「神経性過食症」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0020533 切池 信夫]、[http://rdbsv02.osaka-cu.ac.jp/profile/ja.qJu-wSoOdGN8wRaZZhtFiQ==.html 岩﨑 進一]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0020533 切池 信夫]、[http://rdbsv02.osaka-cu.ac.jp/profile/ja.qJu-wSoOdGN8wRaZZhtFiQ==.html 岩﨑 進一]</font><br>
''大阪市立大学大学 大学院医学研究科 臨床医科学専攻(臓器器官病態内科学大講座)''<br>
''大阪市立大学大学 大学院医学研究科 臨床医科学専攻(臓器器官病態内科学大講座)''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年3月12日 原稿完成日:2013年2月15日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年3月12日 原稿完成日:2013年2月15日 一部改訂日:2021年8月10日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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同義語:神経性大食症
同義語:神経性大食症


{{box|text= 神経性過食症は摂食障害の一型であり、自制困難な摂食の欲求を生じて、短時間に大量の食物を強迫的に摂取しては、その後嘔吐や[[wj:下剤|下剤]]の乱用、翌日の摂食制限、不食などにより体重増加を防ぎ、体重は神経性食思不振症ほど減少せず正常範囲内で変動し、過食後に[[無気力感]]、[[抑うつ]]気分、[[自己卑下]]をともなう一つの症候群である。これらの摂食障害が[[wj:思春期|思春期]]から[[wj:青年期|青年期]]の女性を中心に急増している。しかし最近の際立った特徴として、患者が前思春期の低年齢層から既婚の高年齢層まで拡がりをみせていることや、臨床像が多様化して非定型例が増加していることである。}}
{{box|text= 神経性過食症は摂食障害の一型であり、自制困難な摂食の欲求を生じて、短時間に大量の食物を強迫的に摂取しては、その後嘔吐や[[wj:下剤|下剤]]の乱用、翌日の摂食制限、不食などにより体重増加を防ぎ、体重は神経性やせ症ほど減少せず正常範囲内で変動し、過食後に[[無気力感]]、[[抑うつ]]気分、[[自己卑下]]をともなう一つの症候群である。これらの摂食障害が[[wj:思春期|思春期]]から[[wj:青年期|青年期]]の女性を中心に急増している。しかし最近の際立った特徴として、患者が前思春期の低年齢層から既婚の高年齢層まで拡がりをみせていることや、臨床像が多様化して非定型例が増加していることである。}}


== 概念と歴史  ==
== 概念と歴史  ==
 神経性過食症は[[摂食障害]]の一型であり、自制困難な[[摂食]]の要求を生じて、短時間に大量の食物を強迫的に摂取しては、その後[[嘔吐]]や下剤の乱用、翌日の摂食制限、不食などにより体重増加を防ぎ、体重は[[神経性食欲不振症]]ほど減少せず正常範囲内で変動し、過食後に[[無気力感]]、[[抑うつ気分]]、[[自己卑下]]をともなう一つの症候群である。1950年代頃から過食は肥満症との関連で研究されてきた。そして1970年代頃より体重が正常範囲内で、過食しては嘔吐や下剤を乱用する患者の存在に気づかれるようになった。1979年にイギリスの[[wj:Gerald Russell|Russell]]<ref name="cit7"><pubmed>482466</pubmed></ref>が、1)自己抑制できない過食の衝動、2)過食後の自己誘発性嘔吐または下剤の使用、3)肥満に対して病的恐怖を示す患者の一群をbulimia nervosaと呼び、これらの患者の大部分が神経性食欲不振症の既往を有していたことから、神経性食欲不振症の予後不良の亜型と考えた。 アメリカでは、1980年に[[DSM-Ⅲ]]で過食症(bulimia)の診断基準をつくり神経性食欲不振症と区別した。そして1987年の[[DSM-ⅢR]]の診断基準では神経性過食症と改め、1994年のDSM-Ⅳ(2000年に[[DSM-Ⅳ-TR]])の診断基準に至っている。一方WHOは1992年に[[ICD-10]]の診断基準で、神経性過食症の診断基準を新たに設け現在に至っている。
 神経性過食症は[[摂食障害]]の一型であり、自制困難な[[摂食]]の要求を生じて、短時間に大量の食物を強迫的に摂取しては、その後[[嘔吐]]や下剤の乱用、翌日の摂食制限、不食などにより体重増加を防ぎ、体重は[[神経性食欲不振症]]ほど減少せず正常範囲内で変動し、過食後に[[無気力感]]、[[抑うつ気分]]、[[自己卑下]]をともなう一つの症候群である。1950年代頃から過食は肥満症との関連で研究されてきた。そして1970年代頃より体重が正常範囲内で、過食しては嘔吐や下剤を乱用する患者の存在に気づかれるようになった。1979年にイギリスの[[wj:Gerald Russell|Russell]]<ref name="cit7"><pubmed>482466</pubmed></ref>が、1)自己抑制できない過食の衝動、2)過食後の自己誘発性嘔吐または下剤の使用、3)肥満に対して病的恐怖を示す患者の一群をbulimia nervosaと呼び、これらの患者の大部分が神経性食欲不振症の既往を有していたことから、神経性食欲不振症の予後不良の亜型と考えた。
 
 アメリカでは、1980年に[[DSM-Ⅲ]]で過食症(bulimia)の診断基準をつくり神経性食欲不振症と区別した。そして1987年の[[DSM-ⅢR]]の診断基準では神経性過食症と改め、1994年の[[DSM-Ⅳ]]、2013年の[[DSM-5]]の診断基準に至っている。一方WHOは1992年に[[ICD-10]]の診断基準で、神経性過食症の診断基準を新たに設けた。その後改定され、2018年に[[ICD-11]](提案)の診断基準に至っている。


== 疫学  ==
== 疫学  ==
 
 2000年~2018年までの研究結果をまとめたもの<ref><pubmed> 31051507</pubmed></ref>によると、神経性過食症の生涯有病率は女性で1.9%、男性で0.6%と報告されている。わが国では若い女性の1-2%とされている。
 英国では若い女性の1.5~3.8%、米国では2.2~3.5%となり、 これらに欧米諸国の結果を平均すると約1%と報告されている 。これは我が国においてもほぼ同率である<ref name="cit1">'''切池信夫'''<br>[[摂食障害]]<br>''精神医学''、48:356—369, 2006</ref>


== 症状  ==
== 症状  ==
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== 診断  ==
== 診断  ==


 神経性過食症の診断について、表5にDSM-ⅣとICD-10の診断基準を示した。それぞれの診断基準ですべて満たす場合に神経性過食症と診断され、一部の項目を満たさない場合には、DSM-Ⅳで特定不能の摂食障害、ICD-10で非定型神経性過食症と診断される。DSM-Ⅳの診断基準では、さらに排出行動の有無により、排出型と非排出型に分けられている。
 神経性過食症の診断について、'''表5'''にDSM-5<ref name=DSM5>'''American Psychiatric Association (2013).'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). ''American Psychiatric Publishing'', Arlington</ref>と[[ICD-11]]<ref><pubmed>31084617</pubmed></ref>の診断基準を示した。


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
|+ 表5 神経性過食症の診断基準  
|+ 表5 神経性過食症の診断基準  
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! DSM-IVの診断基準
! DSM-5の診断基準
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#過食のエピソードを繰り返す。過食のエピソードは以下の 2項目で特徴づけられる
'''A.''' 過食のエピソードを繰り返す。過食のエピソードは以下の2項目で特徴づけられる。<br>
##一定の時間内(例えば 2時間以内)に、大部分の人が食べるより明らかに大量の食物を摂取する
(1) 一定の時間内(例えば2時間以内)に、大部分の人と同じような状況下、時間帯で食べるより明らかに大量の食物を食べる。<br>
##その間、摂食を自制できないという感じを伴う(例えば、食べるのを途中でやめられない感じや、何をどれだけ食べるかをコントロールできない感じ)
(2) その間、摂食を自制できないという感じを伴う。(例えば、食べるのを途中で止められない感じや、何をどれ位食べるかをコントロールできない感じ)<br>
#体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐、下剤や浣腸剤、利尿薬の誤用あるいは激しい運動などを繰り返し行う
'''B.''' 体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐、下剤、利尿剤または他の薬剤の誤用あるいは絶食や過剰な運動など、不適切な代償行為を繰り返し行う。<br>
#過食と体重増加を防ぐ行為が最低週2回以上、3か月間続くこと
'''C.''' 過食と不適切な代償行為が、最低週1回以上、3カ月間続くこと。<br>
#自己評価は、体重や体型に過度に影響を受けている
'''D.''' 自己評価は、体重や体形に過度に影響をうけている。<br>
#神経性食欲不振症のエピソード中に生じていない
'''E.''' 神経性やせ症のエピソード中に生じていない。<br>
 
〔分類〕


:''排出型'': 規則的に自己誘発性嘔吐、下剤や浣腸剤、利尿薬の誤用をしている
該当すれば特定せよ:<br>
:''非排出型'': 自己誘発性嘔吐、下剤や浣腸剤、利尿薬の誤用によらず、絶食や過度の運動により体重増加を防いでいる
:部分寛解:以前には全ての基準を満たしたが、今は全てではないがある基準のみ一定期間満たしている。<br>
:完全寛解:以前には全ての基準を満たしたが、今はどの基準も一定期間満たしていない。<br>


重症度について:<br>
:重症度の最低レベルを、不適切な代償行為の頻度により決めよ(以下参照)。重症度は、臨床症状、機能障害の程度に応じて増す。<br>
:軽度:1週間に平均1-3回<br>
:中等度:1週間に平均4-7回<br>
:高度:1週間に平均8-13回<br>
:極度:1週間に平均14回かそれ以上<br>
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! ICD-10の診断基準
! ICD-11の診断基準
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#食べることに絶えず心が奪われており、食物に対する抗しがたい渇望、 短時間に大量の食物を摂取する過食のエピソードに陥る
#頻繁に反復する過食のエピソード(少なくとも1か月以上の期間、週1回以上など)。過食は、ある一定の時間内に自分の摂食行動をコントロールできないと感じることと定義される。過食のエピソードは、ふだんより明らかに多量かつ/または異なって摂食し、その間摂食を中止したり、食べ物の種類や量を制限することが出来ないと感じる。過食の他の特徴には、個人の通常の食事では食べない食物を食べること、空腹を感じないにもかかわらず大量の食物を食べること、および通常より速く食べるなど、恥ずかしく思い一人で食べるなどがある。
#食べた物で太らないように、 自己誘発性嘔吐、下剤の乱用、過食後の絶食、食欲抑制剤、甲状腺末や利尿薬の使用、糖尿病患者の場合インスリン治療を怠る
#体重増加を防ぐために不適切な代償行動を繰り返し(たとえば、少なくとも1か月間、週に1回以上など)行う。最も一般的な代償行動は自己誘発性の嘔吐であり、これは通常、過食のエピソードから1時間以内に生じる。他の不適切な代償行動には、絶食または利尿薬を使用して体重減少を誘発すること、下剤または浣腸を使用して食物の吸収を減らすこと、糖尿病患者のインスリン投与を怠ること、およびエネルギー消費を大幅に増やすための激しい運動などがある。
#肥満に対する病的恐怖。医師が健康的と考える病前体重よりもかなり低い体重に、 自らの目標体重として設定する。しばしば神経性食思不振症のエピソードが先行し、これとの間隔は数か月から数年にわたる。このエピソードは明瞭である場合もあるし中程度の体重減少や一過性の無月経を伴った不明瞭な形をとる場合もある
#体重と体型への過度のこだわり。明確に述べない場合、これは体重や体型へのこだわりについて明確に述べない場合、体重計で体重を繰り頻回にチェックする、巻き尺や鏡で体形をチェックする、食品のカロリー含有量を常に確認する、体重を減らす方法を調べる、または自宅に鏡を置くことを拒否する、ぴったりした服を避ける、体重を知ることを拒否、特定のサイズの服を購入するなどの極端な回避行動に現れる。
 
#過食や不適切な代償行動、または個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、その他の重要な領域における重大な障害により、著しい苦痛がある。
#症状は神経性やせ症の診断要件を満たしていない。
|}
|}


== 治療  ==
== 治療  ==


 まず患者との間に信頼関係を確立し、治療に対する動機づけの強化と維持を図る。そして病気について教育し、栄養状態の改善を目指した食生活指導、そして認知行動療法により摂食行動の正常化と不合理な認知を修正していく。さらに必要に応じて薬物療法、家族療法や集団精神療法などを併用する。
 まず患者との間に信頼関係を確立し、治療に対する動機づけの強化と維持を図る。そして病気について教育し、栄養状態の改善を目指した食生活指導、そして認知行動療法により摂食行動の正常化と不合理な認知を修正していく。さらに必要に応じて薬物療法、家族療法や集団精神療法などを併用する<ref name=切池信夫2015>'''切池信夫 (2015).'''<br>クリニックで診る摂食障害''医学書院''、東京</ref> 。


=== 治療目標と治療への導入  ===
=== 治療目標と治療への導入  ===
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=== 外来治療  ===
=== 外来治療  ===


 神経性過食症の外来治療は、支持的精神療法と認知[[行動療法]]<ref name="cit8">'''Fairburn CG'''<br>Cognitive-behavioral treatment for bulimia,In Handbook of Psychotherapy for Anorexia Nervosa and Bulimia (edited by Garner DM & Garfinkel PE)<br>''Guilford Press'', New York, 160-192, 1985</ref>に基づいた方法で行う。心理教育として、病気について、維持しなければならない体重、過食や排出行動による身体合併症、体重調整としての排出行動(嘔吐、下剤や利尿剤)の有害性と無効性、規則正しい食生活の確立、過食を引きおこしそうになる食物、食事や状況を日頃からコントロールする刺激統制法、過食しそうになった時、これを避けるための対策としての代替行動法、食べ方のコントロ-ル法などを小冊子や資料を用いて教える。  
 神経性過食症の外来治療は、支持的精神療法と認知[[行動療法]]<ref name=DSM5 />に基づいた方法で行う。心理教育として、病気について、維持しなければならない体重、過食や排出行動による身体合併症、体重調整としての排出行動(嘔吐、下剤や利尿剤)の有害性と無効性、規則正しい食生活の確立、過食を引きおこしそうになる食物、食事や状況を日頃からコントロールする刺激統制法、過食しそうになった時、これを避けるための対策としての代替行動法、食べ方のコントロ-ル法などを小冊子や資料を用いて教える。  


食生活指導:過食と嘔吐や下剤乱用などの排出行動のパタ-ンを知り、これらを減少させることが主な治療目標となる。患者の体重は、しばしば正常下限であったり変動したりするので、身体および精神的に安定した状態を得るためには体重を増加させたり、安定させる必要がある。したがって食生活指導により、患者が摂食制限や偏食を軽減し、規則的でバランスがとれ、日常生活に必要で十分なカロリ-を得られる正常な食生活を確立するようにする。  
食生活指導:過食と嘔吐や下剤乱用などの排出行動のパタ-ンを知り、これらを減少させることが主な治療目標となる。患者の体重は、しばしば正常下限であったり変動したりするので、身体および精神的に安定した状態を得るためには体重を増加させたり、安定させる必要がある。したがって食生活指導により、患者が摂食制限や偏食を軽減し、規則的でバランスがとれ、日常生活に必要で十分なカロリ-を得られる正常な食生活を確立するようにする。  


精神療法:肥満恐怖ややせ願望などの認知の歪みに対して認知行動療法的アプローチで修正していく<ref name="cit4">'''切池信夫'''<br>治療は難しい、「摂食障害-食べない、食べられない、食べたら止まらない」第2版<br>''医学書院''、東京、pp151-220、2009</ref>。  
精神療法:肥満恐怖ややせ願望などの認知の歪みに対して認知行動療法的アプローチで修正していく<ref name=切池信夫2015>'''切池信夫 (2015).'''<br>クリニックで診る摂食障害''医学書院''、東京</ref>。  


薬物療法:1)過食と排出行動の改善、2)不眠、不安、抑うつ気分、胃重感、消化・吸収機能の低下などの随伴症状に対する対症療法や、3)治療関係を促進し、精神療法や行動療法への導入をはかることなどがある。  
薬物療法:1)過食と排出行動の改善、2)不眠、不安、抑うつ気分、胃重感、消化・吸収機能の低下などの随伴症状に対する対症療法や、3)治療関係を促進し、精神療法や行動療法への導入をはかることなどがある。  


1)について、種々の抗うつ薬の過食に対する有効性が検証されている。最近では、セロトニンの選択的な再取込み阻害作用を有する[[選択的セロトニン再取り込み阻害剤]]である[[wj:フルボキサミン|フルボキサミン]]、[[wj:セルトラリン|セルトラリン]]、[[wj:パロキセチン|パロキセチン]]の有効性が報告されている。しかし我が国では、これらの薬剤が過食に対して認可されていない。しかし神経性過食症患者においてうつ状態を呈しやすく、うつ病や強迫性障害、パニック障害、社会不安障害などの不安障害の併存(comorbidity)が高率なのでこれらの治療でこれらのSSRIを投薬し、過食に対するも効果も期待できる。しかし抗うつ薬は、過食や嘔吐を減少させ、過食と嘔吐→抑うつ状態→過食と嘔吐といった悪循環を一時的に中断することにより、他の治療法を容易にし、その効果を高めることにより、本症からの回復に有効な補助手段となり得る。
1)について、種々の抗うつ薬の過食に対する有効性が検証されている。最近では、セロトニンの選択的な再取込み阻害作用を有する[[選択的セロトニン再取り込み阻害剤]]である。しかし我が国では、これらの薬剤が過食に対して認可されていない。しかし神経性過食症患者においてうつ状態を呈しやすく、うつ病や強迫症、パニック症、社交不安症などの不安症の併存(comorbidity)が高率なので、これらの治療に対してSSRIなどを投薬し、過食に対するも効果も期待できる。しかし抗うつ薬は、過食や嘔吐を減少させ、過食と嘔吐→抑うつ状態→過食と嘔吐といった悪循環を一時的に中断することにより、他の治療法を容易にし、その効果を高めることにより、本症からの回復に有効な補助手段となり得る。


=== 家族への対応の仕方  ===
=== 家族への対応の仕方  ===


 過食や嘔吐は秘密裏に行われ、親がこれらの行為に気づくのは発症してかなり経過してからである。親はこれを知った時、怒りと羞恥心、「しつけ」や「育て方」が悪かったという罪の意識や後ろめたさをもつので、これらをできるだけ取り除くよう配慮する。そして、親に子供をより客観的にみさせ、冷静に対応させるようにする。過食や嘔吐について叱責しないこと、批判や指示をせず子供の話を聞くこと、さらに家族が患者の看護に疲れないために適切なアドバイスを与える<ref name="cit5">'''切池信夫'''<br>摂食障害の子供を抱える家族に対して、みんなで学ぶ過食と拒食とダイエット<br> ''星和書店''、東京、pp251-291、2001</ref><ref name="cit6"><pubmed>12153817</pubmed></ref>。
 過食や嘔吐は秘密裏に行われ、親がこれらの行為に気づくのは発症してかなり経過してからである。親はこれを知った時、怒りと羞恥心、「しつけ」や「育て方」が悪かったという罪の意識や後ろめたさをもつので、これらをできるだけ取り除くよう配慮する。そして、親に子供をより客観的にみさせ、冷静に対応させるようにする。過食や嘔吐について叱責しないこと、批判や指示をせず子供の話を聞くこと、さらに家族が患者の看護に疲れないために適切なアドバイスを与える。


== 経過と予後  ==
== 経過と予後  ==


 1997年から2002年までの研究結果をまとめたものでは、9~11年の追跡期間で、回復と部分回復が47~73%、不良が9~30%、致死率0.57~2.33%となっている。そして死因として自殺や事故死、心不全を伴う身体疾患とされている<ref name="cit9"><pubmed>12567221</pubmed></ref>。
 1981年から2007年までの研究結果をまとめたものでは、10から20年までの追跡期間で、回復が45%、部分回復が27%、不良が23%、致死率は、0.32%と報告されている<ref><pubmed> 19884225 </pubmed></ref>。


==関連項目==
==関連項目==
* [[摂食障害]]
* [[摂食障害]]
* [[神経性食思不振症]]
* [[神経性やせ症]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />
<references />