「認知的構え」の版間の差分

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===短期的な記憶===
===短期的な記憶===
 認知的構えそのものが短期的な記憶によって保持され、注意などの他の認知的な処理に影響を与えると言われている<ref name=Miller2001 /><ref name=Desimone1995 />
 認知的構えそのものが短期的な記憶によって保持され、注意などの他の認知的な処理に影響を与えると言われている<ref name=Miller2001 /><ref name=Desimone1995 />。また短期的な記憶の中にどの情報を保持するかも、認知的構えの機能とも言われている<ref name=Sakai2002><pubmed>11953754</pubmed></ref>。この情報の選択性は[[ディストラクター抵抗]](distracter resistance)と呼ばれるゴール達成に必要な情報だけを保持する機能と関係している<ref name=Suzuki2013><pubmed>23242309</pubmed></ref>。またこの様な機能は[[前頭葉]]特有の機能であるとも言われている<ref name=Passingham2004><pubmed>15082320</pubmed></ref>。
[1], [20]。また短期的な記憶の中にどの情報を保持するかも、認知的構えの機能とも言われている<ref name=Sakai2002><pubmed>11953754</pubmed></ref>。この情報の選択性は[[ディストラクター抵抗]](distracter resistance)と呼ばれるゴール達成に必要な情報だけを保持する機能と関係している<ref name=Suzuki2013><pubmed>23242309</pubmed></ref>。またこの様な機能は[[前頭葉]]特有の機能であるとも言われている<ref name=Passingham2004><pubmed>15082320</pubmed></ref>。


===長期的な記憶===
===長期的な記憶===
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====コミットメント====
====コミットメント====
 一つのゴールにコミットすることはそのゴールの遂行には良い影響を与えるが、切り替えて他のゴールを目指さなければならなくなった時には悪い影響がある<ref name=Monsell2003 />[2]。この特定のゴールへの集中が認知的構えを用いた課題の遂行に影響を与える<ref name=Risko2016 /><ref name=Sweller1988>'''Sweller, J. (1988).'''<br>Cognitive load during problem solving: Effects on learning, ''Cogn. Sci.'', 12, 257–285. [https://doi.org/10.1207/s15516709cog1202_4|[DOI<nowiki>]</nowiki>] </ref>。
 一つのゴールにコミットすることはそのゴールの遂行には良い影響を与えるが、切り替えて他のゴールを目指さなければならなくなった時には悪い影響がある<ref name=Monsell2003 />。この特定のゴールへの集中が認知的構えを用いた課題の遂行に影響を与える<ref name=Risko2016 /><ref name=Sweller1988>'''Sweller, J. (1988).'''<br>Cognitive load during problem solving: Effects on learning, ''Cogn. Sci.'', 12, 257–285. [https://doi.org/10.1207/s15516709cog1202_4|[DOI<nowiki>]</nowiki>] </ref>。


====自動化・習慣化====
====自動化・習慣化====
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==階層性==
==階層性==
 認知的構えは階層的な構造を取り得る<ref name=Koechlin2003 />。これには異なるレベルの複雑さや抽象度が含まれる<ref name=Badre2018 />[10]。この様な階層構造は異なる課題や状況に適切に対応するためになくてはならないものである<ref name=Badre2022 />。
 認知的構えは階層的な構造を取り得る<ref name=Koechlin2003 />。これには異なるレベルの複雑さや抽象度が含まれる<ref name=Badre2018 />。この様な階層構造は異なる課題や状況に適切に対応するためになくてはならないものである<ref name=Badre2022 />。


===低次階層===
===低次階層===
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===高次階層===
===高次階層===
 より高次の認知的構えには複数のステップを要する行動の計画<ref name=Tanji2001 />、問題を把握し解決する様な情報処理<ref name=Newell1972>'''Newell A. and Simon, H. A. (1972).'''<br>Human problem solving, vol. 104. ''Prentice-hall Englewood Cliffs'', NJ. </ref>、価値の判断を伴うような[[意思決定]]などに関わるものが挙げられる<ref name=Shenhav2017 /><ref name=Shenhav2013 />[5], [12]。この様な認知的構えには、抽象的な思考や複数の情報を組み合わせる能力が求められる。
 より高次の認知的構えには複数のステップを要する行動の計画<ref name=Tanji2001 />、問題を把握し解決する様な情報処理<ref name=Newell1972>'''Newell A. and Simon, H. A. (1972).'''<br>Human problem solving, vol. 104. ''Prentice-hall Englewood Cliffs'', NJ. </ref>、価値の判断を伴うような[[意思決定]]などに関わるものが挙げられる<ref name=Shenhav2017 /><ref name=Shenhav2013 />。この様な認知的構えには、抽象的な思考や複数の情報を組み合わせる能力が求められる。


===タスクのルール===
===タスクのルール===
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====メンタルエフォートの正・負の報酬価値====
====メンタルエフォートの正・負の報酬価値====
 以上の議論の様に認知的構えとそれに関わるメンタルエフォートは全般的に負の報酬価値または経済的なコストを伴うものと考えられているが、何が精神的努力となりまた精神的な疲労となっていくかについては、未だに議論が分かれている<ref name=Inzlicht2018 />[14]。ある状況ではメンタルエフォートを伴う課題の遂行に関する努力が正の報酬価値を持ちうる事もある。難しい課題を学習し達成していく時の達成感などの感覚<ref name=Csikszentmihalyi1988>'''Csikszentmihalyi, M. (1988).'''<br>The flow experience and its significance for human psychology, ''Optim. Exp. Psychol. Stud. Flow Conscious.'', 2, 15–35 [https://doi.org/10.1017/CBO9780511621956.002 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</ref><ref name=Csikszentmihalyi1992>'''Csikszentmihalyi M. and Csikszentmihalyi, I. S. (1992).'''<br>Optimal experience: Psychological studies of flow in consciousness. ''Cambridge University Press''.</ref>や、登山やランニングなどに関わる報酬的な要素などが良い例であろう。
 以上の議論の様に認知的構えとそれに関わるメンタルエフォートは全般的に負の報酬価値または経済的なコストを伴うものと考えられているが、何が精神的努力となりまた精神的な疲労となっていくかについては、未だに議論が分かれている<ref name=Inzlicht2018 />。ある状況ではメンタルエフォートを伴う課題の遂行に関する努力が正の報酬価値を持ちうる事もある。難しい課題を学習し達成していく時の達成感などの感覚<ref name=Csikszentmihalyi1988>'''Csikszentmihalyi, M. (1988).'''<br>The flow experience and its significance for human psychology, ''Optim. Exp. Psychol. Stud. Flow Conscious.'', 2, 15–35 [https://doi.org/10.1017/CBO9780511621956.002 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</ref><ref name=Csikszentmihalyi1992>'''Csikszentmihalyi M. and Csikszentmihalyi, I. S. (1992).'''<br>Optimal experience: Psychological studies of flow in consciousness. ''Cambridge University Press''.</ref>や、登山やランニングなどに関わる報酬的な要素などが良い例であろう。


==神経基盤==
==神経基盤==
 認知的構えの神経メカニズムの説明は脳を構成する要素の規模のレベルで分かれてくる。例えば脳領域レベルでの機能の説明もあれば神経細胞レベルでの情報の表現のレベルもある<ref name=Sakai2008 />[51]。基本的には前頭葉外側を中心としたネットワークが認知的構えの機能を担う神経基盤と考えられている<ref name=Miller2001 /><ref name=Wallis2001><pubmed>11418860</pubmed></ref><ref name=Wallis2003><pubmed>12736235</pubmed></ref><ref name=Sakai2003b><pubmed>12469132</pubmed></ref>。しかしここまで述べてきた認知的構えの行動のメカニズムの研究と同じように、認知的構えのモチベーションや報酬価値との結びつきの研究から前頭葉内側面での研究も盛んになっている<ref name=Botvinick2015><pubmed>25251491</pubmed></ref><ref name=Kouneiher2009><pubmed>19503087</pubmed></ref>。また近年提唱されている[[混合選択性]](mixed selectivity)との関係も深い為、認知的構えの神経メカニズムの一例としてここに記述する<ref name=Rigotti2013><pubmed>23685452</pubmed></ref><ref name=Fusi2016><pubmed>26851755</pubmed></ref><ref name=Mante2013><pubmed>24201281</pubmed></ref><ref name=Yang2019><pubmed>30643294</pubmed></ref>。
 認知的構えの神経メカニズムの説明は脳を構成する要素の規模のレベルで分かれてくる。例えば脳領域レベルでの機能の説明もあれば神経細胞レベルでの情報の表現のレベルもある<ref name=Sakai2008 />。基本的には前頭葉外側を中心としたネットワークが認知的構えの機能を担う神経基盤と考えられている<ref name=Miller2001 /><ref name=Wallis2001><pubmed>11418860</pubmed></ref><ref name=Wallis2003><pubmed>12736235</pubmed></ref><ref name=Sakai2003b><pubmed>12469132</pubmed></ref>。しかしここまで述べてきた認知的構えの行動のメカニズムの研究と同じように、認知的構えのモチベーションや報酬価値との結びつきの研究から前頭葉内側面での研究も盛んになっている<ref name=Botvinick2015><pubmed>25251491</pubmed></ref><ref name=Kouneiher2009><pubmed>19503087</pubmed></ref>。また近年提唱されている[[混合選択性]](mixed selectivity)との関係も深い為、認知的構えの神経メカニズムの一例としてここに記述する<ref name=Rigotti2013><pubmed>23685452</pubmed></ref><ref name=Fusi2016><pubmed>26851755</pubmed></ref><ref name=Mante2013><pubmed>24201281</pubmed></ref><ref name=Yang2019><pubmed>30643294</pubmed></ref>。


===脳領域レベル===
===脳領域レベル===