Aδ線維とC線維

提供:脳科学辞典
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同義語:III群線維とIV群線維、細径有髄神経と無髄神経

 A-δ線維は感覚性の細い有髄神経であり、筋についてはIII群線維ともいう(Lloyd & Chang 1948)。伝導速度は大型の動物では2.5 または3 m/sから25または30 m/sであるが、ラットでは最速の伝導速度を12 m/sとしている文献もあれば20 m/sとしているものもある。C線維は無髄神経であり、伝導速度は2.5 m/s以下である(ラットでは2 m/s や1.3 m/sが使われる)。A-δ線維とC線維は区別することが難しい場合があり、また機能的に重なっている部分もあるので、両者を合わせて細径線維ということもある。C-線維には感覚神経(求心性神経)と交感神経節後線維が含まれる(この項では交感神経節後線維についての説明は省略する)。筋求心神経の無髄神経はIV群線維とも呼ばれる(Lloyd & Chang, 1948)。その数(交感神経節後線維を含む)は筋では運動神経も含む全有髄神経線維の2倍にもなる。A-δ線維はA線維の中でも少ないので、C線維と比較すると圧倒的に少ない。

 A-δ線維の終末には痛みおよび冷感覚情報を伝える感覚受容器(それぞれ侵害受容器、冷受容器)がある。ただし、ラットでは冷受容器は主として後述のC線維である。

 C-線維は痛み感覚を伝えていると一般には考えられているが、痛み感覚ばかりではなく、痒み感覚、快感を起こすような(sensual)触感覚、温感覚(ラットでは冷感覚も)も伝えている。つまり、その終末はそれぞれそれらの受容器(それぞれ侵害受容器、C線維低閾値機械受容器、温受容器)となっている。侵害受容器には熱にも機械刺激にも反応するポリモーダル(侵害)受容器、機械刺激にのみ反応する機械侵害受容器、機械刺激に反応せず熱刺激にのみ反応する熱侵害受容器、正常な組織では活動しておらず炎症時などで活動する非活動性侵害受容器等がある、後者の2つはC線維のみに存在する。痒み感覚の受容器には、ポリモーダルタイプ(痒み物質のもならず機械刺激、熱刺激にも反応する)のものと、痒み物質にのみ特異的に反応する化学受容器タイプとがある。

 感覚受容器は種々のエネルギー(熱エネルギー、機械エネルギー、化学エネルギー)を電気的な神経の信号(脱分極)、さらには活動電位)に変換して、情報を中枢神経に送る。各種のエネルギーを神経の信号に変換する分子をトランスジューサー分子といい、最近これがいろいろわかってきた。熱を電気的な変化に変換するものとしてTRPV1,V2, V3,V4が、冷却を電気的変化に変換するものとしてTRPM8が見出された。機械エネルギーのトランスジューサーとしてはまだ確固としたものは見出されていないが、Piezo1,2という分子が注目を浴びている。化学的な物質に対するものにはイオンチャネル型の受容体と代謝型の受容体(これ自身だけでは電位変化は起こせない、細胞内情報伝達系を駆動して、他のイオンチャネルを修飾して電位変化を起こす)とがあり、ブラジキニンB2受容体、プロスタグランジン受容体、ATPに対するP2X受容体やP2Y 受容体等、多くのものが知られている。これらの分子がいろいろの組み合わせで受容器終末に発現し、その受容器の反応特性を作っている。

 侵害受容器にはA-δ線維のものとC線維のものとがあるが、それらが引き起こす感覚には違いがある。A-δ線維による痛みは、鋭く、識別性、局在性がよく、同じ部位の刺激では最初に(速く)感じられるので「速い痛み」または「一次痛」といわれる。逃避反射を引き起こす求心神経であると考えられている。一方、C線維による痛みは鈍く、局在性が悪く、一次痛よりも後に感じられるので、「二次痛」「遅い痛み」といわれる。

 A-δ線維の受容器もC-線維の受容器も感覚終末は特別な小体構造を造らない自由神経終末である。それらの細胞体は後根神経節(または三叉神経節)に存在し、C-線維は小型で(直径<30 μm)、A-δ線維はそれよりやや大きい(<35 μm)が、両者はかなりオーバーラップする。脊髄内での終枝は、皮膚A-δ線維は後角第I層とV層に、C-線維は第II層に主として分布する。筋C線維はI、II層に、内臓C線維は主としてI、IIに終枝するが、V、X層にも見られる。

 伝導速度以外にも軸索の伝導特性がA-δ線維とC-線維で異なり、さらにC-線維においても受容器タイプによって異なることが示された。軸索を繰り返し電気刺激すると、C-線維の侵害受容器の多くは20%程度(刺激条件により異なる)伝導速度が遅くなるのに対し、機械非感受性の受容器は30%という大きな遅延を示す。これに対し、冷受容器、C-線維低閾値機械受容器や交感神経節後線維は遅延が少ない(10%程度)。A-δ線維についての報告は少ないが、遅延ではなくスピードアップが見られている。この特性は神経線維の受容器タイプを知るうえで役に立つ。また、遅延は利用可能なNaV1.8という電位依存性Naチャネルの数によると報告されており、痛みに関連する受容器の軸索が特に強い伝導遅延を示すことは、NaV1.8がC-線維に特異的に発現することと関連している。

関連項目

参考文献


(執筆者:水村和枝 担当編集委員:伊佐正)