「骨形成因子」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
11行目: 11行目:


神経筋接合、神経変性疾患とBMPシグナル
神経筋接合、神経変性疾患とBMPシグナル
 主にショウジョウバエの研究から、[[運動神経]]と筋肉の接合部([[wikipedia:neuromauscular_junction|neuromauscular junction]]、[[神経筋接合部]]の項を参照)における[[シナプス]]形成に逆行性(retrograde)のBMPシグナルが重要な役割を果たしていることが示されている。すなわち、神経筋接合部の筋肉側から分泌されるBMP(Glass bottom boat(Gbb))がプレシナプスにあるWishful thinking(Wit)、Thickveins(Tkv)、Saxophone(Sax)からなる受容体複合体に結合する。これにより、LIMK1を活性化させてシナプスを安定化するとともに、受容体によってMad(Mothers against decepentaplegic、ショウジョウバエのSMADホモログ)がリン酸化されて核内に移行してターゲット遺伝子の転写を活性化する。これらのBMPシグナル構成因子の変異体では神経筋接合部の縮小や神経伝達の低下が見られ、逆にBMPシグナルの抑制因子(例えばDaughters against decapetaplegic (Dad))の変異は神経筋接合部の過形成/肥大が認められる。[[神経変性疾患]]の中には原因遺伝子のいくつかが同定されているものがあるが、その中にはBMPシグナルとの関連が認められる場合がある。例えば、Hereditary Spastic Paraplegiaにみられる変異遺伝子の一つであるNIPA1のショウジョウバエホモログであるspichthyinの変異体では、リン酸化Madが正常の4倍ほどに増え、神経筋接合部のブートンの数も2倍に増えてしまう。哺乳類細胞の培養実験からもNIPA1がBMPシグナルを抑制することが示されている。[[筋萎縮性側索硬化症(ALS)]](Amyotrophic Lateral Sclerosis)の場合、90%は自然発症だが、家族性のものにはVapB遺伝子に変異があるケースがある。ショウジョウバエのVapB変異体では神経筋接合部のブートンの数が減少し、過剰発現した場合にはブートンの数の増加と神経筋接合部の肥大がおこる。このような表現型はそれぞれリン酸化Madの減少、増加を伴っており、やはりBMPシグナルとの関連が示唆される。また、自然発症型ALS患者の運動ニューロンにおいて、リン酸化SMADの減少が報告されている。
 主にショウジョウバエの研究から、[[運動神経]]と筋肉の接合部([[wikipedia:neuromauscular_junction|neuromauscular junction]]、[[神経筋接合部]]の項を参照)における[[シナプス]]形成に逆行性(retrograde)のBMPシグナルが重要な役割を果たしていることが示されている。すなわち、神経筋接合部の筋肉側から分泌されるBMP(Glass bottom boat(Gbb))がプレシナプスにあるWishful thinking(Wit)、Thickveins(Tkv)、Saxophone(Sax)からなる受容体複合体に結合する。これにより、LIMK1を活性化させてシナプスを安定化するとともに、受容体によってMad(Mothers against decepentaplegic、ショウジョウバエのSMADホモログ)がリン酸化されて核内に移行してターゲット遺伝子の転写を活性化する。これらのBMPシグナル構成因子の変異体では神経筋接合部の縮小や神経伝達の低下が見られ、逆にBMPシグナルの抑制因子(例えばDaughters against decapetaplegic (Dad))の変異は神経筋接合部の過形成/肥大が認められる。[[神経変性疾患]]の中には原因遺伝子のいくつかが同定されているものがあるが、その中にはBMPシグナルとの関連が認められる場合がある。例えば、Hereditary Spastic Paraplegiaにみられる変異遺伝子の一つであるNIPA1のショウジョウバエホモログであるspichthyinの変異体では、リン酸化Madが正常の4倍ほどに増え、神経筋接合部のブートンの数も2倍に増えてしまう。哺乳類細胞の培養実験からもNIPA1がBMPシグナルを抑制することが示されている。[[筋萎縮性側索硬化症(ALS)]](Amyotrophic Lateral Sclerosis)の場合、90%は自然発症だが、家族性のものにはVapB遺伝子に変異があるケースがある。ショウジョウバエのVapB変異体では神経筋接合部のブートンの数が減少し、過剰発現した場合にはブートンの数の増加と神経筋接合部の肥大がおこる。このような表現型はそれぞれリン酸化Madの減少、増加を伴っており、やはりBMPシグナルとの関連が示唆される。また、自然発症型ALS患者の運動ニューロンにおいて、リン酸化SMADの減少が報告されている。I型のSpinal Muscular Atrophyの患者ではしばしばSurvival Motor Neuron1(Smn1)遺伝子の欠損やコピー数の異常がみられる。Smn1遺伝子の異常とSpinal Muscular Atrophyとの関連はまだはっきりしないが、ショウジョウバエのSmn1変異体では神経筋接合部のブートンの数が減少し、リン酸化Madの量も減少する。また、この表現型はBMPシグナルの低下によって増強される。[[多発性硬化症]](Multiple Sclerosis)については、Clec16A遺伝子の多型との関連が示唆されている。ショウジョウバエのClec16Aホモログであるendosomal maturation defective(ema)変異体ではシナプスの肥大が見られ、Tkvの発現量が2倍、リン酸化Madも4倍に増加する。多発性硬化症患者の異常部位ではBMP4やBMP5、多発性硬化症モデルマウスではBMP4、6、7の発現上昇が報告されている。これらのことから、さまざまな神経変性疾患とBMPシグナルの異常の関連が示唆されており、治療への応用が期待される。


<references/>
<references/>
91

回編集