「脳死」の版間の差分

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永山 正雄
<div align="right"> 
国際医療福祉大学大学院医学研究科 脳神経内科学
<font size="+1">[https://researchmap.jp/read0044429 永山正雄]</font><br>
上智大学生命倫理研究所 
''国際医療福祉大学大学院医学研究科 脳神経内科学<br>上智大学生命倫理研究所''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2021年2月1日 原稿完成日:2021年2月27日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br>
</div>


羅:cerebrum mortem 英:brain death, death by neurological criteria 独:Hirntod 仏:mort cérébrale
羅:cerebrum mortem 英:brain death, death by neurological criteria 独:Hirntod 仏:mort cérébrale
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 1959年、フランスから初めて脳死に相当する臨床報告が行われた。1968年、米国ハーバード大学医学部特別委員会は、死の新しい基準としての“不可逆的昏睡”を報告した(いわゆるハーバード基準)。現在の脳死の概念に相当する初の報告である。この提唱の契機は、従来であれば救命できなかったが、救命治療の進歩に伴い呼吸機能は人工呼吸器により維持され循環機能も保たれるようになったものの、脳機能は失われた患者が出現、増加してきたことである。これらの患者の治療打ち切りを正当化すること、当時始まった臓器移植のドナーとなり得る患者を的確に定義することを主な目的として設定された<ref name=JAMA1968><pubmed>5694976</pubmed></ref> [1]。この報告はその根拠を明示することなく、不可逆的昏睡(脳死)を人の死の新基準とするものであったとの指摘がある<ref name=古俣めぐみ2017>古俣めぐみ. 日本における「脳死=人の死」規定とその根拠-二つの社会的合意からの分析. 東京大学教養学部哲学・科学史部会 哲学・科学史論叢. 2017 19:73-95</ref>[2]。1971年、世界初の脳死立法がフィンランドで成立した。
 1959年、フランスから初めて脳死に相当する臨床報告が行われた。1968年、米国ハーバード大学医学部特別委員会は、死の新しい基準としての“不可逆的昏睡”を報告した(いわゆるハーバード基準)。現在の脳死の概念に相当する初の報告である。この提唱の契機は、従来であれば救命できなかったが、救命治療の進歩に伴い呼吸機能は人工呼吸器により維持され循環機能も保たれるようになったものの、脳機能は失われた患者が出現、増加してきたことである。これらの患者の治療打ち切りを正当化すること、当時始まった臓器移植のドナーとなり得る患者を的確に定義することを主な目的として設定された<ref name=JAMA1968><pubmed>5694976</pubmed></ref> [1]。この報告はその根拠を明示することなく、不可逆的昏睡(脳死)を人の死の新基準とするものであったとの指摘がある<ref name=古俣めぐみ2017>古俣めぐみ. 日本における「脳死=人の死」規定とその根拠-二つの社会的合意からの分析. 東京大学教養学部哲学・科学史部会 哲学・科学史論叢. 2017 19:73-95</ref>[2]。1971年、世界初の脳死立法がフィンランドで成立した。


 1979年には、英国で脳幹死による脳死診断基準が公表され、1981年、米国大統領委員会<ref name=President1981 />が死の判定に関する統一法「死の判定ガイドライン」を公布した。ここで、1)呼吸と循環機能が不可逆的に停止した、2)あるいは脳幹を含む脳全体のすべての機能が不可逆的に停止した人は死んでいる、という脳死(全脳死)の定義が示された<ref name=President1981>President's Commission for the Study of Ethical Problems in Medicine and Biomedical and Behavioral Research. (2018)<br>Defining death. Washington DC: Government Printing Office; </ref> [3]。ここでは、死の判定は一般に認められている医学的基準に従って行われねばならないとして、その基準は別に示されており<ref name=JAMA1981><pubmed>7289009</pubmed></ref>[4]、判定法そのものが法律で定められているわけではない。
 1979年には、英国で脳幹死による脳死診断基準が公表され、1981年、米国大統領委員会<ref name=President1981 />が死の判定に関する統一法「死の判定ガイドライン」を公布した。ここで、1)呼吸と循環機能が不可逆的に停止した、2)あるいは脳幹を含む脳全体のすべての機能が不可逆的に停止した人は死んでいる、という脳死(全脳死)の定義が示された<ref name=President1981>'''President's Commission for the Study of Ethical Problems in Medicine and Biomedical and Behavioral Research (2018).'''<br>Defining death. Washington DC: Government Printing Office; </ref> [3]。ここでは、死の判定は一般に認められている医学的基準に従って行われねばならないとして、その基準は別に示されており<ref name=JAMA1981><pubmed>7289009</pubmed></ref>[4]、判定法そのものが法律で定められているわけではない。


 1982年、ドイツ連邦医師会から、また1983年にはオランダで脳死診断基準が公表された。米国でも1984年、大統領委員会の議論を経て全米臓器移植法が成立した。1985年、ローマ教皇は脳死を人の死と認めるとの決定を下し、その後、次々と世界各国で脳死が認知されることになり、1988年、スウェーデンでも、脳死を人の死とする立法が成立した。
 1982年、ドイツ連邦医師会から、また1983年にはオランダで脳死診断基準が公表された。米国でも1984年、大統領委員会の議論を経て全米臓器移植法が成立した。1985年、ローマ教皇は脳死を人の死と認めるとの決定を下し、その後、次々と世界各国で脳死が認知されることになり、1988年、スウェーデンでも、脳死を人の死とする立法が成立した。
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 1968年10月に日本脳波学会に脳波と脳死に関する委員会が設置され、1974年に「脳の急性一次性粗大病変における脳死の判定基準」が公表された。判定基準として、(1)深昏睡、(2)両側瞳孔散大、対光反射および角膜反射の消失、(3)自発呼吸の停止、(4)急激な血圧降下とそれにひき続く低血圧、(5)平坦脳波、(6)以上の(1)〜(5)の条件が揃った時点より六時間後まで継続的にこれらの条件が満たされている、という6点が挙げられた。
 1968年10月に日本脳波学会に脳波と脳死に関する委員会が設置され、1974年に「脳の急性一次性粗大病変における脳死の判定基準」が公表された。判定基準として、(1)深昏睡、(2)両側瞳孔散大、対光反射および角膜反射の消失、(3)自発呼吸の停止、(4)急激な血圧降下とそれにひき続く低血圧、(5)平坦脳波、(6)以上の(1)〜(5)の条件が揃った時点より六時間後まで継続的にこれらの条件が満たされている、という6点が挙げられた。


 1985年、旧厚生省研究班は日本脳波学会基準による全国調査を行った718例中、蘇生例は無かったことを報告し<ref name=竹内一夫1985>竹内一夫. 厚生省厚生科学研究費特別研究事業「脳死に関する研究班」、昭和59年度報告書. 日本医事新報 3188: 112-4. </ref>[11]、全脳死を採用した脳死判定基準(いわゆる竹内基準)を公表した<ref name=厚生科学研究費特別研究事業1985>厚生科学研究費特別研究事業 脳死に関する研究班 昭和60年度研究報告書. 脳死の判定指針および判定基準. 日医雑誌 1985; 94: 1949-72. </ref>[12]('''表1''')。判定の医学的詳細に関しては園生雅弘帝京大学教授および筆者による文献を参照されたい<ref name=園生雅弘2018>園生雅弘著. 永山正雄監修 (2018).<br>.脳死状態. 今日の臨床サポート</ref>[13]。
 1985年、旧厚生省研究班は日本脳波学会基準による全国調査を行った718例中、蘇生例は無かったことを報告し<ref name=竹内一夫1985>竹内一夫. 厚生省厚生科学研究費特別研究事業「脳死に関する研究班」、昭和59年度報告書. 日本医事新報 3188: 112-4. </ref>[11]、全脳死を採用した脳死判定基準(いわゆる竹内基準)を公表した<ref name=厚生科学研究費特別研究事業1985>'''厚生科学研究費特別研究事業 脳死に関する研究班 (1985).'''<br>昭和60年度研究報告書. 脳死の判定指針および判定基準. 日医雑誌 1985; 94: 1949-72. </ref>[12]('''表1''')。判定の医学的詳細に関しては園生雅弘帝京大学教授および筆者による文献を参照されたい<ref name=園生雅弘2018>'''園生雅弘著. 永山正雄監修 (2018).'''<br>.脳死状態. 今日の臨床サポート</ref>[13]。


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 1992年、「臨時脳死および臓器移植調査会」(通称、脳死臨調)は、脳死を人の死と認め、脳死体からの臓器移植の意義を是認し、さらに臓器の提供は本人の意思を最大限に尊重するという答申をまとめた。
 1992年、「臨時脳死および臓器移植調査会」(通称、脳死臨調)は、脳死を人の死と認め、脳死体からの臓器移植の意義を是認し、さらに臓器の提供は本人の意思を最大限に尊重するという答申をまとめた。


 1997年の「臓器の移植に関する法律」(「臓器移植法」)成立に伴い、法的脳死判定においては前記の脳死判定基準(竹内基準)に従うことと定められた。臨床現場での対応の指針として役立つような詳細が補足された「法的脳死判定マニュアル」が公表され<ref name=厚生省厚生科学研究費特別研究事業1999>厚生省厚生科学研究費特別研究事業「脳死判定手順に関する研究班」平成11年度報告書: 法的脳死判定マニュアル. </ref>[14]、ウェブ上でも公開されている(下記参照)<ref name=公益社団法人日本臓器移植ネットワーク>公益社団法人日本臓器移植ネットワーク [http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/pdf/noushi-hantei.pdf URL] </ref> [15]。この最初の臓器移植法の諸外国と比較した特徴は次の点であった。
 1997年の「臓器の移植に関する法律」(「臓器移植法」)成立に伴い、法的脳死判定においては前記の脳死判定基準(竹内基準)に従うことと定められた。臨床現場での対応の指針として役立つような詳細が補足された「法的脳死判定マニュアル」が公表され<ref name=厚生省厚生科学研究費特別研究事業1999>'''厚生省厚生科学研究費特別研究事業「脳死判定手順に関する研究班」 (1999)'''<br>平成11年度報告書: 法的脳死判定マニュアル. </ref>[14][http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/pdf/noushi-hantei.pdf%20URL ウェブ]上でも公開されている(下記参照)。この最初の臓器移植法の諸外国と比較した特徴は次の点であった。


#前提条件、除外例などが厳密に定義され、脳波も必須とされるなど諸外国と比べても最も厳しいレベルの基準である。器質的脳障害の確認のためにCTなどの画像診断が必須とされているのも諸外国にない点。
#前提条件、除外例などが厳密に定義され、脳波も必須とされるなど諸外国と比べても最も厳しいレベルの基準である。器質的脳障害の確認のためにCTなどの画像診断が必須とされているのも諸外国にない点。
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[[ファイル:Nagayama Brain Death Fig1.png|サムネイル|'''図1. 脳死が判定されるまで''']]
[[ファイル:Nagayama Brain Death Fig1.png|サムネイル|'''図1. 脳死が判定されるまで''']]
== 法的脳死判定 ==
== 法的脳死判定 ==
 脳死が判定されるまでの実際の流れを'''図1'''に示す<ref name=園生雅弘2018 /><ref name=脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班2011>脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班:厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「臓器提供施設における院内体制整備に関する研究」法的脳死判定マニュアル(平成22年度)</ref>[13][16]。
 脳死が判定されるまでの実際の流れを'''図1'''に示す<ref name=園生雅弘2018 /><ref name=脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班2011>'''脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班 (2011).'''<br>厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「臓器提供施設における院内体制整備に関する研究」法的脳死判定マニュアル(平成22年度)</ref>[13][16]。


 2019年に厚生労働省研究班および関連学会が合同で作成した「臓器提供ハンドブック」は、法的脳死判定の要点として、1. 脳死判定医を選任する、2. 高感度脳波検査を施行する、3. 血液ガス検査装置を準備する、4. 「法的脳死判定マニュアル」<ref name=脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班2011 />を準備し、読み上げながら記載通りに行う、5. 脳波を最初に行うと時間を短縮できる、6. 血圧・体温を維持する、7.家族の立ち合いに配慮する、を挙げた<ref name=厚生労働科学研究費補助金研究班主任研究者2019>厚生労働科学研究費補助金研究班主任研究者 横田裕行監修. 臓器提供ハンドブック. へるす出版</ref>[17]。
 2019年に厚生労働省研究班および関連学会が合同で作成した「臓器提供ハンドブック」は、法的脳死判定の要点として、1. 脳死判定医を選任する、2. 高感度脳波検査を施行する、3. 血液ガス検査装置を準備する、4. 「法的脳死判定マニュアル」<ref name=脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班2011 />を準備し、読み上げながら記載通りに行う、5. 脳波を最初に行うと時間を短縮できる、6. 血圧・体温を維持する、7.家族の立ち合いに配慮する、を挙げた<ref name=厚生労働科学研究費補助金研究班主任研究者2019>厚生労働科学研究費補助金研究班主任研究者 横田裕行監修. 臓器提供ハンドブック. へるす出版</ref>[17]。


 先述のように法に規定する脳死判定により脳死とされ得る状態は、器質的脳障害により深昏睡、および自発呼吸を消失した状態と認められ、かつ器質的脳障害の原疾患が確実に診断されていて、原疾患に対して行い得るすべての適切な治療を行った場合でも回復の可能性がないと認められる者である。従って非器質的脳障害例、人工呼吸器レスピレーター管理ではない例、自発呼吸が僅かでも残存している例、診断が完全には確定されていない例は脳死となり得ず、臓器提供などのために拙速な治療放棄を決して行ってはならない<ref name=永山正雄2016>脳死判定とCritical Care Neurology. 脳死・脳蘇生28(2):91-97</ref>[22]。
 法に規定する脳死判定により脳死とされ得る状態は、器質的脳障害により深昏睡、および自発呼吸を消失した状態と認められ、かつ器質的脳障害の原疾患が確実に診断されていて、原疾患に対して行い得るすべての適切な治療を行った場合でも回復の可能性がないと認められる者である。従って非器質的脳障害例、人工呼吸器レスピレーター管理ではない例、自発呼吸が僅かでも残存している例、診断が完全には確定されていない例は脳死となり得ず、臓器提供などのために拙速な治療放棄を決して行ってはならない<ref name=永山正雄2016>'''永山正雄 (2016)'''.<br>脳死判定とCritical Care Neurology. 脳死・脳蘇生28(2):91-97</ref>[22]。


=== 判定医資格 ===
=== 判定医資格 ===
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== 国内外の動向 ==
== 国内外の動向 ==
=== 国際的動向 ===
=== 国際的動向 ===
 現在なお、脳死に関する議論は米国を中心に行なわれている。脳死の概念をめぐる議論に大きな変化は無いが、脳死判定方法の啓発、そのためのpracticalなさまざまなツール、機会を米国神経学会および米国Neurocritical Care Society (NCS)が積極的に提供していることが近年の特徴である。米国神経学会ガイドライン(2010年)は、practicalで有用なツール「Checklist for determining brain death」をパワーポイントスライドとして提供している <ref name=Wijdicks2010></ref>[10]。先述のWijdicks教授は、「The Comatose Patient」(2014年)で、自身による貴重なビデオクリップを多数提供しており、正統的な脳死判定の実際を供覧する一方<ref name=E.F.M.2014>Wijdicks E.F.M. (2014)<br>The Comatose Patient, Oxford University Press, [https://doi.org/10.1093/med/9780199331215.001.0001 PDF]</ref>[23]、新たなシミュレーションモデルを発表している<ref name=Hocker2015><pubmed>25898887</pubmed></ref>[24]。またシカゴ大学によるワークショップ<ref name=The2019>The University of Chicago (2019).<br>Brain Death Simulation Workshop</ref>[25]のほか、とくに充実しているものとして米国Neurocritical Care SocietyによるBrain Death Determination Course<ref name=Neurocritical2020> Neurocritical Care Society (2020).<br>Brain Death Determination Course</ref> [26]がある。
 現在なお、脳死に関する議論は米国を中心に行なわれている。脳死の概念をめぐる議論に大きな変化は無いが、脳死判定方法の啓発、そのためのpracticalなさまざまなツール、機会を米国神経学会および米国Neurocritical Care Society (NCS)が積極的に提供していることが近年の特徴である。米国神経学会ガイドライン(2010年)は、practicalで有用なツール「Checklist for determining brain death」をパワーポイントスライドとして提供している <ref name=Wijdicks2010></ref>[10]。先述のWijdicks教授は、「The Comatose Patient」(2014年)で、自身による貴重なビデオクリップを多数提供しており、正統的な脳死判定の実際を供覧する一方<ref name=E.F.M.2014>Wijdicks E.F.M. (2014)<br>The Comatose Patient, Oxford University Press, [https://doi.org/10.1093/med/9780199331215.001.0001 PDF]</ref>[23]、新たなシミュレーションモデルを発表している<ref name=Hocker2015><pubmed>25898887</pubmed></ref>[24]。またシカゴ大学によるワークショップ<ref name=The2019>'''The University of Chicago (2019).'''<br>Brain Death Simulation Workshop</ref>[25]のほか、とくに充実しているものとして米国Neurocritical Care SocietyによるBrain Death Determination Course<ref name=Neurocritical2020> Neurocritical Care Society (2020).<br>Brain Death Determination Course</ref> [26]がある。


 2020年8月、The World Brain Death Projectによる脳死判定標準化に向けた事実上の初のガイドラインが公表された<ref name=Greer2020></ref> [19]。国家間、国内(とくに米国)における脳死[brain death (BD)/death by neurologic criteria (DNC)]、後者は欧米では頻用される)診断の現状を明らかにするとともに、標準化のための用語統一、脳死判定基準の推奨が明記された。脳死判定基準に関しては、(1)瞳孔正中位・散大、対光反射消失、(2)角膜反射、眼球頭反射、前庭反射、咳反射、咽頭反射の消失、(3)疼痛刺激に対して顔面の動き無し、(4)脳を介する運動反応無し、(5)無呼吸テスト、が推奨された。さらに可能であれば全脳死、脳幹死は用いずBD/DNCという用語を用いること、成人ではルーティンの脳波検査は行わないこと、地域のクライテリアを尊重すること、などが推奨されている。
 2020年8月、The World Brain Death Projectによる脳死判定標準化に向けた事実上の初のガイドラインが公表された<ref name=Greer2020></ref> [19]。国家間、国内(とくに米国)における脳死[brain death (BD)/death by neurologic criteria (DNC)]、後者は欧米では頻用される)診断の現状を明らかにするとともに、標準化のための用語統一、脳死判定基準の推奨が明記された。脳死判定基準に関しては、(1)瞳孔正中位・散大、対光反射消失、(2)角膜反射、眼球頭反射、前庭反射、咳反射、咽頭反射の消失、(3)疼痛刺激に対して顔面の動き無し、(4)脳を介する運動反応無し、(5)無呼吸テスト、が推奨された。さらに可能であれば全脳死、脳幹死は用いずBD/DNCという用語を用いること、成人ではルーティンの脳波検査は行わないこと、地域のクライテリアを尊重すること、などが推奨されている。
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 わが国でも厚生労働省研究班、日本臓器移植関連学会協議会、日本脳死・脳蘇生学会、日本救急医学会脳死・臓器移植に関する委員会、日本蘇生協議会、日本神経学会神経救急セクション、日本神経救急学会、日本臨床救急医学会移植医療における救急医療のあり方に関する検討委員会等で、さまざまな議論、環境整備、ガイドライン策定等が進められている。
 わが国でも厚生労働省研究班、日本臓器移植関連学会協議会、日本脳死・脳蘇生学会、日本救急医学会脳死・臓器移植に関する委員会、日本蘇生協議会、日本神経学会神経救急セクション、日本神経救急学会、日本臨床救急医学会移植医療における救急医療のあり方に関する検討委員会等で、さまざまな議論、環境整備、ガイドライン策定等が進められている。


 2021年、上智大学生命倫理研究所が「死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ」を出版した<ref name=教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー著. (2021)<br>上智大学生命倫理研究所監訳. 死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ. 上智大学出版</pubmed></ref>[30]。これは教皇庁科学アカデミーが主催した、死の概念・基準としての「脳死」についてのワーキング・グループの記録(翻訳、訳注、新規解説)で、教皇庁が脳死反対論者を交え、世界を代表する神学・医学・哲学等の研究者、医師による徹底した議論を行った全記録である。日本の議論に一石を投じる大変有意義な書籍と言えよう。
 2021年、上智大学生命倫理研究所が「死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ」を出版した<ref name=教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー2021>'''教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー著 (2021).'''<br>上智大学生命倫理研究所監訳. 死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ. 上智大学出版</pubmed></ref>[30]。これは教皇庁科学アカデミーが主催した、死の概念・基準としての「脳死」についてのワーキング・グループの記録(翻訳、訳注、新規解説)で、教皇庁が脳死反対論者を交え、世界を代表する神学・医学・哲学等の研究者、医師による徹底した議論を行った全記録である。日本の議論に一石を投じる大変有意義な書籍と言えよう。


==参考文献==
==参考文献==
<references />
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