二分脊椎
英語名:spina bifida
同義語:脊椎閉鎖不全症(spinal dysraphism)
定義
神経管(neural tube)の形成不全・脊索の異常等により生じる背側正中部における椎骨の異常、特に左右椎弓が分離した病態を指す(図1)。神経管閉鎖障害(neural tube defects ; NTDs)に伴い生じる事が多いため、一般的に脊髄の神経管閉鎖障害である脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)あるいは脊髄裂(myeloschisis)を指して使用される場合がある。
分類
発生過程による分類
- 一次神経管の形成不全 脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)・脊髄裂(myeloschisis) 先天性皮膚洞(congenital dermal sinus) 脊髄脂肪腫(spinal lipoma)
- 二次神経管(caudal cell mass)の形成不全 ①終糸病変: 終糸脂肪腫(filum lipoma)・脂肪終糸(fatty filum taminale):脂肪腫が脊髄終糸に限局しているもの 緊縛終糸(tight filum terminale):脊髄終糸が肥厚して係留脊髄をきたしたもの ②尾側脊髄退行症候群(caudal regression syndrome):caudal cell massから発生する二次神経管や総排泄管を含めた尾側中胚葉の発生異常によって生じる。仙骨形成不全、脊髄欠損、外性器形成不全、膀胱外反、腎臓形成不全、肺形成不全等を伴う。 ③脊髄嚢胞瘤(myelocyctocele):脊髄中心管が嚢胞状に拡大して髄膜に覆われた状態で脊椎管外に脱出したもの。 ④前仙骨部髄膜瘤(anterior sacral meningocele):仙骨もしくは尾骨の一部低形成による骨欠損部から腹側の骨盤腔内に脱出した髄膜瘤。
- 脊索(notochord)の異常 ①脊索分離奇形(split notochord syndrome) ②脊髄分離奇形(split cord syndrome)
- 発生原因不明
外表からの分類
- 開放性:神経組織を体外より隔離する皮膚組織、皮下組織、筋組織、脊椎、髄膜(硬膜・くも膜)が欠損し、神経組織が外表に露出しているもの。多くは脊髄髄膜瘤あるいは脊髄裂をさす。
- 潜在性:皮膚組織が保たれており、病変部が外表に露出しないもの。髄膜瘤、脊髄脂肪腫など。
発生機序
脊椎骨椎弓が二分される原因はさまざまであるが、①神経管が閉鎖不全をきたし、表皮外胚葉から神経外胚葉の不分離により神経管が開放された結果、椎弓が二分される場合(脊髄髄膜瘤、脊髄裂など)、②神経管閉鎖時に表皮外胚葉が神経管に迷入した結果、表皮組織が皮膚から脊髄まで連続し、椎弓が二分される場合(先天性皮膚洞など)、③神経管閉鎖時に神経管周囲の中胚葉組織(または神経堤細胞)が迷入した結果、脊髄背側より皮下まで脂肪組織が連続して形成され椎弓が二分される場合(脊髄脂肪腫)に分類される[2]。
疫学
ヒトにおける疫学について脊髄髄膜瘤に関して述べると、発生率には地域差があるが、本邦での発生頻度は70年代には0.01-0.02%であったが、90年代以降、0.04%前後と増加傾向にある。英国では70年代0.15%程度であったが、90年代には0.02%程度と減少傾向にあり、
諸外国では葉酸の予防投与などの啓蒙活動などが一定の成果を上げていると推察される。一方、本邦で増加傾向にある原因は不明である[3]。
原因
神経管閉鎖障害の原因は遺伝因子・後天性因子などの複数因子が関与すると推察される。脊髄髄膜瘤発生のリスク因子となるものとして、神経管閉鎖障害症の出生既往、神経管閉鎖障害症の配偶者・近親者、1型糖尿病、バルプロ酸、カルバマゼピン、妊娠時の肥満、ビタミンAなどがあげられている[4]。
臨床症状
代表的な二分脊椎症である脊髄髄膜瘤(脊髄裂)について述べる。 腰仙部に多く、出生時に腰仙部に開放した神経管(Neural placode)を認める(図2)。脊髄中心管は開放され、髄液の一部は第四脳室から脊髄中心管へ入り外表に流出する。出生時には15%程度が水頭症を合併するが、腰仙部の閉鎖手術後に髄液の体外への流出が無くなった結果、顕在化する事が多く、本疾患の90%に合併することになる。腰仙部以外の合併病変としては、キアリ奇形(小脳虫部や延髄が大孔から高度に下垂する奇形)を90%に合併し、これにより延髄の圧迫症状(呼吸障害・嚥下障害など)を10%が発症する。 脊髄神経の症状としては、発生高位に応じた症状が生じ、運動麻痺・知覚障害、排尿障害(神経因性膀胱・排便機能障害)などである。したがって、仙髄部に発生した例では、自立歩行が可能であることが多い。水頭症の治療が十分に行われていない場合、上肢の麻痺・解離性知覚障害・疼痛などを症状とする脊髄空洞症が生じる場合がある。
診断
胎児期水頭症症例の基礎疾患の約4割を脊髄髄膜瘤が占め、胎児期に超音波検査で出生前診断される症例が増加している。母体血清αフェトプロテイン(AFP)が高値となることがあり、診断の助けとなるがその特異性は必ずしも高くはない。胎児MRI検査は、胎児への安全性は必ずしも確立されているわけではないため、妊娠18週以降に母親の同意を得て実施される[2] [5]。
予防
妊婦の葉酸摂取により神経管閉鎖障害のリスクは70%低減できることが明らかとなり[6] [7]、少なくとも妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの葉酸の摂取(0.4mg/day)が勧められている[3]。
治療
妊娠26週時の胎内手術による修復術が運動機能の予後改善および水頭症手術の頻度減少などの効果があることがランダム化試験により報告されている。しかし、子宮披裂や早産のリスクが上昇すること、倫理的問題あることなどから一般化するには至っていない[8]。通常は、出生後48時間以内に脊髄髄膜瘤の外科的修復を行う。まず係留脊髄の解除を行った後、開放されたneural placodeを軟膜レベルで縫合し、脊髄形成を行う。その後、欠損硬膜の修復を行い、表層の修復・閉創を行う。こうして、最終的には①軟膜、②硬膜、③筋・筋膜、④皮下組織、⑤皮膚の閉鎖が行われる(five layer closure)。欠損する椎弓の再建は通常は実施しない。合併する水頭症に対しては、脳室腹腔シャント(短絡)手術が行われる。また、脳幹症状が進行する症候性キアリ奇形に対しては大孔減圧術を行う。その他、運動機能の維持のために整形外科的な治療、排尿排便機能の管理など成長してからも他科にわたる医学的管理が必要となる。
参考文献
- ↑ Barvovich Aj
Congenital anomalies of the spine, Pediatric Neuroimaging, 4th edition
Lippincott Williams & Wilkins - ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 坂本博昭
二分脊椎, 横田晃 監修・山崎麻美・坂本博昭編
小児脳神経外科学, 金芳堂, 2009; 264-341 - ↑ 3.0 3.1 五十嵐脩
神経管閉鎖障害の発症リスクの低減に関する報告書 : 先天異常の発生リスクの低減に関する検討会
日本産科婦人科學會雜誌 2001; 53(4):806-816 - ↑ <pubmed>17572919</pubmed>
- ↑ 胎児期水頭症 診断と治療ガイドライン 改訂2版,
金芳堂,2010 - ↑
Czeizel, A.E., & Dudás, I. (1992).
Prevention of the first occurrence of neural-tube defects by periconceptional vitamin supplementation. The New England journal of medicine, 327(26), 1832-5. [PubMed:1307234] [WorldCat] [DOI] - ↑
(1991).
Prevention of neural tube defects: results of the Medical Research Council Vitamin Study. MRC Vitamin Study Research Group. Lancet (London, England), 338(8760), 131-7. [PubMed:1677062] [WorldCat] - ↑
Adzick, N.S., Thom, E.A., Spong, C.Y., Brock, J.W., Burrows, P.K., Johnson, M.P., ..., & MOMS Investigators (2011).
A randomized trial of prenatal versus postnatal repair of myelomeningocele. The New England journal of medicine, 364(11), 993-1004. [PubMed:21306277] [PMC] [WorldCat] [DOI]
(執筆者:馬場庸平、金村米博 担当編集委員:岡野栄之)