大脳皮質
霊長類を含む哺乳動物の大脳皮質は大別して前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉に分けられる。ヒトを含む高等な霊長類の脳では、前頭葉と頭頂葉を隔てる中心溝直前の中心前回(Brodmannの4野)には一次運動野が、中心溝直後の中心後回(Brodmannの3a, 3b, 1, 2野)には一次体性感覚野が存在しており、ヒト脳のこれら領域の中には大脳半球に対して反体側の体を支配するホムンクルスと呼ばれる体部位局在がそれぞれ存在している。後頭葉のBrodmannの17野には一次視覚野が存在しており、大脳半球に対して反体側の視野情報が空間的に配列されており、網膜地図(retinotopy)が形成されている。また、側頭葉のBrodmannの41野には一次聴覚野があり、音の周波数に対応するマップ(tonotopy)が存在している。これらの一次領域と呼ばれる脳領域はげっ歯類に至る哺乳類に存在しているが、より高等な動物には一次領域以外の連合野と呼ばれる領域が多くを占めるようになり、ヒトの前頭葉でその傾向が著しい。このような一次野以外の大脳皮質領域を一般に連合野という。連合野には運動機能と同時に感覚機能もあるなど、多彩な機能連合を有していることが多く、これが連合野と呼ばれる理由である。連合野にもまたブロードマン分類にそって機能局在があることが知られてきた。
連合野の機能局在は大別して感覚・運動・記憶・意思決定などさまざまな機能があり、個別にはそれぞれの項を参照されたい。ここでは、大脳皮質の機能局在とそれにもとづく脳の動作原理について概説する。大脳皮質では基本的に同じ構造有しながら、部分ごとに独自の機能があること、すなわち機能局在があることである。しかし、ひとつの脳の中に多数の機能局在があっても、それらがばらばらに働くのではなく、一個体の脳として統率がとれるよう、脳の機能が連関しているものと考えられる。脳が全体として機能するため、ふたつの基本原理があると考えられる。ひとつは、機能局在を有し機能的関連性を有する領域間に階層構造(ヒエラルヒー)があること、もうひとつは並列分散処理である。
例えば「赤いりんごが落ちる」という情景を目にした時、脳はその機能局在により「赤い」という色認識、「りんご」という物体認知、そして「落ちる」という視覚運動情報処理を、それぞれ脳の異なる機能局在を有するさまざまな領域でほぼ同時に行なっている。大脳皮質一次感覚野では感覚入力の特徴抽出などすでに相当の情報処理が行われているが、それらの情報は一般には隣接する大脳皮質領域に投射され、その領域ではより広範な入力を統合するなどしてさらなる特徴抽出が行われている。このように、それぞれの感覚には一次感覚野と、そこから順に投射を受け、より高度な情報処理が行われる二次、三次、さらにそれ以降の多数の感覚野が大脳皮質に存在しており、それぞれが機能特異性を有している。またより高次の感覚野では複数の感覚が統合され「連合野」と呼ばれるゆえんである。下位から上位への階層構造は脳内に複数存在しており、それらが同時並列的に機能することにより、複雑な情報を短時間で処理することが可能になっている。このことは、例えば宇宙飛行士が月面で興味深い月の石をサンプルとして拾い上げるといった行動に有効に機能していると考えられる。同じ機能を再現しようとすると巨大なスーパーコンピューターが必要かもしれない。
(執筆者:蔵田潔 担当編集委員:伊佐正)