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英語名:Reelin | 英語名:Reelin | ||
{{box|text= リーリンは全長約3500アミノ酸残基からなる巨大分泌[[ | {{box|text= リーリンは全長約3500アミノ酸残基からなる巨大分泌[[wj:タンパク質|タンパク質]]であり、歩行時によろめく表現型を持つ自然発症[[マウス]]「[[リーラー]]」において欠損する分子として同定された。[[リポタンパク質受容体]]として知られる[[ApoER2]]や[[VLDLR]]に結合し、細胞内タンパク質[[Dab1]]の[[リン酸化]]を誘導する。この[[シグナル経路]]の活性化により、胎生期では[[神経細胞]]の[[移動]]や形態形成が、成体期では[[記憶]]の形成や[[シナプス可塑性]]が制御される。欠損はヒトでも報告されており、[[てんかん]]や[[精神遅滞]]を呈する[[滑脳症]]を引き起こす。近年、[[統合失調症]]や[[アルツハイマー病]]患者におけるリーリンの発現量低下や[[一塩基多型]]が多く報告され、[[精神神経疾患]]の発症との関連が示唆されている。}} | ||
{{PBB|geneid=5649}} | {{PBB|geneid=5649}} | ||
== 同定 == | == 同定 == | ||
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1995年に、Tom Curranのグループは、[[c-fos]]遺伝子の[[トランスジェニックマウス]]を作製中に、偶然リーラー遺伝子にトランスジーンが挿入されたマウスを得た。このマウスを利用することにより全長cDNAを報告し、リーラーの原因遺伝子をリーリン(Reelin)と名付けた<ref name=ref1><pubmed> 7715726 </pubmed></ref>。また同じ頃、林崎、Goffinetらのグループもポジショナルクローニング法により、部分配列を同定した。 | 1995年に、Tom Curranのグループは、[[c-fos]]遺伝子の[[トランスジェニックマウス]]を作製中に、偶然リーラー遺伝子にトランスジーンが挿入されたマウスを得た。このマウスを利用することにより全長cDNAを報告し、リーラーの原因遺伝子をリーリン(Reelin)と名付けた<ref name=ref1><pubmed> 7715726 </pubmed></ref>。また同じ頃、林崎、Goffinetらのグループもポジショナルクローニング法により、部分配列を同定した。 | ||
[[ | [[wj:御子柴克彦|御子柴]]らのグループは、野生型マウスの脳抽出物を、リーラーマウスに免疫することでリーラーマウスにおいて欠失したタンパク質に対する[[wj:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]の樹立を試み、CR-50抗体を樹立した。CR-50抗体は野生型マウス大脳皮質のカハール・レチウス細胞を標識することを見いだし、リーラーマウスで欠失するタンパク質が、[[カハール・レチウス細胞]]に発現する事が明らかになった<ref><pubmed> 7748558 </pubmed></ref>。後に、CR-50の抗原がリーリンタンパク質のN末端側を認識することが確認された。 | ||
==構造 == | ==構造 == | ||
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=== アルツハイマー病 === | === アルツハイマー病 === | ||
リーリンとアルツハイマー病との関連は多数報告されており、アルツハイマー病患者の死後脳のアミロイドプラークにリーリンが検出されること<ref><pubmed> 11744223 </pubmed></ref>、アルツハイマー病患者の[[脳脊髄液]]におけるリーリンのN末端断片の増加<ref><pubmed> 12645087 </pubmed></ref>、リーリンの[[ | リーリンとアルツハイマー病との関連は多数報告されており、アルツハイマー病患者の死後脳のアミロイドプラークにリーリンが検出されること<ref><pubmed> 11744223 </pubmed></ref>、アルツハイマー病患者の[[脳脊髄液]]におけるリーリンのN末端断片の増加<ref><pubmed> 12645087 </pubmed></ref>、リーリンの[[wj:糖鎖|糖鎖]]修飾が健常者とは異なること<ref><pubmed> 16567613 </pubmed></ref>などがある。 | ||
近年、アルツハイマー病とリーリンとの関連を調べるために、in vitroの研究およびマウスを用いた研究が数多くなされてきた。例えば、リーリンによるDab1のリン酸化は、APPタンパク質の膜上での発現量とその分解を増大し、[[Aβ]]の産生を減少させる<ref><pubmed> 16951405 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18089558 </pubmed></ref>。また、リーリンのヘテロ欠損マウスでは、野生型マウスに比べ、早期にAβ沈着が検出される<ref><pubmed> 20610758 </pubmed></ref>。さらに、リーリンシグナルの低下がタウタンパク質の過剰なリン酸化を引き起こし、これがアルツハイマー病の増悪化を引き起こすという説もある<ref name=ref12 />。これらの論文は、リーリンの量または機能の低下が、アルツハイマー病の増悪化の一因であることを示唆している。 | 近年、アルツハイマー病とリーリンとの関連を調べるために、in vitroの研究およびマウスを用いた研究が数多くなされてきた。例えば、リーリンによるDab1のリン酸化は、APPタンパク質の膜上での発現量とその分解を増大し、[[Aβ]]の産生を減少させる<ref><pubmed> 16951405 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18089558 </pubmed></ref>。また、リーリンのヘテロ欠損マウスでは、野生型マウスに比べ、早期にAβ沈着が検出される<ref><pubmed> 20610758 </pubmed></ref>。さらに、リーリンシグナルの低下がタウタンパク質の過剰なリン酸化を引き起こし、これがアルツハイマー病の増悪化を引き起こすという説もある<ref name=ref12 />。これらの論文は、リーリンの量または機能の低下が、アルツハイマー病の増悪化の一因であることを示唆している。 | ||
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=== 気分障害 === | === 気分障害 === | ||
[[双極性障害]]や[[うつ病]]においてもリーリンの関与は研究されており、患者死後脳の研究ではリーリンはこれらの患者ではわずかではあるが減少している<ref><pubmed> 11074872 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11126396 </pubmed></ref>。また、リーリンにはCTRをコードする[[ | [[双極性障害]]や[[うつ病]]においてもリーリンの関与は研究されており、患者死後脳の研究ではリーリンはこれらの患者ではわずかではあるが減少している<ref><pubmed> 11074872 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11126396 </pubmed></ref>。また、リーリンにはCTRをコードする[[wj:エキソン|エキソン]]の直前で[[wj:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]が生じ、CTRの無いアイソフォームが生じることが知られている。双極性障害の患者では、このタイプの[[mRNA]]の割合が減少していることが報告されている<ref><pubmed> 21603580 </pubmed></ref>。CTRを欠損するアイソフォームはシグナル活性が弱いので、双極性障害患者では相対的にリーリン機能は亢進していることになる。しかしこれは、リーリンの機能低下を補う代償機構の結果である可能性も残されている。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |