「社会脳」の版間の差分

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(要約)
 1990年にBrothersが、[[社会的認知能力]]に重要な部位として、[[扁桃体]]、[[眼窩前頭野]]、[[側頭葉]]を挙げたことを契機に用いられるようになった用語<ref name=ref1>'''Brothers L.'''<br>The social brain: A project for integrating primate behavior and neurophysiology in a new domain.<br>''Concepts in Neuroscience.'' 1990; 1, 27-51.</ref>。その意味するところは時代と共に変遷しているが、概ね、社会的行動に関わる脳構造とその研究を指している。
 
 1990年にBrothersが、社会的認知能力に重要な部位として、扁桃体、眼窩前頭野、側頭葉を挙げたことを契機に用いられるようになった用語。その意味するところは時代と共に変遷しているが、概ね、社会的行動に関わる脳構造とその研究を指している。
 
(本文の一番始めに「社会脳」とは何かの定義を御願い致します。)


 脳神経科学の究極の目的が人間の理解だとすれば、人間が社会的存在である以上、[[wikipedia:JA:ヒト|ヒト]]を対象とした研究はもちろん、ヒトを対象にしない脳神経科学も程度の差はあれ、すべて”social”なneuroscienceであり、社会脳研究ともいえる。したがって、広義の社会脳研究においては、特定の部位やシステム、方法論に限定するものではない。とはいえ、現在の広義の社会脳研究に至るまでの転機となるポイントを紹介していく。
 脳神経科学の究極の目的が人間の理解だとすれば、人間が社会的存在である以上、[[wikipedia:JA:ヒト|ヒト]]を対象とした研究はもちろん、ヒトを対象にしない脳神経科学も程度の差はあれ、すべて”social”なneuroscienceであり、社会脳研究ともいえる。したがって、広義の社会脳研究においては、特定の部位やシステム、方法論に限定するものではない。とはいえ、現在の広義の社会脳研究に至るまでの転機となるポイントを紹介していく。


 社会脳という言葉が浸透したのは、1990年にアメリカの生理学者Leslie Brothers<ref name=ref1>'''Brothers L.'''<br>The social brain: A project for integrating primate behavior and neurophysiology in a new domain.<br>''Concepts in neuroscience.'' 1990; 1, 27-51.</ref>がsocial brainという言葉を使用し、社会認知能力に特に重要な部位として[[扁桃体]]と[[眼窩前頭野]]と[[側頭葉]]をあげたのがひとつの転機と考えられる。その後の[[損傷研究]]や[[非侵襲的脳機能画像研究]]で、扁桃体は[[情動認知]]、眼窩前頭野は[[意思決定]]、側頭葉下面は[[相貌認知]]に重要であることわかってきた。
 社会脳という言葉が浸透したのは、1990年にアメリカの生理学者Leslie Brothers<ref name=ref1 />がsocial brainという言葉を使用し、社会認知能力に特に重要な部位として扁桃体と眼窩前頭野と側頭葉をあげたのがひとつの転機と考えられる。その後の[[損傷研究]]や[[非侵襲的脳機能画像研究]]で、扁桃体は[[情動認知]]、眼窩前頭野は[[意思決定]]、側頭葉下面は[[相貌認知]]に重要であることわかってきた。


 ヒトにおいては、脳は体重の約2%にすぎないのに体全体で使われるエネルギーの約20%も消費する。このような高コストの器官が進化するには、それだけの理由が必要である。イギリスのRobin Dunberは全脳に対する新皮質の割合を霊長類の種間で比較した。その結果、新皮質の割合と相関があったのは生態的要因ではなく、集団のグループサイズという社会的要因であることを見出し、霊長類の新皮質の進化は集団生活、社会的環境に適応するために進化したという社会脳仮説を1998年に発表した<ref name=ref2>'''Dunbar RIM.'''<br>The social brain hypothesis.<br>''Evolutionary Anthropology.'' 1998; 6: 178-190.</ref>。この実証的な報告以前から、イギリスのNicholas Humphreyらによって大型の霊長類の知能は社会的な状況に適応するために進化してきたのではないかと議論されていた<ref name=ref3>'''Humphrey N'''<br>in Growing Points in Ethology: The social function of intellect, eds Bateson PPG.,<br>Hinde RA (Cambridge University Press, Cambridge,), 1976, pp 303–317.</ref>。
 ヒトにおいては、脳は体重の約2%にすぎないのに体全体で使われるエネルギーの約20%も消費する。このような高コストの器官が進化するには、それだけの理由が必要である。イギリスのRobin Dunberは全脳に対する新皮質の割合を霊長類の種間で比較した。その結果、新皮質の割合と相関があったのは生態的要因ではなく、集団のグループサイズという社会的要因であることを見出し、霊長類の新皮質の進化は集団生活、社会的環境に適応するために進化したという社会脳仮説を1998年に発表した<ref name=ref2>'''Dunbar RIM.'''<br>The social brain hypothesis.<br>''Evolutionary Anthropology.'' 1998; 6: 178-190.</ref>。この実証的な報告以前から、イギリスのNicholas Humphreyらによって大型の霊長類の知能は社会的な状況に適応するために進化してきたのではないかと議論されていた<ref name=ref3>'''Humphrey N'''<br>in Growing Points in Ethology: The social function of intellect, eds Bateson PPG.,<br>Hinde RA (Cambridge University Press, Cambridge,), 1976, pp 303–317.</ref>。