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Yasuosakuma (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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内側視索前野から中脳腹側被蓋野への投射は雌<ref name=Erskine1989><pubmed>2691387</pubmed></ref> (Erskine, 1989)、雄<ref name=Agmo1997><pubmed>9385085</pubmed></ref> (Agmo, 1997)の性行動の調節に関わる。雄ラットでは内側視索前野の電気凝固<ref name=Larsson1964><pubmed>14152848</pubmed></ref> (Larsson & Heimer, 1964)、あるいは興奮性神経毒による内側視索前野の神経細胞の脱落により、性行動の動機付け要素motivational componentと実行要素excutive componentの双方が消失する。一方、雌ラットでは内側視索前野の破壊により雌が雄を避けられる条件では性行動が消失するが、避けられない条件では性行動、特にロードーシス行動が存続することが報じられてきた<ref name=Whitney1986><pubmed>3964425</pubmed></ref>(Whitney, 1986)。興奮性神経毒による神経細胞の脱落<ref name=Hoshina1994><pubmed>8037867</pubmed></ref> (Hoshina et al., 1994)と微少ナイフによる下行性通過線維の選択的切断<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref>(Takeo et al., 1993)により、内側視索前野から雌型性行動の動機付け要素を促進する回路と実行要素を抑制する回路が起始していることが示されている。実行要素であるロードーシス行動は、特に分界条由来の通過線維を除去した状態でのこの部位の電気刺激により強く抑制される<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref> (Takeo et al., 1993)。この抑制は腹側被蓋野の電気刺激により得られる効果と同一の大きさと時間経過で得られる<ref name=Hasegawa1991><pubmed>1805265</pubmed></ref>(Hasegawa et al., 1991)ことから、内側視索前野に起こり腹側被蓋野に終わるエストロゲン感受性下行性ニューロン<ref name=Hasegawa1993><pubmed>8518936</pubmed></ref> (Hasegawa & Sakuma, 1993)が関わる。逆行性興奮閾値から、このニューロンの軸索の興奮性がエストロゲンにより低下することが示されている。この現象はエストロゲンによるBKチャネルの発現増加による<ref name=Nishimura2008><pubmed>17962348</pubmed></ref> (Nishimura et al., 2008)。雄、あるいは生直後の性ホルモン投与により雄型の脳を持ちロードーシス行動を示さない雌では、エストロゲンの効果は見られない。ロードーシス行動の促進回路である視床下部腹内側核から中脳中心灰白質への投射軸索においては、エストロゲンにより興奮性が高まり、逆行性興奮閾値が低下する。内側視索前野から腹側被蓋野への投射と同じく、エストロゲンが効くのはロードーシス行動を起す雌あるいは生直後去勢雄に限られる<ref name=Sakuma1984><pubmed>6737296</pubmed></ref> (Sakuma, 1984)。つまり行動の抑制回路の脱抑制と促進回路の興奮が同時に起こることが、ロードーシス行動の発現に必要である。 | 内側視索前野から中脳腹側被蓋野への投射は雌<ref name=Erskine1989><pubmed>2691387</pubmed></ref> (Erskine, 1989)、雄<ref name=Agmo1997><pubmed>9385085</pubmed></ref> (Agmo, 1997)の性行動の調節に関わる。雄ラットでは内側視索前野の電気凝固<ref name=Larsson1964><pubmed>14152848</pubmed></ref> (Larsson & Heimer, 1964)、あるいは興奮性神経毒による内側視索前野の神経細胞の脱落により、性行動の動機付け要素motivational componentと実行要素excutive componentの双方が消失する。一方、雌ラットでは内側視索前野の破壊により雌が雄を避けられる条件では性行動が消失するが、避けられない条件では性行動、特にロードーシス行動が存続することが報じられてきた<ref name=Whitney1986><pubmed>3964425</pubmed></ref>(Whitney, 1986)。興奮性神経毒による神経細胞の脱落<ref name=Hoshina1994><pubmed>8037867</pubmed></ref> (Hoshina et al., 1994)と微少ナイフによる下行性通過線維の選択的切断<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref>(Takeo et al., 1993)により、内側視索前野から雌型性行動の動機付け要素を促進する回路と実行要素を抑制する回路が起始していることが示されている。実行要素であるロードーシス行動は、特に分界条由来の通過線維を除去した状態でのこの部位の電気刺激により強く抑制される<ref name=Takeo1993><pubmed>8511198</pubmed></ref> (Takeo et al., 1993)。この抑制は腹側被蓋野の電気刺激により得られる効果と同一の大きさと時間経過で得られる<ref name=Hasegawa1991><pubmed>1805265</pubmed></ref>(Hasegawa et al., 1991)ことから、内側視索前野に起こり腹側被蓋野に終わるエストロゲン感受性下行性ニューロン<ref name=Hasegawa1993><pubmed>8518936</pubmed></ref> (Hasegawa & Sakuma, 1993)が関わる。逆行性興奮閾値から、このニューロンの軸索の興奮性がエストロゲンにより低下することが示されている。この現象はエストロゲンによるBKチャネルの発現増加による<ref name=Nishimura2008><pubmed>17962348</pubmed></ref> (Nishimura et al., 2008)。雄、あるいは生直後の性ホルモン投与により雄型の脳を持ちロードーシス行動を示さない雌では、エストロゲンの効果は見られない。ロードーシス行動の促進回路である視床下部腹内側核から中脳中心灰白質への投射軸索においては、エストロゲンにより興奮性が高まり、逆行性興奮閾値が低下する。内側視索前野から腹側被蓋野への投射と同じく、エストロゲンが効くのはロードーシス行動を起す雌あるいは生直後去勢雄に限られる<ref name=Sakuma1984><pubmed>6737296</pubmed></ref> (Sakuma, 1984)。つまり行動の抑制回路の脱抑制と促進回路の興奮が同時に起こることが、ロードーシス行動の発現に必要である。 | ||
=== | ===母性行動・育仔行動=== | ||
ラットでは妊娠末期に血中プロゲステロン濃度が低下し、エストロゲンとプロラクチン濃度が上昇すると、分娩後母性行動が現れる。適切な母性行動の発揮には、まず新生仔を忌避し、敵対する行動が抑制される必要がある。未経産の雌ラットのケージに新生仔を入れると、雌はその場所を忌避する<ref name=Numan1997><pubmed>9071346</pubmed></ref> (Numan & Sheehan, 1997)。雌マウス内側視索前野中心部の選択的破壊は、この部位に存在するgalaninの脱落により母性行動を消失させる<ref name=Wu2014><pubmed>24828191</pubmed></ref>(Wu et al., 2014)。哺育中の母マウスは内側視索前野・扁桃核のエストロゲン受容体陽性ニューロンを介して、接近してきた新奇雄を激しく攻撃する母性攻撃行動を示す<ref name=Ogawa2004><pubmed>15817742</pubmed></ref>(Ogawa et al., 2004)、この行動の一側面として、哺育中の母マウスはリスクを顧みずに仔を守る行動を取る。最近黒田らは脳幹へ投射する内側視索前野のカルシトニン受容体陽性ニューロンとリガンドであるアミリンがこのリスクテーキング行動に関わっていることを示した<ref name=Yoshihara2021><pubmed>34077719</pubmed></ref> (Yoshihara et al., 2021) 。 | ラットでは妊娠末期に血中プロゲステロン濃度が低下し、エストロゲンとプロラクチン濃度が上昇すると、分娩後母性行動が現れる。適切な母性行動の発揮には、まず新生仔を忌避し、敵対する行動が抑制される必要がある。未経産の雌ラットのケージに新生仔を入れると、雌はその場所を忌避する<ref name=Numan1997><pubmed>9071346</pubmed></ref> (Numan & Sheehan, 1997)。雌マウス内側視索前野中心部の選択的破壊は、この部位に存在するgalaninの脱落により母性行動を消失させる<ref name=Wu2014><pubmed>24828191</pubmed></ref>(Wu et al., 2014)。哺育中の母マウスは内側視索前野・扁桃核のエストロゲン受容体陽性ニューロンを介して、接近してきた新奇雄を激しく攻撃する母性攻撃行動を示す<ref name=Ogawa2004><pubmed>15817742</pubmed></ref>(Ogawa et al., 2004)、この行動の一側面として、哺育中の母マウスはリスクを顧みずに仔を守る行動を取る。最近黒田らは脳幹へ投射する内側視索前野のカルシトニン受容体陽性ニューロンとリガンドであるアミリンがこのリスクテーキング行動に関わっていることを示した<ref name=Yoshihara2021><pubmed>34077719</pubmed></ref> (Yoshihara et al., 2021)。雌雄双方で内側視索前野のガラニン作動性ニューロンが育仔に関与する<ref name=Wu2014>(Wu et al., 2014) <pubmed>24828191</pubmed></ref>。他方、内側視索前野脳弓周辺部に分布するウロコルチンニューロンが雌雄マウスで新生仔の無視や新生仔に対する攻撃を誘発する<ref name=Autry2021>(Autry et al., 2021) <pubmed>34423776</pubmed></ref>。 | ||
===睡眠=== | ===睡眠=== |
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