「スフィンゴミエリン」の版間の差分

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== 基本骨格 ==
== 基本骨格 ==
 スフィンゴミエリンの構造は1927年にN-acyl-sphingosine-1-phosphorylcholine (ceramide-1-phosphorylcholine)であることが報告された (Pick and Bielchowsky, 1927, Klin. Wochenschr. )。すなわち、極性頭部であるホスホコリンが、リン酸ジエステル結合によってセラミドの水酸基と縮合した構造をとる('''図1''')。セラミド部分は、長鎖塩基のアミド基に様々な鎖長の脂肪酸がアミド結合した構造(N-アシル鎖)をとり、長鎖塩基は鎖長C18で、4位と5位の間にトランス二重結合をもつ、スフィンゴシン(sphingosine; 1,3-dihydroxy-2-amino-4-octadecene, d18:1)であることが多い。二重結合の飽和したジヒドロスフィンゴシン(dihydrosphingosine/sphinganine, d18:0)もまた少量であるが存在する。また、天然のスフィンゴミエリンの立体配置は、D-erythroであり、炭素骨格2位と3位の炭素に付加したアミド基と水酸基がそれぞれ2S、3Rの配置をとる<ref name=Shapiro>'''Shapiro, D., Flowers, H.M. (1962).'''<br>Studies on Sphingolipids. VII. Synthesis and Configuration of Natural Sphingomyelins. J. Am. Chem. Soc., 84(6), 1047–50. [https://doi.org/10.1021/ja00865a036 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</pubmed></ref>。N-アシル鎖の主要構成種は、飽和直鎖状の長鎖脂肪酸であるパルミチン酸(palmitic acid, C16:0)、ステアリン酸(stearic acid, C18:0)や極長鎖脂肪酸であるリグノセリン酸(lignoceric acid, C24:0)の他、一価不飽和のネルボン酸(nervonic acid, C24:1∆15c)も一般的である<ref name=Lorent2020><pubmed>32367017</pubmed></ref><ref name=Valsecchi2007><pubmed>17093290</pubmed></ref>が、4位の炭素に水酸基が付加したものや、トランス二重結合が完全に飽和したジヒドロスフィンゴミエリンも存在する。表皮角化細胞や男性生殖細胞では、極長鎖よりも長い(C26-C36)超長鎖脂肪酸をもつものが存在する<ref name=Sandhoff2010><pubmed>20035755</pubmed></ref>。
 スフィンゴミエリンの構造は1927年にN-acyl-sphingosine-1-phosphorylcholine (ceramide-1-phosphorylcholine)であることが報告された<ref>'''Pick, L., and Bielschowsky, M. (1927).'''<br>über lipoidzellige Splenomegalie (Typus Niemann-Pick) und amaurotische Idiotie. Klin. Wschr. 6: 1631-1632. </ref>。すなわち、極性頭部であるホスホコリンが、リン酸ジエステル結合によってセラミドの水酸基と縮合した構造をとる('''図1''')。セラミド部分は、長鎖塩基のアミド基に様々な鎖長の脂肪酸がアミド結合した構造(N-アシル鎖)をとり、長鎖塩基は鎖長C18で、4位と5位の間にトランス二重結合をもつ、スフィンゴシン(sphingosine; 1,3-dihydroxy-2-amino-4-octadecene, d18:1)であることが多い。二重結合の飽和したジヒドロスフィンゴシン(dihydrosphingosine/sphinganine, d18:0)もまた少量であるが存在する。また、天然のスフィンゴミエリンの立体配置は、<small>D</small>-erythroであり、炭素骨格2位と3位の炭素に付加したアミド基と水酸基がそれぞれ2S、3Rの配置をとる<ref name=Shapiro>'''Shapiro, D., Flowers, H.M. (1962).'''<br>Studies on Sphingolipids. VII. Synthesis and Configuration of Natural Sphingomyelins. J. Am. Chem. Soc., 84(6), 1047–50. [https://doi.org/10.1021/ja00865a036 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</pubmed></ref>。N-アシル鎖の主要構成種は、飽和直鎖状の長鎖脂肪酸であるパルミチン酸(palmitic acid, C16:0)、ステアリン酸(stearic acid, C18:0)や極長鎖脂肪酸であるリグノセリン酸(lignoceric acid, C24:0)の他、一価不飽和のネルボン酸(nervonic acid, C24:1∆15c)も一般的である<ref name=Lorent2020><pubmed>32367017</pubmed></ref><ref name=Valsecchi2007><pubmed>17093290</pubmed></ref>が、4位の炭素に水酸基が付加したものや、トランス二重結合が完全に飽和したジヒドロスフィンゴミエリンも存在する。表皮角化細胞や男性生殖細胞では、極長鎖よりも長い(C26-C36)超長鎖脂肪酸をもつものが存在する<ref name=Sandhoff2010><pubmed>20035755</pubmed></ref>。


 同じ極性頭部、ホスホコリンを持つグリセロリン脂質、ホスファチジルコリン(PC)と異なり、スフィンゴミエリンは水素結合供与基(2位のアミノ基と3位の水酸基)を有しており(図1)、分子内、分子間で水素結合ネットワークを形成しうる<ref name=Murata2022><pubmed>35791389</pubmed></ref><ref name=Slotte2016><pubmed>26656158</pubmed></ref>。この性質が以下に述べるコレステロールとの相互作用による秩序液体(liquid-ordered (Lo))ドメインの形成において重要である。
 同じ極性頭部、ホスホコリンを持つグリセロリン脂質、ホスファチジルコリン(PC)と異なり、スフィンゴミエリンは水素結合供与基(2位のアミノ基と3位の水酸基)を有しており(図1)、分子内、分子間で水素結合ネットワークを形成しうる<ref name=Murata2022><pubmed>35791389</pubmed></ref><ref name=Slotte2016><pubmed>26656158</pubmed></ref>。この性質が以下に述べるコレステロールとの相互作用による秩序液体(liquid-ordered (Lo))ドメインの形成において重要である。