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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0080134 田畑 秀典]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0080134 田畑 秀典]、[https://researchmap.jp/nagata 永田 浩一]</font><br> | ||
''愛知県医療療育総合センター 発達障害研究所 分子病態研究部''<br> | ''愛知県医療療育総合センター 発達障害研究所 分子病態研究部''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年4月17日 原稿完成日:2025年8月17日<br> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年4月17日 原稿完成日:2025年8月17日<br> | ||
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MAGIファミリー分子はN末端側から1個のPDZドメイン、GuKドメイン、2個のWWドメイン、5個のPDZドメインが連なる細胞内足場タンパク質で、細胞接着やシグナル伝達の場で様々な分子と相互作用する。MAGIファミリーは、それが属するより上位のMAGUKファミリーの他の分子と比較して、以下の2つの特徴がある('''図1''')。 | MAGIファミリー分子はN末端側から1個のPDZドメイン、GuKドメイン、2個のWWドメイン、5個のPDZドメインが連なる細胞内足場タンパク質で、細胞接着やシグナル伝達の場で様々な分子と相互作用する。MAGIファミリーは、それが属するより上位のMAGUKファミリーの他の分子と比較して、以下の2つの特徴がある('''図1''')。 | ||
#MAGUKファミリー分子は一般的にN末端側にタンデムに並ぶPDZドメイン、C末端側にGuKドメインが配置するが、MAGIではこれが逆転している。 | #MAGUKファミリー分子は一般的にN末端側にタンデムに並ぶPDZドメイン、C末端側にGuKドメインが配置するが、MAGIではこれが逆転している。 | ||
# | #他のMAGUKファミリーにはGuKドメインとPDZドメインの間に1個のSH2ドメインがあるが、MAGIにはそれが無く、代わりにWWドメインが存在する。 | ||
PDZドメインとWWドメインは他のタンパク質との結合部位となっている。GuKドメインは酵母のグアニル酸キナーゼとの相同性から名付けられたが、MAGUKファミリーの同ドメインには酵素活性は無く、やはり他のタンパク質との結合部位となっている<ref name=Zhu2011><pubmed>22117215</pubmed></ref> [5]。 | PDZドメインとWWドメインは他のタンパク質との結合部位となっている。GuKドメインは酵母のグアニル酸キナーゼとの相同性から名付けられたが、MAGUKファミリーの同ドメインには酵素活性は無く、やはり他のタンパク質との結合部位となっている<ref name=Zhu2011><pubmed>22117215</pubmed></ref> [5]。 | ||
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MAGIは足場タンパク質として機能し、結合する相手によって多様な役割を果たす。 | MAGIは足場タンパク質として機能し、結合する相手によって多様な役割を果たす。 | ||
=== 神経系 === | === 神経系 === | ||
MAGI1~ | MAGI1~3は神経細胞のサブタイプ特異的に発現し、シナプスに集積する。MAGI2はGuKドメインを介してDLGAP1と結合し、PSDに取り込まれる。MAGI2はさらにPDZ1ドメインを介してニューロリギン-1と、PDZ5ドメインを介してNMDA受容体と結合し、これらをPSDにリクルートする<ref name=Hirao1998><pubmed>9694864</pubmed></ref> [3]。樹状突起スパインの形態に関しては、MAGI2 KOマウスの海馬初代培養で、野生型よりも長くなることが観察されている<ref name=Iida2007><pubmed>17438139</pubmed></ref> [23]。MAGI1の軸索伸長への役割が報告されている。NGF刺激によって誘導されるPC12細胞の軸索伸長は、MAGI1のノックダウンによって阻害される。MAGI1は神経成長因子(NGF)受容体であるp75NTRとPDZ0ドメインを介して結合し、同時にPDZ4/5ドメインにShcをリクルートしてその活性化に寄与し、突起伸長を促す<ref name=Ito2013><pubmed>23769981</pubmed></ref> [24]。 | ||
=== 腎臓糸球体上皮細胞における細胞接着 === | === 腎臓糸球体上皮細胞における細胞接着 === | ||
MAGIの上皮系細胞における細胞間接着の役割は、糸球体上皮細胞(ポドサイト)において、良く研究されている。糸球体上皮細胞は、毛細血管壁の基底膜に足突起を伸ばし、隣接する細胞の足突起と指を組み合うようにはまり込み、隙間無く毛細血管を取り巻く。足突起同士は、タイトジャンクションによって結合しており、血液からのタンパク質の漏出を防いでいる。MAGI1は、このタイトジャンクションにおいて、PDZ4ドメインを介して接着分子のJAM- | MAGIの上皮系細胞における細胞間接着の役割は、糸球体上皮細胞(ポドサイト)において、良く研究されている。糸球体上皮細胞は、毛細血管壁の基底膜に足突起を伸ばし、隣接する細胞の足突起と指を組み合うようにはまり込み、隙間無く毛細血管を取り巻く。足突起同士は、タイトジャンクションによって結合しており、血液からのタンパク質の漏出を防いでいる。MAGI1は、このタイトジャンクションにおいて、PDZ4ドメインを介して接着分子のJAM-4と、またPDZ3ドメインを介して別の接着分子のネフリンと結合する。この接着複合体は、さらにZO-1やオクルーディンをその場にリクルートし、強固なバリア機能を実現している<ref name=Hirabayashi2003><pubmed>12773569</pubmed></ref><ref name=Ni2016><pubmed>27707879</pubmed></ref><ref name=Weng2018><pubmed>30006415</pubmed></ref>[11,13,14]。 | ||
さらにMAGI1は、WW2ドメイン、およびPDZ5ドメインを介してアクチン結合タンパク質であるシナプトポディン、および𝛼-アクチニン-4とそれぞれ結合し、これらをタイトジャンクションに局在させる<ref name=Patrie2002><pubmed>12042308</pubmed></ref> [15]。これらは糸球体上皮細胞の極性や複雑な足突起形成に働くとされている。MAGI2のノックアウト(KO)マウスは糸球体症を発症する。またMAGI1のKOマウスはそれだけでは腎機能に変化が無いが、さらにNephrin null遺伝子座がヘテロで加わると糸球体症を発症する<ref name=Balbas2014><pubmed>25271328</pubmed></ref><ref name=Ihara2014><pubmed>25108225</pubmed></ref> [16,17]。 | |||
=== 癌抑制遺伝子 === | === 癌抑制遺伝子 === | ||
様々な癌においてMAGI1~3の発現が低下していることが観察されている<ref name=Kotelevets2021><pubmed>34503076</pubmed></ref><ref name=Wörthmüller2021><pubmed>34198584</pubmed></ref>[18,19]。MAGIはアドへレンスジャンクションの安定化に寄与しており、これが低下することで、癌の増殖や浸潤性が亢進される。アドヘレンスジャンクションにおいて、MAGIはそのPDZ5ドメインを介してE-カドヘリンを中心とした接着複合体のβ-カテニンに結合し、細胞間接着を安定化させる。MAGIは同時にPDZ2ドメインを介してPTENをその場にリクルートし、PTENの脱リン酸化活性によりAKTやGEFを不活性化し、細胞の浸潤性を抑制する<ref name=Ma2015><pubmed> 26248734 </pubmed></ref><ref name=Hu2007><pubmed>17880912</pubmed></ref><ref name=Kotelevets2005><pubmed>15629897</pubmed></ref>[20–22]。このような生化学的機能は、MAGI1~3に共通して見られる。逆にMAGIの低下は、Wnt/β-カテニンシグナルを増強し、腫瘍化を促進する。 | 様々な癌においてMAGI1~3の発現が低下していることが観察されている<ref name=Kotelevets2021><pubmed>34503076</pubmed></ref><ref name=Wörthmüller2021><pubmed>34198584</pubmed></ref>[18,19]。MAGIはアドへレンスジャンクションの安定化に寄与しており、これが低下することで、癌の増殖や浸潤性が亢進される。アドヘレンスジャンクションにおいて、MAGIはそのPDZ5ドメインを介してE-カドヘリンを中心とした接着複合体のβ-カテニンに結合し、細胞間接着を安定化させる。MAGIは同時にPDZ2ドメインを介してPTENをその場にリクルートし、PTENの脱リン酸化活性によりAKTやGEFを不活性化し、細胞の浸潤性を抑制する<ref name=Ma2015><pubmed> 26248734 </pubmed></ref><ref name=Hu2007><pubmed>17880912</pubmed></ref><ref name=Kotelevets2005><pubmed>15629897</pubmed></ref>[20–22]。このような生化学的機能は、MAGI1~3に共通して見られる。逆にMAGIの低下は、Wnt/β-カテニンシグナルを増強し、腫瘍化を促進する。 | ||