「カリウムチャネル」の版間の差分

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== 選択的イオン透過機能を支える構造基盤  ==
== 選択的イオン透過機能を支える構造基盤  ==


[[Image:KCh fig2.png|thumb|right|375x187px|<b>図2.カリウムチャネルのポアドメインの構造</b><br />老木成稔 蛋白核酸酵素 1999 <ref name="ref4">'''老木成稔'''<br>Kチャネルの結晶構造に至る道ーK選択性透過を担うポア構造ー<br>''蛋白拡散酵素'':43, 1990-1997, 1998</ref>で用いられている図をもとに執筆者が改変]][[Image:KCh fig3.png|thumb|right|369x344px|<b>図3.カリウムチャネルの選択的イオン透過機構の構造基盤</b><br />a, イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(上段)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(下段)。b, カリウムチャネルのシグネチャ配列がイオン選択フィルターを形成する。カリウムは中心軸に沿ってフィルター内では4箇所の結合部位に存在する。c,4本のペプチド主鎖から提供された酸素原子が5つの回転対称な平面を構成する。カリウム(緑丸)と水(赤丸)は交互に一列配置しているイオン透過過程のモデル。カリウムの[1,3][2,4]配置では上下の平面由来の8つの酸素原子と配位しており、中間遷移状態では同一平面の4つの酸素原子および上下の2つの水分子と配位している。いづれの配位結合もエネルギー的にはほぼ等価であり、これがカリウムのスムーズな移動を保証する。<br />b, Morais-Cabralら Nature 2001<ref name="ref5"><pubmed>11689935</pubmed></ref>、c, Zhouら Nature 2001<ref name="ref6"><pubmed>11689936</pubmed></ref>より許可を得て転載]]イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、単一チャネル電流を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK<sup>+</sup>イオンがNa<sup>+</sup>イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>&gt;Na<sup>+</sup>&gt;Li<sup>+</sup>。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na<sup>+</sup>(イオン半径r=0.95 Å)はK<sup>+</sup>(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK<sup>+</sup>を透過してNa<sup>+</sup>を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、イオン選択フィルターの構造に関係がある<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK<sup>+</sup>イオンに適切であり、K<sup>+</sup>イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8水和様構造をとり安定する(図3a, c)<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。一方、Na<sup>+</sup>イオンはイオン半径が小さくK<sup>+</sup>イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K<sup>+</sup>イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK<sup>+</sup>イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は最適合close-fit説とよばれる。<br>カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK<sup>+</sup>イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK<sup>+</sup>イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K<sup>+</sup>イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている<ref><pubmed>11689935</pubmed></ref>。<br>イオンは膜を透過しようとするとボルンエネルギーというエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、αヘリックスの双極子モーメントが空洞内に陽イオンが留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は疎水性の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。<br>カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明したロデリックマッキノンは2003年ノーベル化学賞を受賞している。  
[[Image:KCh fig2.png|thumb|right|375x187px|<b>図2.カリウムチャネルのポアドメインの構造</b><br />老木成稔 蛋白核酸酵素 1999 <ref name="ref4"><ref>'''老木成稔'''<br>Kチャネルの結晶構造に至る道ーK選択性透過を担うポア構造ー<br>''蛋白拡散酵素'':43, 1990-1997, 1998</ref>で用いられている図をもとに執筆者が改変]][[Image:KCh fig3.png|thumb|right|369x344px|<b>図3.カリウムチャネルの選択的イオン透過機構の構造基盤</b><br />a, イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(上段)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(下段)。b, カリウムチャネルのシグネチャ配列がイオン選択フィルターを形成する。カリウムは中心軸に沿ってフィルター内では4箇所の結合部位に存在する。c,4本のペプチド主鎖から提供された酸素原子が5つの回転対称な平面を構成する。カリウム(緑丸)と水(赤丸)は交互に一列配置しているイオン透過過程のモデル。カリウムの[1,3][2,4]配置では上下の平面由来の8つの酸素原子と配位しており、中間遷移状態では同一平面の4つの酸素原子および上下の2つの水分子と配位している。いづれの配位結合もエネルギー的にはほぼ等価であり、これがカリウムのスムーズな移動を保証する。<br />b, Morais-Cabralら Nature 2001<ref name="ref5"><pubmed>11689935</pubmed></ref>、c, Zhouら Nature 2001<ref name="ref6"><pubmed>11689936</pubmed></ref>より許可を得て転載]]イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、単一チャネル電流を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK<sup>+</sup>イオンがNa<sup>+</sup>イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>&gt;Na<sup>+</sup>&gt;Li<sup>+</sup>。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na<sup>+</sup>(イオン半径r=0.95 Å)はK<sup>+</sup>(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK<sup>+</sup>を透過してNa<sup>+</sup>を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、イオン選択フィルターの構造に関係がある<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK<sup>+</sup>イオンに適切であり、K<sup>+</sup>イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8水和様構造をとり安定する(図3a, c)<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。一方、Na<sup>+</sup>イオンはイオン半径が小さくK<sup>+</sup>イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K<sup>+</sup>イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK<sup>+</sup>イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は最適合close-fit説とよばれる。<br>カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK<sup>+</sup>イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK<sup>+</sup>イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K<sup>+</sup>イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている<ref><pubmed>11689935</pubmed></ref>。<br>イオンは膜を透過しようとするとボルンエネルギーというエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、αヘリックスの双極子モーメントが空洞内に陽イオンが留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は疎水性の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。<br>カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明したロデリックマッキノンは2003年ノーベル化学賞を受賞している。  


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= 3.神経細胞におけるカリウムチャネルの役割<br>  =
= 3.神経細胞におけるカリウムチャネルの役割<br>  =


[[Image:KCh fig5.png|thumb|right|410x403px|<b>図5.電位依存性カリウムチャネルの神経細胞における分布と機能</b><br>Johnstonら J Physiol 2010<ref name="ref18"><pubmed>20519310</pubmed></ref>の図をもとに執筆者が本項に合わせ改変]]神経細胞や心筋細胞の静止膜電位や興奮性の多様性は、多くの場合、それぞれの細胞に発現するカリウムチャネルの種類と量によって説明することが出来る。また細胞内においても均一に発現しているわけではなく、樹状突起や軸索に局在して発現していることも多い(図5)。  
[[Image:KCh fig5.png|thumb|right|410x403px|<b>図5.電位依存性カリウムチャネルの神経細胞における分布と機能</b><br />Johnstonら J Physiol 2010<ref name="ref18"><pubmed>20519310</pubmed></ref>の図をもとに執筆者が本項に合わせ改変]]神経細胞や心筋細胞の静止膜電位や興奮性の多様性は、多くの場合、それぞれの細胞に発現するカリウムチャネルの種類と量によって説明することが出来る。また細胞内においても均一に発現しているわけではなく、樹状突起や軸索に局在して発現していることも多い(図5)。  


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== 電位依存性カリウムチャネル  ==
== 電位依存性カリウムチャネル  ==


神経系において、Kvチャネルは電位依存性ナトリウムチャネルと膜電位を介して機能的に共役し、活動電位の再分極、シナプス後細胞の興奮性の制御、振動性の興奮の制御、スパイク間隔の制御など重要な役割を果たしている。Kvチャネルの多様性が様々な生理機能のそれぞれに対応できるように、多種類の遅延整流性カリウムチャネルを形成している<ref name="ref5" /><ref><pubmed>16791144</pubmed></ref>。<br>神経細胞にはKv1, Kv2, Kv3, Kv4, Kv7, Kv11といったカリウムチャネルサブユニットの発現が認められている。各Kvチャネルクラスはサブファミリーをもち、それらのヘテロテトラマーとしてカリウムチャネルが構成されるので、その可能な組み合わせはサブユニットの数以上に膨大な数となる。  
神経系において、Kvチャネルは電位依存性ナトリウムチャネルと膜電位を介して機能的に共役し、活動電位の再分極、シナプス後細胞の興奮性の制御、振動性の興奮の制御、スパイク間隔の制御など重要な役割を果たしている。Kvチャネルの多様性が様々な生理機能のそれぞれに対応できるように、多種類の遅延整流性カリウムチャネルを形成している<ref name="ref18" /><ref><pubmed>16791144</pubmed></ref>。<br>神経細胞にはKv1, Kv2, Kv3, Kv4, Kv7, Kv11といったカリウムチャネルサブユニットの発現が認められている。各Kvチャネルクラスはサブファミリーをもち、それらのヘテロテトラマーとしてカリウムチャネルが構成されるので、その可能な組み合わせはサブユニットの数以上に膨大な数となる。  


=== A電流  ===
=== A電流  ===


幅広い周波数で発火することが出来る神経細胞の電気的特性は、脳内の情報処理・情報伝達に極めて役割を果たしている。高周波発火神経細胞は100 Hz程度で発火することができ、成熟した聴神経細胞に至っては1000 Hzで発火することができる。そういった高周波数で神経細胞が発火するためには活動電位持続時間が十分短く、且つイオンチャネルの不応期からの素早い回復が必要である。A電流や''I''&lt;subto&lt;/sub&gt;とよばれるカリウムチャネル電流は活動電位中に素早く活性化されその後不活性化され、一過性の外向き電流を流し、活動電位を短く保つ役割をもつ。活動電位後 A電流は一過的に不活性化されているが、他のカリウムチャネルの活性による過分極によって不活性化から回復し、次の活動電位中に再び活性化する。<br>また、A電流が不活性化を受ける膜電位の範囲に静止膜電位が入っており、この電流は静止膜電位において一部不活性化を受けている。このことにより、静止膜電位付近の僅かな膜電位変化でもこの不活性化が制御され、A電流量に影響を及ぼす。例えば、過分極により不活性化が軽減され細胞膜の興奮性が下がる。さらに、PKA、PKC、MAPK、ERKなどによるリン酸化などシグナル伝達による制御もよく知られている。このようなことから、神経細胞において小さな、局所的な膜電位変化であるシナプス入力やGRCRを介した代謝性シグナル伝達がこのA電流を介して、膜の興奮性を制御することが可能である。<br>Kv1.4, Kv3.4, およびKv4サブユニットファミリー(Kv4.1-4.3)を細胞に発現させるとカリウムチャネルはA電流を流す(Kv4電流、図5)。その為、これらのサブユニットが生理的に計測されるA電流を担っていると考えられている。<br>神経細胞においては、細胞体や樹状突起からA電流が計測され、特に遠位樹状突起で大きなA電流が認められる。樹状突起におけるA電流はシナプス入力に対するシナプス後細胞の応答を制御しており、また細胞体から樹状突起への活動電位の逆伝搬現象(backpropagating action potential, bAP)も制御している。Kv4サブファミリーは神経系におけるA電流のαサブユニットの主要な構成要素であり、例えば、CA1錯体神経細胞では、Kv4.2サブユニットが細胞体樹状突起に豊富に発現している(図5)。しかし培養細胞にKv4ファミリーのαサブユニットのみを発現させただけでは、神経細胞で計測されるA電流の電気生理学的な特性を十分再現できない。 神経特異的カルシウムセンサー蛋白質(Neuronal Calcium sensor protein, NCS)のファミリーに属するK channel-interacting proteins (KChiPs)や dipeptidyl peptidase-like proteins(DPPX、とくにDPP6やDPP10)というβサブユニットがKv4チャネルと複合体を形成し、その電流が神経細胞のA電流に類似していることから、その複合体が生理的に機能していると考えられる。<br>A電流の様に、非常に早く活性化され、その後速やかに不活性化される、一過性のカリウム電流であるが不活性化の膜電位がA電流と異なり、さらにカリウムチャネルに作用する薬物に対する感受性も明らかに異なる成分が認められることから、A電流とは分子実体の異なるD電流の存在が報告されている。Dendrotoxin感受性のD電流は、Kv4ではなく、Kv1サブファミリーが分子実体であると考えられる。  
幅広い周波数で発火することが出来る神経細胞の電気的特性は、脳内の情報処理・情報伝達に極めて役割を果たしている。高周波発火神経細胞は100 Hz程度で発火することができ、成熟した聴神経細胞に至っては1000 Hzで発火することができる。そういった高周波数で神経細胞が発火するためには活動電位持続時間が十分短く、且つイオンチャネルの不応期からの素早い回復が必要である。A電流や''I''<sub>to</sub>とよばれるカリウムチャネル電流は活動電位中に素早く活性化されその後不活性化され、一過性の外向き電流を流し、活動電位を短く保つ役割をもつ。活動電位後 A電流は一過的に不活性化されているが、他のカリウムチャネルの活性による過分極によって不活性化から回復し、次の活動電位中に再び活性化する。<br>また、A電流が不活性化を受ける膜電位の範囲に静止膜電位が入っており、この電流は静止膜電位において一部不活性化を受けている。このことにより、静止膜電位付近の僅かな膜電位変化でもこの不活性化が制御され、A電流量に影響を及ぼす。例えば、過分極により不活性化が軽減され細胞膜の興奮性が下がる。さらに、PKA、PKC、MAPK、ERKなどによるリン酸化などシグナル伝達による制御もよく知られている。このようなことから、神経細胞において小さな、局所的な膜電位変化であるシナプス入力やGRCRを介した代謝性シグナル伝達がこのA電流を介して、膜の興奮性を制御することが可能である。<br>Kv1.4, Kv3.4, およびKv4サブユニットファミリー(Kv4.1-4.3)を細胞に発現させるとカリウムチャネルはA電流を流す(Kv4電流、図5)。その為、これらのサブユニットが生理的に計測されるA電流を担っていると考えられている。<br>神経細胞においては、細胞体や樹状突起からA電流が計測され、特に遠位樹状突起で大きなA電流が認められる。樹状突起におけるA電流はシナプス入力に対するシナプス後細胞の応答を制御しており、また細胞体から樹状突起への活動電位の逆伝搬現象(backpropagating action potential, bAP)も制御している。Kv4サブファミリーは神経系におけるA電流のαサブユニットの主要な構成要素であり、例えば、CA1錯体神経細胞では、Kv4.2サブユニットが細胞体樹状突起に豊富に発現している(図5)。しかし培養細胞にKv4ファミリーのαサブユニットのみを発現させただけでは、神経細胞で計測されるA電流の電気生理学的な特性を十分再現できない。 神経特異的カルシウムセンサー蛋白質(Neuronal Calcium sensor protein, NCS)のファミリーに属するK channel-interacting proteins (KChiPs)や dipeptidyl peptidase-like proteins(DPPX、とくにDPP6やDPP10)というβサブユニットがKv4チャネルと複合体を形成し、その電流が神経細胞のA電流に類似していることから、その複合体が生理的に機能していると考えられる。<br>A電流の様に、非常に早く活性化され、その後速やかに不活性化される、一過性のカリウム電流であるが不活性化の膜電位がA電流と異なり、さらにカリウムチャネルに作用する薬物に対する感受性も明らかに異なる成分が認められることから、A電流とは分子実体の異なるD電流の存在が報告されている。Dendrotoxin感受性のD電流は、Kv4ではなく、Kv1サブファミリーが分子実体であると考えられる。  


=== 遅延整流性カリウム電流  ===
=== 遅延整流性カリウム電流  ===


不活性化をあまり受けない電位依存性カリウム電流は、一過性のA 電流に対して持続性のカリウム電流と呼ばれることがある。活性化の速度が早いものと遅いものがあり、また活性化の電位依存性も様々異なるものが記録される。<br>Kv1、Kv3サブファミリーは脱分極による活性化のカイネティクスが比較的早いタイプの遅延性整流性カリウムチャネルである(図5)。<br>Kv1.1-1.3は低閾値型(LVA型)で脱分極により持続した外向き電流を流す。脱分極が続くと遅い不活性化を受ける。神経細胞においては、有髄神経のランビエ絞輪(node of Ranvier)周辺にKv1.1やKv1.2が集積しており、一方ミエリン化されていない軸索にはKv1.4が均一に分布している。活動電位発生の閾値となる膜電位(閾膜電位)以下で活性化されるこのチャネルの活性は活動電位の閾値を上げる役割を果す。特に神経細胞の発火帯、軸索といった部位におけるこれらのチャネルの活性は(図5)、神経細胞の自発的な発火を抑え、神経活動依存的に発火するようになり、神経伝達の忠実性fidelityを上げるという意義がある。<br>また、Kv3サブファミリーは高閾値型(HVA型)で早く活性化されるカリウムチャネルであり、活動電位の発生後に活性化され、活動電位の振幅や活動電位活動電位持続時間 の制御を行なっている(図5)。神経細胞に広く発現するが、シナプス前終末に到達する活動電位の波形はシナプス小胞の放出に大きな影響を与えることから、Kv3は神経伝達機構を制御していると言える。Kv3は他よりもTEA感受性が高く、実際TEAによって神経細胞のKv3チャネルを阻害すると活動電位の振幅を大きくし、活動電位活動電位持続時間 を延長し、Ca2+電流を増強してシナプス伝達が亢進する。<br>Kv7(KCNQ)、Kv11(KCNH、eag/ergとも)、Kv2サブファミリーは脱分極による活性化のカイネティクスが遅いタイプのKvチャネルである。 活動電位持続時間の長い心筋細胞においては、Kv7.1(KCNQ1)はMinK(KCNE1)と、Kv11.1(KCNH、hERGとも)はMinK related protein1(MiRP)(KCNE2)と複合体を形成し、それぞれ''I<sub></sub>''<sub>Ks</sub>、''I''<sub>Kr</sub>という遅延整流性カリウム電流の早い成分と遅い成分を担い、活動電位第三相で細胞を再分極させるために働いている。しかしながら心筋細胞に比べて活動電位持続時間が短い神経細胞においては、個々の活動電位中に活性化されるわけではない。LVA型のKv7(KCNQ)は深い膜電位でも活性化される一方で不活性化はあまり受けず、閾膜電位以下の膜電位でも持続的な外向き電流を流しており、細胞の興奮性の制御に関わっている(図5)。 <br>アセチルコリンAChなどの神経活動制御因子は遅延整流性カリウム電流を抑制することで、閾膜電位付近の興奮性を高め、発火頻度やシナプス入力に対する応答性を制御する。ムスカリン性ACh受容体の活性化に共役したカリウム電流がよく研究されており、この電流はムスカリン muscarinから M電流と呼ばれている。神経系においては、主にKv7.2(KCNQ2)/Kv7.3(KCNQ3)から構成されているイオンチャネルがこの電流を担っていると考えられている。<br>このイオンチャネルの活性には細胞膜の内側に存在しているリン脂質PIP<sub>2</sub>との結合が必要であり、Gq共役型のGPCR、例えばM<sub>3</sub> ACh受容体の刺激はPLCを活性化し、膜のPIP<sub>2</sub>を減少させることでチャネルの活性を抑制すると考えられている。<br>CA1錯体細胞の樹状突起から計測される持続性のカリウム電流は電気生理学的な特性や薬理学的な特性(4-APよりもTEA感受性が高い)からHVA型のKv2サブファミリーであると考えられている(図5)。この電流は活動電位の中の膜電位で活性化される。神経細胞の高頻度発火の際にはこの電流が活性化し活動電位間の膜電位を過分極させる。  
不活性化をあまり受けない電位依存性カリウム電流は、一過性のA 電流に対して持続性のカリウム電流と呼ばれることがある。活性化の速度が早いものと遅いものがあり、また活性化の電位依存性も様々異なるものが記録される。<br>Kv1、Kv3サブファミリーは脱分極による活性化のカイネティクスが比較的早いタイプの遅延性整流性カリウムチャネルである(図5)。<br>Kv1.1-1.3は低閾値型(LVA型)で脱分極により持続した外向き電流を流す。脱分極が続くと遅い不活性化を受ける。神経細胞においては、有髄神経のランビエ絞輪(node of Ranvier)周辺にKv1.1やKv1.2が集積しており、一方ミエリン化されていない軸索にはKv1.4が均一に分布している。活動電位発生の閾値となる膜電位(閾膜電位)以下で活性化されるこのチャネルの活性は活動電位の閾値を上げる役割を果す。特に神経細胞の発火帯、軸索といった部位におけるこれらのチャネルの活性は(図5)、神経細胞の自発的な発火を抑え、神経活動依存的に発火するようになり、神経伝達の忠実性fidelityを上げるという意義がある。<br>また、Kv3サブファミリーは高閾値型(HVA型)で早く活性化されるカリウムチャネルであり、活動電位の発生後に活性化され、活動電位の振幅や活動電位活動電位持続時間 の制御を行なっている(図5)。神経細胞に広く発現するが、シナプス前終末に到達する活動電位の波形はシナプス小胞の放出に大きな影響を与えることから、Kv3は神経伝達機構を制御していると言える。Kv3は他よりもTEA感受性が高く、実際TEAによって神経細胞のKv3チャネルを阻害すると活動電位の振幅を大きくし、活動電位活動電位持続時間 を延長し、Ca2+電流を増強してシナプス伝達が亢進する。<br>Kv7(KCNQ)、Kv11(KCNH、eag/ergとも)、Kv2サブファミリーは脱分極による活性化のカイネティクスが遅いタイプのKvチャネルである。 活動電位持続時間の長い心筋細胞においては、Kv7.1(KCNQ1)はMinK(KCNE1)と、Kv11.1(KCNH、hERGとも)はMinK related protein1(MiRP)(KCNE2)と複合体を形成し、それぞれ''I''<sub>Ks</sub>、''I''<sub>Kr</sub>という遅延整流性カリウム電流の早い成分と遅い成分を担い、活動電位第三相で細胞を再分極させるために働いている。しかしながら心筋細胞に比べて活動電位持続時間が短い神経細胞においては、個々の活動電位中に活性化されるわけではない。LVA型のKv7(KCNQ)は深い膜電位でも活性化される一方で不活性化はあまり受けず、閾膜電位以下の膜電位でも持続的な外向き電流を流しており、細胞の興奮性の制御に関わっている(図5)。 <br>アセチルコリンAChなどの神経活動制御因子は遅延整流性カリウム電流を抑制することで、閾膜電位付近の興奮性を高め、発火頻度やシナプス入力に対する応答性を制御する。ムスカリン性ACh受容体の活性化に共役したカリウム電流がよく研究されており、この電流はムスカリン muscarinから M電流と呼ばれている。神経系においては、主にKv7.2(KCNQ2)/Kv7.3(KCNQ3)から構成されているイオンチャネルがこの電流を担っていると考えられている。<br>このイオンチャネルの活性には細胞膜の内側に存在しているリン脂質PIP<sub>2</sub>との結合が必要であり、Gq共役型のGPCR、例えばM<sub>3</sub> ACh受容体の刺激はPLCを活性化し、膜のPIP<sub>2</sub>を減少させることでチャネルの活性を抑制すると考えられている。<br>CA1錯体細胞の樹状突起から計測される持続性のカリウム電流は電気生理学的な特性や薬理学的な特性(4-APよりもTEA感受性が高い)からHVA型のKv2サブファミリーであると考えられている(図5)。この電流は活動電位の中の膜電位で活性化される。神経細胞の高頻度発火の際にはこの電流が活性化し活動電位間の膜電位を過分極させる。  


== カルシウム活性化カリウムチャネル  ==
== カルシウム活性化カリウムチャネル  ==
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