「ERMタンパク質」の版間の差分

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 ERMタンパク質は脳、神経系組織にも発現するが、どのERMタンパク質が発現するかは細胞種や発生段階によって異なる。このような、部位や発生過程における発現の違いが、各ERMタンパク質の生体内での役割の違いに繋がると考えられる。
 ERMタンパク質は脳、神経系組織にも発現するが、どのERMタンパク質が発現するかは細胞種や発生段階によって異なる。このような、部位や発生過程における発現の違いが、各ERMタンパク質の生体内での役割の違いに繋がると考えられる。


 成体脳ではEzrinはおもにアストロサイトや上衣細胞に発現が見られ、アストロサイトでは主にPAP構造に集積する<ref name=Derouiche2001><pubmed>11746770</pubmed></ref> [30]。Radixinは、脳全体でOlig2陽性細胞に発現する<ref name=Persson2013a><pubmed>23440885</pubmed></ref> [31]。アストロサイトのPAP構造にも見られる<ref name=Derouiche2001 /> [30]。また、脳卒中の梗塞周辺組織に見られる活性化ミクログリアにはRadixinが高発現する<ref name=Persson2013a /> [31]。Moesinはおもにミクログリアや血管内皮細胞に発現が見られる<ref name=Johnson2002><pubmed>12111362</pubmed></ref /> [32]。Merlinは、シュワン細胞のほか、ニューロン<ref name=Gronholm2003><pubmed>12896975</pubmed></ref>[33]、アストロサイトやオリゴデンドロサイトで発現が見られる<ref name=Toledo2018><pubmed>29715273</pubmed></ref>[34]。
 成体脳ではEzrinはおもにアストロサイトや上衣細胞に発現が見られ、アストロサイトでは主にPAP構造に集積する<ref name=Derouiche2001><pubmed>11746770</pubmed></ref> [30]。Radixinは、脳全体でOlig2陽性細胞に発現する<ref name=Persson2013a><pubmed>23440885</pubmed></ref> [31]。アストロサイトのPAP構造にも見られる<ref name=Derouiche2001 /> [30]。また、脳卒中の梗塞周辺組織に見られる活性化ミクログリアにはRadixinが高発現する<ref name=Persson2013a /> [31]。Moesinはおもにミクログリアや血管内皮細胞に発現が見られる<ref name=Johnson2002><pubmed>12111362</pubmed></ref>[32]。Merlinは、シュワン細胞のほか、ニューロン<ref name=Gronholm2003><pubmed>12896975</pubmed></ref>[33]、アストロサイトやオリゴデンドロサイトで発現が見られる<ref name=Toledo2018><pubmed>29715273</pubmed></ref>[34]。


 海馬体の歯状回の顆粒細胞層下帯と側脳室周囲の脳室下帯 (SVZ) は、成体における神経新生部位である。このうちSVZで産生された前駆細胞は神経芽細胞に分化して、rostral migration stream (RMS)と呼ばれる移動経路を嗅球まで移動して神経回路に編入される。ここではRadixinは、RMSの神経芽細胞とオリゴデンドロサイト前駆細胞に発現する<ref name=Persson2010><pubmed>20109539</pubmed></ref> [35]。Radixinを特異的に阻害すると、細胞骨格との相互作用が失われて神経芽細胞の移動は傷害される<ref name=Persson2013a /><ref name=Persson2013b><pubmed>24065889</pubmed></ref> [31][36]。一方、Ezrinは神経芽細胞には見られず、RMSを取り囲むアストロサイトに発現する<ref name=Cleary2006><pubmed>16996217</pubmed></ref>[37]。
 海馬体の歯状回の顆粒細胞層下帯と側脳室周囲の脳室下帯 (SVZ) は、成体における神経新生部位である。このうちSVZで産生された前駆細胞は神経芽細胞に分化して、rostral migration stream (RMS)と呼ばれる移動経路を嗅球まで移動して神経回路に編入される。ここではRadixinは、RMSの神経芽細胞とオリゴデンドロサイト前駆細胞に発現する<ref name=Persson2010><pubmed>20109539</pubmed></ref> [35]。Radixinを特異的に阻害すると、細胞骨格との相互作用が失われて神経芽細胞の移動は傷害される<ref name=Persson2013a /><ref name=Persson2013b><pubmed>24065889</pubmed></ref> [31][36]。一方、Ezrinは神経芽細胞には見られず、RMSを取り囲むアストロサイトに発現する<ref name=Cleary2006><pubmed>16996217</pubmed></ref>[37]。
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== 機能 ==
== 機能 ==
  ERMタンパク質は、さまざまな細胞膜タンパク質とアクチン細胞骨格間のクロスリンカーとして、Rho-GTPaseの調節因子として、またPI3キナーゼ (PI3K)-Akt経路などのシグナル伝達に関連するタンパク質の足場タンパク質として働く。これらの機能はがんの浸潤・転移にも密接に関わる。神経系での生理機能については、培養ニューロンや、アストロサイトおよびミクログリア、末梢神経系のシュワン細胞において特徴的な機能が報告されているため、後述する。
 ERMタンパク質は、さまざまな細胞膜タンパク質とアクチン細胞骨格間のクロスリンカーとして、Rho-GTPaseの調節因子として、またPI3キナーゼ (PI3K)-Akt経路などのシグナル伝達に関連するタンパク質の足場タンパク質として働く。これらの機能はがんの浸潤・転移にも密接に関わる。神経系での生理機能については、培養ニューロンや、アストロサイトおよびミクログリア、末梢神経系のシュワン細胞において特徴的な機能が報告されているため、後述する。


=== 細胞膜タンパク質とアクチン細胞骨格間のクロスリンカー ===
=== 細胞膜タンパク質とアクチン細胞骨格間のクロスリンカー ===