「語彙」の版間の差分

サイズ変更なし 、 2012年5月20日 (日)
19行目: 19行目:
 ことばを発したり理解したりするには基本的に語彙情報に対するアクセスが不可欠である。この語彙アクセスがどうやって実現されるかは、ことばに対する応答や発話といった行動を詳細に分析することで間接的に調べられる。行動に基づく語彙アクセスの研究はメンタル・レキシコンの特性を調べる上で中心的な意義を担ってきた。以下では語彙アクセスに関する心理学的知見やモデル研究を紹介する。  
 ことばを発したり理解したりするには基本的に語彙情報に対するアクセスが不可欠である。この語彙アクセスがどうやって実現されるかは、ことばに対する応答や発話といった行動を詳細に分析することで間接的に調べられる。行動に基づく語彙アクセスの研究はメンタル・レキシコンの特性を調べる上で中心的な意義を担ってきた。以下では語彙アクセスに関する心理学的知見やモデル研究を紹介する。  


==影響する要因 ==
===影響する要因 ===


 語彙の認識や理解に関する心理学的研究は以前から盛んに行われてきており、単語によってアクセスのしやすさが異なるということが分かっている。このような違いを生む要因としては出現頻度(word frequency)や親密度(word familiarity)といったものがある。使用される頻度が高かったり親密度が高かったりする単語ほど、処理に要する時間は短くなる<ref><pubmed> 6242411 </pubmed></ref><ref><pubmed> 2148581 </pubmed></ref>。  
 語彙の認識や理解に関する心理学的研究は以前から盛んに行われてきており、単語によってアクセスのしやすさが異なるということが分かっている。このような違いを生む要因としては出現頻度(word frequency)や親密度(word familiarity)といったものがある。使用される頻度が高かったり親密度が高かったりする単語ほど、処理に要する時間は短くなる<ref><pubmed> 6242411 </pubmed></ref><ref><pubmed> 2148581 </pubmed></ref>。  
29行目: 29行目:
 視覚的な認知過程における単語優位効果([[wikipedia:Word superiority effect|word superiority effect]])<ref><pubmed> 5811803 </pubmed></ref>も広い意味での文脈効果であるといえる。この効果は以下のようなものである――ある文字列を被験者に瞬間提示したのち、そこに含まれていた文字を2択で判断させる課題を考えてもらいたい。2択の文字が“K”と“D”だとすると、文字列が単語(例.WORDやWORK)の場合にランダム文字列(例.ORWD)の場合よりも正答率が上がる。これは単語という文脈に埋め込まれることで文字の検出率が上昇することを意味する。これが単語優位効果である。  
 視覚的な認知過程における単語優位効果([[wikipedia:Word superiority effect|word superiority effect]])<ref><pubmed> 5811803 </pubmed></ref>も広い意味での文脈効果であるといえる。この効果は以下のようなものである――ある文字列を被験者に瞬間提示したのち、そこに含まれていた文字を2択で判断させる課題を考えてもらいたい。2択の文字が“K”と“D”だとすると、文字列が単語(例.WORDやWORK)の場合にランダム文字列(例.ORWD)の場合よりも正答率が上がる。これは単語という文脈に埋め込まれることで文字の検出率が上昇することを意味する。これが単語優位効果である。  


 そのほか、ある単語(ターゲットもしくはプローブ)の理解が直前に別の単語(プライム)などを提示することによって促進されたり抑制されたりする現象も知られている。これは語彙的[[プライミング]]効果(lexical priming effect)と呼ばれるもので、ターゲットに対して語彙判断課題などを行うことで測定する。たとえばプローブとターゲットのあいだに意味的関連がある場合、ターゲットの理解は促進されることが知られている<ref><pubmed> 5134329 </pubmed></ref>。  
 そのほか、ある単語(ターゲットもしくはプローブ)の理解が直前に別の単語(プライム)などを提示することによって促進されたり抑制されたりする現象も知られている。これは語彙的[[プライミング]]効果(lexical priming effect)と呼ばれるもので、ターゲットに対して語彙判断課題などを行うことで測定する。たとえばプローブとターゲットのあいだに意味的関連がある場合、ターゲットの理解は促進されることが知られている<ref><pubmed> 5134329 </pubmed></ref>。


== 語彙アクセスのモデル  ==
== 語彙アクセスのモデル  ==