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== 遺伝子、オーソログ 種間の保存性 ==
== 遺伝子、オーソログ 種間の保存性 ==
ヒトの3種類のssh1, ssh2, ssh3遺伝子は、各々、染色体上の12q24.11, 17q11.2, 11q13.2に位置する。ショウジョウバエではssh遺伝子は一つである。SSHとそのカウンターパートであるLIMKは後生生物から出現する。limkとssh遺伝子はショウジョウバエやウニには存在するが、酵母や線虫には存在しない。酵母や線虫などではコフィリンのリン酸化制御が行われているかは不明である。基質であるコフィリンは真核生物に広く存在し、その生存に必須であるが、そのリン酸化制御は必須ではなく、進化の過程で後生生物以後に獲得されたアクチン骨格の制御機構であると考えられる<ref name=Mizuno2013></ref> <ref name=Ohashi2015></ref> [2][3]。
 ヒトの3種類のssh1, ssh2, ssh3遺伝子は、各々、染色体上の12q24.11, 17q11.2, 11q13.2に位置する。ショウジョウバエではssh遺伝子は一つである。SSHとそのカウンターパートであるLIMKは後生生物から出現する。limkとssh遺伝子はショウジョウバエやウニには存在するが、酵母や線虫には存在しない。酵母や線虫などではコフィリンのリン酸化制御が行われているかは不明である。基質であるコフィリンは真核生物に広く存在し、その生存に必須であるが、そのリン酸化制御は必須ではなく、進化の過程で後生生物以後に獲得されたアクチン骨格の制御機構であると考えられる<ref name=Mizuno2013></ref> <ref name=Ohashi2015></ref> [2][3]。


・組織発現分布
== 組織発現分布 ==
2. SSH1, SSH2, SSH3は全ての組織に発現している。その中で、SSH1は臓器や組織間での差があまりなく、SSH2は神経組織に比較的高く発現している。SSH3は上皮組織に高い発現が見られる<ref name=Ohta2003><pubmed>14531860</pubmed></ref><ref name=Kousaka2008><pubmed>18442045</pubmed></ref>[6][8]。これらの発現パターンから、3つのSSHは、コフィリンの活性化を促す相互補完的な働きをしているとともに、組織、細胞特異的な機能を持つことが推測される。
 SSH1, SSH2, SSH3は全ての組織に発現している。その中で、SSH1は臓器や組織間での差があまりなく、SSH2は神経組織に比較的高く発現している。SSH3は上皮組織に高い発現が見られる<ref name=Ohta2003><pubmed>14531860</pubmed></ref><ref name=Kousaka2008><pubmed>18442045</pubmed></ref>[6][8]。これらの発現パターンから、3つのSSHは、コフィリンの活性化を促す相互補完的な働きをしているとともに、組織、細胞特異的な機能を持つことが推測される。


・細胞内局在
== 細胞内局在 ==
1. SSH1とSSH2はアクチン線維との結合部位が3箇所存在し、細胞内のアクチン骨格、接着斑と共局在する(図2) <ref name=Yamamoto2006><pubmed>16513117</pubmed></ref>[9]。また、SSH1は細胞移動時のラメリポディアに局在する<ref name=Kurita2008></ref> <ref name=Ohta2003></ref><ref name=Nagata-Ohashi2004><pubmed>15159416</pubmed></ref><ref name=Takahashi2017><pubmed>27865840</pubmed></ref> [4][6][10][11]。また、SSH1は、938番目と978番目のセリン残基のリン酸化依存的に14-3-3タンパク質と結合することでアクチン線維から解離し、細胞質に隔離されることが示されている<ref name=Nagata-Ohashi2004></ref> [10]。SSH3は、アクチン線維への結合能を持たず、HeLa細胞に人為的に発現させた場合、細胞質と細胞の辺縁に局在する<ref name=Ohta2003></ref> [6]。SSH2は、精子の先体の形成過程に関与し、円形精子細胞のアクロソーム領域に集積することが示されている<ref name=Xu2023><pubmed> 36942942</pubmed></ref> [12]。
 SSH1とSSH2はアクチン線維との結合部位が3箇所存在し、細胞内のアクチン骨格、接着斑と共局在する(図2) <ref name=Yamamoto2006><pubmed>16513117</pubmed></ref>[9]。また、SSH1は細胞移動時のラメリポディアに局在する<ref name=Kurita2008></ref> <ref name=Ohta2003></ref><ref name=Nagata-Ohashi2004><pubmed>15159416</pubmed></ref><ref name=Takahashi2017><pubmed>27865840</pubmed></ref> [4][6][10][11]。また、SSH1は、938番目と978番目のセリン残基のリン酸化依存的に14-3-3タンパク質と結合することでアクチン線維から解離し、細胞質に隔離されることが示されている<ref name=Nagata-Ohashi2004></ref> [10]。SSH3は、アクチン線維への結合能を持たず、HeLa細胞に人為的に発現させた場合、細胞質と細胞の辺縁に局在する<ref name=Ohta2003></ref> [6]。SSH2は、精子の先体の形成過程に関与し、円形精子細胞のアクロソーム領域に集積することが示されている<ref name=Xu2023><pubmed> 36942942</pubmed></ref> [12]。


・SSHの基質
== 基質 ==
SSH1, SSH2, SSH3は全て、アクチン切断・脱重合因子であるコフィリンの3番目のセリンを脱リン酸化して活性化する。SSH3のコフィリン脱リン酸化活性はSSH1, SSH2に比べて著しく弱い。SSHファミリーは、他にも脱リン酸化するタンパク質が明らかにされている<ref name=Mizuno2013></ref> [2]。SSH1は、LIMK1のキナーゼドメインの活性化ループの508番目のスレオニンを脱リン酸化し、LIMK1の活性を抑制する働きを持つ<ref name=Soosairajah2005><pubmed>15660133</pubmed></ref> [13]。SSH1は、F-アクチンに結合して活性化するため<ref name=Nagata-Ohashi2004></ref> [10]、LIMK1の活性化によるコフィリンのリン酸化に伴うアクチン重合の促進に対し、アクチンの重合度に合わせてコフィリンを活性化するとともにLIMK1の活性を抑制するフィードバック制御機構であると考えられる。SSH1は、他にアクチン結合タンパク質の一つであるCoronin-1Bを脱リン酸化する<ref name=Cai2007><pubmed>17350576</pubmed></ref> [14]。Coronin-1Bは、ラメリポディアにおいてArp2/3複合体に結合してアクチン重合核形成を阻害するが、プロテインキナーゼC (PKC)によって2番目のセリン残基がリン酸化されると、その働きが低下する。SSH1は、このリン酸化されたCoronin-1Bを脱リン酸化・活性化することでArp2/3による過剰な核形成を制限して、単量体アクチンの枯渇を防ぎ、ラメリポディアにおけるアクチンターンオーバーを適切に保ち、その形成と維持に寄与していると考えられる<ref name=Cai2007><pubmed>17350576</pubmed></ref> [14]。また、Coronin-1BはSSH1と結合し、SSH1をラメリポディアに局在化させることでラメリポディアにおけるコフィリンの活性化にも関与している<ref name=Cai2007><pubmed>17350576</pubmed></ref> [14]。しかし、コフィリンをin vitroで脱リン酸化する条件では、SSH1はCoronin-1Bを脱リン酸化しないとの報告もある<ref name=Kurita2008></ref> [4]。また、アルツハイマー病におけるミトコンドリアの損傷による酸化ストレス応答にSSH1が関与することが見出され、SSH1はオートファゴソームの受容体として働くSQSTM1/p62の402番目のセリン残基を脱リン酸化し、損傷ミトコンドリアの除去やNrf2による酸化ストレス応答を抑制することが示されている<ref name=Fang2021></ref> [5](神経疾患との関連の項参照)。
 SSH1, SSH2, SSH3は全て、アクチン切断・脱重合因子であるコフィリンの3番目のセリンを脱リン酸化して活性化する。SSH3のコフィリン脱リン酸化活性はSSH1, SSH2に比べて著しく弱い。SSHファミリーは、他にも脱リン酸化するタンパク質が明らかにされている<ref name=Mizuno2013></ref> [2]。SSH1は、LIMK1のキナーゼドメインの活性化ループの508番目のスレオニンを脱リン酸化し、LIMK1の活性を抑制する働きを持つ<ref name=Soosairajah2005><pubmed>15660133</pubmed></ref> [13]。SSH1は、F-アクチンに結合して活性化するため<ref name=Nagata-Ohashi2004></ref> [10]、LIMK1の活性化によるコフィリンのリン酸化に伴うアクチン重合の促進に対し、アクチンの重合度に合わせてコフィリンを活性化するとともにLIMK1の活性を抑制するフィードバック制御機構であると考えられる。SSH1は、他にアクチン結合タンパク質の一つであるCoronin-1Bを脱リン酸化する<ref name=Cai2007><pubmed>17350576</pubmed></ref> [14]。Coronin-1Bは、ラメリポディアにおいてArp2/3複合体に結合してアクチン重合核形成を阻害するが、プロテインキナーゼC (PKC)によって2番目のセリン残基がリン酸化されると、その働きが低下する。SSH1は、このリン酸化されたCoronin-1Bを脱リン酸化・活性化することでArp2/3による過剰な核形成を制限して、単量体アクチンの枯渇を防ぎ、ラメリポディアにおけるアクチンターンオーバーを適切に保ち、その形成と維持に寄与していると考えられる<ref name=Cai2007><pubmed>17350576</pubmed></ref> [14]。また、Coronin-1BはSSH1と結合し、SSH1をラメリポディアに局在化させることでラメリポディアにおけるコフィリンの活性化にも関与している<ref name=Cai2007><pubmed>17350576</pubmed></ref> [14]。しかし、コフィリンをin vitroで脱リン酸化する条件では、SSH1はCoronin-1Bを脱リン酸化しないとの報告もある<ref name=Kurita2008></ref> [4]。また、アルツハイマー病におけるミトコンドリアの損傷による酸化ストレス応答にSSH1が関与することが見出され、SSH1はオートファゴソームの受容体として働くSQSTM1/p62の402番目のセリン残基を脱リン酸化し、損傷ミトコンドリアの除去やNrf2による酸化ストレス応答を抑制することが示されている<ref name=Fang2021></ref> [5](神経疾患との関連の項参照)。


・SSHの活性制御因子
== 活性制御因子 ==
細胞応答におけるコフィリンのリン酸化の変動の解析やSSH1に対するプロテオミクス解析などから複数のSSHの制御因子や結合因子が同定されている。報告されているものを表1に示す。その中でSSH1とSSH2の主要な制御機構を記す。
細胞応答におけるコフィリンのリン酸化の変動の解析やSSH1に対するプロテオミクス解析などから複数のSSHの制御因子や結合因子が同定されている。報告されているものを表1に示す。その中でSSH1とSSH2の主要な制御機構を記す。
アクチン線維との結合による活性化
=== アクチン線維との結合による活性化 ===
SSH1は、N末端のAドメインがアクチン線維に結合することで1200倍以上活性化する<ref name=Kurita2008></ref><ref name=Nagata-Ohashi2004></ref> [4][10]。SSH1, SSH2において、N末端のAドメインからBドメインにかけては酵素活性部位に対して自己阻害領域として働き、アクチン線維がAドメインと相互作用することによってその阻害が解除されることが示されている<ref name=Kurita2008></ref><ref name=Yang2018></ref><ref name=Takahashi2017></ref> [4][7][11]。
SSH1は、N末端のAドメインがアクチン線維に結合することで1200倍以上活性化する<ref name=Kurita2008></ref><ref name=Nagata-Ohashi2004></ref> [4][10]。SSH1, SSH2において、N末端のAドメインからBドメインにかけては酵素活性部位に対して自己阻害領域として働き、アクチン線維がAドメインと相互作用することによってその阻害が解除されることが示されている<ref name=Kurita2008></ref><ref name=Yang2018></ref><ref name=Takahashi2017></ref> [4][7][11]。
リン酸化による不活性化
リン酸化による不活性化
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3. トリ後根神経節(DRG)細胞の神経突起やラット副腎髄質褐色腫由来のPC12細胞に対するNGFによる神経突起形成において、LIMK1やSSH1、SSH2の発現抑制はどちらも突起伸展を抑制する。また、LIMK1の過剰発現はコフィリンの過度の不活性化により伸展が抑制される<ref name=Endo2003><pubmed>12684437</pubmed></ref><ref name=Endo2007><pubmed>17360713</pubmed></ref> [22][23]。また、マウスDRG細胞に対するセマフォリンによる成長円錐の退縮や大脳皮質細胞に対するミエリン由来のNogo-66による神経突起の退縮の過程では、刺激直後にコフィリンはリン酸化が促進され、その後、SSH1による脱リン酸化が促進することが示されている<ref name=Aizawa2001><pubmed>11276226</pubmed></ref><ref name=Hsieh2006><pubmed>16421320</pubmed></ref> [24][25]。アフリカツメガエルの胚の脊髄神経細胞の初代培養において、培養後初期の4〜8時間ではBMP7の濃度勾配によって神経突起伸展が誘引されるが、一晩培養後の細胞ではBMP7の濃度勾配に対して反発が起こる。初期の突起伸展の誘引はLIMK1に依存しており、一晩培養後の反発への変換にはTRPチャネル依存的なカルシウム流入によるカルシニューリンの活性化、それに続くSSH1の活性化が必要であることが明らかにされた<ref name=Wen2007><pubmed>17606869</pubmed></ref> [26]。微小管関連蛋白質であるneuron navigator 2 (NAV2)のショウジョウバエのホモログであるSickieは、アクチン線維が豊富なキノコ体の神経軸索に局在してRac依存的な軸索の伸長に寄与する。遺伝学的な解析により、SickieはRacの下流で(Pakを介さずに)SSHによるコフィリンの脱リン酸化を促進し、軸索の伸長に寄与することが示された<ref name=Abe2014><pubmed>25411210</pubmed></ref> [27]。一方、RacはPakを介してLIMKを活性化し、コフィリンのリン酸化を促進する働きもある。sickieの変異体ではRacによるSSHの活性化が抑制され、LIMKの活性化だけが促進されるため、コフィリンの過剰なリン酸化が起こり、そのためアクチン線維のダイナミクスが低下し、軸索の伸長が阻害されると考えられる[27]。つまり、LIMKによるコフィリンのリン酸化(不活性化)とSSHによるコフィリンの脱リン酸化(活性化)の両方が軸索の伸長におけるアクチン線維のダイナミクスの制御に必要であり、LIMKとSSHの活性の適切なバランスと時空間的な制御が神経突起の伸長と退縮を決定する要因となっていると考えられる<ref name=Mizuno2013></ref><ref name=Abe2014><pubmed>25411210</pubmed></ref> [2][27]。
3. トリ後根神経節(DRG)細胞の神経突起やラット副腎髄質褐色腫由来のPC12細胞に対するNGFによる神経突起形成において、LIMK1やSSH1、SSH2の発現抑制はどちらも突起伸展を抑制する。また、LIMK1の過剰発現はコフィリンの過度の不活性化により伸展が抑制される<ref name=Endo2003><pubmed>12684437</pubmed></ref><ref name=Endo2007><pubmed>17360713</pubmed></ref> [22][23]。また、マウスDRG細胞に対するセマフォリンによる成長円錐の退縮や大脳皮質細胞に対するミエリン由来のNogo-66による神経突起の退縮の過程では、刺激直後にコフィリンはリン酸化が促進され、その後、SSH1による脱リン酸化が促進することが示されている<ref name=Aizawa2001><pubmed>11276226</pubmed></ref><ref name=Hsieh2006><pubmed>16421320</pubmed></ref> [24][25]。アフリカツメガエルの胚の脊髄神経細胞の初代培養において、培養後初期の4〜8時間ではBMP7の濃度勾配によって神経突起伸展が誘引されるが、一晩培養後の細胞ではBMP7の濃度勾配に対して反発が起こる。初期の突起伸展の誘引はLIMK1に依存しており、一晩培養後の反発への変換にはTRPチャネル依存的なカルシウム流入によるカルシニューリンの活性化、それに続くSSH1の活性化が必要であることが明らかにされた<ref name=Wen2007><pubmed>17606869</pubmed></ref> [26]。微小管関連蛋白質であるneuron navigator 2 (NAV2)のショウジョウバエのホモログであるSickieは、アクチン線維が豊富なキノコ体の神経軸索に局在してRac依存的な軸索の伸長に寄与する。遺伝学的な解析により、SickieはRacの下流で(Pakを介さずに)SSHによるコフィリンの脱リン酸化を促進し、軸索の伸長に寄与することが示された<ref name=Abe2014><pubmed>25411210</pubmed></ref> [27]。一方、RacはPakを介してLIMKを活性化し、コフィリンのリン酸化を促進する働きもある。sickieの変異体ではRacによるSSHの活性化が抑制され、LIMKの活性化だけが促進されるため、コフィリンの過剰なリン酸化が起こり、そのためアクチン線維のダイナミクスが低下し、軸索の伸長が阻害されると考えられる[27]。つまり、LIMKによるコフィリンのリン酸化(不活性化)とSSHによるコフィリンの脱リン酸化(活性化)の両方が軸索の伸長におけるアクチン線維のダイナミクスの制御に必要であり、LIMKとSSHの活性の適切なバランスと時空間的な制御が神経突起の伸長と退縮を決定する要因となっていると考えられる<ref name=Mizuno2013></ref><ref name=Abe2014><pubmed>25411210</pubmed></ref> [2][27]。
スパイン形態の制御
スパイン形態の制御
海馬スライス培養を用いた解析から長期抑制(LTD)の誘導によってスパイン後膜が細長く縮小する形態変化が見出されるが、これに対し、コフィリンのN末端のリン酸化ペプチドを細胞に導入してSSHの活性を抑制するとその形態変化が抑制されることが示された[28]。また、大脳皮質神経細胞や皮質のスライス培養におけるAMPA受容体を介した興奮性シナプス後電流(excitatory postsynaptic current; EPSC)や長期増強(LTP)の発生にSSH1が必要であることが示された<ref name=Yuen2010><pubmed>20442266</pubmed></ref><ref name=Gu2010><pubmed>20835250</pubmed></ref> [29][20]。その分子機構として、SSH1はコフィリンの活性化によるアクチン骨格の再構築を介してAMPA受容体をスパインへ輸送することに寄与することが示されている<ref name=Yuen2010><pubmed>20442266</pubmed></ref><ref name=Gu2010><pubmed>20835250</pubmed></ref> [20][29]。エフリンAはチロシンキナーゼ型受容体のEph Aを介して樹状突起のスパインを細長い形態へと変化させることが見出され、その過程は、Eph Aからのシグナルがカルシニューリンを介したSSH1の活性化とコフィリンの活性化によって引き起こされることが示された<ref name=Zhou2012><pubmed>22282498</pubmed></ref> [30]。また、NMDAの刺激により海馬神経細胞の樹状突起の成熟したマッシュルーム様の形態をしたスパインが縮小するが、これにはβ-アレスチン-2がコフィリンと結合してスパインへコフィリンを輸送することが必要であること、β-アレスチン-2とともにスパインへ移行したSSH1は、コフィリンを脱リン酸化してスパインのリモデリングに寄与することが示された<ref name=Pontrello2012><pubmed> 22308427</pubmed></ref> [31]。
海馬スライス培養を用いた解析から長期抑制(LTD)の誘導によってスパイン後膜が細長く縮小する形態変化が見出されるが、これに対し、コフィリンのN末端のリン酸化ペプチドを細胞に導入してSSHの活性を抑制するとその形態変化が抑制されることが示された<ref name=Zhou2004><pubmed>15572107</pubmed></ref>[28]。また、大脳皮質神経細胞や皮質のスライス培養におけるAMPA受容体を介した興奮性シナプス後電流(excitatory postsynaptic current; EPSC)や長期増強(LTP)の発生にSSH1が必要であることが示された<ref name=Yuen2010><pubmed>20442266</pubmed></ref><ref name=Gu2010><pubmed>20835250</pubmed></ref> [29][20]。その分子機構として、SSH1はコフィリンの活性化によるアクチン骨格の再構築を介してAMPA受容体をスパインへ輸送することに寄与することが示されている<ref name=Yuen2010><pubmed>20442266</pubmed></ref><ref name=Gu2010><pubmed>20835250</pubmed></ref> [20][29]。エフリンAはチロシンキナーゼ型受容体のEph Aを介して樹状突起のスパインを細長い形態へと変化させることが見出され、その過程は、Eph Aからのシグナルがカルシニューリンを介したSSH1の活性化とコフィリンの活性化によって引き起こされることが示された<ref name=Zhou2012><pubmed>22282498</pubmed></ref> [30]。また、NMDAの刺激により海馬神経細胞の樹状突起の成熟したマッシュルーム様の形態をしたスパインが縮小するが、これにはβ-アレスチン-2がコフィリンと結合してスパインへコフィリンを輸送することが必要であること、β-アレスチン-2とともにスパインへ移行したSSH1は、コフィリンを脱リン酸化してスパインのリモデリングに寄与することが示された<ref name=Pontrello2012><pubmed> 22308427</pubmed></ref> [31]。


• 神経細胞以外の細胞応答におけるSSHの機能
• 神経細胞以外の細胞応答におけるSSHの機能
細胞分裂
細胞分裂
細胞分裂の進行において、コフィリンのリン酸化による活性制御が重要な働きを持つことが示されている。コフィリンは、M期前期・中期に高いレベルでリン酸化されており、終期、分裂期に脱リン酸化される。コフィリンのリン酸化レベルの変化に相関して、LIMK1のリン酸化活性は前期・中期で高く、終期・分裂期では低く、SSH1の脱リン酸化活性は前期・中期で低く、終期・分裂期に高くなる[32]。SSH1の働きを抑制すると分裂溝のアクチン線維の収縮が阻害され、分裂の失敗による多核細胞の増加が引き起こされる。SSH1は、前期・中期には高度にリン酸化されており、また、終期・細胞質分裂期には脱リン酸化される。SSH1は終期・細胞質分裂期には収縮環とミッドボディーに局在する。これらを総合すると、SSH1は、M期前期・中期にはリン酸化により活性が抑制されており、終期・細胞質分裂期には脱リン酸化されアクチン線維との結合によって活性化され、コフィリンの脱リン酸化によるアクチン骨格の動態を活発化することで細胞分裂の遂行に寄与すると考えられる<ref name=Kaji2003><pubmed>12807904</pubmed></ref> [32]。
細胞分裂の進行において、コフィリンのリン酸化による活性制御が重要な働きを持つことが示されている。コフィリンは、M期前期・中期に高いレベルでリン酸化されており、終期、分裂期に脱リン酸化される。コフィリンのリン酸化レベルの変化に相関して、LIMK1のリン酸化活性は前期・中期で高く、終期・分裂期では低く、SSH1の脱リン酸化活性は前期・中期で低く、終期・分裂期に高くなる<ref name=Kaji2003><pubmed>12807904</pubmed></ref>[32]。SSH1の働きを抑制すると分裂溝のアクチン線維の収縮が阻害され、分裂の失敗による多核細胞の増加が引き起こされる。SSH1は、前期・中期には高度にリン酸化されており、また、終期・細胞質分裂期には脱リン酸化される。SSH1は終期・細胞質分裂期には収縮環とミッドボディーに局在する。これらを総合すると、SSH1は、M期前期・中期にはリン酸化により活性が抑制されており、終期・細胞質分裂期には脱リン酸化されアクチン線維との結合によって活性化され、コフィリンの脱リン酸化によるアクチン骨格の動態を活発化することで細胞分裂の遂行に寄与すると考えられる<ref name=Kaji2003><pubmed>12807904</pubmed></ref> [32]。
減数分裂
減数分裂
アフリカツメガエルの未熟な卵母細胞は、第一減数分裂前期で停止しており、コフィリンが高度にリン酸化されている。減数分裂が進行する上で、SSHによるコフィリンの脱リン酸化が必要である。その過程で、SSHは、C末端付近が高度にリン酸化され、アクチン線維との親和性を上昇させることでコフィリンの脱リン酸化・活性化を促進し、減数分裂の進行、紡錘体の形成に寄与することが示された<ref name=Iwase2013><pubmed>23615437</pubmed></ref> [33]。前項でSSH1のC末端領域のリン酸化はSSH1を不活性化することを記述したが、アフリカツメガエルのSSHのC末端側の配列は、哺乳類のSSH1, SSH2と相同性が低く、異なる制御を受けていると考えられる<ref name=Iwase2013><pubmed>23615437</pubmed></ref> [33]。
アフリカツメガエルの未熟な卵母細胞は、第一減数分裂前期で停止しており、コフィリンが高度にリン酸化されている。減数分裂が進行する上で、SSHによるコフィリンの脱リン酸化が必要である。その過程で、SSHは、C末端付近が高度にリン酸化され、アクチン線維との親和性を上昇させることでコフィリンの脱リン酸化・活性化を促進し、減数分裂の進行、紡錘体の形成に寄与することが示された<ref name=Iwase2013><pubmed>23615437</pubmed></ref> [33]。前項でSSH1のC末端領域のリン酸化はSSH1を不活性化することを記述したが、アフリカツメガエルのSSHのC末端側の配列は、哺乳類のSSH1, SSH2と相同性が低く、異なる制御を受けていると考えられる<ref name=Iwase2013><pubmed>23615437</pubmed></ref> [33]。