41
回編集
Katsuhikotabuchi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
Katsuhikotabuchi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
||
16行目: | 16行目: | ||
'''Neurexin/Neuroligin''' | '''Neurexin/Neuroligin''' | ||
Neurexinは、シナプス前終末に局在する1回膜貫通型タンパク質で、哺乳類では3種類の遺伝子が存在する(NRXN1, NRXN2, NRXN3)。それぞれの遺伝子は、上流にあるプロモーターによって転写されるα-Neurexinと、遺伝子の中ほどにあるプロモーターによって転写されるβ-Neurexinの二つのアイソフォームを産生する。α-Neurexinは、細胞外領域に6個のLNS ドメインと、3個のEGF様リピートを持ち、細胞内領域は短く、C末にPDZ結合配列を有し、これを介してCASKと結合する。β-Neurexinは、α-Neurexinのうち、1-5番目のLNSドメインと3個のEGF様リピートを欠く構造になっており、N末に短いβ-Neurexin特有の配列を持つ以外は、α-Neurexinの6番目のLNSドメインからC末にかけて共通の配列を有している。Neurexinタンパク質はシナプス後終末にも局在するという報告もあるが、議論が分かれている | Neurexinは、シナプス前終末に局在する1回膜貫通型タンパク質で、哺乳類では3種類の遺伝子が存在する(NRXN1, NRXN2, NRXN3)。それぞれの遺伝子は、上流にあるプロモーターによって転写されるα-Neurexinと、遺伝子の中ほどにあるプロモーターによって転写されるβ-Neurexinの二つのアイソフォームを産生する。α-Neurexinは、細胞外領域に6個のLNS ドメインと、3個のEGF様リピートを持ち、細胞内領域は短く、C末にPDZ結合配列を有し、これを介してCASKと結合する。β-Neurexinは、α-Neurexinのうち、1-5番目のLNSドメインと3個のEGF様リピートを欠く構造になっており、N末に短いβ-Neurexin特有の配列を持つ以外は、α-Neurexinの6番目のLNSドメインからC末にかけて共通の配列を有している。Neurexinタンパク質はシナプス後終末にも局在するという報告もあるが、議論が分かれている<ref><pubmed> 2839889</pubmed></ref>。 | ||
Neuroliginは、β-Neurexinとカルシウム依存的に結合する分子として単離された1回膜貫通型タンパク質で、シナプス後終末特異的に局在する。ヒトでは5種類の遺伝子が存在する(NLGN1, NLGN2, NLGN3, NLGN4X, NLGN4Y)が、げっ歯類ではNLGN4Yに相当するものは確認されていない。Neuroliginは、細胞外領域にアセチルコリンエステラーゼ様ドメインと、細胞内領域にNeurexinとは異なるクラスのPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合する。Neuroliginのシナプスにおける機能は、各アイソフォームで異なる。NLGN1は、興奮性シナプス後終末に局在し、欠損マウスでNMDA受容体を介したシナプス伝達の異常をきたす。一方、NLGN2は、抑制性シナプス後終末に局在し、欠損マウスでGABA受容体を介したシナプス伝達の異常をきたす。NLGN3は興奮性・抑制性両方のシナプス後終末に局在するが、欠損マウスで明確なシナプス異常は見られない。NLGN4* (げっ歯類のNLGN4は本当にヒトのNLGN4Xの相同分子か議論の余地が残る)は、グリシン作動性抑制性シナプスとの関連が示唆されている。 | Neuroliginは、β-Neurexinとカルシウム依存的に結合する分子として単離された1回膜貫通型タンパク質で、シナプス後終末特異的に局在する。ヒトでは5種類の遺伝子が存在する(NLGN1, NLGN2, NLGN3, NLGN4X, NLGN4Y)が、げっ歯類ではNLGN4Yに相当するものは確認されていない。Neuroliginは、細胞外領域にアセチルコリンエステラーゼ様ドメインと、細胞内領域にNeurexinとは異なるクラスのPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合する。Neuroliginのシナプスにおける機能は、各アイソフォームで異なる。NLGN1は、興奮性シナプス後終末に局在し、欠損マウスでNMDA受容体を介したシナプス伝達の異常をきたす。一方、NLGN2は、抑制性シナプス後終末に局在し、欠損マウスでGABA受容体を介したシナプス伝達の異常をきたす。NLGN3は興奮性・抑制性両方のシナプス後終末に局在するが、欠損マウスで明確なシナプス異常は見られない。NLGN4* (げっ歯類のNLGN4は本当にヒトのNLGN4Xの相同分子か議論の余地が残る)は、グリシン作動性抑制性シナプスとの関連が示唆されている。 | ||
22行目: | 22行目: | ||
NeurexinとNeuroliginの結合:NeurexinとNeuroliginは、シナプス間隙において、互いの細胞外ドメインを介して結合する。結合様式としては、Neuroliginがシナプス後終末にcis 2量体として存在し、それぞれのアセリルコリンエステラーゼ様ドメインに、シナプス前終末側から伸びてきたNeurexinのLNSドメインが、カルシウムイオンを介して1つずつ結合し、ヘテロ4量複合体を形成する。Neurexinの第4選択的スプライスサイトがこの結合の特異性を制御している。NeurexinとNeuroliginの結合は、シナプスの結合よりも、成熟により関与していると考えられている。Neurexin、Neurolignが細胞内でどのようなシグナル伝達に関与しているかは今のところ殆どわかっていない。 | NeurexinとNeuroliginの結合:NeurexinとNeuroliginは、シナプス間隙において、互いの細胞外ドメインを介して結合する。結合様式としては、Neuroliginがシナプス後終末にcis 2量体として存在し、それぞれのアセリルコリンエステラーゼ様ドメインに、シナプス前終末側から伸びてきたNeurexinのLNSドメインが、カルシウムイオンを介して1つずつ結合し、ヘテロ4量複合体を形成する。Neurexinの第4選択的スプライスサイトがこの結合の特異性を制御している。NeurexinとNeuroliginの結合は、シナプスの結合よりも、成熟により関与していると考えられている。Neurexin、Neurolignが細胞内でどのようなシグナル伝達に関与しているかは今のところ殆どわかっていない。 | ||
近年、Neurexinのリガンドとして、Neuroligin以外に、LRRTMやCbln1が同定されている。また、NeruexinおよびNeuroliginは自閉症との関連が示唆されており、自閉症患者から見つかったNeurolign-3の変異を導入したマウスで、社会行動の異常が起こることが確認されている | 近年、Neurexinのリガンドとして、Neuroligin以外に、LRRTMやCbln1が同定されている。また、NeruexinおよびNeuroliginは自閉症との関連が示唆されており、自閉症患者から見つかったNeurolign-3の変異を導入したマウスで、社会行動の異常が起こることが確認されている<ref><pubmed> 3235367</pubmed></ref>。 | ||
40行目: | 40行目: | ||
LAR-type RPTPs (receptor phosphor-tyrosine phosphatase)には、LAR (leukocyte-associated receptor), RPTPσ, RPTPδがある。これらの細胞外領域は、3つのIgドメインと8つのfibronectin type III repeatからなる。LAR-type RPTPsは細胞内でα-liprinとの結合を介してシナプス形成を起こすと考えられている。細胞外の結合相手としてNGL (netrin-G ligands)と、neurotrophin 受容体のTrkCが知られており、これらのことからRPTPsがシナプス前終末で機能していることが示唆される。 | LAR-type RPTPs (receptor phosphor-tyrosine phosphatase)には、LAR (leukocyte-associated receptor), RPTPσ, RPTPδがある。これらの細胞外領域は、3つのIgドメインと8つのfibronectin type III repeatからなる。LAR-type RPTPsは細胞内でα-liprinとの結合を介してシナプス形成を起こすと考えられている。細胞外の結合相手としてNGL (netrin-G ligands)と、neurotrophin 受容体のTrkCが知られており、これらのことからRPTPsがシナプス前終末で機能していることが示唆される。 | ||
NCAM/L1ファミリーもシナプス形成や機能獲得に関与していることが知られるIgドメインタンパク質である。NCAMはシナプス前終末で神経筋接合部の形成、特にリリースサイトの分布を制御したり、シナプス小胞のリサイクルの機能の成熟に重要な役割を果たしていることが知られている。シナプス後終末では、NCAMがクラスタリングすることにより細胞骨格の足場タンパク質が集積し、LTPの形成に寄与していると考えられている | NCAM/L1ファミリーもシナプス形成や機能獲得に関与していることが知られるIgドメインタンパク質である。NCAMはシナプス前終末で神経筋接合部の形成、特にリリースサイトの分布を制御したり、シナプス小胞のリサイクルの機能の成熟に重要な役割を果たしていることが知られている。シナプス後終末では、NCAMがクラスタリングすることにより細胞骨格の足場タンパク質が集積し、LTPの形成に寄与していると考えられている <ref><pubmed> 8816705</pubmed></ref> 。 | ||
SidekickやDscamは、網膜においてシナプス形成の位置決定に関与していることが知られている。C. elegansのSyg-1とSyg-2は、1個のニューロン内でシナプスが形成される位置をガイドする役割を果たしている。 | SidekickやDscamは、網膜においてシナプス形成の位置決定に関与していることが知られている。C. elegansのSyg-1とSyg-2は、1個のニューロン内でシナプスが形成される位置をガイドする役割を果たしている。 | ||
47行目: | 47行目: | ||
'''LRR (leucine-rich repeat)タンパク質''' | '''LRR (leucine-rich repeat)タンパク質''' | ||
LRRTMs (leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins)は、細胞外領域に10個のLRRを持つ1回膜貫通型タンパク質で、細胞内領域にclass I PDZ結合配列を有する。哺乳類では4つの遺伝子が知られている(LRRTM1-4)。Neurexinと第4選択的スプライスサイト 依存的に結合し、Neuroliginとともに、Neurexinを介したシナプス成熟因子として注目されている。Neuroliginがシナプス成熟の比較的後期に働くのに対してLRRTMは、シナプス形成期から成熟初期に働いていると考えられているが、LRRTM1の単独ノックアウトマウス、LRRTMの複数のアイソフォームの同時ノックダウンで、明確なシナプスの数の減少は見られない(ただしLRRTM2単独のshRNAのノックダウンでシナプスの数が減少する報告もある | LRRTMs (leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins)は、細胞外領域に10個のLRRを持つ1回膜貫通型タンパク質で、細胞内領域にclass I PDZ結合配列を有する。哺乳類では4つの遺伝子が知られている(LRRTM1-4)。Neurexinと第4選択的スプライスサイト 依存的に結合し、Neuroliginとともに、Neurexinを介したシナプス成熟因子として注目されている。Neuroliginがシナプス成熟の比較的後期に働くのに対してLRRTMは、シナプス形成期から成熟初期に働いていると考えられているが、LRRTM1の単独ノックアウトマウス、LRRTMの複数のアイソフォームの同時ノックダウンで、明確なシナプスの数の減少は見られない(ただしLRRTM2単独のshRNAのノックダウンでシナプスの数が減少する報告もある<ref><pubmed> 2829666</pubmed></ref> )。LRRTMsは興奮性シナプス特異的に機能していると考えられており、ノックアウトマウスやノックダウンニューロンでAMPA受容体を介したシナプス伝達の異常が認められる。もともとLRRTMsのシナプス形成能は、artificial synapse formation assay のスクリーニングで見出された<ref><pubmed> 2746109</pubmed></ref>。 | ||
SALMs (synaptic adhesion like molecules)は、細胞外領域に、N末から順に6個のLRR、単一Igドメイン、fibronectin IIIドメインを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では5つのSALMsタンパク質が存在する。SALM1-3は細胞内領域のC末にPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合するが、SALM4-5は、PDZ結合配列を持たない。SALMsは、PSD-95との結合を介して興奮性シナプスの形成を促進したり、AMPAやNMDAタイプのグルタミン酸受容体と相互作用することが知られているが、接着因子としての機能はまだよくわかっていない。 | SALMs (synaptic adhesion like molecules)は、細胞外領域に、N末から順に6個のLRR、単一Igドメイン、fibronectin IIIドメインを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では5つのSALMsタンパク質が存在する。SALM1-3は細胞内領域のC末にPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合するが、SALM4-5は、PDZ結合配列を持たない。SALMsは、PSD-95との結合を介して興奮性シナプスの形成を促進したり、AMPAやNMDAタイプのグルタミン酸受容体と相互作用することが知られているが、接着因子としての機能はまだよくわかっていない。 | ||
NGLs (netrin-G ligands)はnetrin-G1に結合するものとして同定された1回膜貫通型タンパク質で、LRRC4 (leucine-rich repeat/LRR-containing glycoprotein 4)とも呼ばれる。細胞外領域にLRR、単一Igドメイン、短い細胞内領域にPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合する。脊椎動物で3種類のNGLs (NGL1-3)が存在する。NGLsはシナプス後終末に局在し、NLG1とNGL2はシナプス前終末のnetrin-G1と-G2と相互作用し、NGL3はLAR-type RPTPsと相互作用する。NGL2の過剰発現でNMDA受容体がシナプス後終末にリクルートされるが、AMPA受容体はリクルートされないことが示されている | NGLs (netrin-G ligands)はnetrin-G1に結合するものとして同定された1回膜貫通型タンパク質で、LRRC4 (leucine-rich repeat/LRR-containing glycoprotein 4)とも呼ばれる。細胞外領域にLRR、単一Igドメイン、短い細胞内領域にPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合する。脊椎動物で3種類のNGLs (NGL1-3)が存在する。NGLsはシナプス後終末に局在し、NLG1とNGL2はシナプス前終末のnetrin-G1と-G2と相互作用し、NGL3はLAR-type RPTPsと相互作用する。NGL2の過剰発現でNMDA受容体がシナプス後終末にリクルートされるが、AMPA受容体はリクルートされないことが示されている <ref><pubmed> 16980967</pubmed></ref>。 | ||
58行目: | 58行目: | ||
Ephrin-Eph受容体型チロシンキナーゼは、リガンドと受容体の関係にあるシグナル誘導タンパク質であるが、シナプスにおける機能も示されている。Ephrinは哺乳類では8種類のメンバーがあり、これらは構造の違いからAとBの二つのサブファミリーに分けられる。Ephrin A (Ephrin A1-5) は、GPI (glycosylphosphatidylinositol)アンカーによって細胞膜に結合しているタイプで、Ephrin B (Ephrin B1-3) は、1回膜貫通型タンパク質である。Eph 受容体型チロシンキナーゼは16個のメンバー(哺乳類では14個)から成る1回膜貫通型タンパク質で、これらのうち、Ephrin Aと相互作用するものをEphA (EphA1-8, EphA10), Ephrin B 相互作用するものをEphB (EphB1-4, EphB6)として分けられている。Ephrin AはGPIアンカーで細胞膜に付着しているため細胞内ドメインが無いが、Ephrin B, EphAおよびEphBは細胞内領域を介してシグナル伝達に関わる。特にEphrin BとEphBは、双方性にシグナル伝達をするため、どちらも受容体とリガンドの両方の側面を有していることになる。またこれらのC末にPDZ結合配列があり、これを介してPICK1, syntenin, GRIP, PDZ-RGSなどと結合する。 | Ephrin-Eph受容体型チロシンキナーゼは、リガンドと受容体の関係にあるシグナル誘導タンパク質であるが、シナプスにおける機能も示されている。Ephrinは哺乳類では8種類のメンバーがあり、これらは構造の違いからAとBの二つのサブファミリーに分けられる。Ephrin A (Ephrin A1-5) は、GPI (glycosylphosphatidylinositol)アンカーによって細胞膜に結合しているタイプで、Ephrin B (Ephrin B1-3) は、1回膜貫通型タンパク質である。Eph 受容体型チロシンキナーゼは16個のメンバー(哺乳類では14個)から成る1回膜貫通型タンパク質で、これらのうち、Ephrin Aと相互作用するものをEphA (EphA1-8, EphA10), Ephrin B 相互作用するものをEphB (EphB1-4, EphB6)として分けられている。Ephrin AはGPIアンカーで細胞膜に付着しているため細胞内ドメインが無いが、Ephrin B, EphAおよびEphBは細胞内領域を介してシグナル伝達に関わる。特にEphrin BとEphBは、双方性にシグナル伝達をするため、どちらも受容体とリガンドの両方の側面を有していることになる。またこれらのC末にPDZ結合配列があり、これを介してPICK1, syntenin, GRIP, PDZ-RGSなどと結合する。 | ||
EphBは、シナプス後終末に局在し、シナプス前終末のEphrinBと結合することによりシナプス後終末で、RhoAやRac1を含むいくつかのsmall Rho family GTPasesと連動し、スパインのアクチン細胞骨格を再構築することが知られている。EphB1-3の複合欠損マウスでは、シナプス密度の減少と、樹状突起のスパインの形態異常がみられる | EphBは、シナプス後終末に局在し、シナプス前終末のEphrinBと結合することによりシナプス後終末で、RhoAやRac1を含むいくつかのsmall Rho family GTPasesと連動し、スパインのアクチン細胞骨格を再構築することが知られている。EphB1-3の複合欠損マウスでは、シナプス密度の減少と、樹状突起のスパインの形態異常がみられる <ref><pubmed> 1435730</pubmed></ref>。海馬ニューロンの培養系において、EphB2はEphrinとの結合を介してシナプス前終末の分化を誘導することが示されている<ref><pubmed> 17122040</pubmed></ref>。更にシナプス後終末のEphB2はNMDA受容体とcisに相互作用することも示唆されている <ref><pubmed> 11136979</pubmed></ref>。一方、リガンドであるEphrin Bはシナプス前終末だけでなく興奮性のシナプス後終末にも存在することが示されており、スパインの密度と成熟やAMPA受容体の輸送を促進していると思われる <ref><pubmed> 17310244</pubmed></ref>。 | ||
回編集