MPTP
化学式:1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine
MPTPとは、ドーパミン作動性ニューロンを変性脱落させる神経毒。実験動物に投与し、パーキンソン病モデルを作成するために用いられる。
発見の経緯
疾患モデルを作成するため、長年、パーキンソン病を発症させる神経毒の探索が続いていたが、良い候補は見つかっていなかった。しかし、以下のような皮肉な事件によりMPTPが「発見」されることになった。
麻薬常習者の大学院生が、合成ヘロインであるMPPP (1-methyl-4-phenyl-propionoxy-piperidine)を自宅の実験室で合成し、自分で注射していたところ、1976年、重篤なパーキンソン病を発症した。ある時から、合成段階でいくつかの手抜きをしたため、副生成物質が混入したためと思われる。症状は典型的なパーキンソン病で、L-ドーパが著効を示した。その後、麻薬過剰摂取で死亡したため剖検したところ、黒質細胞脱落、レビー小体陽性など病理的にもパーキンソン病であった。しかし原因物質を特定するまでには至らず、この報告は注目されなかった[1]。
その後、1982年、北カリフォルニアで4人の若い麻薬常習者が、新しい合成ヘロインを入手し連用したところ、重度の無動を示すパーキンソン病を発症した。この合成ヘロインを分析したところMPTPが発見され、これを実験動物(サル)に投与したところ、パーキンソン病様症状を呈したため、MPTPが原因物質として確定した[2][3]。
作用機序
MPTPが脳内に入ると、グリア内でモノアミン酸化酵素B(MAO-B)によって酸化されMPP+になり、これがドーパミン作動性ニューロンに取り込まれ、ミトコンドリアの代謝を阻害するため、細胞が変性すると考えられる。
意義
このMPTPの「発見」により、ドーパミン作動性ニューロンが変性・脱落するメカニズムの解明が進んだ。また、主に霊長類にMPTPを投与しパーキンソン病モデルを作成することにより、パーキンソン病の病態の解明[4]、定位脳手術や脳深部刺激療法(DBS)などの治療法の開発などにつながった[5]。さらには、パーキンソン病の原因として、内在性・外来性のMPTP類似物質、例えば除草剤などによる原因説も復興した。
毒性
ヒトを含む霊長類は感受性が高く、ラットは低く、マウス、ネコは、その中間の感受性を示す。MPTPが揮発性・脂溶性であることから、皮膚、呼吸器などから吸収され易く血液脳関門も通過し易い、さらに動物に投与した場合、一部、代謝されないまま排泄されるなど、取り扱いに注意を要する。[6]
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