「ラメリポディア」の版間の差分

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 ラメリポディアは分枝したアクチンフィラメントによって形成される網目構造によって支えられており、網目は細胞周辺部側でより密になっている。アクチンフィラメントのプラス端(重合端、反矢じり端、barbed-end)が細胞周辺部を向いており、また、網目構造全体は求心性に移動している(アクチン後方移動)<ref name="ref1"><pubmed> 20192778 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 16501565 </pubmed></ref>。このため、ラメリポディアの伸長・退縮は、網目構造の構築スピードとアクチン後方移動スピードとのバランスによって決定される。網目構造の構築スピードは、アクチンの重合・脱重合、分枝・脱分枝に、また、アクチン後方移動スピードは、[[ミオシン]]によりアクチン線維が求心性に引っ張られる力と、アクチン線維が形質膜によって押し戻される力に依存する<ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>  13678614 </pubmed></ref><ref name="ref4"><pubmed>  22359556 </pubmed></ref><ref name="ref5"><pubmed> 22500750 </pubmed></ref>。<br>  
 ラメリポディアは分枝したアクチンフィラメントによって形成される網目構造によって支えられており、網目は細胞周辺部側でより密になっている。アクチンフィラメントのプラス端(重合端、反矢じり端、barbed-end)が細胞周辺部を向いており、また、網目構造全体は求心性に移動している(アクチン後方移動)<ref name="ref1"><pubmed> 20192778 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 16501565 </pubmed></ref>。このため、ラメリポディアの伸長・退縮は、網目構造の構築スピードとアクチン後方移動スピードとのバランスによって決定される。網目構造の構築スピードは、アクチンの重合・脱重合、分枝・脱分枝に、また、アクチン後方移動スピードは、[[ミオシン]]によりアクチン線維が求心性に引っ張られる力と、アクチン線維が形質膜によって押し戻される力に依存する<ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>  13678614 </pubmed></ref><ref name="ref4"><pubmed>  22359556 </pubmed></ref><ref name="ref5"><pubmed> 22500750 </pubmed></ref>。<br>  


=== 重合と分枝形成 ===
=== 重合と分枝形成 [[Image:Actin_branching.png|right|300px|図1 分枝形成の模式図  Arp2/3複合体と、単量体アクチンを結合したWASP/WAVEが、既存フィラメントの側面(あるいはプラス端)に結合することで重合核が形成され、新規フィラメントの重合が開始する(図下側)。新規フィラメントは、cortactinの結合によって安定化する(図上側)。]] ===


 アクチンの重合は、単量体アクチンの濃度が高くなるほど促進され、また、プラス端にキャッピングタンパク質が結合することによってフィラメントの伸長が抑制されることが、in vitroの実験から明らかになっている<ref name="ref1" />。(詳細は[[マイクロフィラメント]]の項参照)細胞においても、ラメリポディアの伸長が単量体アクチンの濃度が高い場合に促進されることが報告されている<ref name="ref6"><pubmed> 21502360 </pubmed></ref>。おもしろいことに、キャッピングタンパク質のノックダウンは、ラメリポディアの形成を阻害する<ref><pubmed> 15294161 </pubmed></ref>。キャッピングタンパク質の機能として、1)アクチンフィラメントの伸長促進(キャッピングタンパク質が結合しないフィラメントに対して、単量体アクチンの量が相対的に増すことにより、重合が促進される)、2)新規フィラメントの形成促進、のふたつのモデルが提唱されている<ref><pubmed> 9217250 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18510928 </pubmed></ref>。  
 アクチンの重合は、単量体アクチンの濃度が高くなるほど促進され、また、プラス端にキャッピングタンパク質が結合することによってフィラメントの伸長が抑制されることが、in vitroの実験から明らかになっている<ref name="ref1" />。(詳細は[[マイクロフィラメント]]の項参照)細胞においても、ラメリポディアの伸長が単量体アクチンの濃度が高い場合に促進されることが報告されている<ref name="ref6"><pubmed> 21502360 </pubmed></ref>。おもしろいことに、キャッピングタンパク質のノックダウンは、ラメリポディアの形成を阻害する<ref><pubmed> 15294161 </pubmed></ref>。キャッピングタンパク質の機能として、1)アクチンフィラメントの伸長促進(キャッピングタンパク質が結合しないフィラメントに対して、単量体アクチンの量が相対的に増すことにより、重合が促進される)、2)新規フィラメントの形成促進、のふたつのモデルが提唱されている<ref><pubmed> 9217250 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18510928 </pubmed></ref>。  
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 アクチンフィラメントの枝分かれの起始部には、新規フィラメントを伸長させるための重合核となる、Arp (actin-related protein) 2/3複合体が存在している。7つのサブユニットから構成されるArp2/3複合体の、Arp2およびArp3サブユニットは 単量体アクチンと非常によく似た構造をしており、これに単量体アクチンひとつを結合させた三量体が重合のための核となる。この三量体形成に重要な役割を果たすのが、WASP(Wiskott-Aldrich syndrome protein)、N-WASP(neuronal-WASP)、WAVE(WASP family verprolin-homologous protein)などのWASP/WAVEファミリータンパク質である。V(verprolin-homologyあるいはWASP-homology-2)ドメインが単量体アクチンと結合し、C(cofilin-homologyあるいはcentral)およびA(acidic)ドメインがArp2/3複合体に結合することで、重合核が形成される<ref name="ref1" />。Arp2/3複合体は既存フィラメントの側面、あるいはプラス端に結合し、既存フィラメントに対しておよそ70度の角度で新規フィラメントを伸長させる<ref name="ref1" /><ref name="ref10"><pubmed> 18775315 </pubmed></ref>。Arp2/3複合体をノックダウンすると、線維芽細胞でラメリポディアの形成が阻害される<ref name="ref11"><pubmed> 22492726 </pubmed></ref>。しかし、神経細胞成長円錐では、CAドメイン過剰発現によるArp2/3複合体の機能阻害は、ラメリポディア形成に影響を与えないという報告もある<ref><pubmed> 15233919 </pubmed></ref>。cortactinは、アクチンフィラメントとArp2サブユニットに結合し、分枝構造を安定化させることでラメリポディアの維持に寄与する<ref><pubmed> 12176354 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16051170 </pubmed></ref>。また、Arp2との結合がVCAドメインと競合するため、cortactinはWASP/WAVEのリサイクリングを促進すると考えられる<ref><pubmed> 12732638 </pubmed></ref>。(図1)  
 アクチンフィラメントの枝分かれの起始部には、新規フィラメントを伸長させるための重合核となる、Arp (actin-related protein) 2/3複合体が存在している。7つのサブユニットから構成されるArp2/3複合体の、Arp2およびArp3サブユニットは 単量体アクチンと非常によく似た構造をしており、これに単量体アクチンひとつを結合させた三量体が重合のための核となる。この三量体形成に重要な役割を果たすのが、WASP(Wiskott-Aldrich syndrome protein)、N-WASP(neuronal-WASP)、WAVE(WASP family verprolin-homologous protein)などのWASP/WAVEファミリータンパク質である。V(verprolin-homologyあるいはWASP-homology-2)ドメインが単量体アクチンと結合し、C(cofilin-homologyあるいはcentral)およびA(acidic)ドメインがArp2/3複合体に結合することで、重合核が形成される<ref name="ref1" />。Arp2/3複合体は既存フィラメントの側面、あるいはプラス端に結合し、既存フィラメントに対しておよそ70度の角度で新規フィラメントを伸長させる<ref name="ref1" /><ref name="ref10"><pubmed> 18775315 </pubmed></ref>。Arp2/3複合体をノックダウンすると、線維芽細胞でラメリポディアの形成が阻害される<ref name="ref11"><pubmed> 22492726 </pubmed></ref>。しかし、神経細胞成長円錐では、CAドメイン過剰発現によるArp2/3複合体の機能阻害は、ラメリポディア形成に影響を与えないという報告もある<ref><pubmed> 15233919 </pubmed></ref>。cortactinは、アクチンフィラメントとArp2サブユニットに結合し、分枝構造を安定化させることでラメリポディアの維持に寄与する<ref><pubmed> 12176354 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16051170 </pubmed></ref>。また、Arp2との結合がVCAドメインと競合するため、cortactinはWASP/WAVEのリサイクリングを促進すると考えられる<ref><pubmed> 12732638 </pubmed></ref>。(図1)  


=== 脱重合と脱分枝 ===
=== 脱重合と脱分枝 [[Image:Actin_debranching.png|right|300px|図2 脱分枝の模式図  Coroninの分枝起始部への結合により、coroninおよびArp2/3複合体がフィラメントから解離する。さらに、coroninとの結合を介してslingshotが分枝起始部に局在する(図上側)。Slingshot によって活性化されたADF/cofilinによってアクチンフィラメントが切断され、脱分枝が起こる(図下側)。]] ===


 アクチンフィラメントは、ADF/cofilinやgelsolinなどによって切断され、マイナス端(脱重合端、矢じり端、pointed-end)から脱重合が起こる。フィラメントに組み込まれたアクチンは、ATP型からADP型となることが知られているが、これらのフィラメント切断分子はADP型アクチンとの親和性が高いため、プラス端から離れた部位で切断が起こりやすいと考えられる<ref><pubmed> 12663865 </pubmed></ref>。また、cofilinがアクチンフィラメントに結合することによって、そのフィラメントに結合していたArp2/3複合体が解離し、脱分枝が起こるという報告もある<ref><pubmed> 19362000 </pubmed></ref>。coroninはcortactinとArp2サブユニットとの結合を競合的に阻害し、Arp2/3複合体のアクチンフィラメントからの解離を促す。Arp2/3複合体解離後、coroninが代わって分枝起始部に存在し、分枝構造が不安定化する。さらに、coroninは、ADF/cofilinを脱リン酸化し活性化するSlingshot(SSH)との結合ドメインを有しているため、coronin結合部位でフィラメントが切断され、結果として脱分枝が起こる<ref name="ref10" /><ref name="ref18"><pubmed> 17350576 </pubmed></ref>。また、アクチン同様、Arp2サブユニットも重合開始に伴ってATP型からADP型に変換される<ref name="ref19"><pubmed> 15094799 </pubmed></ref>。ATP加水分解活性を失うと、分枝形成の効率は変わらないものの、分枝構造の安定化がみられることから、ADP型のArp2を認識する何らかの分子、あるいはリン酸基を失うことによる構造変化によって、脱分枝が促進されると考えられる<ref><pubmed> 16862144 </pubmed></ref>。(図2)  
 アクチンフィラメントは、ADF/cofilinやgelsolinなどによって切断され、マイナス端(脱重合端、矢じり端、pointed-end)から脱重合が起こる。フィラメントに組み込まれたアクチンは、ATP型からADP型となることが知られているが、これらのフィラメント切断分子はADP型アクチンとの親和性が高いため、プラス端から離れた部位で切断が起こりやすいと考えられる<ref><pubmed> 12663865 </pubmed></ref>。また、cofilinがアクチンフィラメントに結合することによって、そのフィラメントに結合していたArp2/3複合体が解離し、脱分枝が起こるという報告もある<ref><pubmed> 19362000 </pubmed></ref>。coroninはcortactinとArp2サブユニットとの結合を競合的に阻害し、Arp2/3複合体のアクチンフィラメントからの解離を促す。Arp2/3複合体解離後、coroninが代わって分枝起始部に存在し、分枝構造が不安定化する。さらに、coroninは、ADF/cofilinを脱リン酸化し活性化するSlingshot(SSH)との結合ドメインを有しているため、coronin結合部位でフィラメントが切断され、結果として脱分枝が起こる<ref name="ref10" /><ref name="ref18"><pubmed> 17350576 </pubmed></ref>。また、アクチン同様、Arp2サブユニットも重合開始に伴ってATP型からADP型に変換される<ref name="ref19"><pubmed> 15094799 </pubmed></ref>。ATP加水分解活性を失うと、分枝形成の効率は変わらないものの、分枝構造の安定化がみられることから、ADP型のArp2を認識する何らかの分子、あるいはリン酸基を失うことによる構造変化によって、脱分枝が促進されると考えられる<ref><pubmed> 16862144 </pubmed></ref>。(図2)  
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 ミオシンは、myosin light chain kinase (MLCK)やRho-associated coiled coil containing kinase (ROCK)などによるミオシン軽鎖のリン酸化によって活性化する。ROCKは、protein phosphatase 1を不活化することによっても、ミオシン軽鎖のリン酸化に寄与する<ref><pubmed>  19851336 </pubmed></ref>。反発性因子による成長円錐の崩壊と軸索の退縮が、MLCKおよびROCKを介したミオシンの活性化に依存するという報告がなされている<ref><pubmed> 16899819 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18005226 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20569485 </pubmed></ref>(Gallo、 JCS、 2006; Kubo et al.、 J Neurochem、 2008; Murray et al.、 Neural Dev、 2010)。  
 ミオシンは、myosin light chain kinase (MLCK)やRho-associated coiled coil containing kinase (ROCK)などによるミオシン軽鎖のリン酸化によって活性化する。ROCKは、protein phosphatase 1を不活化することによっても、ミオシン軽鎖のリン酸化に寄与する<ref><pubmed>  19851336 </pubmed></ref>。反発性因子による成長円錐の崩壊と軸索の退縮が、MLCKおよびROCKを介したミオシンの活性化に依存するという報告がなされている<ref><pubmed> 16899819 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18005226 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20569485 </pubmed></ref>(Gallo、 JCS、 2006; Kubo et al.、 J Neurochem、 2008; Murray et al.、 Neural Dev、 2010)。  


== 引用文献 ==
== 引用文献 ==


<references />  
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