「動眼神経核」の版間の差分

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同義語:第三神経核
同義語:第三神経核
[[image:杉内動眼神経核図1z.jpg|thumb|300px|'''図1.動眼神経核内に亜核'''<br>原図はWarwick 1954による、篠田 1985より改変引用]]
[[image:杉内動眼神経核図2z.jpg|thumb|300px|'''図2.動眼神経核内の内直筋亜核(グループA,B,C)の広がり<br>(サル、前額断切片)'''<br>Büttner-Ennever and Akert,1981より引用改変]]


 動眼神経核には、眼球運動を司る筋肉(外眼筋)と、瞳孔を収縮させる瞳孔括約筋および水晶体の厚みを調節する毛様体筋(内眼筋)を支配する第三脳神経の起始細胞が存在する。中脳の正中部、中心灰白質の腹側部に位置しており、そこから第三脳神経(動眼神経)が腹側に走り、赤核、大脳脚を通過して、脳幹外に出る。発生学的には、外眼筋支配神経は体性運動系に属し、内眼筋支配神経は臓性運動系に属する副交感性の神経細胞である。なお、動眼神経核内には、筋肉を支配する運動細胞の他、介在細胞も分布する。
 動眼神経核には、眼球運動を司る筋肉(外眼筋)と、瞳孔を収縮させる瞳孔括約筋および水晶体の厚みを調節する毛様体筋(内眼筋)を支配する第三脳神経の起始細胞が存在する。中脳の正中部、中心灰白質の腹側部に位置しており、そこから第三脳神経(動眼神経)が腹側に走り、赤核、大脳脚を通過して、脳幹外に出る。発生学的には、外眼筋支配神経は体性運動系に属し、内眼筋支配神経は臓性運動系に属する副交感性の神経細胞である。なお、動眼神経核内には、筋肉を支配する運動細胞の他、介在細胞も分布する。
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 眼球運動に関与する外眼筋は一側の眼球に6 個存在する。これらの外眼筋の支配には3つの脳神経核が関与する。滑車神経核(第四脳神経核)は上斜筋を、外転神経核(第六脳神経核)は外直筋を支配し、動眼神経核は、それ以外の4種類の外眼筋(上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋)を支配する。四肢や体幹の筋を支配する脊髄運動細胞にみられるように、体性運動系の運動細胞は、通常、同側の筋肉を支配する。しかしながら、一部の外眼筋支配の運動細胞は、この原則に対する例外である。すなわち外眼筋も原則として同側支配であるが、滑車神経核による上斜筋と、動眼神経核のうち上直筋の支配は対側性支配(ごく一部は同側)である。
 眼球運動に関与する外眼筋は一側の眼球に6 個存在する。これらの外眼筋の支配には3つの脳神経核が関与する。滑車神経核(第四脳神経核)は上斜筋を、外転神経核(第六脳神経核)は外直筋を支配し、動眼神経核は、それ以外の4種類の外眼筋(上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋)を支配する。四肢や体幹の筋を支配する脊髄運動細胞にみられるように、体性運動系の運動細胞は、通常、同側の筋肉を支配する。しかしながら、一部の外眼筋支配の運動細胞は、この原則に対する例外である。すなわち外眼筋も原則として同側支配であるが、滑車神経核による上斜筋と、動眼神経核のうち上直筋の支配は対側性支配(ごく一部は同側)である。


[[image:杉内動眼神経核図1z.jpg|thumb|300px|'''図1.動眼神経核内に亜核'''<br>原図はWarwick 1954による、篠田 1985より改変引用]]
 動眼神経核内において、各筋を支配する運動細胞は、一定の局在(亜核)をもって分布し、頭尾方向に長い円柱状の亜核が背腹方向に配列している<ref name=ref1><pubmed>13069631</pubmed></ref>(図1)。すなわち、動眼神経核内において、その内側部には、上直筋、腹外側部には下斜筋、背外側部と最吻側部には下直筋, 最腹側部には内直筋の運動細胞が分布するとされたが、それぞれの外眼筋を支配する運動細胞は動眼神経核内で混在する傾向が大きい。動眼神経核の運動細胞は、動眼神経核の範囲内だけでなく、その近傍の神経線維束(内側縦束)や、網様体の中にも分布することがある。特に、サルにおいて内直筋亜核については詳細に研究され、古典的な内直筋亜核(グループA)以外に、従来は下直筋の亜核とされた部位(グループB), 動眼神経核の背内側部に存在するグループCの3つの部分からなることが報告されている<ref name=ref2>'''Büttner-Ennever JA, and Akert K.'''<br>Medial rectus subgroups of the oculomotor nucleus and their abducens internuclear input in the monkey.<br>Journal of Comparative Neurology197: 17-27, 1981.</ref>(図2)。グループCは、入力および出力系がグループA, Bとは異なっており、輻輳性眼球運動に関与している可能性が示唆されている<ref name=ref3><pubmed>8698892</pubmed></ref>。
 
[[image:杉内動眼神経核図2z.jpg|thumb|300px|'''図2.動眼神経核内の内直筋亜核(グループA,B,C)の広がり<br>(サル、前額断切片)'''<br>Büttner-Ennever and Akert,1981より引用改変]]
 
 動眼神経核内において、各筋を支配する運動細胞は、一定の局在(亜核)をもって分布し、頭尾方向に長い円柱状の亜核が背腹方向に配列している(1)(図1)。すなわち、動眼神経核内において、その内側部には、上直筋、腹外側部には下斜筋、背外側部と最吻側部には下直筋, 最腹側部には内直筋の運動細胞が分布するとされたが、それぞれの外眼筋を支配する運動細胞は動眼神経核内で混在する傾向が大きい。動眼神経核の運動細胞は、動眼神経核の範囲内だけでなく、その近傍の神経線維束(内側縦束)や、網様体の中にも分布することがある。特に、サルにおいて内直筋亜核については詳細に研究され、古典的な内直筋亜核(グループA)以外に、従来は下直筋の亜核とされた部位(グループB), 動眼神経核の背内側部に存在するグループCの3つの部分からなることが報告されている(2)(図2)。グループCは、入力および出力系がグループA, Bとは異なっており、輻輳性眼球運動に関与している可能性が示唆されている(3)。


 開眼する際に活動する上眼瞼挙筋の運動細胞は、動眼神経核の中の尾側中心核(caudal central nucleus of Perlia, Perlia核)に存在する。Perlia核は古くは輻輳運動の中枢と考えられたが、現在では、否定されている。
 開眼する際に活動する上眼瞼挙筋の運動細胞は、動眼神経核の中の尾側中心核(caudal central nucleus of Perlia, Perlia核)に存在する。Perlia核は古くは輻輳運動の中枢と考えられたが、現在では、否定されている。


 下等動物(ネコ、イヌ、ウサギ)では眼球を後方へ引く働きを持つ後牽引筋(retractor bulbi muscle)が存在する(サル、ヒトでは存在しない)が、その運動細胞は、動眼神経核の内直筋亜核、外転神経核、外転神経核近傍のaccessory abducens nucleusに存在する(4)。
 下等動物(ネコ、イヌ、ウサギ)では眼球を後方へ引く働きを持つ後牽引筋(retractor bulbi muscle)が存在する(サル、ヒトでは存在しない)が、その運動細胞は、動眼神経核の内直筋亜核、外転神経核、外転神経核近傍のaccessory abducens nucleusに存在する<ref name=ref4><pubmed>7373357</pubmed></ref>。


 動眼神経核の臓性核は、Edinger-Westphal 核であり、瞳孔括約筋と毛様帯筋を支配する動眼神経副交感神経系の起始核神経細胞(すなわち、毛様体神経節に軸索を送る節前神経細胞)が存在する(但しこれは霊長類における知見であり、ネコでは非典型的であるとの報告がある。(5))。Edinger- Westphal 核は吻側の前正中核(anteromedian nucleus, AM核)と、尾側の内臓核(visceral nucleus, V核)に区分されるが、狭義には、内臓核だけをさすこともある。
 動眼神経核の臓性核は、Edinger-Westphal 核であり、瞳孔括約筋と毛様帯筋を支配する動眼神経副交感神経系の起始核神経細胞(すなわち、毛様体神経節に軸索を送る節前神経細胞)が存在する(但しこれは霊長類における知見であり、ネコでは非典型的であるとの報告がある。<ref name=ref5><pubmed>19605130</pubmed></ref>)。Edinger- Westphal 核は吻側の前正中核(anteromedian nucleus, AM核)と、尾側の内臓核(visceral nucleus, V核)に区分されるが、狭義には、内臓核だけをさすこともある。


 動眼神経核の近傍にあり、眼球運動や視覚に関係が深いが、動眼神経に直接軸索を送っていない領域として、副動眼神経核(accessory oculomotor nucleus)と総称される領域が存在する(6)。これには、Cajal間質核、Darkschewitsch核, 後交連核が含まれる。Bechterew内側副核、内側縦束吻側間質核(rostral interstitial nucleus of the medial longitudinal fascile)を加えることも多い。同様の領域として、上丘、視蓋前域が存在する。上丘は急速眼球運動(saccadic eye movement)の発現に深く関わっており、視蓋前域は瞳孔反射(対光反射、調節反射)、視運動性眼振の発現に関与する。
 動眼神経核の近傍にあり、眼球運動や視覚に関係が深いが、動眼神経に直接軸索を送っていない領域として、副動眼神経核(accessory oculomotor nucleus)と総称される領域が存在する<ref name=ref6><pubmed>5004166</pubmed></ref>。これには、Cajal間質核、Darkschewitsch核, 後交連核が含まれる。Bechterew内側副核、内側縦束吻側間質核(rostral interstitial nucleus of the medial longitudinal fascile)を加えることも多い。同様の領域として、上丘、視蓋前域が存在する。上丘は急速眼球運動(saccadic eye movement)の発現に深く関わっており、視蓋前域は瞳孔反射(対光反射、調節反射)、視運動性眼振の発現に関与する。




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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==


1. Warwick R. Representation of the extra ocular muscles in the oculomotor nuclei of the monkey. Journal of Comparative Neurology 98: 449-504, 1953. PMID: 13069631
<references />
2. Büttner-Ennever JA, and Akert K. Medial rectus subgroups of the oculomotor nucleus and their abducens internuclear input in the monkey. Journal of Comparative Neurology197: 17-27, 1981.
 
3. Büttner-Ennever JA, Cohen B, Horn AK, and Reisine H. Pretectal projections to the oculomotor complex of the monkey and their role in eye movements. Journal of Comparative Neurology 366: 348-359, 1996. PMID: 8698892
4 Spencer RF, Baker R, and McCrea RA. Localzation and morphology of cat retractor bulbi motoneurons. Joural of Neurophysiology 43: 754-770, 1980. PMID: 7373357
5. Sugimoto T, Itoh K, and Mizuno N. Localization of neurons giving rise to the oculomotor parasympathetic outflow: A HRP study in cat. Neuroscience Letters 7: 301-305, 1978. PMID: 19605130
6. Carpenter MB, and Peter P. Accessory oculomotor nuclei in the monkey. Journal fur Hirnforsch 6: 405-418, 1970. PMID: 5004166
7.篠田義一、眼球運動の生理学、眼球運動の神経学、小松崎篤、篠田義一、丸尾敏夫、医学書院、1985、p.1-147.
7.篠田義一、眼球運動の生理学、眼球運動の神経学、小松崎篤、篠田義一、丸尾敏夫、医学書院、1985、p.1-147.




(執筆者:杉内友理子 担当編集委員:伊佐正)
(執筆者:杉内友理子 担当編集委員:伊佐正)