「嗅覚受容体」の版間の差分

6行目: 6行目:
== 脊椎動物 ==
== 脊椎動物 ==
=== 発見、歴史的経緯など ===
=== 発見、歴史的経緯など ===
 我々が匂いを感知する仕組みについては、古くから複数の学説が唱えられていたが、そのうちのひとつが、Amooreによる立体化学説であった。匂い分子の化学構造、形とサイズが鼻腔上皮の受容部位の構造に適合すると匂いが感知されるとの説である<ref name=Amoore1963><pubmed>14012641</pubmed></ref>。この学説で概念に過ぎなかった”受容体”の存在は、1991年、BuckとAxelによる、ラット嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)遺伝子ファミリーの歴史的な発見により明らかとなった<ref name=Buck1991><pubmed>1840504</pubmed></ref>。その後、OR遺伝子によりコードされるタンパク質が匂い物質に応答し、嗅神経細胞の活性化をもたらすことが実証された<ref name=Touhara1999><pubmed>10097159</pubmed></ref><ref name=Zhao1998><pubmed>9422698</pubmed></ref>。OR遺伝子は脊椎動物全般において、最大の遺伝子ファミリーとして存在し、多重遺伝子ファミリーを形成するが、その数は生物種により大きく異なり、例えばマウスでは約1100, ヒトでは約400存在する<ref name=Niimura2014><pubmed>25053675</pubmed></ref>。OR遺伝子ファミリーは他の遺伝子ファミリーに比べると偽遺伝子の割合が高く、進化の過程での重複、欠失が多いことも特徴である。さらに、ヒト個人間においても数多くの遺伝子多型が存在し、特定の匂いへの知覚感度に影響する例も報告されている <ref name=Markt2022><pubmed></pubmed></ref><ref name=Niimura2020><pubmed></pubmed></ref><ref name=Sato-Akuhara2023><pubmed></pubmed></ref><ref name=Trimmer2019><pubmed></pubmed></ref>。ORに加え、2006年、嗅上皮で発現するTAAR (Trace amine-associated receptor)ファミリーも嗅覚受容体として機能することが報告された<ref name=Liberles2006><pubmed>16878137</pubmed></ref>。その後、げっ歯類嗅上皮で発現するGCD (guanylyl cyclase D) が呼気中のCO2、CS2、の受容体としてはたらくことが示された<ref name=Hu2007><pubmed>17702944</pubmed></ref><ref name=Munger2010><pubmed>20637621</pubmed></ref>。さらに2016年、嗅上皮のくぼみに存在する嗅神経細胞に発現する嗅覚受容体として、MS4A (membrane-spanning 4A receptor)が発見されている<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>。
 我々が匂いを感知する仕組みについては、古くから複数の学説が唱えられていたが、そのうちのひとつが、Amooreによる立体化学説であった。匂い分子の化学構造、形とサイズが鼻腔上皮の受容部位の構造に適合すると匂いが感知されるとの説である<ref name=Amoore1963><pubmed>14012641</pubmed></ref>。この学説で概念に過ぎなかった”受容体”の存在は、1991年、BuckとAxelによる、ラット嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)遺伝子ファミリーの歴史的な発見により明らかとなった<ref name=Buck1991><pubmed>1840504</pubmed></ref>。その後、OR遺伝子によりコードされるタンパク質が匂い物質に応答し、嗅神経細胞の活性化をもたらすことが実証された<ref name=Touhara1999><pubmed>10097159</pubmed></ref><ref name=Zhao1998><pubmed>9422698</pubmed></ref>。OR遺伝子は脊椎動物全般において、最大の遺伝子ファミリーとして存在し、多重遺伝子ファミリーを形成するが、その数は生物種により大きく異なり、例えばマウスでは約1100, ヒトでは約400存在する<ref name=Niimura2014><pubmed>25053675</pubmed></ref>。OR遺伝子ファミリーは他の遺伝子ファミリーに比べると偽遺伝子の割合が高く、進化の過程での重複、欠失が多いことも特徴である。さらに、ヒト個人間においても数多くの遺伝子多型が存在し、特定の匂いへの知覚感度に影響する例も報告されている <ref name=Markt2022><pubmed> 35113854 </pubmed></ref><ref name=Niimura2020>'''Niimura Y, Ihara S, Touhara K (2020).'''<br>3.25 - Mammalian Olfactory and Vomeronasal Receptor Families. In The Senses: A Comprehensive Reference (Second Edition). Edited by Fritzsch B: Elsevier; pp 516-535.</ref><ref name=Sato-Akuhara2023><pubmed> 36625229 </pubmed></ref><ref name=Trimmer2019><pubmed> 31040214 </pubmed></ref>
 
 ORに加え、2006年、嗅上皮で発現するTAAR (Trace amine-associated receptor)ファミリーも嗅覚受容体として機能することが報告された<ref name=Liberles2006><pubmed>16878137</pubmed></ref>。その後、げっ歯類嗅上皮で発現するGCD (guanylyl cyclase D) が呼気中のCO2、CS2、の受容体としてはたらくことが示された<ref name=Hu2007><pubmed>17702944</pubmed></ref><ref name=Munger2010><pubmed>20637621</pubmed></ref>。さらに2016年、嗅上皮のくぼみに存在する嗅神経細胞に発現する嗅覚受容体として、MS4A (membrane-spanning 4A receptor)が発見されている<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>。


=== 構造 ===
=== 構造 ===