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1968年10月に日本脳波学会に脳波と脳死に関する委員会が設置され、1974年に「脳の急性一次性粗大病変における脳死の判定基準」が公表された。判定基準として、(1)深昏睡、(2)両側瞳孔散大、対光反射および角膜反射の消失、(3)自発呼吸の停止、(4)急激な血圧降下とそれにひき続く低血圧、(5)平坦脳波、(6)以上の(1)〜(5)の条件が揃った時点より六時間後まで継続的にこれらの条件が満たされている、という6点が挙げられた。 | 1968年10月に日本脳波学会に脳波と脳死に関する委員会が設置され、1974年に「脳の急性一次性粗大病変における脳死の判定基準」が公表された。判定基準として、(1)深昏睡、(2)両側瞳孔散大、対光反射および角膜反射の消失、(3)自発呼吸の停止、(4)急激な血圧降下とそれにひき続く低血圧、(5)平坦脳波、(6)以上の(1)〜(5)の条件が揃った時点より六時間後まで継続的にこれらの条件が満たされている、という6点が挙げられた。 | ||
1985年、旧厚生省研究班は日本脳波学会基準による全国調査を行った718例中、蘇生例は無かったことを報告し<ref name=竹内一夫1985>竹内一夫. 厚生省厚生科学研究費特別研究事業「脳死に関する研究班」、昭和59年度報告書. 日本医事新報 3188: 112-4. </ref>[11]、全脳死を採用した脳死判定基準(いわゆる竹内基準)を公表した<ref name=厚生科学研究費特別研究事業1985>厚生科学研究費特別研究事業 脳死に関する研究班 昭和60年度研究報告書. 脳死の判定指針および判定基準. 日医雑誌 1985; 94: 1949-72. </ref>[12]('''表1''')。 | 1985年、旧厚生省研究班は日本脳波学会基準による全国調査を行った718例中、蘇生例は無かったことを報告し<ref name=竹内一夫1985>竹内一夫. 厚生省厚生科学研究費特別研究事業「脳死に関する研究班」、昭和59年度報告書. 日本医事新報 3188: 112-4. </ref>[11]、全脳死を採用した脳死判定基準(いわゆる竹内基準)を公表した<ref name=厚生科学研究費特別研究事業1985>厚生科学研究費特別研究事業 脳死に関する研究班 昭和60年度研究報告書. 脳死の判定指針および判定基準. 日医雑誌 1985; 94: 1949-72. </ref>[12]('''表1''')。判定の医学的詳細に関しては園生雅弘帝京大学教授および筆者による文献を参照されたい<ref name=園生雅弘2018>園生雅弘著. 永山正雄監修 (2018).<br>.脳死状態. 今日の臨床サポート</ref>[13]。 | ||
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1992年、「臨時脳死および臓器移植調査会」(通称、脳死臨調)は、脳死を人の死と認め、脳死体からの臓器移植の意義を是認し、さらに臓器の提供は本人の意思を最大限に尊重するという答申をまとめた。 | 1992年、「臨時脳死および臓器移植調査会」(通称、脳死臨調)は、脳死を人の死と認め、脳死体からの臓器移植の意義を是認し、さらに臓器の提供は本人の意思を最大限に尊重するという答申をまとめた。 | ||
1997年の「臓器の移植に関する法律」(「臓器移植法」)成立に伴い、法的脳死判定においては前記の脳死判定基準(竹内基準)に従うことと定められた。臨床現場での対応の指針として役立つような詳細が補足された「法的脳死判定マニュアル」が公表され<ref name=厚生省厚生科学研究費特別研究事業1999>厚生省厚生科学研究費特別研究事業「脳死判定手順に関する研究班」平成11年度報告書: 法的脳死判定マニュアル. </ref>[14]、ウェブ上でも公開されている(下記参照)<ref name=公益社団法人日本臓器移植ネットワーク>公益社団法人日本臓器移植ネットワーク [http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/pdf/noushi-hantei.pdf URL] </ref> [15]。この最初の臓器移植法の諸外国と比較した特徴は次の点であった。 | |||
#前提条件、除外例などが厳密に定義され、脳波も必須とされるなど諸外国と比べても最も厳しいレベルの基準である。器質的脳障害の確認のためにCTなどの画像診断が必須とされているのも諸外国にない点。 | #前提条件、除外例などが厳密に定義され、脳波も必須とされるなど諸外国と比べても最も厳しいレベルの基準である。器質的脳障害の確認のためにCTなどの画像診断が必須とされているのも諸外国にない点。 | ||
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#「脳死は人の死である」という考えは概ね社会的に受容されているということが明記された。一方、家族が脳死を人の死であると受容できない場合には、法的脳死判定を拒むことができる権利も明記され、脳死に関する考えの多様性の許容が残された。 | #「脳死は人の死である」という考えは概ね社会的に受容されているということが明記された。一方、家族が脳死を人の死であると受容できない場合には、法的脳死判定を拒むことができる権利も明記され、脳死に関する考えの多様性の許容が残された。 | ||
#臓器移植以外も含むすべての場において「脳死は人の死である」という考えが適用されるのか注目されたが、「臓器移植法は臓器移植の手続きについての法律であって、臓器移植につながらない脳死判定による死亡宣言はあり得ない」との法的解釈が示され、この点は従来と変わらない状況となっている。 | #臓器移植以外も含むすべての場において「脳死は人の死である」という考えが適用されるのか注目されたが、「臓器移植法は臓器移植の手続きについての法律であって、臓器移植につながらない脳死判定による死亡宣言はあり得ない」との法的解釈が示され、この点は従来と変わらない状況となっている。 | ||
[[ファイル:Nagayama Brain Death Fig1.png|サムネイル|'''図1. 脳死が判定されるまで''']] | [[ファイル:Nagayama Brain Death Fig1.png|サムネイル|'''図1. 脳死が判定されるまで''']] | ||
== | == 法的脳死判定 == | ||
脳死が判定されるまでの実際の流れを'''図1'''に示す<ref name=園生雅弘2018 /><ref name=脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班2011>脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班:厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「臓器提供施設における院内体制整備に関する研究」法的脳死判定マニュアル(平成22年度)</ref>[13][16]。 | 脳死が判定されるまでの実際の流れを'''図1'''に示す<ref name=園生雅弘2018 /><ref name=脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班2011>脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班:厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「臓器提供施設における院内体制整備に関する研究」法的脳死判定マニュアル(平成22年度)</ref>[13][16]。 | ||
2019年に厚生労働省研究班および関連学会が合同で作成した「臓器提供ハンドブック」は、法的脳死判定の要点として、1. 脳死判定医を選任する、2. 高感度脳波検査を施行する、3. 血液ガス検査装置を準備する、4. 「法的脳死判定マニュアル」<ref name=脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班2011 />を準備し、読み上げながら記載通りに行う、5. 脳波を最初に行うと時間を短縮できる、6. 血圧・体温を維持する、7.家族の立ち合いに配慮する、を挙げた<ref name=厚生労働科学研究費補助金研究班主任研究者2019>厚生労働科学研究費補助金研究班主任研究者 横田裕行監修. 臓器提供ハンドブック. へるす出版</ref>[17]。 | 2019年に厚生労働省研究班および関連学会が合同で作成した「臓器提供ハンドブック」は、法的脳死判定の要点として、1. 脳死判定医を選任する、2. 高感度脳波検査を施行する、3. 血液ガス検査装置を準備する、4. 「法的脳死判定マニュアル」<ref name=脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班2011 />を準備し、読み上げながら記載通りに行う、5. 脳波を最初に行うと時間を短縮できる、6. 血圧・体温を維持する、7.家族の立ち合いに配慮する、を挙げた<ref name=厚生労働科学研究費補助金研究班主任研究者2019>厚生労働科学研究費補助金研究班主任研究者 横田裕行監修. 臓器提供ハンドブック. へるす出版</ref>[17]。 | ||
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2021年、上智大学生命倫理研究所が「死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ」を出版した<ref name=教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー著. (2021)<br>上智大学生命倫理研究所監訳. 死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ. 上智大学出版</pubmed></ref>[30]。これは教皇庁科学アカデミーが主催した、死の概念・基準としての「脳死」についてのワーキング・グループの記録(翻訳、訳注、新規解説)で、教皇庁が脳死反対論者を交え、世界を代表する神学・医学・哲学等の研究者、医師による徹底した議論を行った全記録である。日本の議論に一石を投じる大変有意義な書籍と言えよう。 | 2021年、上智大学生命倫理研究所が「死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ」を出版した<ref name=教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー著. (2021)<br>上智大学生命倫理研究所監訳. 死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ. 上智大学出版</pubmed></ref>[30]。これは教皇庁科学アカデミーが主催した、死の概念・基準としての「脳死」についてのワーキング・グループの記録(翻訳、訳注、新規解説)で、教皇庁が脳死反対論者を交え、世界を代表する神学・医学・哲学等の研究者、医師による徹底した議論を行った全記録である。日本の議論に一石を投じる大変有意義な書籍と言えよう。 | ||
== 脳死とされうる状態と判断した場合 == | |||
担当医師が、患者が脳死とされうる状態にあると判断した場合は、家族などの脳死についての理解の状況などを踏まえ、臓器提供の機会があること(いわゆるオプション提示)、および承諾に係る手続に際しては担当医師以外の者(日本臓器移植ネットワークなどの臓器のあっせんに係る連絡調整を行う者;「コーディネーター」、医療ソーシャルワーカー等)による説明があることを口頭、または書面により告げる。その際、説明を聴くことを強制してはならない。併せて、臓器提供に関して意思表示カードの所持など、本人が何らかの意思表示を行っていたかについて把握するよう努める。なお、法に基づき脳死と判定される以前においては、患者の医療に最善の努力を尽くすべきことは申すべくも無い。 | |||
家族の承諾が得られた場合、ただちに日本臓器移植ネットワーク(ネットワーク)に連絡する(ドナー情報フリーダイヤル 0120(22)0149(医療機関からの問い合わせに24時間対応))。 | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |