ゴルジ体
ゴルジ体(ゴルジ装置)
真核生物の細胞内小器官の一つ。脂質2重層の膜でかこまれた扁平な袋状の層板が数層とそれを取り巻く小胞からなる。分泌経路上の細胞内小器官で、新しくつくられた膜蛋白や分泌蛋白は、租面小胞体から小胞輸送によってゴルジ体の一側(シス側)の層板に運ばれた後、ゴルジ体内をシス側から対側(トランス側)へと移動しながら糖鎖を付加される。神経細胞ではゴルジ体は核の周囲にあり、核側がシス、細胞表面側がトランスである。ゴルジ体のシスとトランスでは層板に含まれる糖鎖付加酵素が異なっており、新しくつくられた膜蛋白や分泌蛋白はゴルジ体内を移動しながら成熟していく。ゴルジ体のトランス側の出口には 網目状の膜があり、トランスゴルジネットワークと呼ばれ、輸送蛋白の振り分けが行われるとされている。調節性分泌される内外分泌細胞の分泌蛋白は球状の分泌顆粒に振り分けられ、分泌刺激があるまで細胞内に蓄積される。恒常性分泌される一般細胞の分泌蛋白(コラーゲン、アルブミンなど)や膜蛋白は、管状胞状のオルガネラによって、細胞膜に輸送され、随時分泌される。
注)ライソソームへの蛋白の振り分けもトランスゴルジネットワークで行われる。そのメカニズムの研究が他の振り分けより著しく進んでいたため、教科書などでは、この輸送のみが大きく扱われ、バランスを欠いた時期があった。
注)高校教科書の記述にはゴルジ体が一重膜という記載がある。これは脂質2重層からなる膜が1枚ということであるが、大変紛らわしい。
層板成熟説と小胞輸送説
膜蛋白や分泌蛋白がゴルジ体内を移動しながら成熟していくことについて、古くからある論争に層板成熟説と小胞輸送説がある。成熟説とは、新しくつくられた蛋白が、層板間を移動せず、層板自体がシスに移動するというもの。小胞輸送説は、層板は移動せず、新しく作られた蛋白が小胞に乗って層板間を移動するというものである。1970年代、正常なゴルジ体とトランス側の酵素を持たない変異ゴルジ体を試験管内で混ぜると、変異ゴルジ体で途中までしか糖鎖が付加していなかった膜蛋白に最後まで糖が付加されることが巧妙な実験でわかった。20世紀末、この系を使ってゴルジ体層板と小胞の融合に関わる蛋白(NSF, alpha-SNAP, t-SNARE, v-SNARE)が同定され, 小胞輸送説が支配的となった。細胞生物学の教科書もそれに倣った記述がなされた(例えばMolecular Biology of the Cell 3rd editionと4th editionを比較せよ)。ところが、21世紀にはいってコラーゲンの分泌を詳細に観察した実験から、コラーゲンはゴルジ体内ですでに大きな線維を形成し、とても小胞には収まりきらないにも拘わらず、粛々とシス側に移行することが分かり、層板成熟説が再び復活した。現在での一つの解釈は、新しく作られた蛋白は同じ層板に乗ったままで層板ごとトランス方向に移動する。一方、糖鎖を付加する酵素の方が小胞に乗って、トランス側の層板からシス側の層板に輸送されるというものである。ゴルジ体の極めて基本的な(教科書的な)事項が21世紀になって逆転すること、しかし、小胞説を推進する研究はSNARE仮説を導き、神経科学の分野(シナプス伝達)で花開いたこと、は示唆的である。
神経細胞での局在と樹状突起でのレセプター蛋白などの生成
神経細胞では、電子顕微鏡の観察からゴルジ体は主に核の周囲にあることが分かっているが、それ以外に分布するだろうか?リボゾ‐ムは細胞体だけでなく、樹状突起にも局在する。もし樹状突起にゴルジ体もあれば、樹状突起の局所でチャネルやレセプターなどの膜蛋白が合成できることになり、神経細胞内での部位特異的なシナプス制御のメカニズムを提供する。ウイルス膜蛋白VSV-Gを使った研究によると樹状突起にあるという報告もある。しかし、実際は一部の樹状突起の根本の部分にあるのみである。但し、たとえ典型的なゴルジ体はなくとも、同等の機能を持つ膜系が樹状突起にあったり、ゴルジ体を経ずに膜蛋白を合成出来る場合があったりするかもしれない。これらはゴルジ体の機能および膜蛋白合成の根幹に関わる問題であり、細胞生物学的視点からは強い証拠が望まれる。