「重症筋無力症」の版間の差分

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== 病因・病態生理 ==
== 病因・病態生理 ==
 重症筋無力症で検出される自己抗体としては、抗AChR抗体、MuSK抗体、抗Lrp4抗体が知られている。重症筋無力症全体の約80-85%が抗AChR抗体陽性で,数%がMuSK抗体陽性である<ref name=日本神経学会2014 />[4]。両者とも陰性の重症筋無力症(double-seronegative MG)の約10%に抗Lrp4抗体が検出される。このうち,本邦で、重症筋無力症に特異的な病原性自己抗体して認められているのは,抗AChR抗体とMuSK抗体である(表2)。
 重症筋無力症で検出される自己抗体としては、抗AChR抗体、MuSK抗体、抗Lrp4抗体が知られている。重症筋無力症全体の約80-85%が抗AChR抗体陽性で,数%がMuSK抗体陽性である<ref name=日本神経学会2014 />[4]。両者とも陰性の重症筋無力症(double-seronegative MG)の約10%に抗Lrp4抗体が検出される。このうち,本邦で、重症筋無力症に特異的な病原性自己抗体して認められているのは,抗AChR抗体とMuSK抗体である('''表2''')。


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
|+表2 重症筋無力症診断基準案 2013
|+表2. 重症筋無力症診断基準案 2013
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| A.症状
| '''A.症状'''<br>
(1)眼瞼下垂
(1)眼瞼下垂<br>
(2)眼球運動障害
(2)眼球運動障害<br>
(3)顔面筋力低下
(3)顔面筋力低下<br>
(4)構音障害
(4)構音障害<br>
(5)嚥下障害
(5)嚥下障害<br>
(6)咀嚼障害
(6)咀嚼障害<br>
(7)頸部筋力低下
(7)頸部筋力低下<br>
(8)四肢筋力低下
(8)四肢筋力低下<br>
(9)呼吸障害
(9)呼吸障害<br>
<補足>上記症状は易疲労性や日内変動を呈する
<補足>上記症状は易疲労性や日内変動を呈する
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| B.病原性自己抗体
| '''B.病原性自己抗体'''<br>
(1)抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性
(1)抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性<br>
(2)抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性
(2)抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性<br>
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| C.神経筋接合部障害
| '''C.神経筋接合部障害'''<br>
(1)眼瞼の易疲労性試験陽性
(1)眼瞼の易疲労性試験陽性<br>
(2)アイスパック試験陽性
(2)アイスパック試験陽性<br>
(3)塩酸エドロホニウム(テンシロン)試験陽性
(3)塩酸エドロホニウム(テンシロン)試験陽性<br>
(4)反復刺激試験陽性
(4)反復刺激試験陽性<br>
(5)単線維筋電図でジッターの増大
(5)単線維筋電図でジッターの増大<br>
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| D.判定
| '''D.判定'''<br>
以下のいずれかの場合,重症筋無力症と診断する.
以下のいずれかの場合,重症筋無力症と診断する<br>
(1)Aの1つ以上があり,かつBのいずれかが認められる.
(1)Aの1つ以上があり,かつBのいずれかが認められる<br>
(2)Aの1つ以上があり,かつCのいずれかが認められ,他の疾患が鑑別できる.
(2)Aの1つ以上があり,かつCのいずれかが認められ,他の疾患が鑑別できる<br>
(注)Cの各手技については本文を参照
(注)Cの各手技については本文を参照<br>
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=== 抗AChR抗体 ===
=== 抗AChR抗体 ===
 抗AChR抗体がAChRに作用する機序としては、①アセチルコリンとAChRとの結合を阻害する抗体(ブロッキング抗体)、②抗体とAChRの結合に伴うAChRの崩壊促進による分子の寿命短縮、③補体介在性に因る運動終板破壊が推測されている。このうち、③の機序による運動終板の破壊とAChRの数が減少が最も重要な発症機序を考えられている。抗AChR抗体測定法はLindstrom et al<ref name=Lindstrom1976><pubmed>988512</pubmed></ref>[5]によって開発されたが、その後の分子レベルの研究から、AChRα1サブユニットの67〜76領域を含むN末端部が主要免疫原性領域(main immunogenic region:MIR)と推測されている。抗AChR抗体の産生には、重症筋無力症発症時の胸腺異常が強く関与していると考えられている。
 抗AChR抗体がAChRに作用する機序としては、
#アセチルコリンとAChRとの結合を阻害する抗体(ブロッキング抗体)
#抗体とAChRの結合に伴うAChRの崩壊促進による分子の寿命短縮
#補体介在性に因る運動終板破壊
 
が推測されている。このうち、3.の機序による運動終板の破壊とAChRの数が減少が最も重要な発症機序を考えられている。抗AChR抗体測定法はLindstrom et al<ref name=Lindstrom1976><pubmed>988512</pubmed></ref>[5]によって開発されたが、その後の分子レベルの研究から、AChRα1サブユニットの67〜76領域を含むN末端部が主要免疫原性領域(main immunogenic region:MIR)と推測されている。抗AChR抗体の産生には、重症筋無力症発症時の胸腺異常が強く関与していると考えられている。


 抗AChR抗体価は正常上限値を低く設定することによって偽陽性になる可能性がある。正常上限値を平均+3SDで設定すると、数%の偽陽性が生じると考えられる。後述のMuSK抗体には偽陽性がほとんどみられない。偽陰性を防ぐために、clustered 抗AChR抗体やclustered MuSK抗体を測定することがある。これまで通常のRIA法で陰性を示した患者を調査するために研究目的で使用されることが多かったが、今後double-seronegative MGの診断に活用される可能性がある。
 抗AChR抗体価は正常上限値を低く設定することによって偽陽性になる可能性がある。正常上限値を平均+3SDで設定すると、数%の偽陽性が生じると考えられる。後述のMuSK抗体には偽陽性がほとんどみられない。偽陰性を防ぐために、clustered 抗AChR抗体やclustered MuSK抗体を測定することがある。これまで通常のRIA法で陰性を示した患者を調査するために研究目的で使用されることが多かったが、今後double-seronegative MGの診断に活用される可能性がある。