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(ページの作成:「アデノシンは、核酸やATPの構成要素として生体内に広く存在し、神経系、循環器系、免疫系などの多様な生理機能に関与する。細胞内外でAMPの脱リン酸化により生成され、主に4種類のGタンパク質共役型受容体(A1、A2A、A2B、A3)を介して作用を発揮する。神経系では神経調節物質として働き、トランスポーターやATP分解を介して細胞間を移動し、低…」) |
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{{box|text= アデノシンは、核酸やATPの構成要素として生体内に広く存在し、神経系、循環器系、免疫系などの多様な生理機能に関与する。細胞内外でAMPの脱リン酸化により生成され、主に4種類のGタンパク質共役型受容体(A1、A2A、A2B、A3)を介して作用を発揮する。神経系では神経調節物質として働き、トランスポーターやATP分解を介して細胞間を移動し、低酸素・虚血時には神経保護にも寄与する。特に睡眠–覚醒調節においては、A2A受容体が重要な役割を果たす。また、カフェインはアデノシン受容体の拮抗薬として短期的覚醒効果を示し、A2A受容体拮抗薬はパーキンソン病治療薬としても応用されている。}} | |||
歴史的経緯 | == 歴史的経緯 == | ||
アデノシンは、アデニン(塩基)とリボース(糖)から構成されるプリンヌクレオシドの一種であり、核酸やアデノシン三リン酸(ATP)などの生体高分子の構成要素である。神経系、循環器系、免疫系など、さまざまな生理機能に関与する生理活性物質として知られている。 | |||
生合成と代謝 | アデノシンの生理作用は1929年、ケンブリッジ大学のDruryとSzent-Gyorgyiにより初めて報告された。彼らは心筋抽出物をイヌに投与し、心拍数の低下を観察、有効成分としてアデノシンを同定した<ref name=Drury1929><pubmed>16994064</pubmed></ref> [1]。その後、1954年にはFeldbergとSherwoodがネコの側脳室にアデノシンを投与し、催眠作用を報告している<ref name=Feldberg1954><pubmed>13131253</pubmed></ref> [2]。 | ||
1970年代には、細胞のcAMP応答性の違いから複数のアデノシン受容体の存在が示唆され<ref name=vanCalker1979><pubmed>228008</pubmed></ref> [3]、1980年代後半にはA1, A2A, A2B, A3という4種類のGタンパク質共役型受容体(GPCR)がクローニングされ、その存在が確立された<ref name=Libert1989><pubmed>2541503</pubmed></ref><ref name=Maenhaut1990><pubmed>2125216</pubmed></ref><ref name=Libert1991><pubmed>1646713</pubmed></ref><ref name=Pierce1992><pubmed>1325798</pubmed></ref><ref name=Zhou1992><pubmed>1323836</pubmed></ref> [4][5][6][7][8]。 | |||
== 生合成と代謝 == | |||
アデノシンは、細胞内外においてアデノシン一リン酸(AMP)が5'-ヌクレオチダーゼにより脱リン酸化されることで生成される<ref name=Latini2001><pubmed>11701750</pubmed></ref>[9]。生成されたアデノシンは、細胞内でアデノシンキナーゼにより再びAMPへとリン酸化され、代謝の恒常性が維持されている。 | |||
また、メチオニン代謝において生成されるS-アデノシルホモシステイン(SAH)もアデノシンの供給源となる。SAHはSAHヒドロラーゼによる可逆的加水分解反応により、アデノシンとホモシステインに分解される。この反応は、心臓組織で活発に行われる<ref name=Deussen1989><pubmed>2778814</pubmed></ref> [10]。 | また、メチオニン代謝において生成されるS-アデノシルホモシステイン(SAH)もアデノシンの供給源となる。SAHはSAHヒドロラーゼによる可逆的加水分解反応により、アデノシンとホモシステインに分解される。この反応は、心臓組織で活発に行われる<ref name=Deussen1989><pubmed>2778814</pubmed></ref> [10]。 | ||
さらに、アデノシンはアデノシンデアミナーゼによって脱アミノ化され、イノシンへと代謝される。 | さらに、アデノシンはアデノシンデアミナーゼによって脱アミノ化され、イノシンへと代謝される。 | ||
受容体 | == 受容体 == | ||
アデノシンは、A1、A2A、A2B、A3の4種類のGタンパク質共役型受容体を介して作用を発揮する。それぞれの受容体は異なる組織分布とシグナル伝達機構を持ち、多様な生理作用を担っている。 | |||
''詳細は[[P1受容体]]を参照'' | |||
== 神経系における作用 == | |||
=== 神経調節物質=== | |||
アデノシンは神経細胞内に存在するが、小胞貯蔵やエキソサイトーシス、シナプス選択的放出といった古典的神経伝達物質の性質を欠くため、一般には神経調節物質に分類される<ref name=Fredholm2005><pubmed>15797469</pubmed></ref> [11]。一方、ラットのシナプス小胞へのアデノシンの局在を示唆する報告もあり、その性質について議論は続いている<ref name=Corti2013><pubmed>24051680</pubmed></ref> [12]。 | |||
アデノシンの細胞間移動には以下の2つの主要経路が存在する。 | |||
* トランスポーター依存性経路<br>核酸トランスポーターを介してアデノシンが輸送される経路で、双方向性の輸送を行う平衡型トランスポーター(Equilibrative Nucleoside Transporter: ENT)と、細胞内への一方向的な輸送を行う濃縮型核酸トランスポーター(Concentrative Nucleoside Transporter: CNT)の2種類に分類される。アデノシン輸送に関するENT1、ENT2、CNT2、CNT3は中枢神経系にも発現している<ref name=PastorAnglada2018><pubmed>29962948</pubmed></ref> [13]。 | |||
* ATP分解由来経路<br>細胞外に放出されたATPが段階的に加水分解され、ADP、AMPを経てアデノシンが生成される。この経路で生成されたアデノシンは、シナプス前部または後部の受容体に作用する。 | |||
低酸素状態や虚血時にはATP分解が亢進し、細胞外アデノシン濃度が顕著に上昇する。ATPはアデノシンの約1万倍の濃度で存在するため、その変換過程によりアデノシン濃度が大きく変動し、神経活動の抑制および神経保護作用をもたらす。 | |||
=== 睡眠・覚醒の調節 === | |||
アデノシンは睡眠覚醒の制御においても重要な役割を果たす。覚醒状態が持続すると、特に前脳基底部において細胞外アデノシン濃度が上昇する<ref name=PorkkaHeiskanen1997><pubmed>9157887</pubmed></ref><ref name=Peng2020><pubmed>32883833</pubmed></ref> [14][15]。睡眠物質としてのアデノシンの供給源は明確ではないが、神経やアストロサイトの活動により細胞外アデノシンが増加する<ref name=Roy2024><pubmed>38688901</pubmed></ref> [16]。また、アデノシンはプロスタグランジンD2による睡眠誘導経路の下流でも機能する<ref name=Mizoguchi2001><pubmed>11562489</pubmed></ref><ref name=Satoh1996><pubmed>8650205</pubmed></ref> [17][18]。アデノシンはA1受容体もしくはA2A受容体を介して睡眠を促進する<ref name=Satoh1996><pubmed>8650205</pubmed></ref><ref name=Oishi2008><pubmed>19066225</pubmed></ref> [18][19]。特に、側坐核に局在するA2A受容体は、モチベーションによる睡眠覚醒調節やカフェインによる覚醒亢進において重要な役割を担うと考えられている<ref name=Roy2024><pubmed>38688901</pubmed></ref><ref name=Oishi2017><pubmed>28963505</pubmed></ref><ref name=Lazarus2011><pubmed>21734299</pubmed></ref> [16][20][21]。 | |||
=== カフェインとの関係 === | |||
1. | カフェインはアデノシン受容体の拮抗薬として作用し、特に側坐核のA2A受容体に競合的に結合することで、アデノシンの睡眠促進作用を阻害し、一時的な覚醒効果をもたらす<ref name=Lazarus2011><pubmed>21734299</pubmed></ref><ref name=Fredholm1979>'''Fredholm, B.B. (1979).'''<br>Are methylxanthine effects due to antagonism of endogenous adenosine? Trends in pharmacological sciences (Regular ed.) 1 (1), 129-132. https://doi.org/10.1016/0165-6147(79)90046-4</ref><ref name=Huang2005><pubmed>15965471</pubmed></ref> [21][22][23]。このため、カフェインは日常的に覚醒促進や集中力向上を目的として摂取されている。 | ||
また、カフェイン摂取がパーキンソン病の罹患リスクを低下させるという疫学的報告もあり<ref name=Ross2000><pubmed>10819950</pubmed></ref><ref name=Ascherio2001><pubmed>11456310</pubmed></ref><ref name=Ascherio2004><pubmed>15522854</pubmed></ref><ref name=Hu2007><pubmed>17712848</pubmed></ref> [24][25][26][27]、これを背景にA2A受容体拮抗薬「イストラデフィリン」が開発された。同薬は、協和キリン株式会社により製品化され、2013年に「ノウリアスト」として承認・実用化されている<ref name=Saki2013><pubmed>23812646</pubmed></ref> [28]。 | |||
==関連項目== | |||
* [[P1受容体]] | |||
* [[カフェイン]] | |||
==参考文献== | |||