「スフィンゴミエリン」の版間の差分

46行目: 46行目:
 細胞膜ではスフィンゴミエリンは、外層(outer/ extracellular leaflet)に約90%が分布しているが<ref name=Lorent2020><pubmed>32367017</pubmed></ref><ref name=Murate2015><pubmed>25673880</pubmed></ref>、内層(inner/cytoplasmic leaflet)にも存在し、クラスターを形成している<ref name=Murate2015><pubmed>25673880</pubmed></ref>。この細胞質側のスフィンゴミエリンプールは、細胞膜外層のスフィンゴミエリンが細胞質の可溶性の[[PI(4,5)P2]]結合タンパク質[[末梢髄鞘タンパク質2]] ([[peripheral myelin protein 2]]; [[PMP2]]) 依存的なフリップにより生じる<ref name=Abe2021><pubmed>34758297</pubmed></ref>。細胞膜のスフィンゴミエリンは、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、後期エンドソーム・リソソームにおいて酸性スフィンゴミエリナーゼ(acid sphingomyelinase, aSMase)によって加水分解され、さらなる異化反応が進行する。中性スフィンゴミエリナーゼnSMase2の働きにより生じたセラミドが[[多胞体]]([[mutivesicular body]]; [[MVB]])からのエクソソーム(exosome、細胞間コミュニケーションに働くとされる)の放出のトリガーとなっていることが報告されている<ref name=Trajkovic2008><pubmed>18309083</pubmed></ref>。nSMase2の阻害により、それぞれ神経発達と[[神経変性]]に重要な[[マイクロRNA]]([[miRNA]])や[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]を引き起こす[[プリオン]]タンパク質等を含むエクソソーム分泌が減少する<ref name=Guo2015><pubmed>25505180</pubmed></ref><ref name=Kosaka2010><pubmed>20353945</pubmed></ref>。また、[[バクテリア]]感染細胞において、バクテリアを内包するダメージを受けたリソソームから細胞質側に露出したスフィンゴミエリンがシグナルとなり、[[オートファジー]]による損傷リソソームの処理が開始することが明らかになってきている<ref name=Boyle2023><pubmed>37409490</pubmed></ref><ref name=Ellison2020><pubmed>32649908</pubmed></ref><ref name=Kaur2023><pubmed>37409525</pubmed></ref>。
 細胞膜ではスフィンゴミエリンは、外層(outer/ extracellular leaflet)に約90%が分布しているが<ref name=Lorent2020><pubmed>32367017</pubmed></ref><ref name=Murate2015><pubmed>25673880</pubmed></ref>、内層(inner/cytoplasmic leaflet)にも存在し、クラスターを形成している<ref name=Murate2015><pubmed>25673880</pubmed></ref>。この細胞質側のスフィンゴミエリンプールは、細胞膜外層のスフィンゴミエリンが細胞質の可溶性の[[PI(4,5)P2]]結合タンパク質[[末梢髄鞘タンパク質2]] ([[peripheral myelin protein 2]]; [[PMP2]]) 依存的なフリップにより生じる<ref name=Abe2021><pubmed>34758297</pubmed></ref>。細胞膜のスフィンゴミエリンは、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、後期エンドソーム・リソソームにおいて酸性スフィンゴミエリナーゼ(acid sphingomyelinase, aSMase)によって加水分解され、さらなる異化反応が進行する。中性スフィンゴミエリナーゼnSMase2の働きにより生じたセラミドが[[多胞体]]([[mutivesicular body]]; [[MVB]])からのエクソソーム(exosome、細胞間コミュニケーションに働くとされる)の放出のトリガーとなっていることが報告されている<ref name=Trajkovic2008><pubmed>18309083</pubmed></ref>。nSMase2の阻害により、それぞれ神経発達と[[神経変性]]に重要な[[マイクロRNA]]([[miRNA]])や[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]を引き起こす[[プリオン]]タンパク質等を含むエクソソーム分泌が減少する<ref name=Guo2015><pubmed>25505180</pubmed></ref><ref name=Kosaka2010><pubmed>20353945</pubmed></ref>。また、[[バクテリア]]感染細胞において、バクテリアを内包するダメージを受けたリソソームから細胞質側に露出したスフィンゴミエリンがシグナルとなり、[[オートファジー]]による損傷リソソームの処理が開始することが明らかになってきている<ref name=Boyle2023><pubmed>37409490</pubmed></ref><ref name=Ellison2020><pubmed>32649908</pubmed></ref><ref name=Kaur2023><pubmed>37409525</pubmed></ref>。


==  種類と作用、細胞における機能 ==
==  種類と作用、細胞機能 ==
 スフィンゴイド塩基の分子種は、スフィンゴシン(d18:1) が最も一般的であるが、ジヒドロスフィンゴシン/スフィンガニン(d18:0)もみられる。N-アシル基の脂肪酸としては、パルミチン酸(palmitic acid, C16:0)が哺乳動物末梢細胞では最も多く、極長鎖脂肪酸のリグノセリン酸(lignoceric acid, C24:0)や、一価不飽和のネルボン酸(nervonic acid, C24:1∆15c)も一般的である<ref name=Colbeau1971><pubmed>5134192</pubmed></ref><ref name=Dodge1967><pubmed>6057495</pubmed></ref><ref name=Gerl2012><pubmed>22249292</pubmed></ref><ref name=Keenan1970><pubmed>4312390</pubmed></ref><ref name=Lorent2020><pubmed>32367017</pubmed></ref><ref name=Pfleger1968><pubmed>4299085</pubmed></ref><ref name=Skotland2019><pubmed>31227693</pubmed></ref><ref name=Valsecchi2007><pubmed>17093290</pubmed></ref><ref name=VanHoeven1975><pubmed>164234</pubmed></ref><ref name=Ways1964><pubmed>5873368</pubmed></ref><ref name=Wood1973><pubmed>4359202</pubmed></ref>。神経・脳組織では、ステアリン酸(C18:0)がより一般的である<ref name=O'Brien1965><pubmed>5865383</pubmed></ref><ref name=Valsecchi2007><pubmed>17093290</pubmed></ref>。ブタ脳では、C18:0が45.5%、C24:0が23.3%を占める他、C16:0, C20:0, C22:0, C24:1は各々10%未満の少量である<ref name=Jendrasiak2001><pubmed>11687227</pubmed></ref>。牛乳では、C23:0が32.8%、C24:0が20%、C22:0が19.1%、C16:0が18.5%の他、C14:0、C18:0、C20:0、C24:1は各々10%未満の少量を構成する<ref name=Jendrasiak2001><pubmed>11687227</pubmed></ref>。鶏卵では、C16:0が83.9%を占める他、C18:0、C20:0、C22:0、C24:0は各々10%未満の少量である<ref name=Jendrasiak2001><pubmed>11687227</pubmed></ref>。
 スフィンゴイド塩基の分子種は、スフィンゴシン(d18:1) が最も一般的であるが、ジヒドロスフィンゴシン/スフィンガニン(d18:0)もみられる。N-アシル基の脂肪酸としては、パルミチン酸(palmitic acid, C16:0)が哺乳動物末梢細胞では最も多く、極長鎖脂肪酸のリグノセリン酸(lignoceric acid, C24:0)や、一価不飽和のネルボン酸(nervonic acid, C24:1∆15c)も一般的である<ref name=Colbeau1971><pubmed>5134192</pubmed></ref><ref name=Dodge1967><pubmed>6057495</pubmed></ref><ref name=Gerl2012><pubmed>22249292</pubmed></ref><ref name=Keenan1970><pubmed>4312390</pubmed></ref><ref name=Lorent2020><pubmed>32367017</pubmed></ref><ref name=Pfleger1968><pubmed>4299085</pubmed></ref><ref name=Skotland2019><pubmed>31227693</pubmed></ref><ref name=Valsecchi2007><pubmed>17093290</pubmed></ref><ref name=VanHoeven1975><pubmed>164234</pubmed></ref><ref name=Ways1964><pubmed>5873368</pubmed></ref><ref name=Wood1973><pubmed>4359202</pubmed></ref>。神経・脳組織では、ステアリン酸(C18:0)がより一般的である<ref name=O'Brien1965><pubmed>5865383</pubmed></ref><ref name=Valsecchi2007><pubmed>17093290</pubmed></ref>。ブタ脳では、C18:0が45.5%、C24:0が23.3%を占める他、C16:0, C20:0, C22:0, C24:1は各々10%未満の少量である<ref name=Jendrasiak2001><pubmed>11687227</pubmed></ref>。牛乳では、C23:0が32.8%、C24:0が20%、C22:0が19.1%、C16:0が18.5%の他、C14:0、C18:0、C20:0、C24:1は各々10%未満の少量を構成する<ref name=Jendrasiak2001><pubmed>11687227</pubmed></ref>。鶏卵では、C16:0が83.9%を占める他、C18:0、C20:0、C22:0、C24:0は各々10%未満の少量である<ref name=Jendrasiak2001><pubmed>11687227</pubmed></ref>。


 スフィンゴミエリンの主要な分子種は、上述のように、長鎖塩基部分ではトランスの[[二重結合]]、また飽和N-アシル基を有しており、他のリン脂質と比べ(例えば代表的なリン脂質C16:0/C18:1 PC (POPC)の[[相転移]]温度は約-4°C)、比較的高い相転移温度(C16:0 スフィンゴミエリン, 41°C)を示す<ref name=Bjorkqvist2009><pubmed>19272355</pubmed></ref><ref name=Marsh2013>'''Marsh, D. 2013.'''<br>Handbook of Lipid Bilayers. CRC Press.</ref>。また、コレステロールは、他のリン脂質と比べ、スフィンゴミエリンと高い親和性を示す<ref name=Engberg2016a><pubmed>27508438</pubmed></ref><ref name=Engberg2020><pubmed>32755561</pubmed></ref><ref name=Engberg2016b><pubmed>27074681</pubmed></ref><ref name=Jaikishan2011><pubmed>21515240</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン、不飽和ホスファチジルコリン、コレステロールから構成されるモデル膜は、生理的温度で、スフィンゴミエリンとコレステロールに富んだ[[秩序液体ドメイン]]([[liquid-ordered domain]], [[Lo domain]])と不飽和PCに富んだ[[無秩序液体ドメイン]]([[liquid-disordered domain]], [[Ld domain]])とに相分離する。Loドメインでは、脂質は緊密に充填されつつも流動性を保持した、アシル鎖部分の伸展した厚みのある膜ドメインを形成する一方、Ldドメインでは、脂質は不飽和脂肪酸鎖の配向がランダムな流動性の高い膜ドメインを形成する。このようなコレステロールとの相互作用に起因した膜側方面での相分離は、脂質ラフト仮説の論拠となっており、こうした微小Lo膜ドメインが、タンパク質の輸送、ソーティングやシグナル伝達などの足場として機能すると考えられている<ref name=Levental2020><pubmed>32302547</pubmed></ref><ref name=Lingwood2010><pubmed>20044567</pubmed></ref><ref name=Pabst2024><pubmed>38355393</pubmed></ref><ref name=Simons1997><pubmed>9177342</pubmed></ref><ref name=Simons2000><pubmed>11413487</pubmed></ref>。
 スフィンゴミエリンの主要な分子種は、上述のように、長鎖塩基部分ではトランスの[[二重結合]]、また飽和N-アシル基を有しており、他のリン脂質と比べ(例えば代表的なリン脂質C16:0/C18:1 PC (POPC)の[[相転移]]温度は約-4°C)、比較的高い相転移温度(C16:0 スフィンゴミエリン, 41°C)を示す<ref name=Bjorkqvist2009><pubmed>19272355</pubmed></ref><ref name=Marsh2013>'''Marsh, D. 2013.'''<br>Handbook of Lipid Bilayers. CRC Press.</ref>。また、コレステロールは、他のリン脂質と比べ、スフィンゴミエリンと高い親和性を示す<ref name=Engberg2016a><pubmed>27508438</pubmed></ref><ref name=Engberg2020><pubmed>32755561</pubmed></ref><ref name=Engberg2016b><pubmed>27074681</pubmed></ref><ref name=Jaikishan2011><pubmed>21515240</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン、不飽和ホスファチジルコリン、コレステロールから構成されるモデル膜は、生理的温度で、スフィンゴミエリンとコレステロールに富んだ[[秩序液体ドメイン]]([[liquid-ordered domain]], [[Lo domain]])と不飽和PCに富んだ[[無秩序液体ドメイン]]([[liquid-disordered domain]], [[Ld domain]])とに相分離する。Loドメインでは、脂質は緊密に充填されつつも流動性を保持した、アシル鎖部分の伸展した厚みのある膜ドメインを形成する一方、Ldドメインでは、脂質は不飽和脂肪酸鎖の配向がランダムな流動性の高い膜ドメインを形成する。このようなコレステロールとの相互作用に起因した膜側方面での相分離は、脂質ラフト仮説の論拠となっており、こうした微小Lo膜ドメインが、タンパク質の輸送、ソーティングやシグナル伝達などの足場として機能すると考えられている<ref name=Levental2020><pubmed>32302547</pubmed></ref><ref name=Lingwood2010><pubmed>20044567</pubmed></ref><ref name=Pabst2024><pubmed>38355393</pubmed></ref><ref name=Simons1997><pubmed>9177342</pubmed></ref><ref name=Simons2000><pubmed>11413487</pubmed></ref>。


 ゴルジ体層間の輸送やゴルジ体から小胞体への逆行輸送(retrograde traffic)に働くコートマー[[COPI complex]]のコンポーネントである[[p24]]の膜貫通領域の特異的な配列(VXXTLXXIY)がC18:0スフィンゴミエリンのアシル鎖と相互作用する<ref name=Contreras2012><pubmed>22230960</pubmed></ref>。ゴルジ体膜に比べ[[COPI小胞]]は、スフィンゴミエリンとコレステロールが有意に少ない<ref name=Brugger2000><pubmed>11062253</pubmed></ref>が、この特異的相互作用によりC18:0スフィンゴミエリンがCOPI小胞でp24のオリゴマー状態を制御すると考えられている<ref name=Contreras2012><pubmed>22230960</pubmed></ref>。
 ゴルジ体層間の輸送やゴルジ体から小胞体への[[逆行輸送]](retrograde traffic)に働く[[コートマー]][[COPI complex]]のコンポーネントである[[p24]]の膜貫通領域の特異的な配列(VXXTLXXIY)がC18:0スフィンゴミエリンのアシル鎖と相互作用する<ref name=Contreras2012><pubmed>22230960</pubmed></ref>。ゴルジ体膜に比べ[[COPI小胞]]は、スフィンゴミエリンとコレステロールが有意に少ない<ref name=Brugger2000><pubmed>11062253</pubmed></ref>が、この特異的相互作用によりC18:0スフィンゴミエリンがCOPI小胞でp24のオリゴマー状態を制御すると考えられている<ref name=Contreras2012><pubmed>22230960</pubmed></ref>。


 [[遊走細胞]]では、細胞質物質を内包した[[migrasome]]と呼ばれる膜小胞が遊走方向とは逆向きに進展した[[retraction fibers]]に沿って形成し<ref name=Ma2015><pubmed>25342562</pubmed></ref>、器官形態形成<ref name=Jiang2019><pubmed>31371827</pubmed></ref>、胎生血管新生<ref name=Zhang2022><pubmed>36443426</pubmed></ref>、細胞内[[mRNA]]輸送<ref name=Zhu2021><pubmed>32994478</pubmed></ref>やミトンコンドリア品質管理<ref name=Jiao2021><pubmed>34048705</pubmed></ref>に役割を果たしていると考えられている。このmigrasomeは、初め遊走細胞の進行方向側端にSMS2が蓄積した不動な部位として生成するが、細胞の遊走に伴い、細胞後方からretraction fibersへと成長しながら移動することが報告されている<ref name=Liang2023><pubmed>37488437</pubmed></ref>。Migrasomeはスフィンゴミエリンに富んでおり、SMS2がその合成を担っていると考えられ、併せてCeramide synthase 5 (CerS5)とCERTもmigrasome生成に必要な分子として同定された<ref name=Liang2023><pubmed>37488437</pubmed></ref>。
 [[遊走細胞]]では、細胞質物質を内包した[[migrasome]]と呼ばれる膜小胞が遊走方向とは逆向きに進展した[[retraction fibers]]に沿って形成し<ref name=Ma2015><pubmed>25342562</pubmed></ref>、器官形態形成<ref name=Jiang2019><pubmed>31371827</pubmed></ref>、胎生血管新生<ref name=Zhang2022><pubmed>36443426</pubmed></ref>、細胞内[[mRNA]]輸送<ref name=Zhu2021><pubmed>32994478</pubmed></ref>やミトンコンドリア品質管理<ref name=Jiao2021><pubmed>34048705</pubmed></ref>に役割を果たしていると考えられている。このmigrasomeは、初め遊走細胞の進行方向側端にSMS2が蓄積した不動な部位として生成するが、細胞の遊走に伴い、細胞後方からretraction fibersへと成長しながら移動することが報告されている<ref name=Liang2023><pubmed>37488437</pubmed></ref>。Migrasomeはスフィンゴミエリンに富んでおり、SMS2がその合成を担っていると考えられ、併せて[[セラミド合成酵素5]] ([[ceramide synthase 5]]; [[CerS5]])とCERTもmigrasome生成に必要な分子として同定された<ref name=Liang2023><pubmed>37488437</pubmed></ref>。


 最近になって、細胞質側に提示されたスフィンゴミエリンの生理的機能が報告されている。通常、細胞外側(オルガネラ内腔側)の膜層に存在するスフィンゴミエリンが、細胞質側に露出することにより、シグナルとして機能する。非典型オートファジーであるconjugation of ATG8 to single membranes (CASM)、ではE3リガーゼ複合体が、ダメージを受けた細胞内オルガネラをユビキチン様ATG8/LC3ファミリータンパク質で標識する。このCASMのうち、スフィンゴミエリン特異的な経路STIL (Sphingomyelin-TECPR1-induced LC3 lipidation) <ref name=Figueras-Novoa2024><pubmed>39145464</pubmed></ref>の存在が報告されている。病原体の侵入<ref name=Ellison2020><pubmed>32649908</pubmed></ref>や様々な薬剤(ナノ粒子、トランスフェクション試薬、抗ヒスタミン薬、LLOMe等のリソソーム膜透過化薬、detergents)でダメージを受けたリソソーム膜において、tectonin b-propeller repeat containing 1 (TECPR1)が、細胞質側に露出したスフィンゴミエリンに結合することで、TECPR1-ATG5-ATG12複合体をリソソーム膜にリクルートし、E3リガーゼ活性によりATG8/LC3標識することが報告されている<ref name=Boyle2023><pubmed>37409490</pubmed></ref><ref name=Corkery2023><pubmed>37381828</pubmed></ref><ref name=Kaur2023><pubmed>37409525</pubmed></ref>。この相互作用において、TECPR1 N末のdysferlin (DysF) domainが最小のスフィンゴミエリン結合ドメインである<ref name=Boyle2023><pubmed>37409490</pubmed></ref>。
 最近になって、細胞質側に提示されたスフィンゴミエリンの生理的機能が報告されている。通常、細胞外側(オルガネラ内腔側)の膜層に存在するスフィンゴミエリンが、細胞質側に露出することにより、シグナルとして機能する。非典型オートファジーである[[conjugation of ATG8 to single membranes]] ([[CASM]])、では[[E3リガーゼ]]複合体が、ダメージを受けた細胞内オルガネラを[[ユビキチン]]様[[ATG8]]/[[LC3]]ファミリータンパク質で標識する。このCASMのうち、スフィンゴミエリン特異的な経路[[sphingomyelin-TECPR1-induced LC3 lipidation]] ([[STIL]]) <ref name=Figueras-Novoa2024><pubmed>39145464</pubmed></ref>の存在が報告されている。病原体の侵入<ref name=Ellison2020><pubmed>32649908</pubmed></ref>や様々な薬剤(ナノ粒子、トランスフェクション試薬、[[抗ヒスタミン薬]]、[[LLOMe]]等のリソソーム膜透過化薬、[[界面活性剤]])でダメージを受けたリソソーム膜において、[[tectonin b-propeller repeat containing 1]] ([[TECPR1]])が、細胞質側に露出したスフィンゴミエリンに結合することで、TECPR1-[[ATG5]]-[[ATG12]]複合体をリソソーム膜にリクルートし、E3リガーゼ活性によりATG8/LC3標識することが報告されている<ref name=Boyle2023><pubmed>37409490</pubmed></ref><ref name=Corkery2023><pubmed>37381828</pubmed></ref><ref name=Kaur2023><pubmed>37409525</pubmed></ref>。この相互作用において、TECPR1 N末のdysferlin (DysF) domainが最小のスフィンゴミエリン結合ドメインである<ref name=Boyle2023><pubmed>37409490</pubmed></ref>。


 リソソームに生じた膜ダメージは、Ca2+により活性化されたスクランブラーゼTMEM16Fによる脂質のscramblingを引き起こし、スフィンゴミエリンが細胞質側膜に提示される。さらにスフィンゴミエリンの中性スフィンゴミエリナーゼによるセラミド生成が、ESCRT非依存のリソソーム膜修復機構を誘導する<ref name=Niekamp2022><pubmed>35388011</pubmed></ref>。
 リソソームに生じた膜ダメージは、Ca<sup>2+</sup>により活性化された[[スクランブラーゼ]][[TMEM16F]]による脂質のscramblingを引き起こし、スフィンゴミエリンが細胞質側膜に提示される。さらにスフィンゴミエリンの中性スフィンゴミエリナーゼによるセラミド生成が、[[ESCRT]]非依存のリソソーム膜修復機構を誘導する<ref name=Niekamp2022><pubmed>35388011</pubmed></ref>。


== 疾患との関連 ==
== 疾患との関連 ==