「カルシトニン遺伝子関連ペプチド」の版間の差分

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[[ファイル:Hashikawa CGRP Fig1.png|サムネイル|'''図1. カルシトニンとαCGRPの選択的スプライシングの概略図'''<br>CALCA遺伝子には6つのエクソンが含まれており、第4エクソンはカルシトニン、第5エクソンはCGRPをコードしている。選択的スプライシングによって、それぞれ異なるmRNAが生成され、カルシトニンまたはCGRPが翻訳される。 文献<ref name=Sexton1991 />10より改変]]
[[ファイル:Hashikawa CGRP Fig1.png|サムネイル|'''図1. カルシトニンとαCGRPの選択的スプライシングの概略図'''<br>CALCA遺伝子には6つのエクソンが含まれており、第4エクソンはカルシトニン、第5エクソンはCGRPをコードしている。選択的スプライシングによって、それぞれ異なるmRNAが生成され、カルシトニンまたはCGRPが翻訳される。 文献<ref name=Sexton1991 />10より改変]]
== 構造 ==
== 構造 ==
 37個のアミノ酸からなるペプチドであり、最初の7個のアミノ酸がジスルフィド結合により環状構造を形成する。この環状構造がCGRP受容体であるcalcitonin receptor-like receptor (CRLR)の膜貫通ドメインと相互作用し、受容体を活性化する<ref name=Conner2002><pubmed>12196113</pubmed></ref>7。残りのアミノ酸残基、8~37領域も受容体と直接結合するため、ペプチド性受容体拮抗薬としてCGRP (8-37)が用いられる<ref name=Hughes1991><pubmed>1797334</pubmed></ref>8。
 37個のアミノ酸からなる[[ペプチド]]であり、最初の7個の[[アミノ酸]]が[[ジスルフィド結合]]により環状構造を形成する。この環状構造がCGRP受容体である [[カルシトニン受容体様受容体]] ([[calcitonin receptor-like receptor]]; [[CRLR]])の膜貫通ドメインと相互作用し、活性化する<ref name=Conner2002><pubmed>12196113</pubmed></ref>7。残りのアミノ酸残基、8~37領域も受容体と直接結合するため、ペプチド性受容体[[拮抗薬]]としてCGRP (8-37)が用いられる<ref name=Hughes1991><pubmed>1797334</pubmed></ref>8。
 
 CGRPは[[カルシトニン]]、[[アミリン]]、[[アドレノメデュリン]]、[[アドレノメデュリン2]]([[インターメディン]])とともにファミリーを形成している<ref name=Hay2018a><pubmed>29059473</pubmed></ref>9。CGRPには[[αCGRP]]と[[βCGRP]]の2種類のアイソフォームが存在する。αCGRPは中枢および[[末梢神経]]系に多く発現し、[[血管]]拡張作用や、[[神経原性炎症]]([[感覚神経]]が[[炎症]]を促進するメディエーターを放出する)の調節に関与する。一方、βCGRPは主に[[腸管神経系]]に発現しており、[[消化管]]の運動調節に関与すると考えられている。ヒトにおいてはαCGRPとβCGRPは3アミノ酸の違いがあるが、90%の相同性を有し、両者の生理機能に大きな差異はない<ref name=Sexton1991><pubmed>1668388</pubmed></ref>10。
 
 [[CALCA]]遺伝子は[[選択的スプライシング]]を受け、カルシトニンまたはαCGRPのいずれかを産生する。一方、βCGRPは[[CALCB]]遺伝子から転写される。CALCA遺伝子からカルシトニンを生成するにはエクソン4が成熟タンパク質として発現される必要があるが、エクソン5とエクソン6が発現するとαCGRPが生成される('''図1''')。本稿では、特にことわりのない限り「CGRP」はαCGRPを指すものとする。


 CGRPはカルシトニン、アミリン、アドレノメデュリン、アドレノメデュリン2(インターメディン)とともにファミリーを形成している<ref name=Hay2018a><pubmed>29059473</pubmed></ref>9。CGRPにはαCGRPとβCGRPの2種類のアイソフォームが存在する。αCGRPは中枢および末梢神経系に多く発現し、血管拡張作用や、神経原性炎症(感覚神経が炎症を促進するメディエーターを放出する)の調節に関与する。一方、βCGRPは主に腸管神経系に発現しており、消化管の運動調節に関与すると考えられている。ヒトにおいてはαCGRPとβCGRPは3アミノ酸の違いがあるが、90%の相同性を有し、両者の生理機能に大きな差異はない<ref name=Sexton1991><pubmed>1668388</pubmed></ref>10。
CALCA遺伝子は選択的スプライシングを受け、カルシトニンまたはαCGRPのいずれかを産生する。一方、βCGRPはCALCB遺伝子から転写される。CALCA遺伝子からカルシトニンを生成するにはエクソン4が成熟タンパク質として発現される必要があるが、エクソン5とエクソン6が発現するとαCGRPが生成される(図1)。本稿では、特にことわりのない限り「CGRP」はαCGRPを指すものとする。
==組織分布 ==
==組織分布 ==
 CGRPは中枢神経および末梢神経に広く分布している。中枢神経では扁桃体、傍視床下核、青斑核に主に発現するほか、脊髄後角や血管周囲神経、知覚神経にも存在する<ref name=Russo2023><pubmed>36454715</pubmed></ref>11。CGRPの合成は主に三叉神経節細胞および脊髄後根神経節で行われ<ref name=Gibson1984><pubmed>6209366</pubmed></ref>12、無髄C線維の感覚神経中にサブスタンスPと共存することが知られている<ref name=Gibson1984 />12。また、運動神経においてはアセチルコリンの受容体の合成を増加させる栄養因子としての役割が示唆されている<ref name=New1986><pubmed>3490625</pubmed></ref>13。
 CGRPは中枢神経および末梢神経に広く分布している。中枢神経では扁桃体、傍視床下核、青斑核に主に発現するほか、脊髄後角や血管周囲神経、知覚神経にも存在する<ref name=Russo2023><pubmed>36454715</pubmed></ref>11。CGRPの合成は主に三叉神経節細胞および脊髄後根神経節で行われ<ref name=Gibson1984><pubmed>6209366</pubmed></ref>12、無髄C線維の感覚神経中にサブスタンスPと共存することが知られている<ref name=Gibson1984 />12。また、運動神経においてはアセチルコリンの受容体の合成を増加させる栄養因子としての役割が示唆されている<ref name=New1986><pubmed>3490625</pubmed></ref>13。