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英:synaptic adhesion molecules、英略語:SAMs | |||
同義語:シナプス局在性細胞接着因子 | |||
==シナプス接着因子とは== | |||
シナプス接着因子とは、細胞接着因子のうちシナプスに局在し、シナプスの形成ないしは機能面での修飾を担うものである。 | |||
==概要== | |||
一般的な細胞接着因子同様、多くのものは1回膜貫通型タンパク質で、細胞外領域に細胞接着に関与するドメイン構造を有する。細胞内領域は軒並み短く、C末にPDZ結合配列を持ち、それを介してシナプス足場タンパク質と結合するタイプのものが多いが、全てがそうではない。接着因子と言う名称から、シナプス同士を単に結び付ける機能をイメージしがちだが、殆どの場合、接着機能だけでなく、シナプス結合を介した細胞内シグナルに関与し、シナプスのダイナミックな形態変化やシナプス伝達機能の調節に寄与している。ただし、シナプス接着因子が伝達する細胞内シグナルに関しては、研究が遅れている。 | |||
シナプス形成能のスクリーニングとして、これらの遺伝子を導入した線維芽細胞をニューロンと共培養し、遺伝子導入線維芽細胞表面でのシナプス形成の有無を調べる手法(artificial synapse formation assay)が用いられている。ただし、この実験でシナプス形成能が確認されたものでも、遺伝子欠損動物でシナプスの形成不全が見られるものはごく一部である。これは、シナプス形成には、複数のシナプス接着因子が機能的にオーバーラップしながら働いているからだと考えられる。 | シナプス形成能のスクリーニングとして、これらの遺伝子を導入した線維芽細胞をニューロンと共培養し、遺伝子導入線維芽細胞表面でのシナプス形成の有無を調べる手法(artificial synapse formation assay)が用いられている。ただし、この実験でシナプス形成能が確認されたものでも、遺伝子欠損動物でシナプスの形成不全が見られるものはごく一部である。これは、シナプス形成には、複数のシナプス接着因子が機能的にオーバーラップしながら働いているからだと考えられる。 | ||
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==Neurexin/Neuroligin== | |||
Neurexinは、シナプス前終末に局在する1回膜貫通型タンパク質で、哺乳類では3種類の遺伝子が存在する(NRXN1, NRXN2, NRXN3)。それぞれの遺伝子は、上流にあるプロモーターによって転写されるα-Neurexinと、遺伝子の中ほどにあるプロモーターによって転写されるβ-Neurexinの二つのアイソフォームを産生する。α-Neurexinは、細胞外領域に6個のLNS ドメインと、3個のEGF様リピートを持ち、細胞内領域は短く、C末にPDZ結合配列を有し、これを介してCASKと結合する。β-Neurexinは、α-Neurexinのうち、1-5番目のLNSドメインと3個のEGF様リピートを欠く構造になっており、N末に短いβ-Neurexin特有の配列を持つ以外は、α-Neurexinの6番目のLNSドメインからC末にかけて共通の配列を有している。Neurexinタンパク質はシナプス後終末にも局在するという報告もあるが、議論が分かれている<ref><pubmed> 17360903</pubmed></ref>。 | Neurexinは、シナプス前終末に局在する1回膜貫通型タンパク質で、哺乳類では3種類の遺伝子が存在する(NRXN1, NRXN2, NRXN3)。それぞれの遺伝子は、上流にあるプロモーターによって転写されるα-Neurexinと、遺伝子の中ほどにあるプロモーターによって転写されるβ-Neurexinの二つのアイソフォームを産生する。α-Neurexinは、細胞外領域に6個のLNS ドメインと、3個のEGF様リピートを持ち、細胞内領域は短く、C末にPDZ結合配列を有し、これを介してCASKと結合する。β-Neurexinは、α-Neurexinのうち、1-5番目のLNSドメインと3個のEGF様リピートを欠く構造になっており、N末に短いβ-Neurexin特有の配列を持つ以外は、α-Neurexinの6番目のLNSドメインからC末にかけて共通の配列を有している。Neurexinタンパク質はシナプス後終末にも局在するという報告もあるが、議論が分かれている<ref><pubmed> 17360903</pubmed></ref>。 | ||
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==Cadherin== | |||
Classical cadherinは、細胞外に5個のcadherin ドメイン(EC1-5)を有する1回膜貫通型タンパク質で、カルシウム依存性のホモ結合によって機能している。これらタンパク質はまずcis 2量体を形成し、このcis 2量体同士が細胞間でtransに結合し、強固な細胞接着を生み出している。Classical cadherinの細胞内領域は、Cateninファミリータンパク質と結合し、細胞骨格の再編などに関するシグナル伝達を誘導している。N-cadherinは、脳で発現する代表的なClassical cadherinであり、シナプスの前および後終末の両方に局在し、ホモ結合によりシナプスを架橋している。N-cadherinは、シナプスの発達において広汎な調節的な役割を果たしていると考えられ、Cateninシグナルを介してLTPに伴うシナプス後終末の形態変化を担ったり、シナプス前終末でのシナプス小胞の集積に関与していると考えられている。 | Classical cadherinは、細胞外に5個のcadherin ドメイン(EC1-5)を有する1回膜貫通型タンパク質で、カルシウム依存性のホモ結合によって機能している。これらタンパク質はまずcis 2量体を形成し、このcis 2量体同士が細胞間でtransに結合し、強固な細胞接着を生み出している。Classical cadherinの細胞内領域は、Cateninファミリータンパク質と結合し、細胞骨格の再編などに関するシグナル伝達を誘導している。N-cadherinは、脳で発現する代表的なClassical cadherinであり、シナプスの前および後終末の両方に局在し、ホモ結合によりシナプスを架橋している。N-cadherinは、シナプスの発達において広汎な調節的な役割を果たしていると考えられ、Cateninシグナルを介してLTPに伴うシナプス後終末の形態変化を担ったり、シナプス前終末でのシナプス小胞の集積に関与していると考えられている。 | ||
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==Igドメインタンパク質== | |||
SynCAMは、細胞外に3個のIgドメイン、細胞内にPFRMとNeurexin類似のPDZドメイン結合配列をを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では4種類の遺伝子が知られている。カルシウム非依存的なホモ結合およびファミリータンパク質間のヘテロ結合による細胞接着を担う。SynCAM同士の結合強度はsialic acidなどのN-glycanによって制御されている。SynCAM 1 の過剰発現で興奮性シナプスの数が増加し、逆に、SynCAM1の欠損により、興奮性シナプスの数や伝達が減少することから、興奮性シナプスの形成維持に寄与していると考えられる。成熟シナプスにおいて、SynCAM1は長期抑制を負に制御し、空間学習記憶に影響を与えることが知られている。他のSynCAMファミリータンパク質の脳での機能はまだあまり解析されていないが、SynCAM2とSynCAM1が強く結合すること、SynCAM2がシナプスを誘導すること、SynCAM3/nectin-like molecule1が、軸策末端とグリア細胞の接触面に存在することから、これらがSynCAM1とシナプス形成において機能的にオーバーラップしている可能性が示唆される。 | SynCAMは、細胞外に3個のIgドメイン、細胞内にPFRMとNeurexin類似のPDZドメイン結合配列をを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では4種類の遺伝子が知られている。カルシウム非依存的なホモ結合およびファミリータンパク質間のヘテロ結合による細胞接着を担う。SynCAM同士の結合強度はsialic acidなどのN-glycanによって制御されている。SynCAM 1 の過剰発現で興奮性シナプスの数が増加し、逆に、SynCAM1の欠損により、興奮性シナプスの数や伝達が減少することから、興奮性シナプスの形成維持に寄与していると考えられる。成熟シナプスにおいて、SynCAM1は長期抑制を負に制御し、空間学習記憶に影響を与えることが知られている。他のSynCAMファミリータンパク質の脳での機能はまだあまり解析されていないが、SynCAM2とSynCAM1が強く結合すること、SynCAM2がシナプスを誘導すること、SynCAM3/nectin-like molecule1が、軸策末端とグリア細胞の接触面に存在することから、これらがSynCAM1とシナプス形成において機能的にオーバーラップしている可能性が示唆される。 | ||
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==LRR (leucine-rich repeat)タンパク質== | |||
LRRTMs (leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins)は、細胞外領域に10個のLRRを持つ1回膜貫通型タンパク質で、細胞内領域にclass I PDZ結合配列を有する。哺乳類では4つの遺伝子が知られている(LRRTM1-4)。Neurexinと第4選択的スプライスサイト 依存的に結合し、Neuroliginとともに、Neurexinを介したシナプス成熟因子として注目されている。Neuroliginがシナプス成熟の比較的後期に働くのに対してLRRTMは、シナプス形成期から成熟初期に働いていると考えられているが、LRRTM1の単独ノックアウトマウス、LRRTMの複数のアイソフォームの同時ノックダウンで、明確なシナプスの数の減少は見られない(ただしLRRTM2単独のshRNAのノックダウンでシナプスの数が減少する報告もある<ref><pubmed> 20064388</pubmed></ref> )。LRRTMsは興奮性シナプス特異的に機能していると考えられており、ノックアウトマウスやノックダウンニューロンでAMPA受容体を介したシナプス伝達の異常が認められる。もともとLRRTMsのシナプス形成能は、artificial synapse formation assay のスクリーニングで見出された<ref><pubmed> 19285470</pubmed></ref>。 | LRRTMs (leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins)は、細胞外領域に10個のLRRを持つ1回膜貫通型タンパク質で、細胞内領域にclass I PDZ結合配列を有する。哺乳類では4つの遺伝子が知られている(LRRTM1-4)。Neurexinと第4選択的スプライスサイト 依存的に結合し、Neuroliginとともに、Neurexinを介したシナプス成熟因子として注目されている。Neuroliginがシナプス成熟の比較的後期に働くのに対してLRRTMは、シナプス形成期から成熟初期に働いていると考えられているが、LRRTM1の単独ノックアウトマウス、LRRTMの複数のアイソフォームの同時ノックダウンで、明確なシナプスの数の減少は見られない(ただしLRRTM2単独のshRNAのノックダウンでシナプスの数が減少する報告もある<ref><pubmed> 20064388</pubmed></ref> )。LRRTMsは興奮性シナプス特異的に機能していると考えられており、ノックアウトマウスやノックダウンニューロンでAMPA受容体を介したシナプス伝達の異常が認められる。もともとLRRTMsのシナプス形成能は、artificial synapse formation assay のスクリーニングで見出された<ref><pubmed> 19285470</pubmed></ref>。 | ||
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==Ephrin-Eph 受容体型チロシンキナーゼ== | |||
Ephrin-Eph受容体型チロシンキナーゼは、リガンドと受容体の関係にあるシグナル誘導タンパク質であるが、シナプスにおける機能も示されている。Ephrinは哺乳類では8種類のメンバーがあり、これらは構造の違いからAとBの二つのサブファミリーに分けられる。Ephrin A (Ephrin A1-5) は、GPI (glycosylphosphatidylinositol)アンカーによって細胞膜に結合しているタイプで、Ephrin B (Ephrin B1-3) は、1回膜貫通型タンパク質である。Eph 受容体型チロシンキナーゼは16個のメンバー(哺乳類では14個)から成る1回膜貫通型タンパク質で、これらのうち、Ephrin Aと相互作用するものをEphA (EphA1-8, EphA10), Ephrin B 相互作用するものをEphB (EphB1-4, EphB6)として分けられている。Ephrin AはGPIアンカーで細胞膜に付着しているため細胞内ドメインが無いが、Ephrin B, EphAおよびEphBは細胞内領域を介してシグナル伝達に関わる。特にEphrin BとEphBは、双方性にシグナル伝達をするため、どちらも受容体とリガンドの両方の側面を有していることになる。またこれらのC末にPDZ結合配列があり、これを介してPICK1, syntenin, GRIP, PDZ-RGSなどと結合する。 | Ephrin-Eph受容体型チロシンキナーゼは、リガンドと受容体の関係にあるシグナル誘導タンパク質であるが、シナプスにおける機能も示されている。Ephrinは哺乳類では8種類のメンバーがあり、これらは構造の違いからAとBの二つのサブファミリーに分けられる。Ephrin A (Ephrin A1-5) は、GPI (glycosylphosphatidylinositol)アンカーによって細胞膜に結合しているタイプで、Ephrin B (Ephrin B1-3) は、1回膜貫通型タンパク質である。Eph 受容体型チロシンキナーゼは16個のメンバー(哺乳類では14個)から成る1回膜貫通型タンパク質で、これらのうち、Ephrin Aと相互作用するものをEphA (EphA1-8, EphA10), Ephrin B 相互作用するものをEphB (EphB1-4, EphB6)として分けられている。Ephrin AはGPIアンカーで細胞膜に付着しているため細胞内ドメインが無いが、Ephrin B, EphAおよびEphBは細胞内領域を介してシグナル伝達に関わる。特にEphrin BとEphBは、双方性にシグナル伝達をするため、どちらも受容体とリガンドの両方の側面を有していることになる。またこれらのC末にPDZ結合配列があり、これを介してPICK1, syntenin, GRIP, PDZ-RGSなどと結合する。 | ||
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==Integrin== | |||
Integrinは、その他の重要な接着因子で、シナプスの成熟を促進する。Integrinは1サブユニットの欠損でLTPに障害が出ることなど、シナプスの生理的機能にも関与している。 | Integrinは、その他の重要な接着因子で、シナプスの成熟を促進する。Integrinは1サブユニットの欠損でLTPに障害が出ることなど、シナプスの生理的機能にも関与している。 | ||
==参考文献== | |||
<references/> | <references/> | ||
(執筆者:田渕克彦、担当編集委員:尾藤晴彦) | (執筆者:田渕克彦、担当編集委員:尾藤晴彦) |
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