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細 (→活性制御因子) |
細 (→神経細胞以外の細胞応答) |
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== 神経細胞以外の細胞応答 == | == 神経細胞以外の細胞応答 == | ||
3種類のSSHについて遺伝子欠損マウスが作製され、細胞機能の解析に用いられている。うちssh3遺伝子の欠損マウスは正常に発生し、生殖能力にも影響は見られていない<ref name=Kousaka2008></ref> [8]。 | |||
=== 細胞分裂 === | === 細胞分裂 === | ||
細胞分裂の進行において、コフィリンのリン酸化による活性制御が重要な働きを持つことが示されている。コフィリンは、M期前期・中期に高いレベルでリン酸化されており、終期、分裂期に脱リン酸化される。コフィリンのリン酸化レベルの変化に相関して、LIMK1のリン酸化活性は前期・中期で高く、終期・分裂期では低く、SSH1の脱リン酸化活性は前期・中期で低く、終期・分裂期に高くなる<ref name=Kaji2003><pubmed>12807904</pubmed></ref>[32]。SSH1の働きを抑制すると分裂溝のアクチン線維の収縮が阻害され、分裂の失敗による多核細胞の増加が引き起こされる。SSH1は、前期・中期には高度にリン酸化されており、また、終期・細胞質分裂期には脱リン酸化される。SSH1は終期・細胞質分裂期には収縮環とミッドボディーに局在する。これらを総合すると、SSH1は、M期前期・中期にはリン酸化により活性が抑制されており、終期・細胞質分裂期には脱リン酸化されアクチン線維との結合によって活性化され、コフィリンの脱リン酸化によるアクチン骨格の動態を活発化することで細胞分裂の遂行に寄与すると考えられる<ref name=Kaji2003><pubmed>12807904</pubmed></ref> [32]。 | 細胞分裂の進行において、コフィリンのリン酸化による活性制御が重要な働きを持つことが示されている。コフィリンは、M期前期・中期に高いレベルでリン酸化されており、終期、分裂期に脱リン酸化される。コフィリンのリン酸化レベルの変化に相関して、LIMK1のリン酸化活性は前期・中期で高く、終期・分裂期では低く、SSH1の脱リン酸化活性は前期・中期で低く、終期・分裂期に高くなる<ref name=Kaji2003><pubmed>12807904</pubmed></ref>[32]。SSH1の働きを抑制すると分裂溝のアクチン線維の収縮が阻害され、分裂の失敗による多核細胞の増加が引き起こされる。SSH1は、前期・中期には高度にリン酸化されており、また、終期・細胞質分裂期には脱リン酸化される。SSH1は終期・細胞質分裂期には収縮環とミッドボディーに局在する。これらを総合すると、SSH1は、M期前期・中期にはリン酸化により活性が抑制されており、終期・細胞質分裂期には脱リン酸化されアクチン線維との結合によって活性化され、コフィリンの脱リン酸化によるアクチン骨格の動態を活発化することで細胞分裂の遂行に寄与すると考えられる<ref name=Kaji2003><pubmed>12807904</pubmed></ref> [32]。 | ||
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ヒト急性T細胞性白血病細胞株Jurkat細胞に対するSDF-1刺激による細胞遊走では、最初に一過的に全方位にラメリポディアが形成され、その後、徐々にラメリポディアの形成部位が限定され一方向に収束し、細胞は移動極性を獲得して一方向に移動するようになる。この過程で、コフィリンは、刺激後、一過的にリン酸レベルが上昇し、その後、刺激前のレベルまで低下し、その過程はラメリポディア形成の変化と対応する。LIMK1とSSH1の発現抑制の解析から、LIMK1はラメリポディアの突出に必要であり、SSH1はラメリポディアの退縮に必要であるとともに、ラメリポディアの形成部位を一方向に限定する移動極性の形成に必要であることが示された<ref name=Nishita2005><pubmed>16230460</pubmed></ref> [34]。 | ヒト急性T細胞性白血病細胞株Jurkat細胞に対するSDF-1刺激による細胞遊走では、最初に一過的に全方位にラメリポディアが形成され、その後、徐々にラメリポディアの形成部位が限定され一方向に収束し、細胞は移動極性を獲得して一方向に移動するようになる。この過程で、コフィリンは、刺激後、一過的にリン酸レベルが上昇し、その後、刺激前のレベルまで低下し、その過程はラメリポディア形成の変化と対応する。LIMK1とSSH1の発現抑制の解析から、LIMK1はラメリポディアの突出に必要であり、SSH1はラメリポディアの退縮に必要であるとともに、ラメリポディアの形成部位を一方向に限定する移動極性の形成に必要であることが示された<ref name=Nishita2005><pubmed>16230460</pubmed></ref> [34]。 | ||
=== 精子形成 === | === 精子形成 === | ||
SSH2の遺伝子欠損マウスは、精子の先体反応に必要なアクロソームの形成異常により精子形成が不全となりオスの不妊になることが明らかにされた<ref name=Xu2023><pubmed> 36942942</pubmed></ref> [12]。SSH2欠損によるアクロソームの形成不全は、ゴルジ体からの前アクロソーム小胞の移動と融合が停止してしまうことが原因であり、この過程でSSH2によるコフィリンの活性化を介したアクチン骨格の再構築が必要であることが示唆された<ref name=Xu2023><pubmed> 36942942</pubmed></ref> [12]。 | |||
=== 心臓の発生 === | === 心臓の発生 === | ||
ゼブラフィッシュをモデルとした機械刺激応答による心臓の形態形成の制御において、その過程に必要であるビンキュリンの結合タンパク質としてSSH1が同定された<ref name=Fukuda2019><pubmed>31495694</pubmed></ref> [35]。SSH1は、細胞への機械的力負荷に依存してN末端領域でビンキュリンと直接結合し、コフィリンを活性化することが示され、この経路は心筋細胞内の整列したサルコメアの形成に必要であることが示された<ref name=Fukuda2019><pubmed>31495694</pubmed></ref> [35]。 | ゼブラフィッシュをモデルとした機械刺激応答による心臓の形態形成の制御において、その過程に必要であるビンキュリンの結合タンパク質としてSSH1が同定された<ref name=Fukuda2019><pubmed>31495694</pubmed></ref> [35]。SSH1は、細胞への機械的力負荷に依存してN末端領域でビンキュリンと直接結合し、コフィリンを活性化することが示され、この経路は心筋細胞内の整列したサルコメアの形成に必要であることが示された<ref name=Fukuda2019><pubmed>31495694</pubmed></ref> [35]。 | ||
=== | === 血管=== | ||
ssh1遺伝子の欠損マウスは正常に生まれ表現型に異常は見られないが、アンジオテンシン投与による高血圧の誘導における血管のリモデリングにおいて線維化を悪化させることが示された。この知見から、SSH1は血管の炎症時のTGF-βシグナルを抑制し、過剰な線維化を防止する働きがあることが示唆された<ref name=Williams2019><pubmed>30291325</pubmed></ref> [36]。 | ssh1遺伝子の欠損マウスは正常に生まれ表現型に異常は見られないが、アンジオテンシン投与による高血圧の誘導における血管のリモデリングにおいて線維化を悪化させることが示された。この知見から、SSH1は血管の炎症時のTGF-βシグナルを抑制し、過剰な線維化を防止する働きがあることが示唆された<ref name=Williams2019><pubmed>30291325</pubmed></ref> [36]。 | ||
また、アルツハイマー病モデルの症状が緩和されることが示されている<ref name=Cazzaro2023><pubmed> 37463212</pubmed></ref> [37](次項参照) | また、アルツハイマー病モデルの症状が緩和されることが示されている<ref name=Cazzaro2023><pubmed> 37463212</pubmed></ref> [37](次項参照)。 | ||
== 疾患との関わり == | == 疾患との関わり == | ||