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== '''ステロイドの構造 ''' == | == '''ステロイドの構造 ''' == | ||
[[Image:Steroid structure.png|thumb|right|200px|ステロイド核の構造]]ステロイド核とは、シクロペンタノペルヒドロフェナントレン核のことを指し、3つのイス型六員環と1つの五員環がつながった構造を持つ<ref>{{cite journal | journal = [[Pure & Appl. Chem.]] | volume = 61 | issue = 10 | pages = 1783–1822 | year = 1989 | title = Nomenclature of Steroids (Recommendations 1989) | author = G. P. Moss }}</ref>。右図のように構造式を書いた場合、それぞれの環を左下から順にA環、B環、C環、D環と呼ぶ。一部あるいはすべての炭素が水素化され、通常はC-10とC-13にメチル基を、また多くの場合C-17にアルキル基を有する。生体物質としてのステロイドはC-3位がヒドロキシル化もしくはカルボニル化されたステロール類である。 | |||
[[Image:Steroid structure.png|thumb|right|200px|ステロイド核の構造]]ステロイド核とは、シクロペンタノペルヒドロフェナントレン核のことを指し、3つのイス型六員環と1つの五員環がつながった構造を持つ<ref>{{cite journal | journal = [[Pure & Appl. Chem.]] | volume = 61 | issue = 10 | pages = 1783–1822 | year = 1989 | title = Nomenclature of Steroids (Recommendations 1989) | author = "G. P. Moss" }}</ref>。右図のように構造式を書いた場合、それぞれの環を左下から順にA環、B環、C環、D環と呼ぶ。一部あるいはすべての炭素が水素化され、通常はC-10とC-13にメチル基を、また多くの場合C-17にアルキル基を有する。生体物質としてのステロイドはC-3位がヒドロキシル化もしくはカルボニル化されたステロール類である。 | |||
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=== ビタミンD === | === ビタミンD === | ||
[[Image:Provitamin to vitamin.png|thumb|right|200px|プロビタミンからビタミンDへの変換]] ビタミンDは、ステロイド核のB環が9-10位の間で開環した構造を持つ。ビタミンDは側鎖構造の違いから、D2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)に分けられ、D2は植物に、D3は動物に多く含まれる。ビタミンDは、コレステロールが代謝を受けてプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)となった後、皮膚上で紫外線によりステロイド核のB環が開きプレビタミンD3((6Z)-タカルシオール)となる(右図)。プレビタミンD3は更に、ビタミンD3(コレカルシフェロール)へと異性化する。ビタミンD自体は生理活性を持たないが、肝臓と腎臓にて3つのP450(ビタミンD25-水酸化酵素、ビタミンD1α-水酸化酵素、ビタミンD24-水酸化酵素)の働きにより活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)へと変換され、ビタミンD受容体を介して核内の標的遺伝子の転写活性を制御することによって作用を発揮する<ref name=takemori>武森重樹<br>ステロイドホルモン<br>共立出版1998 </ref>。標的遺伝子の1つとしてカルシウム結合タンパク質であるカルビンディンが挙げられる。ビタミンD受容体は小腸、腎臓、骨組織に存在しておりカルシウム代謝と密接な関わりを持ち、腸管におけるカルシウムの吸収や腎尿細管におけるカルシウムの再吸収を促進する。活性型ビタミンDの不足は小児ではくる病、成人では骨軟化症となる。 <br> | [[Image:Provitamin to vitamin.png|thumb|right|200px|プロビタミンからビタミンDへの変換]] ビタミンDは、ステロイド核のB環が9-10位の間で開環した構造を持つ。ビタミンDは側鎖構造の違いから、D2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)に分けられ、D2は植物に、D3は動物に多く含まれる。ビタミンDは、コレステロールが代謝を受けてプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)となった後、皮膚上で紫外線によりステロイド核のB環が開きプレビタミンD3((6Z)-タカルシオール)となる(右図)。プレビタミンD3は更に、ビタミンD3(コレカルシフェロール)へと異性化する。ビタミンD自体は生理活性を持たないが、肝臓と腎臓にて3つのP450(ビタミンD25-水酸化酵素、ビタミンD1α-水酸化酵素、ビタミンD24-水酸化酵素)の働きにより活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)へと変換され、ビタミンD受容体を介して核内の標的遺伝子の転写活性を制御することによって作用を発揮する<ref name="takemori">武森重樹<br>ステロイドホルモン<br>共立出版1998 </ref>。標的遺伝子の1つとしてカルシウム結合タンパク質であるカルビンディンが挙げられる。ビタミンD受容体は小腸、腎臓、骨組織に存在しておりカルシウム代謝と密接な関わりを持ち、腸管におけるカルシウムの吸収や腎尿細管におけるカルシウムの再吸収を促進する。活性型ビタミンDの不足は小児ではくる病、成人では骨軟化症となる。 <br> | ||
=== ステロイドホルモン === | === ステロイドホルモン === | ||
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==== ステロイドホルモンの生合成 ==== | ==== ステロイドホルモンの生合成 ==== | ||
[[Image:Steroid synthesis.png|thumb|right|200px|ステロイドホルモンの生合成]]全てのステロイドホルモンはコレステロールより合成される(右図)<ref name=takemori />。炭素数27のコレステロールは、コレステロール側鎖切断酵素(P450 scc)の作用により、側鎖(炭素数6)が切断されてプレグネノロン(炭素数21)となる。この過程はすべてのステロイドホルモン分泌器官で共通したプロセスである。最終的に、副腎では炭素数は21の[[糖質コルチコイド]]と[[鉱質コルチコイド]]が、また精巣では炭素数がさらに2個減少した[[アンドロゲン]](炭素数19)が、卵巣では炭素数が1個減少した[[エストロゲン]](炭素数18)が生成される。 以下に挙げるものがステロイドホルモン合成酵素であり、これらのうち、3β-HSDと17β-HSD以外はシトクロムP450である。どの酵素も小胞体膜かミトコンドリア内膜のどちらかに局在する。 | [[Image:Steroid synthesis.png|thumb|right|200px|ステロイドホルモンの生合成]]全てのステロイドホルモンはコレステロールより合成される(右図)<ref name="takemori" />。炭素数27のコレステロールは、コレステロール側鎖切断酵素(P450 scc)の作用により、側鎖(炭素数6)が切断されてプレグネノロン(炭素数21)となる。この過程はすべてのステロイドホルモン分泌器官で共通したプロセスである。最終的に、副腎では炭素数は21の[[糖質コルチコイド]]と[[鉱質コルチコイド]]が、また精巣では炭素数がさらに2個減少した[[アンドロゲン]](炭素数19)が、卵巣では炭素数が1個減少した[[エストロゲン]](炭素数18)が生成される。 以下に挙げるものがステロイドホルモン合成酵素であり、これらのうち、3β-HSDと17β-HSD以外はシトクロムP450である。どの酵素も小胞体膜かミトコンドリア内膜のどちらかに局在する。 | ||
<br> ・コレステロール側鎖切断酵素(cholesterole side chain cleavage, P450 scc) | <br> ・コレステロール側鎖切断酵素(cholesterole side chain cleavage, P450 scc) | ||
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副腎皮質ホルモンは、[[鉱質コルチコイド]]と[[糖質コルチコイド]]の2種に大別される。鉱質コルチコイドにはアルドステロンが含まれ、糖質コルチコイドにはコルチゾールやコルチコステロンが含まれる。 | 副腎皮質ホルモンは、[[鉱質コルチコイド]]と[[糖質コルチコイド]]の2種に大別される。鉱質コルチコイドにはアルドステロンが含まれ、糖質コルチコイドにはコルチゾールやコルチコステロンが含まれる。 | ||
'''鉱質コルチコイド''':アルドステロンは副腎皮質球状帯で合成され、腎臓の集合管に作用してナトリウムイオンの再吸収とカリウムイオンの排泄を促進する。ナトリウムイオンの再吸収によって間質液の浸透圧が上昇し水の再吸収も増加するため、体液量の調節にも重要な役割を果たす<ref name=ref1>坂井建雄、岡田隆夫<br>解剖生理学-人体の構造と機能-第7版3刷<br>医学書院:2007 </ref>。<br> | '''鉱質コルチコイド''':アルドステロンは副腎皮質球状帯で合成され、腎臓の集合管に作用してナトリウムイオンの再吸収とカリウムイオンの排泄を促進する。ナトリウムイオンの再吸収によって間質液の浸透圧が上昇し水の再吸収も増加するため、体液量の調節にも重要な役割を果たす<ref name="ref1">坂井建雄、岡田隆夫<br>解剖生理学-人体の構造と機能-第7版3刷<br>医学書院:2007 </ref>。<br> | ||
'''糖質コルチコイド''':コルチゾール(コルチコステロン)は副腎皮質束状帯と網状帯にて合成され、その作用は糖代謝の調節、抗炎症作用、中枢神経系を介した情動や認知機能に対する作用、抗ストレス作用など多岐にわたる。糖代謝に関しては、糖新生を促進して血糖値を上昇させる。抗炎症作用においては3つの作用機序が考えられている。まずは、リソソーム膜の安定化によりタンパク質分解酵素の遊出を防ぐことによる炎症部位拡大の防御、次に肥満細胞によるヒスタミンの放出を防ぎ、毛細血管の透過性上昇を抑えることによる浮腫の軽減、最後にプロスタグランジンの合成を抑制することによる抗発熱・鎮痛作用である<ref name=ref1 />。<br> | '''糖質コルチコイド''':コルチゾール(コルチコステロン)は副腎皮質束状帯と網状帯にて合成され、その作用は糖代謝の調節、抗炎症作用、中枢神経系を介した情動や認知機能に対する作用、抗ストレス作用など多岐にわたる。糖代謝に関しては、糖新生を促進して血糖値を上昇させる。抗炎症作用においては3つの作用機序が考えられている。まずは、リソソーム膜の安定化によりタンパク質分解酵素の遊出を防ぐことによる炎症部位拡大の防御、次に肥満細胞によるヒスタミンの放出を防ぎ、毛細血管の透過性上昇を抑えることによる浮腫の軽減、最後にプロスタグランジンの合成を抑制することによる抗発熱・鎮痛作用である<ref name="ref1" />。<br> | ||
=== 精巣ホルモン === | === 精巣ホルモン === | ||
精巣のライディッヒ細胞から分泌されるアンドロゲンは男性ホルモンとも呼ばれ、雄性化作用を持つホルモンの総称であり、また女性ホルモンのひとつ、エストロゲンの前駆体でもある。生体内の主たるアンドロゲンはテストステロンである。テストステロン以外にもアンドロステンジオンやジヒドロテストステロンもアンドロゲン作用を持つ。 | 精巣のライディッヒ細胞から分泌されるアンドロゲンは男性ホルモンとも呼ばれ、雄性化作用を持つホルモンの総称であり、また女性ホルモンのひとつ、エストロゲンの前駆体でもある。生体内の主たるアンドロゲンはテストステロンである。テストステロン以外にもアンドロステンジオンやジヒドロテストステロンもアンドロゲン作用を持つ。 | ||
<br> アンドロゲンはタンパク質同化作用を持ち、男性の二次性徴を促進するホルモンである。骨格筋の発達促進に加え、体毛の発育促進、頭髪の減少、皮脂腺の発達、精子形成促進、輸精管・前立腺・精嚢・カウパー腺の維持等を担い、また、交尾等の性行動もアンドロゲンによって促進される<ref name="ref1" />。 | |||
<br>アンドロゲンは脳の性分化にも重要なホルモンである。「アンドロゲンシャワー」と呼ばれる、周生期動物の精巣から分泌される高濃度のアンドロゲン作用によって脳の雄性化と脱雌性化が起こり、脳の性分化の方向が決められる<ref name="kondo">近藤保彦、小川園子、菊水健史、山田一夫、富原一哉<br>脳とホルモンの行動学<br>西村書店:2010 </ref>。例えば、雄ラットの精巣を生後直後に摘出すると成熟後に雌特有の性行動を引き起こし、また出生一週間頃までの雌ラットにアンドロゲンを投与すると性成熟後も性周期は回帰せず無排卵となる。脳がアンドロゲンに対して高い感受性を示す時期は「脳の性分化の臨界期」と呼ばれる<ref name="kondo" />。 | |||
<br>アンドロゲンは脳の性分化にも重要なホルモンである。「アンドロゲンシャワー」と呼ばれる、周生期動物の精巣から分泌される高濃度のアンドロゲン作用によって脳の雄性化と脱雌性化が起こり、脳の性分化の方向が決められる<ref name=kondo>近藤保彦、小川園子、菊水健史、山田一夫、富原一哉<br>脳とホルモンの行動学<br>西村書店:2010 </ref>。例えば、雄ラットの精巣を生後直後に摘出すると成熟後に雌特有の性行動を引き起こし、また出生一週間頃までの雌ラットにアンドロゲンを投与すると性成熟後も性周期は回帰せず無排卵となる。脳がアンドロゲンに対して高い感受性を示す時期は「脳の性分化の臨界期」と呼ばれる<ref name=kondo />。 | |||
<br>テストステロンは、攻撃行動に深く関わるホルモンである。多くの動物種では、雌に比べて雄の攻撃性が高いことが知られ、また、精巣を除去するとテストステロンの減少と共に攻撃行動は低下するが、テストステロンの投与により攻撃行動の回復が見られる。テストステロンの作用経路は3種類存在し、テストステロンのままアンドロゲン受容体に結合して作用する経路に加え、5α-リダクターゼによりジヒドロテストステロンに代謝されアンドロゲン受容体に結合する経路、さらにアロマターゼによりエストラジオールに転換されてからエストロゲン受容体に結合して作用する経路が挙げられる。程度の差はあるが、これら3種類の作用経路はどれも攻撃行動に関与する。近年、ノックアウトマウスを用いた攻撃行動解析が行われ、アロマターゼのノックアウトマウスでは、エストラジオールへの転換が起こらず血中テストステロン量が増大しているが、攻撃行動は出現しないこと<ref><pubmed>11182758</pubmed></ref>、アンドロゲン受容体やエストロゲンα受容体のノックアウトマウスでは、精巣除去前もしくは精巣除去後にテストステロンを投与してもほとんど攻撃行動を示さないことが報告されている<ref><pubmed>14747651</pubmed></ref><ref><pubmed>9037078</pubmed></ref><ref><pubmed> 9832445</pubmed></ref>。<br> | <br>テストステロンは、攻撃行動に深く関わるホルモンである。多くの動物種では、雌に比べて雄の攻撃性が高いことが知られ、また、精巣を除去するとテストステロンの減少と共に攻撃行動は低下するが、テストステロンの投与により攻撃行動の回復が見られる。テストステロンの作用経路は3種類存在し、テストステロンのままアンドロゲン受容体に結合して作用する経路に加え、5α-リダクターゼによりジヒドロテストステロンに代謝されアンドロゲン受容体に結合する経路、さらにアロマターゼによりエストラジオールに転換されてからエストロゲン受容体に結合して作用する経路が挙げられる。程度の差はあるが、これら3種類の作用経路はどれも攻撃行動に関与する。近年、ノックアウトマウスを用いた攻撃行動解析が行われ、アロマターゼのノックアウトマウスでは、エストラジオールへの転換が起こらず血中テストステロン量が増大しているが、攻撃行動は出現しないこと<ref><pubmed>11182758</pubmed></ref>、アンドロゲン受容体やエストロゲンα受容体のノックアウトマウスでは、精巣除去前もしくは精巣除去後にテストステロンを投与してもほとんど攻撃行動を示さないことが報告されている<ref><pubmed>14747651</pubmed></ref><ref><pubmed>9037078</pubmed></ref><ref><pubmed> 9832445</pubmed></ref>。<br> | ||
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卵巣から分泌される女性ホルモンは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)である。エストロゲンには、エストラジオール、エストロン、エストリオールの3種類が存在し、最も活性が高いのはエストラジオールである。<br> | 卵巣から分泌される女性ホルモンは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)である。エストロゲンには、エストラジオール、エストロン、エストリオールの3種類が存在し、最も活性が高いのはエストラジオールである。<br> | ||
エストロゲンとプロゲステロンは、共同して子宮に月経周期をもたらすと共に、思春期における二次性徴の発現に関与する。エストロゲンは、卵胞期の子宮内膜を増殖や卵胞の成長を促進する。妊娠中は子宮筋を肥大させ、子宮筋の興奮性を高める。思春期には乳腺の乳管の成長を促進して乳房を大きくするとともに、皮下脂肪の蓄積・生殖器の発育など、一次性徴と二次性徴を発現させて女性らしい体型にする。さらに骨端の閉鎖をおこさせ、思春期以後の身長の伸びを抑制する。また、女性の性欲を亢進させ、発情行動を引き起こす。プロゲステロンは、排卵後に形成される黄体から分泌される。妊娠中は胎盤からも分泌される。プロゲステロンの効果はエストロゲンがあらかいじめ作用している状態で発揮されることが多く、子宮では、子宮内膜を分泌期にして受精卵が着床しやすい状態にする。妊娠中は子宮筋の興奮性を抑え、妊娠を継続させるように作用する。乳房に対しては、乳腺の腺房の発達を刺激する。体温上昇作用があり、排卵後の基礎体温を上昇させる<ref name=ref1 />。 | エストロゲンとプロゲステロンは、共同して子宮に月経周期をもたらすと共に、思春期における二次性徴の発現に関与する。エストロゲンは、卵胞期の子宮内膜を増殖や卵胞の成長を促進する。妊娠中は子宮筋を肥大させ、子宮筋の興奮性を高める。思春期には乳腺の乳管の成長を促進して乳房を大きくするとともに、皮下脂肪の蓄積・生殖器の発育など、一次性徴と二次性徴を発現させて女性らしい体型にする。さらに骨端の閉鎖をおこさせ、思春期以後の身長の伸びを抑制する。また、女性の性欲を亢進させ、発情行動を引き起こす。プロゲステロンは、排卵後に形成される黄体から分泌される。妊娠中は胎盤からも分泌される。プロゲステロンの効果はエストロゲンがあらかいじめ作用している状態で発揮されることが多く、子宮では、子宮内膜を分泌期にして受精卵が着床しやすい状態にする。妊娠中は子宮筋の興奮性を抑え、妊娠を継続させるように作用する。乳房に対しては、乳腺の腺房の発達を刺激する。体温上昇作用があり、排卵後の基礎体温を上昇させる<ref name="ref1" />。 | ||
<br> エストロゲンは雌の性行動にも深く関与する。多くのげっ歯類では、ロードーシスの発現は卵巣から分泌されるエストロゲンにより制御され、通常の性周期では、ロードーシス反射はエストロゲン分泌の高まる排卵前後でのみ起こる。また卵巣を摘出しても、通常のホルモン分泌パターンと類似させ、エストロゲンとプロゲステロンを連続的に投与すると雌はロードーシスを示す。エストロゲン受容体にはERαとERβの2種類が存在するが、ロードーシス反射に関与しているのは主にERαだと考えられている。ERα遺伝子を損傷したαERKOマウスの雌は、エストロゲンとプロゲステロンを投与しても全くロードーシスを示さない。一方ERβ遺伝子を欠損したERβKOマウスの雌は通常の性周期を示し、発情期には野生型の雌とほぼ同等のロードーシス反応を示す<ref><pubmed>10536018</pubmed></ref><ref><pubmed>9832446</pubmed></ref> 。<br> | <br> エストロゲンは雌の性行動にも深く関与する。多くのげっ歯類では、ロードーシスの発現は卵巣から分泌されるエストロゲンにより制御され、通常の性周期では、ロードーシス反射はエストロゲン分泌の高まる排卵前後でのみ起こる。また卵巣を摘出しても、通常のホルモン分泌パターンと類似させ、エストロゲンとプロゲステロンを連続的に投与すると雌はロードーシスを示す。エストロゲン受容体にはERαとERβの2種類が存在するが、ロードーシス反射に関与しているのは主にERαだと考えられている。ERα遺伝子を損傷したαERKOマウスの雌は、エストロゲンとプロゲステロンを投与しても全くロードーシスを示さない。一方ERβ遺伝子を欠損したERβKOマウスの雌は通常の性周期を示し、発情期には野生型の雌とほぼ同等のロードーシス反応を示す<ref><pubmed>10536018</pubmed></ref><ref><pubmed>9832446</pubmed></ref> 。<br> | ||
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=== ニューロステロイド === | === ニューロステロイド === | ||
脳で合成されるステロイドをニューロステロイドと呼ぶ。ニューロステロイドの研究は、フランスの内分泌学者Baulieuが1981年にラットの脳にプレグネノロンとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)を見出したことより始まり、現在では、脊椎動物のほとんどがニューロステロイドを合成していることが知られる<ref><pubmed>19505496 </pubmed></ref>。ニューロステロイドは、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトのすべての細胞種で合成されるが、発現するステロイド合成酵素の種類は細胞間で違いが見られる<ref><pubmed>10433246</pubmed></ref>。アストロサイトは、P450scc, P450c17, 3βHSD, 17βHSD, P450aromを発現し、プレグネノロン、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロゲン、エスロロゲンを合成している。ニューロンもほぼアストロサイトと同様の合成酵素発現を示すが、17βHSDを持たずテストステロン合成を行わない点でアストロサイトと異なる。オリゴデンドロサイトはP450sccと3βHSDを発現し、プレグネノロンとプロゲステロンを合成する。<br> 小脳プルキンエ細胞は、P450sccや3βHSD、ステロイド硫酸基転移酵素(HST)を発現しており、プレグネノロン、プレグネノロン硫酸エステル、プロゲステロン、プロゲステロン代謝ステロイド(3α,5α-テトラハイドロプロゲステロン)を合成する<ref><pubmed> 10771104</pubmed></ref><ref><pubmed> 10373637</pubmed></ref>。 プロゲステロンは、新生児期の小脳において合成が活発となり、プルキンエ細胞の樹状突起伸長やスパイン形成を促進する<ref><pubmed>11487645</pubmed></ref> <ref><pubmed>11958856</pubmed></ref>。またプレグネノロン硫酸エステルは傍分泌により、プルキンエ細胞に投射するGABAニューロンに作用し、GABAの放出頻度を増加させることが報告されている<ref><pubmed>10373637</pubmed></ref>。 | 脳で合成されるステロイドをニューロステロイドと呼ぶ。ニューロステロイドの研究は、フランスの内分泌学者Baulieuが1981年にラットの脳にプレグネノロンとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)を見出したことより始まり、現在では、脊椎動物のほとんどがニューロステロイドを合成していることが知られる<ref><pubmed>19505496 </pubmed></ref>。ニューロステロイドは、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトのすべての細胞種で合成されるが、発現するステロイド合成酵素の種類は細胞間で違いが見られる<ref><pubmed>10433246</pubmed></ref>。アストロサイトは、P450scc, P450c17, 3βHSD, 17βHSD, P450aromを発現し、プレグネノロン、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロゲン、エスロロゲンを合成している。ニューロンもほぼアストロサイトと同様の合成酵素発現を示すが、17βHSDを持たずテストステロン合成を行わない点でアストロサイトと異なる。オリゴデンドロサイトはP450sccと3βHSDを発現し、プレグネノロンとプロゲステロンを合成する。<br> 小脳プルキンエ細胞は、P450sccや3βHSD、ステロイド硫酸基転移酵素(HST)を発現しており、プレグネノロン、プレグネノロン硫酸エステル、プロゲステロン、プロゲステロン代謝ステロイド(3α,5α-テトラハイドロプロゲステロン)を合成する<ref><pubmed> 10771104</pubmed></ref><ref><pubmed> 10373637</pubmed></ref>。 プロゲステロンは、新生児期の小脳において合成が活発となり、プルキンエ細胞の樹状突起伸長やスパイン形成を促進する<ref><pubmed>11487645</pubmed></ref> <ref><pubmed>11958856</pubmed></ref>。またプレグネノロン硫酸エステルは傍分泌により、プルキンエ細胞に投射するGABAニューロンに作用し、GABAの放出頻度を増加させることが報告されている<ref><pubmed>10373637</pubmed></ref>。 | ||
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<br> この用語にリダイレクトする関連語:ステロイドホルモン、コレステロール、副腎皮質ホルモン、性ホルモン、女性ホルモン、男性ホルモン、ニューロステロイド | |||
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<references /> | <references /> |
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