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== 培養法 == | == 培養法 == | ||
多孔質膜(フィルター)にスライスを載せる方法、培養皿の底面にスライスを置く方法の2通りがある。 | |||
===多孔質膜(フィルター)にスライスを載せる方法=== | |||
直径1〜2センチ、高さ数ミリ程度の筒状の「台」にフィルター(孔径0.22ミクロンなど)が貼られている市販品やあるいは手製のものを35ミリディッシュに置く。そして、フィルター上にスライスを載せ、培養液を多すぎぬよう(通常、スライスを浮かせあるいは沈ませぬようフィルターの高さ程度にまで)ディッシュ内に入れる。表面張力でスライスが扁平化する可能性はあるが、ガス交換の効率は後述の「ディッシュ底式」の培養よりも良く、二次元的な回路のトポロジーを維持したままで長期培養ができるとの実績が知られている。 | |||
柔らかめの胎生期脳を扱う場合に、変形防止の目的で、後述する[[コラーゲンゲル]]によってスライスを包む、あるいはスライス作成時に脳とともに切れてくる寒天(脳を囲む)を培養時も残しておくなど、支持体の工夫もなされる。 | 柔らかめの胎生期脳を扱う場合に、変形防止の目的で、後述する[[コラーゲンゲル]]によってスライスを包む、あるいはスライス作成時に脳とともに切れてくる寒天(脳を囲む)を培養時も残しておくなど、支持体の工夫もなされる。 | ||
===培養皿の底面にスライスを置く方法=== | |||
「ディッシュ底式」の場合、作成されたスライス群をコラーゲンゲルに封じ込める。ディッシュ底にあらかじめ運んでおいたスライスを含む培養液にゲルを加えて混ぜ合わせると、ゲルが固まる間にスライスはディッシュ底面に沈み、その場所で、変形の恐れはほとんどないままに不動化される。たくさんのスライスを次々に観察したい場合には「フィルター式」よりも「底式」の方が手軽である。スライスは培養液の中に沈むことになるのでガス環境上は不利である。変形しにくいが、細胞や[[神経軸索]]がスライス中からゲルの中に容易にこぼれでてしまうこともある。 | |||
===方法の選択に関して=== | |||
「細胞培養」の場合、インキュベーターのガスは5% CO2 + 95%大気という組成である。この方法でスライスの培養を「底式」で行なうと、スライスの深部において[[wikipedia:JA:壊死|壊死]]が起こりやすい。そのため、酸素濃度を40%〜95%の高レベルに設定することが試みられる。酸素の供給とその毒性との折り合いがつく箇所がスライス中のどこかに確保できるとの意識、経験則にもとづいて対象に応じた工夫がなされている。「フィルター式」でも高酸素を与える場合もある。また、培地の静置ではなく灌流が行なわれることもある。 | 「細胞培養」の場合、インキュベーターのガスは5% CO2 + 95%大気という組成である。この方法でスライスの培養を「底式」で行なうと、スライスの深部において[[wikipedia:JA:壊死|壊死]]が起こりやすい。そのため、酸素濃度を40%〜95%の高レベルに設定することが試みられる。酸素の供給とその毒性との折り合いがつく箇所がスライス中のどこかに確保できるとの意識、経験則にもとづいて対象に応じた工夫がなされている。「フィルター式」でも高酸素を与える場合もある。また、培地の静置ではなく灌流が行なわれることもある。 | ||
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「フィルター式」か「底式」かによって相性の善し悪しはあるが、いずれの培養法に対しても、[[正立型顕微鏡]]および[[倒立型顕微鏡]]のどちらも使い得る。高倍率レンズを用いて倒立型顕微鏡での観察を行なう場合は、必ずガラス底の培養皿を用いる。 | 「フィルター式」か「底式」かによって相性の善し悪しはあるが、いずれの培養法に対しても、[[正立型顕微鏡]]および[[倒立型顕微鏡]]のどちらも使い得る。高倍率レンズを用いて倒立型顕微鏡での観察を行なう場合は、必ずガラス底の培養皿を用いる。 | ||
==展望== | |||
顕微鏡、培養装置、画像撮影装置、コンピューターなどの進歩にともなって、ますますスライス培養の利用される機会が増す事が予想されるが、一方で、この手法があくまでも「培養」であることも忘れてはならない。組織学的解析などにもとづく生体内の現象との比較を通じて、適切な利用がなされる必要がある。 | 顕微鏡、培養装置、画像撮影装置、コンピューターなどの進歩にともなって、ますますスライス培養の利用される機会が増す事が予想されるが、一方で、この手法があくまでも「培養」であることも忘れてはならない。組織学的解析などにもとづく生体内の現象との比較を通じて、適切な利用がなされる必要がある。 | ||
(執筆者:宮田卓樹 担当編集委員:大隅典子) | (執筆者:宮田卓樹 担当編集委員:大隅典子) |