Storerは当時、[[w:細胞質|細胞質]][[チュブリン]]の約10% 濃度の蛍光チュブリンを[[培養細胞]]に顕微注入し、[[微小管]]ダイナミクスをタイムラプス観察していたが、たまたま非常に低濃度の蛍光チュブリンを導入した細胞について観察すると、蛍光チュブリンが不均一な密度で微小管に取り込まれ、まだらの線維として可視化されることを見出した。このまだらのシグナル(スペックル)は、1つ1つが2〜10個の蛍光分子を含んでおり、このスペックルを目印として、微小管ダイナミクス(例えば、高次構造内部での微小管の移動)を可視化することができた<ref name=ref1><pubmed>9811609</pubmed></ref>。 | ||
蛍光スペックル顕微鏡は[[アクチン]][[細胞骨格]]にも応用され、Waterman-Storerらの最初の論文では、[[紡錘体]]微小管と細胞辺縁部のアクチン構造の移動、特に微小管では紡錘体極への移動を可視化する方法として紹介された<ref name=ref1><pubmed>9811609</pubmed></ref>。2000年代には、この観察法に基づく膨大なスペックルデータをコンピュータ解析し、細胞内アクチンの重合/脱重合の程度をヒートマップ様の分布で示す[[定量蛍光スペックル顕微鏡]]法 (quantitative fluorescent speckle microscopy: qFSM) に発展した<ref name=ref3><pubmed> 16689641 </pubmed></ref>。 | |||
一方で、蛍光スペックル顕微鏡をヒントとして、蛍光標識体の密度をさらに下げ、撮影条件を工夫する([[wj:開口数|開口数]]の大きな[[wj:対物レンズ|対物レンズ]]の使用、照明領域の制限、[[wj:自家蛍光|自家蛍光]]や培地の蛍光の軽減など)ことで、[[緑色蛍光タンパク質]]([[GFP]])標識タンパク質を1分子ごとに可視化する[[単分子スペックル顕微鏡]]法 (single-molecule fluorescent speckle microscopy: SiMS) が開発された <ref name=ref2><pubmed> 11834838 </pubmed></ref>。さらに2014年には、新しい[[蛍光プローブ]]と[[電気穿孔法]]([[エレクトロポレーション]])を用いた蛍光標識体の導入法を用いることで、簡便で大幅に時空間分解能が向上したelectroporation-based single-molecule speckle microscopy (eSiMS) が開発された<ref name=ref4><pubmed> 24501425 </pubmed></ref>。 | |||
== 種類 == | == 種類 == | ||
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fluorescent speckle microscopy (FSM) | fluorescent speckle microscopy (FSM) | ||
蛍光スペックル顕微鏡法では、蛍光標識した高次構造のサブユニットを低濃度で細胞内に導入し、タイムラプス観察を行う。蛍光標識体は、高次構造に不均一に取り込まれ、斑点状のシグナル(スペックル)として画像化される。試験管内で蛍光チュブリンを共重合した微小管の観察とシミュレーションから、蛍光標識体の割合は0.5–2% がFSMに適しており、1つ1つのスペックルは2–10個の蛍光分子を含む multi-fluorophore | 蛍光スペックル顕微鏡法では、蛍光標識した高次構造のサブユニットを低濃度で細胞内に導入し、タイムラプス観察を行う。蛍光標識体は、高次構造に不均一に取り込まれ、斑点状のシグナル(スペックル)として画像化される。試験管内で蛍光チュブリンを共重合した微小管の観察とシミュレーションから、蛍光標識体の割合は0.5–2% がFSMに適しており、1つ1つのスペックルは2–10個の蛍光分子を含む multi-fluorophore speckleであることが示されている。FSMを活用した重要な応用例としては、紡錘体を構成する[[wj:極微小管|極微小管]] (polar microtubule) と[[w:動原体|動原体]]微小管 (kinetochore microtubule)の紡錘体極方向への移動 (microtubule flux) と制御様式を定量的に明らかにしたことが挙げられる<ref name=ref1><pubmed>9811609</pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed> 19494123 </pubmed></ref>。 | ||
=== 定量蛍光スペックル顕微鏡法 === | === 定量蛍光スペックル顕微鏡法 === | ||
quantitative fluorescent speckle microscopy (qFSM) | quantitative fluorescent speckle microscopy (qFSM) | ||
定量蛍光スペックル顕微鏡法は、主に蛍光スペックル顕微鏡法で観察されるアクチン動態解析に用いられる。膨大なアクチンスペックルデータをコンピュータ解析し、例えば、スペックルの出現/消失によりアクチン重合/脱重合の顕著な場所がヒートマップ様の分布で示される<ref name=ref3 /> | 定量蛍光スペックル顕微鏡法は、主に蛍光スペックル顕微鏡法で観察されるアクチン動態解析に用いられる。膨大なアクチンスペックルデータをコンピュータ解析し、例えば、スペックルの出現/消失によりアクチン重合/脱重合の顕著な場所がヒートマップ様の分布で示される<ref name=ref3 />。しかし、スペックル密度が高い場合、スペックルの融合や分離、近い場所での消失/出現を自動解析で正確に捉えることは困難であることが予想され、解析データにはエラーが含まれる可能性が指摘されている<ref><pubmed>9811609</pubmed></ref>。 | ||
=== 単分子蛍光スペックル顕微鏡法 === | === 単分子蛍光スペックル顕微鏡法 === | ||
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single-molecule fluorescent speckle microscopy (SiMS) | single-molecule fluorescent speckle microscopy (SiMS) | ||
単分子蛍光スペックル顕微鏡法は、蛍光スペックル顕微鏡法よりもさらに低密度の蛍光標識アクチンを発現する細胞について蛍光1分子ごとに可視化する顕微鏡法として紹介された。この手法では、2秒程度までのゆっくりとした露光時間を用いることで、蛍光標識アクチンが細胞内のアクチン線維と共重合した時のみ、自由拡散を止めて安定したシグナル(蛍光)を放出するため、斑点状のスペックルとして画像化される('''図''')<ref name=ref2><pubmed> 11834838 </pubmed></ref> | 単分子蛍光スペックル顕微鏡法は、蛍光スペックル顕微鏡法よりもさらに低密度の蛍光標識アクチンを発現する細胞について蛍光1分子ごとに可視化する顕微鏡法として紹介された。この手法では、2秒程度までのゆっくりとした露光時間を用いることで、蛍光標識アクチンが細胞内のアクチン線維と共重合した時のみ、自由拡散を止めて安定したシグナル(蛍光)を放出するため、斑点状のスペックルとして画像化される('''図''')<ref name=ref2><pubmed> 11834838 </pubmed></ref>。 | ||
この原理に基づいて、アクチン細胞骨格関連分子を中心とした他のタンパク質にも応用されており、分子の移動速度や、細胞構造への分子の結合・解離時間が精密に定量できる。SiMS顕微鏡では1個の蛍光分子に由来するスペックルを画像化しており、蛍光スペックル顕微鏡で観察されるmulti-fluorophore speckleとは区別されるべきである。また、1分子レベルで直接現象を捉えるので、定量蛍光スペックル顕微鏡の解説で述べたようなエラーは回避できる。ただし、統計的に信頼できる情報を得るためには、十分な時間・空間に渡る解析を必要とする。 | |||
単分子蛍光スペックル顕微鏡原法では、GFP融合タンパク質が蛍光標識体として用いられるが、低密度にGFPを発現する細胞を選別する作業は難しく、経験が必要であった。2014年には高効率・簡便な改良型SiMS顕微鏡法 (electroporation-based single-molecule speckle microscopy: eSiMS<u>編集部コメント:日本語訳は何でしょうか?電気穿孔法単分子蛍光スペックル顕微鏡?</u>) が開発された。新法では、蛍光標識したアクチンタンパク質を電気穿孔法(エレクトロポレーション)で直接細胞に導入することで、ほぼ100%の細胞で蛍光アクチンの単分子観察が可能となった<ref name=ref4><pubmed> 24501425 </pubmed></ref>。さらに、明るく、高い退色耐性をもつ赤色蛍光色素[[DyLight550]]や近赤外色素[[CF680R]]で目的タンパク質を標識することで、分子トラッキングの時空間分解能が大幅に向上すると共に、細胞深部でのSiMS解析や、多色同時SiMSイメージングが可能になるなど、応用が広がっている。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |