「シャルコー・マリー・トゥース病」の版間の差分

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=== 診断基準 ===
=== 診断基準 ===
 厚生労働省の指定難病判定にも用いられる「シャルコー・マリー・トゥース病の診療向上に関するエビデンスを構築する研究班」による診断基準<ref name=シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル編集委員会編>'''シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル編集委員会編 (2015).'''<br>シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル. 2版. 京都:金芳堂 p.127</ref>[6]を下に示す。この診断基準は必ずしも家族歴がなくても孤発性の患者もシャルコー・マリー・トゥース病と診断することができる。シャルコー・マリー・トゥース病には感覚障害の非常に軽度のものやほとんど認めないものもあり、逆に感覚障害が顕著で運動障害が非常に軽度のものもある。
 厚生労働省の指定難病判定にも用いられる「シャルコー・マリー・トゥース病の診療向上に関するエビデンスを構築する研究班」による診断基準<ref name=シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル編集委員会編>'''シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル編集委員会編 (2015).'''<br>シャルコー・マリー・トゥース病診療マニュアル. 2版. 京都:金芳堂 p.127</ref>を下に示す。この診断基準は必ずしも家族歴がなくても孤発性の患者もシャルコー・マリー・トゥース病と診断することができる。シャルコー・マリー・トゥース病には感覚障害の非常に軽度のものやほとんど認めないものもあり、逆に感覚障害が顕著で運動障害が非常に軽度のものもある。


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 '''5.''' [[ニューロフィラメント]]・タンパク質輸送関連遺伝子には[[neurofilament, light polypeptide]] ([[NEFL]])遺伝子などが該当し、NEFL遺伝子変異は脱髄型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT1F)にも軸索型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT2E)のどちらにもなりうる。
 '''5.''' [[ニューロフィラメント]]・タンパク質輸送関連遺伝子には[[neurofilament, light polypeptide]] ([[NEFL]])遺伝子などが該当し、NEFL遺伝子変異は脱髄型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT1F)にも軸索型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT2E)のどちらにもなりうる。


 '''6.''' [[ミトコンドリア]]関連遺伝子で最も重要なものは[[mitofusin 2]] ([[MFN2]])遺伝子である。MFN2遺伝子変異は軸索型シャルコー・マリー・トゥース病([[CMT2A2]])の原因となり軸索型シャルコー・マリー・トゥース病のなかで最も多い<ref name=Yoshimura2019><pubmed>30257968</pubmed></ref>[7]
 '''6.''' [[ミトコンドリア]]関連遺伝子で最も重要なものは[[mitofusin 2]] ([[MFN2]])遺伝子である。MFN2遺伝子変異は軸索型シャルコー・マリー・トゥース病([[CMT2A2]])の原因となり軸索型シャルコー・マリー・トゥース病のなかで最も多い<ref name=Yoshimura2019><pubmed>30257968</pubmed></ref>。


 '''7.''' [[DNA修復]]・[[転写]]・[[核酸]]合成関連遺伝子に該当する[[phosphoribosyl pyrophosphate synthetase 1]] ([[PRPS1]])遺伝子はX染色体にあり[[プリン]]・核酸代謝に関連し、CMTX5の原因遺伝子である。
 '''7.''' [[DNA修復]]・[[転写]]・[[核酸]]合成関連遺伝子に該当する[[phosphoribosyl pyrophosphate synthetase 1]] ([[PRPS1]])遺伝子はX染色体にあり[[プリン]]・核酸代謝に関連し、CMTX5の原因遺伝子である。
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== 治療 ==
== 治療 ==
 シャルコー・マリー・トゥース病の症状に効果が証明された治療薬はまだない。[[神経栄養因子]]やシャルコー・マリー・トゥース病原因遺伝子の解明に伴い遺伝子治療など新たな治療戦略が研究されているが、現状では実用的ではない。シャルコー・マリー・トゥース病の中で最も多いCMT1Aに関しては[[アスコルビン酸]]がPMP22の過剰な発現を抑制すると期待され、欧米で無作為化比較対照試験まで実施されたがアスコルビン酸の有用性は示されなかった<ref name=Lewis2013><pubmed>23797954</pubmed></ref>[8]。他にも、[[ニューロトロフィン3]]、[[ニューレグリン]]、[[クルクミン]]、[[プロゲステロン]]刺激薬など治療効果の検討がされているが今だ有用性は認めていない。最近では、[[histone deacetylase 6|histone deacetylase (HDAC) 6]][[阻害剤]]の触媒作用と[[ユビキチン]]との相互作用を通じての非触媒作用の両方がシャルコー・マリー・トゥース病を含む希少疾患に有用ではないかと期待され研究されている<ref name=Brindisi2020><pubmed>31415174</pubmed></ref>[9]
 シャルコー・マリー・トゥース病の症状に効果が証明された治療薬はまだない。[[神経栄養因子]]やシャルコー・マリー・トゥース病原因遺伝子の解明に伴い遺伝子治療など新たな治療戦略が研究されているが、現状では実用的ではない。シャルコー・マリー・トゥース病の中で最も多いCMT1Aに関しては[[アスコルビン酸]]がPMP22の過剰な発現を抑制すると期待され、欧米で無作為化比較対照試験まで実施されたがアスコルビン酸の有用性は示されなかった<ref name=Lewis2013><pubmed>23797954</pubmed></ref>。他にも、[[ニューロトロフィン3]]、[[ニューレグリン]]、[[クルクミン]]、[[プロゲステロン]]刺激薬など治療効果の検討がされているが今だ有用性は認めていない。最近では、[[histone deacetylase 6|histone deacetylase (HDAC) 6]][[阻害剤]]の触媒作用と[[ユビキチン]]との相互作用を通じての非触媒作用の両方がシャルコー・マリー・トゥース病を含む希少疾患に有用ではないかと期待され研究されている<ref name=Brindisi2020><pubmed>31415174</pubmed></ref>。


== 疫学 ==
== 疫学 ==
 過去の欧米の報告では有病率は2500人に1人とされてきた<ref name=Skre1974><pubmed>4430158</pubmed></ref>[10]が、本邦の最近の疫学では1万人に1人程度となっている<ref name=Kurihara2002><pubmed>12207153</pubmed></ref>[11]。脱髄型シャルコー・マリー・トゥース病の中ではPMP22遺伝子重複によるCMT1Aが脱髄型シャルコー・マリー・トゥース病の約70%<ref name=Boerkoel2002><pubmed>11835375</pubmed></ref>[12]、シャルコー・マリー・トゥース病全体の約50%<ref name=Szigeti2006><pubmed>16775379</pubmed></ref>[13]と最多である。軸索型ではMFN2遺伝子変異によるCMT2A2が最も多く、CMTXではGJB1遺伝子変異によるCMTX1が最も多い<ref name=Yoshimura2019><pubmed>30257968</pubmed></ref>[7]
 過去の欧米の報告では有病率は2500人に1人とされてきた<ref name=Skre1974><pubmed>4430158</pubmed></ref>が、本邦の最近の疫学では1万人に1人程度となっている<ref name=Kurihara2002><pubmed>12207153</pubmed></ref>。脱髄型シャルコー・マリー・トゥース病の中ではPMP22遺伝子重複によるCMT1Aが脱髄型シャルコー・マリー・トゥース病の約70%<ref name=Boerkoel2002><pubmed>11835375</pubmed></ref>、シャルコー・マリー・トゥース病全体の約50%<ref name=Szigeti2006><pubmed>16775379</pubmed></ref>と最多である。軸索型ではMFN2遺伝子変異によるCMT2A2が最も多く、CMTXではGJB1遺伝子変異によるCMTX1が最も多い<ref name=Yoshimura2019><pubmed>30257968</pubmed></ref>。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
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