「高速液体クロマトグラフィー」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
5行目: 5行目:


==原理==
==原理==
 高速液体クロマトグラフィーとは、物質が固定相(カラムの担体)とこれに接して流れる移動相(液体)との親和力の違いから一定の比率で分布し、その比率が物質によって異なる事を利用して分離する方法である。現在では、物質の精製や分析には欠かせない存在となっている。高速液体クロマトグラフィーには、イオン交換、逆相、順相、サイズ排除(ゲル濾過)、アフィニティーなど様々な方法がある<ref name=ref1> '''入江 照四''' <br />高速液体クロマトグラフ 科学機器入門[増補改訂版], 東京科学機器協会, 2010, 180-181</ref>。
 高速液体クロマトグラフィーとは、物質が固定相(カラムの担体)とこれに接して流れる移動相(液体)との親和力の違いから一定の比率で分布し、その比率が物質によって異なる事を利用して分離する方法である。現在では、物質の精製や分析には欠かせない存在となっている。高速液体クロマトグラフィーには、イオン交換、逆相、順相、サイズ排除(ゲル濾過)、アフィニティーなど様々な方法がある<ref name=ref1> '''入江 照四''' <br />高速液体クロマトグラフ 科学機器入門[増補改訂版]<br />''東京科学機器協会'', 2010, 180-181</ref>。


===高速液体クロマトグラフィーの基本構成===
===高速液体クロマトグラフィーの基本構成===
50行目: 50行目:
#:&ensp;[[アセチルコリン]]のHPLC-ECDを用いた分析は、1983年にPotterらによって最初に報告された。アセチルコリンは電気化学的に不活性である為、分離用の本カラムの下流にアセチルコリンエステラーゼ (AChE)および コリンオキシダーゼ (ChO) を固定化した酵素カラムを配置し、オンラインで加水分解・酸化することで生成した過酸化水素を白金電極にて検出する (印加電圧 +450 mV vs Ag/AgCl) 。陽イオン交換カラムとともに、移動相にリン酸バッファーを用いることで、アセチルコリンとコリンの分離、そして短時間分析の両立が可能である。
#:&ensp;[[アセチルコリン]]のHPLC-ECDを用いた分析は、1983年にPotterらによって最初に報告された。アセチルコリンは電気化学的に不活性である為、分離用の本カラムの下流にアセチルコリンエステラーゼ (AChE)および コリンオキシダーゼ (ChO) を固定化した酵素カラムを配置し、オンラインで加水分解・酸化することで生成した過酸化水素を白金電極にて検出する (印加電圧 +450 mV vs Ag/AgCl) 。陽イオン交換カラムとともに、移動相にリン酸バッファーを用いることで、アセチルコリンとコリンの分離、そして短時間分析の両立が可能である。
#モノアミンおよびその代謝物の分析(測定例)
#モノアミンおよびその代謝物の分析(測定例)
#:&ensp;グラファイト電極に +700 mV 程度の電位を印加することでカテコールアミン([[ドーパミン]]、[[ノルアドレナリン]]、[[アドレナリン等]])や、インドールアミン([[セロトニン]]等)、およびその代謝物の酸化反応をfmolオーダーで検出する(図4-A)。酸化還元電位は物質に固有であり、印加電位を変えることで選択的な検出が可能である。カテコールアミンは特に酸化を受けやすく、印加電位を +500 mV 程度まで下げることで選択的に検出することができる。HPLCにおける各成分の分離はアイソクラティック法で行われ、移動相に用いる有機溶媒の種類および濃度、イオンペア試薬の濃度、 pH が大きな影響を及ぼす。有機溶媒には主にメタノールおよびアセトニトリルが用いられるが、濃度を上げることでアミンとその代謝物の溶出時間は早くなり、イオンペア試薬の濃度を上げることでアミンの溶出時間のみ遅くなる。またpH を上げると、DOPAC や HVA など酸性の代謝物の溶出時間は早くなる。最適な印加電圧、移動相条件、カラムの種類を選択することで、脳組織中のモノアミンとその代謝物の一斉分析や、脳透析液中のドーパミンおよびセロトニンの短時間での高感度同時分析も可能である。<br />&ensp;[測定例] マウス脳組織中のモノアミンとその代謝物の一斉分析(図4-B,C,D)<br />&ensp;マウス線条体片側および小脳を各々摘出し、120 μL の0.2 M過塩素酸(100 μM EDTA・2Na含有)でホモジナイズ後、氷上で15分放置した。次に、遠心分離 (15,000 rpm, 20 分, 4 ℃) を行い、上清をpH3付近に調製後、0.45 μm フィルターでろ過したものを測定試料とした。分析条件はエイコム情報<ref name=ref4>モノアミンおよびそれらの代謝物の分析2; EICOMPAK SC-5ODS(φ3 mm)カラムによる脳ホモジネートサンプルの分析, <br />エイコム情報 No.25, エイコム株式会社, 2001.4.</ref>に従い、アイソクラティック法で行った。その結果、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンとその代謝物の合計10成分の同時分析が30分で可能であった(ISO:[[wikipedia:jp:%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB|イソプロテレノール]], 内部標準物質)。同条件にて、脳組織を用いたサンプルにおいても妨害ピークなく分析ができる。
#:&ensp;グラファイト電極に +700 mV 程度の電位を印加することでカテコールアミン([[ドーパミン]]、[[ノルアドレナリン]]、[[アドレナリン等]])や、インドールアミン([[セロトニン]]等)、およびその代謝物の酸化反応をfmolオーダーで検出する(図4-A)。酸化還元電位は物質に固有であり、印加電位を変えることで選択的な検出が可能である。カテコールアミンは特に酸化を受けやすく、印加電位を +500 mV 程度まで下げることで選択的に検出することができる。HPLCにおける各成分の分離はアイソクラティック法で行われ、移動相に用いる有機溶媒の種類および濃度、イオンペア試薬の濃度、 pH が大きな影響を及ぼす。有機溶媒には主にメタノールおよびアセトニトリルが用いられるが、濃度を上げることでアミンとその代謝物の溶出時間は早くなり、イオンペア試薬の濃度を上げることでアミンの溶出時間のみ遅くなる。またpH を上げると、DOPAC や HVA など酸性の代謝物の溶出時間は早くなる。最適な印加電圧、移動相条件、カラムの種類を選択することで、脳組織中のモノアミンとその代謝物の一斉分析や、脳透析液中のドーパミンおよびセロトニンの短時間での高感度同時分析も可能である。<br />&ensp;[測定例] マウス脳組織中のモノアミンとその代謝物の一斉分析(図4-B,C,D)<br />&ensp;マウス線条体片側および小脳を各々摘出し、120 μL の0.2 M過塩素酸(100 μM EDTA・2Na含有)でホモジナイズ後、氷上で15分放置した。次に、遠心分離 (15,000 rpm, 20 分, 4 ℃) を行い、上清をpH3付近に調製後、0.45 μm フィルターでろ過したものを測定試料とした。分析条件はエイコム情報<ref name=ref4>エイコム情報 No.25 モノアミンおよびそれらの代謝物の分析2; EICOMPAK SC-5ODS(φ3 mm)カラムによる脳ホモジネートサンプルの分析<br />''エイコム株式会社'', 2001.4.</ref>に従い、アイソクラティック法で行った。その結果、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンとその代謝物の合計10成分の同時分析が30分で可能であった(ISO:[[wikipedia:jp:%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB|イソプロテレノール]], 内部標準物質)。同条件にて、脳組織を用いたサンプルにおいても妨害ピークなく分析ができる。
[[ファイル:HPLC 図4_横.jpg|thumb|900px|center|'''図 4. (A) ドーパミンの酸化反応.  (B) 標準物質の分析; 10-100 pg の範囲で定量性がある.  (C) マウス線条体抽出物の分析; ドーパミン作動性ニューロンが多いことが分かる.  (D) マウス小脳抽出物の分析; 線条体と全く異なる溶出パターンをすることが分かる.'''<br />[分析条件] 装置:エイコム社製システム(デガッサー:DG-300, ポンプ:EP-300, カラムオーブン:ATC-300, 検出器:ECD-300, EICOM), カラム : EICOMPAK SC-50DS (3.0ID &times; 150 mm, EICOM), 移動相: 83% 0.1 M 酢酸-クエン酸緩衝液(pH 3.5)/17% メタノール(190 mg/L SOS, 5 mg/L EDTA•2Na を含む), 流速:0.5 mL/min, 作用電極: グラファイト電極(WE-3G, EICOM), 印加電圧:+750 mV vs. Ag/AgCl(RE-100, EICOM), 注入量:10 μL, 温度: 25℃,<br />
[[ファイル:HPLC 図4_横.jpg|thumb|900px|center|'''図 4. (A) ドーパミンの酸化反応.  (B) 標準物質の分析; 10-100 pg の範囲で定量性がある.  (C) マウス線条体抽出物の分析; ドーパミン作動性ニューロンが多いことが分かる.  (D) マウス小脳抽出物の分析; 線条体と全く異なる溶出パターンをすることが分かる.'''<br />[分析条件] 装置:エイコム社製システム(デガッサー:DG-300, ポンプ:EP-300, カラムオーブン:ATC-300, 検出器:ECD-300, EICOM), カラム : EICOMPAK SC-50DS (3.0ID &times; 150 mm, EICOM), 移動相: 83% 0.1 M 酢酸-クエン酸緩衝液(pH 3.5)/17% メタノール(190 mg/L SOS, 5 mg/L EDTA•2Na を含む), 流速:0.5 mL/min, 作用電極: グラファイト電極(WE-3G, EICOM), 印加電圧:+750 mV vs. Ag/AgCl(RE-100, EICOM), 注入量:10 μL, 温度: 25℃,<br />
MHPG:3-Methoxy-4-hydroxyphenylglycol, NA:Noradrenaline, AD:Adrenaline, DOPAC:3,4-dihydroxy-phenylacetic acid, NM:Normethanephrine, DA:Dopamine, 5-HIAA:5-Hydroxyindoleacetic acid, ISO:Isoproterenol, HVA:Homovanillic acid, 3-MT:3-Methoxytyramine, 5-HT:5-Hydroxytryptamine
MHPG:3-Methoxy-4-hydroxyphenylglycol, NA:Noradrenaline, AD:Adrenaline, DOPAC:3,4-dihydroxy-phenylacetic acid, NM:Normethanephrine, DA:Dopamine, 5-HIAA:5-Hydroxyindoleacetic acid, ISO:Isoproterenol, HVA:Homovanillic acid, 3-MT:3-Methoxytyramine, 5-HT:5-Hydroxytryptamine
67

回編集