「神経型PASドメインタンパク質」の版間の差分

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== 構造 ==
== 構造 ==
NPASファミリータンパク質は、その機能発現に必須な共通のドメイン構造を有している<ref name=Gu2000><pubmed>10836146</pubmed></ref><ref name=Kewley2004><pubmed>14643885</pubmed></ref>(Gu et al., 2000; Kewley et al., 2004)(図1)。
NPASファミリータンパク質は、その機能発現に必須な共通のドメイン構造を有している<ref name=Gu2000><pubmed>10836146</pubmed></ref><ref name=Kewley2004><pubmed>14643885</pubmed></ref>(Gu et al., 2000; Kewley et al., 2004)(図1)。
1. N末端領域:この領域はメンバー間で多様性が高く、特定の機能は一概には言えないが、転写活性化ドメインの一部や他のタンパク質との相互作用部位を含むことがある。
 
2. bHLH(basic Helix-Loop-Helix)ドメイン:約50アミノ酸からなり、2つの機能的部分に分けられる(図2)。
=== N末端領域 ===
o 塩基性領域(basic region):ドメインのN末端側に位置し、正電荷を持つアミノ酸(リジン、アルギニンなど)に富む。DNAへの直接的な結合を担い、標的遺伝子のプロモーターやエンハンサー領域に存在する特定のコンセンサス配列、主にE-boxと呼ばれる「CANNTG」(NPASファミリーの場合は特にCACGTGが多い)を認識する<ref name=Murre1989><pubmed>2503252</pubmed></ref><ref name=Yutzey1992><pubmed>1329039</pubmed></ref>(Murre et al., 1989; Yutzey & Konieczny 1992)。
 この領域はメンバー間で多様性が高く、特定の機能は一概には言えないが、転写活性化ドメインの一部や他のタンパク質との相互作用部位を含むことがある。
o HLH領域(Helix-Loop-Helix):2つのαヘリックスが柔軟なループ構造で連結された構造。この領域はタンパク質の二量体形成に不可欠である。class I bHLH-PASスーパーファミリーに属するNPASファミリーはそれぞれ、機能的なDNA結合のためにclass II bHLH-PASスーパーファミリーに属するARNT(別名HIF1β)/ARNT2、または、その神経系特異的ホモログであるARNTL(ARNT-like 1、別名BMAL1)/BMAL2と、特異的にヘテロ二量体を形成する<ref name=Swanson1993><pubmed>8287061</pubmed></ref><ref name=Hirose1996><pubmed>8657146</pubmed></ref><ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref>(Swanson & Bradfield, 1993; Hirose et al., 1996; Wu et al., 2016)。
=== basic Helix-Loop-Helix (bHLH)ドメイン ===
PASドメイン(PAS-A, PAS-B):bHLHドメインのC末端側に隣接して、約70アミノ酸からなるPASリピートが2つ(PAS-AとPAS-B)存在する。これらはβシートとαヘリックスからなる特徴的なフォールド構造を形成し、以下の多様な機能を持つ<ref name=Taylor1999><pubmed>10357859</pubmed></ref><ref name=Kewley2004><pubmed>14643885</pubmed></ref>(Taylor & Zhulin, 1999; Kewley et al., 2004)(図2)。
 約50アミノ酸からなり、2つの機能的部分に分けられる(図2)。
o ヘテロ二量体形成の安定化と特異性:Npas1, 3, 4は適切なパートナーであるARNT/ARNT2と、Npas2はBMAL1/BMAL2と選択的に結合することにより、PASドメイン間の相互作用を介してbHLHドメインによる二量体形成を安定化させる<ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref>(Wu et al., 2016)。
==== 塩基性領域(basic region) ====
リガンド結合:PASドメイン内部には疎水性のポケット構造が存在し、低分子リガンドや補因子を結合することができる。特にNPAS2は、そのPAS-Aドメインにヘムを共有結合しており、細胞内のガス状分子(一酸化炭素〔CO〕や酸素〔O2〕)の濃度変化を感知するセンサーとして機能し、リガンド結合状態に応じて転写活性が変化する可能性が強く示唆されている<ref name=Dioum2002><pubmed>12446832</pubmed></ref><ref name=Ascenzi2004><pubmed>15370879</pubmed></ref>(Dioum et al., 2002; Ascenzi et al., 2004)。NPAS1, 3, 4に関しても、PAS-Bドメイン内にリガンド結合ポケットが存在することが結晶構造解析により明らかにされ、内因性リガンドの存在や、これらのポケットを標的とした低分子化合物による機能制御(創薬標的としての可能性)が期待されている<ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref><ref name=Sun2016><pubmed>26987258</pubmed></ref>(Wu et al., 2016; Sun et al., 2022)。
 ドメインのN末端側に位置し、正電荷を持つアミノ酸(リジン、アルギニンなど)に富む。DNAへの直接的な結合を担い、標的遺伝子のプロモーターやエンハンサー領域に存在する特定のコンセンサス配列、主にE-boxと呼ばれる「CANNTG」(NPASファミリーの場合は特にCACGTGが多い)を認識する<ref name=Murre1989><pubmed>2503252</pubmed></ref><ref name=Yutzey1992><pubmed>1329039</pubmed></ref>(Murre et al., 1989; Yutzey & Konieczny 1992)。
o タンパク質間相互作用:リガンド結合部位以外にも、他のシグナル伝達分子やシャペロン(例:HSP90)との相互作用部位として機能することが知られている。
==== HLH領域(Helix-Loop-Helix) ====
 2つのαヘリックスが柔軟なループ構造で連結された構造。この領域はタンパク質の二量体形成に不可欠である。class I bHLH-PASスーパーファミリーに属するNPASファミリーはそれぞれ、機能的なDNA結合のためにclass II bHLH-PASスーパーファミリーに属するARNT(別名HIF1β)/ARNT2、または、その神経系特異的ホモログであるARNTL(ARNT-like 1、別名BMAL1)/BMAL2と、特異的にヘテロ二量体を形成する<ref name=Swanson1993><pubmed>8287061</pubmed></ref><ref name=Hirose1996><pubmed>8657146</pubmed></ref><ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref>(Swanson & Bradfield, 1993; Hirose et al., 1996; Wu et al., 2016)。
 
==== PASドメイン(PAS-A, PAS-B) ====
 bHLHドメインのC末端側に隣接して、約70アミノ酸からなるPASリピートが2つ(PAS-AとPAS-B)存在する。これらはβシートとαヘリックスからなる特徴的なフォールド構造を形成し、以下の多様な機能を持つ<ref name=Taylor1999><pubmed>10357859</pubmed></ref><ref name=Kewley2004><pubmed>14643885</pubmed></ref>(Taylor & Zhulin, 1999; Kewley et al., 2004)(図2)。
 
=== ヘテロ二量体形成の安定化と特異性 ===
 Npas1, 3, 4は適切なパートナーであるARNT/ARNT2と、Npas2はBMAL1/BMAL2と選択的に結合することにより、PASドメイン間の相互作用を介してbHLHドメインによる二量体形成を安定化させる<ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref>(Wu et al., 2016)。
 
=== リガンド結合 ===
 PASドメイン内部には疎水性のポケット構造が存在し、低分子リガンドや補因子を結合することができる。特にNPAS2は、そのPAS-Aドメインにヘムを共有結合しており、細胞内のガス状分子(一酸化炭素〔CO〕や酸素〔O2〕)の濃度変化を感知するセンサーとして機能し、リガンド結合状態に応じて転写活性が変化する可能性が強く示唆されている<ref name=Dioum2002><pubmed>12446832</pubmed></ref><ref name=Ascenzi2004><pubmed>15370879</pubmed></ref>(Dioum et al., 2002; Ascenzi et al., 2004)。NPAS1, 3, 4に関しても、PAS-Bドメイン内にリガンド結合ポケットが存在することが結晶構造解析により明らかにされ、内因性リガンドの存在や、これらのポケットを標的とした低分子化合物による機能制御(創薬標的としての可能性)が期待されている<ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref><ref name=Sun2016><pubmed>26987258</pubmed></ref>(Wu et al., 2016; Sun et al., 2022)。
=== タンパク質間相互作用 ===
 リガンド結合部位以外にも、他のシグナル伝達分子やシャペロン(例:HSP90)との相互作用部位として機能することが知られている。
C末端領域:PAS-BドメインよりもさらにC末端側の領域は、メンバー間で長さや配列の相同性が低いが、多くの場合、転写活性化ドメイン(transactivation domain)または転写抑制ドメインを含んでいる。この領域を介して、CBP/p300のようなヒストンアセチル化酵素(HAT[histone acetyltransferase])を含むコアクチベーター複合体や、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC[histone deacetylase])を含むコリプレッサー複合体と相互作用し、標的遺伝子の転写効率を正または負に精密に調節する<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref><ref name=Luoma2018><pubmed>30509165</pubmed></ref>(Bersten et al., 2013; Luoma & Berry 2018)。
C末端領域:PAS-BドメインよりもさらにC末端側の領域は、メンバー間で長さや配列の相同性が低いが、多くの場合、転写活性化ドメイン(transactivation domain)または転写抑制ドメインを含んでいる。この領域を介して、CBP/p300のようなヒストンアセチル化酵素(HAT[histone acetyltransferase])を含むコアクチベーター複合体や、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC[histone deacetylase])を含むコリプレッサー複合体と相互作用し、標的遺伝子の転写効率を正または負に精密に調節する<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref><ref name=Luoma2018><pubmed>30509165</pubmed></ref>(Bersten et al., 2013; Luoma & Berry 2018)。


機能を発揮する基本的なメカニズムとして、NPASタンパク質は細胞質または核内で、適切なパートナーとヘテロ二量体を形成する<ref name=Greb-Markiewicz2018><pubmed>29899116</pubmed></ref>(Greb-Markiewicz, et al. 2018)。この複合体が核内に移行(または核内で形成)し、標的遺伝子の調節領域に存在するE-box配列に結合することで、リクルートした転写共役因子群とともにクロマチン構造の変化やRNAポリメラーゼIIの動員を介して、転写を活性化または抑制する。
 機能を発揮する基本的なメカニズムとして、NPASタンパク質は細胞質または核内で、適切なパートナーとヘテロ二量体を形成する<ref name=Greb-Markiewicz2018><pubmed>29899116</pubmed></ref>(Greb-Markiewicz, et al. 2018)。この複合体が核内に移行(または核内で形成)し、標的遺伝子の調節領域に存在するE-box配列に結合することで、リクルートした転写共役因子群とともにクロマチン構造の変化やRNAポリメラーゼIIの動員を介して、転写を活性化または抑制する。


== ファミリーメンバー ==
== ファミリーメンバー ==