「Fused in sarcoma」の版間の差分

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英略称:FUS
英略称:FUS
{{box|text= Fused in sarcoma (FUS)はTLS(translated in liposarcoma)とも称されるRNA結合タンパク質で、主として核内に局在し転写、選択的スプライシング、RNA輸送などRNA代謝全般に機能する分子である。Chopなどとの融合タンパク質が癌の原因遺伝子となることで発見され命名されたが、近年は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子および病態関連分子として注目されている。}}
{{box|text= Fused in sarcoma (FUS)はTLS(translocated in liposarcoma)とも称されるRNA結合タンパク質で、主として核内に局在し転写、選択的スプライシング、RNA輸送などRNA代謝全般に機能する分子である。Chopなどとの融合タンパク質が癌の原因遺伝子となることで発見され命名されたが、近年は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子および病態関連分子として注目されている。}}


== Fused in sarcomaとは ==
== Fused in sarcomaとは ==
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 これとは別に、FUSは[[pre-mRNA]]の成熟に関わる複合体のサブユニット[[hnRNP P2]]としても同定された<ref name=Calvio1995><pubmed>7585257</pubmed></ref>。そして2009年に2つのグループから[[家族性ALS]]の原因遺伝子であることが報告され<ref name=Kwiatkowski2009><pubmed>19251627</pubmed></ref><ref name=Vance2009><pubmed>19251628</pubmed></ref>、神経研究の分野で大きな注目を集めることになった。それ以降、[[TDP-43]]を含む多くの[[RNA結合タンパク質]]と同様にALSおよびその類縁疾患である[[前頭側頭葉変性症]] ([[FTLD]]) の病態に強く関係することが明らかにされてきた。
 これとは別に、FUSは[[pre-mRNA]]の成熟に関わる複合体のサブユニット[[hnRNP P2]]としても同定された<ref name=Calvio1995><pubmed>7585257</pubmed></ref>。そして2009年に2つのグループから[[家族性ALS]]の原因遺伝子であることが報告され<ref name=Kwiatkowski2009><pubmed>19251627</pubmed></ref><ref name=Vance2009><pubmed>19251628</pubmed></ref>、神経研究の分野で大きな注目を集めることになった。それ以降、[[TDP-43]]を含む多くの[[RNA結合タンパク質]]と同様にALSおよびその類縁疾患である[[前頭側頭葉変性症]] ([[FTLD]]) の病態に強く関係することが明らかにされてきた。


[[ファイル:2la6.pdb|300px|サムネイル|'''図1. FUSのRRMドメインの構造'''<br>2LA6による]]
[[ファイル:Ishigaki_FUS_Fig2.png|300px|サムネイル|'''図1. FUSのドメイン構造'''<br>家族性ALSで認められた変異を示す。]]
[[ファイル:2la6.pdb|300px|サムネイル|'''図2. FUSのRRMドメインの立体構造'''<br>2LA6による]]
== 構造 ==
== 構造 ==
 タンパク質立体構造については、RNA認識モチーフ(RRM)がRNAのステムループ部分に、C末端の[[zinc finger motif|zinc finger (ZnF) motif]]がRNAのGGU配列を認識して結合することが報告されている<ref name=Loughlin2019><pubmed>30581145</pubmed></ref>。
 N末端にQGSY-rich領域、高度に保存されているRNA認識モチーフ(RRM)、[[アルギニン]]残基のジメチル化が特徴であるRGGリピート、およびC末端のzinc finger motifの構造を持つ('''図1''')。タンパク質立体構造については、RNA認識モチーフ(RRM)がRNAのステムループ部分に、C末端の[[zinc finger motif|zinc finger (ZnF) motif]]がRNAのGGU配列を認識して結合することが報告されている('''図2''')<ref name=Loughlin2019><pubmed>30581145</pubmed></ref>。


== サブファミリー ==
== サブファミリー ==
 FUSは[[FET protein family]]に含まれる。FET protein family には[[EWS]]、[[TAF15]]も含まれるが、どれも家族性ALSの原因遺伝子であることがわかっている<ref name=Bertolotti1999><pubmed>10637511</pubmed></ref><ref name=Morohoshi1998><pubmed>9795213</pubmed></ref><ref name=Svetoni2016><pubmed>27415968</pubmed></ref>。これら3つのFET protein familyはN末端のQGSY-rich領域、高度に保存されているRNA認識モチーフ(RRM)、[[アルギニン]]残基のジメチル化が特徴であるRGGリピート、およびC末端のzinc finger motifの構造が共通である<ref name=Crozat1993><pubmed>8510758</pubmed></ref><ref name=Prasad1994><pubmed>7970732</pubmed></ref><ref name=Morohoshi1998><pubmed>9795213</pubmed></ref><ref name=Iko2004><pubmed>15299008</pubmed></ref>。
 FUSは[[FET protein family]]に含まれる。FET protein family には[[EWS]]、[[TAF15]]も含まれるが、どれも家族性ALSの原因遺伝子であることがわかっている<ref name=Bertolotti1999><pubmed>10637511</pubmed></ref><ref name=Morohoshi1998><pubmed>9795213</pubmed></ref><ref name=Svetoni2016><pubmed>27415968</pubmed></ref>。これら3つのFET protein familyはドメイン構造が共通である<ref name=Crozat1993><pubmed>8510758</pubmed></ref><ref name=Prasad1994><pubmed>7970732</pubmed></ref><ref name=Morohoshi1998><pubmed>9795213</pubmed></ref><ref name=Iko2004><pubmed>15299008</pubmed></ref>。
[[ファイル:PBB GE FUS 200959 at fs.png|サムネイル|'''図2. FUSの発現パタン''']]
[[ファイル:PBB GE FUS 200959 at fs.png|サムネイル|'''図3. FUSの組織発現パタン''']]
== 組織分布、細胞内分布 ==
== 組織分布、細胞内分布 ==
 FUSはユビキタスな組織分布をとり、細胞内では主に核に局在するが、一部は[[細胞質]]すなわち神経細胞の[[軸索]]や[[樹状突起]]にも局在する([https://www.proteinatlas.org/ENSG00000089280-FUS/tissue The Human Protein Atlas])。
 FUSはユビキタスな組織分布をとり、細胞内では主に核に局在するが、一部は[[細胞質]]すなわち神経細胞の[[軸索]]や[[樹状突起]]にも局在する([https://www.proteinatlas.org/ENSG00000089280-FUS/tissue The Human Protein Atlas])。
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 FUSの全身[[ノックアウトマウス]]は背景により異なったフェノタイプを示す。[[C57/B6]]の[[近交系]]では[[免疫系]]の異常により出生してすぐに死に至る一方で、非近交系では[[精子]]形成異常以外はほぼ正常に生育することが報告されている<ref name=Hicks2000><pubmed>10655065</pubmed></ref><ref name=Kuroda2000><pubmed>10654943</pubmed></ref>。
 FUSの全身[[ノックアウトマウス]]は背景により異なったフェノタイプを示す。[[C57/B6]]の[[近交系]]では[[免疫系]]の異常により出生してすぐに死に至る一方で、非近交系では[[精子]]形成異常以外はほぼ正常に生育することが報告されている<ref name=Hicks2000><pubmed>10655065</pubmed></ref><ref name=Kuroda2000><pubmed>10654943</pubmed></ref>。
 
[[ファイル:Ishigaki_FUS_Fig4.png|300px|サムネイル|'''図4. XXXX'''<br>XXXX basophilic inclusion body disease (BIBD)]]
== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==
 FUSは家族性ALS([[ALS6]])の原因遺伝子であり、家族性ALS の原因遺伝子として,わが国では[[SOD1]]に次いで頻度が高い遺伝子と考えられており、C末側に多く認められほとんどがpoint mutationである<ref>'''青木正志 (2013).'''<br>FUS変異によるALS臨床病理と病態, 臨床神経 53:1080-1083 [https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/053111080.pdf [PDF]]</ref>。病理学的にはFUSが核内から細胞質に局在が変化して[[ユビキチン]]陽性の[[細胞質封入体]]として神経細胞内に認められることが特徴である。FUSに変異が存在しない孤発性のALSにおいても、このようなFUSの病理所見が陽性の症例が存在し、塩基性封入体が特徴であることから[[basophilic inclusion body disease]] (BIBD)と呼ばれる。ALSは[[認知症]]の1つであるFTLDと臨床的、病理学的、遺伝学的に同一の疾患スペクトラムを形成すると考えられ、FTLD症例にもFUS陽性の病理像を示すグループが存在し、[[FTLD-FUS]]と称される。
 FUSは家族性ALS([[ALS6]])の原因遺伝子であり、家族性ALS の原因遺伝子として、わが国ではSOD1に次いで頻度が高い遺伝子と考えられており家族性ALSのうち4-9%を占める。ほとんどの症例は優性遺伝(顕性遺伝)形式である。変異はC末側に多く認められほとんどがpoint mutationである<ref>'''青木正志 (2013).'''<br>FUS変異によるALS臨床病理と病態, 臨床神経 53:1080-1083 [https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/053111080.pdf [PDF]]</ref>。病理学的にはFUSが核内から細胞質に局在が変化して[[ユビキチン]]陽性の[[細胞質封入体]]として神経細胞内に認められることが特徴である。FUSに変異が存在しない孤発性のALSにおいても、このようなFUSの病理所見が陽性の症例が存在し、塩基性封入体が特徴であることから[[basophilic inclusion body disease]] (BIBD)と呼ばれる。ALSは[[認知症]]の1つであるFTLDと臨床的、病理学的、遺伝学的に同一の疾患スペクトラムを形成すると考えられ、FTLD症例にもFUS陽性の病理像を示すグループが存在し、[[FTLD-FUS]]と称される。


 FUS変異による家族性ALSの中には、[[発達障害]]や[[精神疾患]]を併発するものあること、FUSの変異によって非特異的な[[タウオパチー]]を呈する症例があること、核内でのFUSの局在変化がALS, FTLDのみならず、[[4Rタウオパチー]]である[[進行性核上性麻痺]]([[PSP]])や[[大脳皮質基底核変性症]]([[CBD]])症例でも認められること、などからFUSはより広範な神経精神疾患のメカニズムに関わる可能性が示唆されている<ref name=Ishigaki2020><pubmed>32770214</pubmed></ref><ref name=Ferrer2015><pubmed>25756587</pubmed></ref><ref name=Baumer2010><pubmed>20668261</pubmed></ref><ref name=Yamashita2012><pubmed>22057404</pubmed></ref>。
 FUS変異による家族性ALSの中には、[[発達障害]]や[[精神疾患]]を併発するものあること、FUSの変異によって非特異的な[[タウオパチー]]を呈する症例があること、核内でのFUSの局在変化がALS, FTLDのみならず、[[4Rタウオパチー]]である[[進行性核上性麻痺]]([[PSP]])や[[大脳皮質基底核変性症]]([[CBD]])症例でも認められること、などからFUSはより広範な神経精神疾患のメカニズムに関わる可能性が示唆されている<ref name=Ishigaki2020><pubmed>32770214</pubmed></ref><ref name=Ferrer2015><pubmed>25756587</pubmed></ref><ref name=Baumer2010><pubmed>20668261</pubmed></ref><ref name=Yamashita2012><pubmed>22057404</pubmed></ref>。