「カルシトニン遺伝子関連ペプチド」の版間の差分

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 1980年代にはCGRPが[[三叉神経]]で発現していることが明らかとなり<ref name=OConnor1988><pubmed>2470872</pubmed></ref>4、1990年代には、[[片頭痛]]患者の[[唾液]]中にCGRPが多く含まれていることが報告された<ref name=Nicolodi1990><pubmed>1690601</pubmed></ref>5。2000年代に入ると、CGRPの[[静脈]]内投与が片頭痛を誘発することが示され<ref name=Lassen2002><pubmed>11993614</pubmed></ref>6、片頭痛治療薬の標的として注目された。CGRP[[受容体]][[拮抗薬]]([[オルセゲパント]]([[olcegepant]])および[[テルカゲパント]]([[telcagepant]])の開発は、重篤な肝障害の発生により中止されたが、2010年代以降、CGRPまたはその受容体を標的とする[[モノクローナル抗体]]医薬品の開発が進展した。2018年には米国で初のCGRP関連抗体医薬品が承認され、片頭痛治療に貢献している。
 1980年代にはCGRPが[[三叉神経]]で発現していることが明らかとなり<ref name=OConnor1988><pubmed>2470872</pubmed></ref>4、1990年代には、[[片頭痛]]患者の[[唾液]]中にCGRPが多く含まれていることが報告された<ref name=Nicolodi1990><pubmed>1690601</pubmed></ref>5。2000年代に入ると、CGRPの[[静脈]]内投与が片頭痛を誘発することが示され<ref name=Lassen2002><pubmed>11993614</pubmed></ref>6、片頭痛治療薬の標的として注目された。CGRP[[受容体]][[拮抗薬]]([[オルセゲパント]]([[olcegepant]])および[[テルカゲパント]]([[telcagepant]])の開発は、重篤な肝障害の発生により中止されたが、2010年代以降、CGRPまたはその受容体を標的とする[[モノクローナル抗体]]医薬品の開発が進展した。2018年には米国で初のCGRP関連抗体医薬品が承認され、片頭痛治療に貢献している。
[[ファイル:Hashikawa CGRP Fig1.png|サムネイル|'''図1. カルシトニンとαCGRPの選択的スプライシングの概略図'''<br>CALCA遺伝子には6つのエクソンが含まれており、第4エクソンはカルシトニン、第5エクソンはCGRPをコードしている。選択的スプライシングによって、それぞれ異なるmRNAが生成され、カルシトニンまたはCGRPが翻訳される。 文献<ref name=Sexton1991 />10より改変]]
[[ファイル:Hashikawa CGRP Fig1.png|サムネイル|'''図1. カルシトニンとαCGRPの選択的スプライシングの概略図'''<br>CALCA遺伝子には6つのエクソンが含まれており、第4エクソンはカルシトニン、第5エクソンはCGRPをコードしている。選択的スプライシングによって、それぞれ異なるmRNAが生成され、カルシトニンまたはCGRPが翻訳される。 文献<ref name=Sexton1991 />10より改変]]
== 構造 ==


==ファミリー==
 CGRPは[[カルシトニン]]、[[アミリン]]、[[アドレノメデュリン]]、[[アドレノメデュリン2]]([[インターメディン]])とともにファミリーを形成している<ref name=Hay2018a><pubmed>29059473</pubmed></ref>9。
 [[αCGRP]]と[[βCGRP]]の2種類のアイソフォームが存在する。[[CALCA]]遺伝子は[[選択的スプライシング]]を受け、カルシトニンまたはαCGRPのいずれかを産生する。CALCA遺伝子からカルシトニンを生成するにはエクソン4が成熟タンパク質として発現される必要があるが、エクソン5とエクソン6が発現するとαCGRPが生成される('''図1''')。一方、βCGRPは[[CALCB]]遺伝子から転写される。


 37個のアミノ酸からなる[[ペプチド]]であり、最初の7個の[[アミノ酸]][[ジスルフィド結合]]により環状構造を形成する。この環状構造がCGRP受容体である [[カルシトニン受容体様受容体]] ([[calcitonin receptor-like receptor]]; [[CRLR]])の膜貫通ドメインと相互作用し、活性化する<ref name=Conner2002><pubmed>12196113</pubmed></ref>7。残りのアミノ酸残基、8~37領域も受容体と直接結合するため、ペプチド性受容体[[拮抗薬]]としてCGRP (8-37)が用いられる<ref name=Hughes1991><pubmed>1797334</pubmed></ref>8。
 mRNAからヒトでは128アミノ酸からなる[[プレプロCGRP]][[preproCGRP]])と呼ばれる一次産物として合成される。プレプロCGRPはN末端に分泌経路への輸送を指示する[[シグナルペプチド]]を持ち、[[粗面小胞体]]に送り込まれる。シグナルペプチドが[[シグナルペプチダーゼ]]によって切断されると[[プロCGRP]][[proCGRP]])となり、この中には成熟CGRP配列と、その前後のプロセッシングシーケンスが含まれる。プロCGRPは[[ゴルジ装置]]を経て、[[プロホルモン変換酵素]]([[prohormone convertase]])や[[カルボキシペプチダーゼH]]などの酵素によって特定部位で切断され、さらにC末端が[[アミド化]]されて、成熟CGRPが生成される。


==ファミリー==
 αCGRPは中枢および[[末梢神経]]系に多く発現し、[[血管]]拡張作用や、[[神経原性炎症]]([[感覚神経]]が[[炎症]]を促進するメディエーターを放出する)の調節に関与する。一方、βCGRPは主に[[腸管神経系]]に発現しており、[[消化管]]の運動調節に関与すると考えられている。ヒトにおいてはαCGRPとβCGRPは3アミノ酸の違いがあるが、90%の相同性を有し、両者の生理機能に大きな差異はない<ref name=Sexton1991><pubmed>1668388</pubmed></ref>10。本稿では、特にことわりのない限り「CGRP」はαCGRPを指すものとする。
 CGRPは[[カルシトニン]]、[[アミリン]]、[[アドレノメデュリン]]、[[アドレノメデュリン2]]([[インターメディン]])とともにファミリーを形成している<ref name=Hay2018a><pubmed>29059473</pubmed></ref>9。CGRPには[[αCGRP]]と[[βCGRP]]の2種類のアイソフォームが存在する。αCGRPは中枢および[[末梢神経]]系に多く発現し、[[血管]]拡張作用や、[[神経原性炎症]]([[感覚神経]]が[[炎症]]を促進するメディエーターを放出する)の調節に関与する。一方、βCGRPは主に[[腸管神経系]]に発現しており、[[消化管]]の運動調節に関与すると考えられている。ヒトにおいてはαCGRPとβCGRPは3アミノ酸の違いがあるが、90%の相同性を有し、両者の生理機能に大きな差異はない<ref name=Sexton1991><pubmed>1668388</pubmed></ref>10。


 [[CALCA]]遺伝子は[[選択的スプライシング]]を受け、カルシトニンまたはαCGRPのいずれかを産生する。CALCA遺伝子からカルシトニンを生成するにはエクソン4が成熟タンパク質として発現される必要があるが、エクソン5とエクソン6が発現するとαCGRPが生成される('''図1''')。一方、βCGRPは[[CALCB]]遺伝子から転写される。本稿では、特にことわりのない限り「CGRP」はαCGRPを指すものとする。
== 構造 ==
 37個のアミノ酸からなる[[ペプチド]]であり、最初の7個の[[アミノ酸]][[ジスルフィド結合]]により環状構造を形成する。この環状構造がCGRP受容体である [[カルシトニン受容体様受容体]] ([[calcitonin receptor-like receptor]]; [[CRLR]])の膜貫通ドメインと相互作用し、活性化する<ref name=Conner2002><pubmed>12196113</pubmed></ref>7。残りのアミノ酸残基、8~37領域も受容体と直接結合するため、ペプチド性受容体[[拮抗薬]]としてCGRP (8-37)が用いられる<ref name=Hughes1991><pubmed>1797334</pubmed></ref>8。


==組織分布 ==
==組織分布 ==
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=== CGRP受容体 ===
=== CGRP受容体 ===
:'''構造''':CRLR/RMAP1複合体<br>
:'''構造''':CRLR/RMAP1複合体<br>
:'''主な発現部位''':頭蓋内血管<ref name=Eftekhari2013><pubmed>23958278</pubmed></ref><ref name=Edvinsson2010><pubmed>20416945</pubmed></ref>18, 19[[硬膜]]<ref name=Eftekhari2013 /><ref name=Lennerz2008><pubmed>18186028</pubmed></ref>18, 20三叉神経節<ref name=Eftekhari2010><pubmed>20472035</pubmed></ref><ref name=Tajti1999><pubmed>10412842</pubmed></ref><ref name=Eftekhari2015><pubmed>25463029</pubmed></ref>21, 22, 23脳幹<ref name=Tajti2001><pubmed>11422090</pubmed></ref>24、[[三叉神経尾核]]<ref name=Eftekhari2011><pubmed>22074408</pubmed></ref>25、大脳皮質、海馬、小脳<ref name=Eftekhari2011 />25、[[視床核]]、[[視床下核]]、[[視床後部]]<ref name=Sowers2020><pubmed>32750230</pubmed></ref>26、[[三叉神経脊髄路核]]<ref name=Walker2015><pubmed>26125036</pubmed></ref>27、扁桃体<ref name=Nguyen1986><pubmed>3488544</pubmed></ref>28、[[島皮質]]<ref name=Yasui1989><pubmed>2613940</pubmed></ref>29<br>
:'''主な発現部位''':頭蓋内血管<ref name=Eftekhari2013><pubmed>23958278</pubmed></ref><ref name=Edvinsson2010><pubmed>20416945</pubmed></ref>18, 19、[[硬膜]]<ref name=Eftekhari2013 /><ref name=Lennerz2008><pubmed>18186028</pubmed></ref>18, 20、三叉神経節<ref name=Eftekhari2010><pubmed>20472035</pubmed></ref><ref name=Tajti1999><pubmed>10412842</pubmed></ref><ref name=Eftekhari2015><pubmed>25463029</pubmed></ref>21, 22, 23、脳幹<ref name=Tajti2001><pubmed>11422090</pubmed></ref>24、[[三叉神経尾核]]<ref name=Eftekhari2011><pubmed>22074408</pubmed></ref>25、大脳皮質、海馬、小脳<ref name=Eftekhari2011 />25、[[視床核]]、[[視床下核]]、[[視床後部]]<ref name=Sowers2020><pubmed>32750230</pubmed></ref>26、[[三叉神経脊髄路核]]<ref name=Walker2015><pubmed>26125036</pubmed></ref>27、扁桃体<ref name=Nguyen1986><pubmed>3488544</pubmed></ref>28、[[島皮質]]<ref name=Yasui1989><pubmed>2613940</pubmed></ref>29<br>


=== AMY1受容体 ===
=== AMY1受容体 ===