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ヒトでは、VORの検査にゲインの測定よりも、カロリックテストと呼ばれる方法がひろく用いられる(図4)。頭を60度後方に傾けた状態にして水平半規管がほぼ垂直になるようにして、一側の外耳道に温水を注入すると、中耳腔と側頭骨の温度差で生じる外リンパ液の対流によって注入側の水平半規管の有毛細胞が脱分極し、対側に向かう水平性VORが誘発される。眼球がある程度対側に偏位すると、リセットの急速な眼球運動が生じ、眼球はもとの位置にもどり、再び対側に向かう水平性VORが誘発される。このようにslowのVOR(緩徐相)とquickの眼球運動(急速相)が繰り返し生じる現象を前庭性眼振(vestibular nystagmus)と呼ぶ。冷水を注入すると、緩徐相と急速相の方向はそれぞれ逆転する。この温度眼振は1914年にNobel医学賞を受賞したバラニー(Robert Bàràny, 1876-1936)によって発見されて以来、末梢の前庭機能の検査の方法として臨床的に用いられている。1983年にNASAのスペースシャトル内で、無重力状態でも、地上と同様な温度眼振が誘発されることが実験的に示された。重力のないところでは対流は生じにくいので、それ以外のメカニズムも関与するようであるが、それについてはよくわかってはいない。前庭性眼振には、カロリックテストで誘発されるような生理的眼振と、メニエル病のような前庭障害によって生じるような病的眼振がある。カロリックテストを含む眼振の検査はめまいの診断に用いられる。 | ヒトでは、VORの検査にゲインの測定よりも、カロリックテストと呼ばれる方法がひろく用いられる(図4)。頭を60度後方に傾けた状態にして水平半規管がほぼ垂直になるようにして、一側の外耳道に温水を注入すると、中耳腔と側頭骨の温度差で生じる外リンパ液の対流によって注入側の水平半規管の有毛細胞が脱分極し、対側に向かう水平性VORが誘発される。眼球がある程度対側に偏位すると、リセットの急速な眼球運動が生じ、眼球はもとの位置にもどり、再び対側に向かう水平性VORが誘発される。このようにslowのVOR(緩徐相)とquickの眼球運動(急速相)が繰り返し生じる現象を前庭性眼振(vestibular nystagmus)と呼ぶ。冷水を注入すると、緩徐相と急速相の方向はそれぞれ逆転する。この温度眼振は1914年にNobel医学賞を受賞したバラニー(Robert Bàràny, 1876-1936)によって発見されて以来、末梢の前庭機能の検査の方法として臨床的に用いられている。1983年にNASAのスペースシャトル内で、無重力状態でも、地上と同様な温度眼振が誘発されることが実験的に示された。重力のないところでは対流は生じにくいので、それ以外のメカニズムも関与するようであるが、それについてはよくわかってはいない。前庭性眼振には、カロリックテストで誘発されるような生理的眼振と、メニエル病のような前庭障害によって生じるような病的眼振がある。カロリックテストを含む眼振の検査はめまいの診断に用いられる。 | ||
[[Image:図4VOR.jpg|350px|図4.温度刺激で誘発される前庭眼振とその発現の神経機構。(頭を60度後屈させ、右の外耳道に温水を注入したときに生じる水平半規管のリンパ流と、それにより生じる水平性VOR。図は頭の後部より中耳を眺めたもの。水平半器管は、この頭位では垂直に位置する。誘発される眼振の緩徐相(VOR)と急速相を右下に示す。]] | [[Image:図4VOR.jpg|350px|図4.温度刺激で誘発される前庭眼振とその発現の神経機構。(頭を60度後屈させ、右の外耳道に温水を注入したときに生じる水平半規管のリンパ流と、それにより生じる水平性VOR。図は頭の後部より中耳を眺めたもの。水平半器管は、この頭位では垂直に位置する。誘発される眼振の緩徐相(VOR)と急速相を右下に示す。]] | ||
小脳片葉によるVORのゲイン調節機構は小脳による運動学習の実験モデルとして、詳細に研究されている。それについては小脳プラットフォーム(http://cerebellum.neuroinf.jp) を参照されたい。<br>関連項目:前庭核、視運動性眼振、小脳の神経回路、小脳によるタイミング制御、瞬膜反射の条件付け、参考文献 1. Ito M, The cerebellum and neural control. Raven, New York, 1984. 2. 篠田義一. 眼球運動の生理学. 眼球運動の神経学(小松崎、篠田、丸尾編),医学書院,東京、1985. 3. Nagao S: Exp Brain Res 53: 36-46, 1983. 4. Ito M, Nagao S: Comp Biochem Physiol 98C: 221-228, 1991. 5. Nagao S, Kitazawa H: Neuroscience 118: 563-570, 2003. 6. Anzai M, et al.: Neurosci Res 68: 191-198, 2010. 7. 永雄総一: 神経研究の進歩 44:748-758,2000. 8. Ito M: The cerebellum: Brain for an implicit self. FT Press, New York, 2011. 9. 永雄総一, 山崎匡: 生体の科学 63: 3-10, 2012. | |||
(執筆者:永雄総一、編集担当委員:伊佐 正) | |||
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